「メリークリスマスだぞ、提督。」
深夜の執務室。書類のめくられる音とペンの音が響くほどに静寂に包まれたその部屋は、突然の来訪者によってその静寂は破られた。
「おー、若葉か」
執務室にノックもなく入ってきたのは、この鎮守府最高練度かつ秘書艦でもある初春型三番艦の艦娘、若葉。
だがその制服はいつもの濃紺のブレザーではなく、サンタクロースのそれを性別と体格を合わせたような格好で。
「今夜、頑張っている提督に、全員からのクリスマスプレゼントだぞ。」
「あーうん、ありがと?」
机上に溜まった書類は、艦娘たちとのクリスマスパーティーをやる為の準備が優先されたせいで後回しにされた書類たちなのだ。
だから自業自得と言えば自業自得なので、それを知っている若葉から労われると同にも気まずさを覚えてふっと目を逸らしてしまう。
「その、何だ。提督は書類…というか、仕事を後回しにする癖があるが、それはすべて若葉たちの為だろう?」
「まあ、そうね?」
この間のハロウィンも、その前の夏祭りも、一部の哨戒艦隊を残して全員が楽しめるようにしたし、その哨戒組も出撃する前後に楽しめるようにはした。
「結構、皆感謝しているのだぞ。提督」
だからほら、と渡されたのは一冊のアルバム。
中を見れば、着任してそれなりに余裕が出てきた時のころからの写真で満たされていた。
友軍泊地が教習を受けたときの支援や、近海を遊弋していた敵主力艦隊を撃破した時の皆の満足感溢れる顔や、砲煙爆炎をバックに映る艦娘、あるいは鎮守府で何気なく過ごしていたであろう時に唐突に撮られ慌てている艦娘。
そして、最後のページ。
どんな写真があるのかと捲れば、そこはただ真っ白なページだった。
「なあ、提督」
アルバムに集中していたからか、あるいは無意識のうちに許していたか、隣に来ていた若葉が声をかける。
「このアルバム、気付いたことはないか?」
「気付いたこと…?」
懐かしいなと思ってみていたが、若葉の質問への回答は浮かばない。
「ひとり、どんなに探しても写真に顔が写っていない奴が居たんだ」
はて、うちの艦娘にそんな奴が居ただろうか。
引っ込み思案だったり恥ずかしがり屋だったりとしても、姉妹艦といる時は油断しているのか写真に撮られるのは許容してくれるのはうれしいですと青葉が言っていたのは覚えている。
だから、そんな艦娘に心当たりがなかった。
「…その一人って、誰なんだ?」
「顔を上げてみれば、わかるぞ。」
部屋に誰か来ているのだろうか、そう思って顔を上げる。
次に目に映ったのは、屋根裏から上半身を出してインスタントカメラを構える川内。
カシャリ、と小気味良いシャッター音を鳴らして焚かれるフラッシュには抵抗できなかった。
「あははっ…いい顔してるじゃん、提督」
いつもの制服のマフラーの代わりにサンタっぽいマントを羽織った川内は部屋に飛び降りながら印刷された写真を現像して見せる。
「よしっ、それじゃあもう一枚撮るけどいいよね?」
写真の出来を若葉と見せ合う川内が、そう尋ねてきた。
「ああ、同じものをもう一冊作っているからな。こっちは皆が見れるように、だぞ。」
そう補足する若葉の隣で手のひらに乗るようなデジカメを構える川内がにいっと笑う。
「だからさ、二人並んでよっ?」
「…まあ、若葉と一緒なら」
川内の提案を若葉は事前に聞かされてなかったのか、驚いた表情を浮かべる若葉。
翌日、もう一冊のアルバムにはぎこちない笑みを浮かべるこの鎮守府のトップ二人組の写真が貼られて笑われるのは別の話。
本当なら一日前に投稿したかったですね、久里浜です。
わかイチャ(仮略称)クリスマス回です。
やっぱりワカバチャンは可愛いなぁ