きよしこの夜に生まれた我が主よ   作:ジト民逆脚屋

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きよしこの夜に生まれた我が主よ

嘗て、聖者が産まれたとされる聖誕祭の日に、歌が響いた。

聖誕を、人々の祝福を願う歌が騒がしい町に響く。

誰もが慌ただしく動く年の暮れ、ありふれたクリスマス・キャロルに、態々足を止めて耳を傾ける者は居ない。

そうでなくとも、周囲からは濁流の如く、同じ歌や似たようなメロディが垂れ流しにされていて、何れが何処から流れているかなど、判別出来る訳が無い。

 

毎年の恒例だ。誰もが気にも留めない。ただただ、何時も変わらぬ日々と同じ様に過ぎ去って、翌日にはその余韻が消えていくのを見ているだけ。

 

その筈だった。

 

「おい、聞こえるか?」

 

その日、聖者の誕生を祝う日に、人々は誰もが足を止め、町に降り頻る雪に混じった歌に耳を傾けた。

 

「うん、聞こえているよ」

 

決して大きくはない、呟く様に小さな、誰かの為だけの子守唄を思わせる歌声だった。

 

「歌っているぞ」

 

そんな、喧騒に掻き消されてしまう筈の、小さな小さな子守唄が、町に降り注いだ。

 

「うん、歌ってるね」

 

これは、そんな小さな小さな祝い歌のお話。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

12月1日 

 

起動確認

データリンク確認 不備

ソフトウェア確認 不備

コア確認 不備

フレーム確認 不備

装備確認 不備

動力確認 不備

 

Error

 

機体に不備

動作に支障

自己修復許可を要請 

データリンク不備 

ネットワーク接続不可

自己修復不許可

 

Error

 

機体保全の為、機能停止

再起動予定

未定

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

12月12日

 

再起動確認

機能不全 多数

自己修復許可 不許可

ネットワーク接続 不可

データリンク不可

コアシステム 不備

 

Error

 

機能保全並びに機体保全を最優先

再起動予定

未定

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

12月25日

 

緊急再起動

機能不全 多数

ソフトウェア不備

コアシステム不備

フレーム不備

ネットワーク接続不可

データリンク不可

 

Error

 

Error

 

Error

 

Error

 

Error

 

人命救助を最優先

コアシステム不備

 

Error

 

人命救助を最優先

自己修復を破棄

コアシステム不備

コアシステム破棄

コアシステム再構築を開始

ソフトウェア不備

ソフトウェア破棄

ソフトウェア再構築を開始

データリンク不備

データリンク破棄

データリンクを再構築

ネットワーク不備

ネットワーク破棄

ネットワークを再構築

フレーム不備

フレーム再構築を開始

 

生命反応弱体化

 

機体保全破棄

機能保全破棄

 

機体を再起動

人命救助を最優先

 

Error

 

Error

 

Error

 

 

 

 

 

破棄

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

太陽が沈み、最後の収集車が去り、もはや動く物の無いスクラップの山の中に、動きがあった。

一つは温もりの無いがらくたの山に、温もりを求める声。くぐもった、夜闇を切り裂くその泣き声は、降り頻る雪に弱り次第に消え始めていた。

 

このまま誰も助けなければ、この命は消えてしまうだろう。だが、ここは人知らぬ廃棄物の集積場。クリスマスに賑わう町から、人が一人でも来る事は無い。

 

そう、誰も来なければ。

 

スクラップの山の中、もう一つの動きがあった。

鉄を軋み引っ掻き、掻き毟る音を立て、がらくたの山の一つが崩れた。鉄の土砂から這い出てくるその姿は、人からはかけ離れていた。

上半身、降り頻る雪が降り積もる骨組みの体は、歪に折れ曲がり欠損し、辛うじて人の上半身に近い形をなんとか保ち、白骨化する寸前の死体にこびりつく腐肉の様に、僅かながら装甲が残っていた。

 

一掻き一掻き瓦礫を掻き分け前へ進み、上半身が完全にスクラップの山から抜け出した。

しかし、己を閉じ込めていた山から這い出たにも関わらず、その人型は立ち上がらずに、その這いずる姿勢のまま、泣き声の元へと向かっていく。

下半身、脚が無い訳ではない。下半身としての腰部は辛うじてある。腰椎や腰骨も僅かにある。だが、そこから下に当たる部分、脚が無かった。否、無かったというよりは、脚として機能していなかった。

チューブやコード、極太の配線の類いが蛸などの軟体動物の様に蠢いている。

ただ蠢いているだけではない。体を引き摺る腕に動きを合わせるように、その異形の脚も溶けた雪でぬかるんだ地面を引っ掻く様に這いずっていた。

 

声がどんどんと小さくなっていく。

異形は地面を引き摺る体を加速させようと、懸命にもがく。だが、異形の体は進めば進む程に、砕け外れ崩れていく。しかし、構わない。己の存在理由を、役目を果たさねばならない。

 

『…… ………… ……』

 

異形の口と思われる、四角く裂けた箇所から、呻き声の様なノイズが漏れた。

それはまるで、赤子を不安にさせまいとする人間の母のように、何かを発しようとしていた。

 

ついに、骨組みだけとなった上半身を、目的の声のする山の麓へと引っ掻ける。飛び出た鉄筋が、異形のフレームを引き裂いていく。だが、そんな事は知った事ではないと、異形は己を引き裂く鉄筋をそのままに、スクラップの山を這いずり登坂していく。

人で言う、肋骨が砕け、肩甲骨がずり落ちる。

 

『……… …… ………』

 

だがそれでも、異形は登坂を止めずノイズも止まない。

脚代わりのコード群が、瓦礫に引っ掛かりごっそりと抜け落ちる。

しかし、目的の声へと辿り着いた。

 

『ガ……』

 

ノイズが溢れ、異形からネジやナットが落ちる。

 

『対象の生命反応微弱、体温低下、栄養失調、全身打撲』

 

異形はそこに居た声の主を傷付けぬよう、骨組みの腕に脚代わりのコードやチューブを巻き付け、クッション材とし抱き抱える。

 

『脈拍低下、生命維持に支障有り』

 

異形は突き出た鉄骨を頼りに、体を起こし周囲を見渡す。

ノイズ混じりの音を溢しながら、見渡す先には灯りが群れていた。

 

『独自ネットワークに接続、対象を〝町〟と判断。保護対象の生命維持の為、栄養補給を最優先』

 

異形は声の主である子供を抱き抱え、襤褸切れで己と子供を隠し、瓦礫の山から町の灯りへと這っていく。

途中、通りかかったトラックの荷台にしがみつき、止まればまた別の車へと体を巻き付け、子供に夜風が当たり体温の低下を防ごうとする。

 

幾つかの車を乗り継ぎ、町の灯りが近付き町へと入ると、

異形は車の減速を計測し、車に巻き付けた体を電柱へと巻き付けた。

深夜、人通りの少ない道を、異形は這って進む。

 

『名称〝コンビニエンスストア〟を発見 栄養補給が可能な施設と判断』

 

異形は暗い夜道を明るく照らすコンビニエンスストアを発見し、擦り切れた襤褸を引き摺って入店した。

 

『いらっしゃ……、いぃあああぁぁぁあぁぁああああ!!』

 

異形が襤褸を引き摺り入店すると、レジカウンターに立っていた店員が悲鳴を挙げて逃げ出した。

異形は、その人間の行動に、人間の様に首を傾げ、店内の食品を物色していく。

栄養機能の高い食品を、手の届く範囲で買い物籠に放り込み、レジカウンターに向かう。

だが、店内に店員は居らず、異形は首を傾げて、換金出来そうにない部品をカウンターに置いて去る事にした。

寒空の下、アスファルトを這い、隠れられる場所を探す。

 

『対象の生命反応弱体化停止』

 

子供の衰弱は、先程口に含ませたゼリーのお陰か、幾分ましにはなっていた。だが、まだ油断は出来ない。己の役目を全うしなくては。

異形は裏路地に這い、その先に荷台の扉が半開きになっているトラックを見付けた。今はここに潜もう。

そう思い車に取り付いた時、異形は人型を見た。

 

『判別、〝オリジナル〟 固有名称〝打鉄〟二体』

 

己とは違う完全な人型、トラックにはその人型が積み込まれていた。

異形は停車したトラックの荷台で、その人型を観察し、〝解体〟を始めた。

 

 

 

固有ネットワーク形成

コアシステム再形成

フレーム再形成

固有名称〝打鉄〟内にある人間データを元にベースを作成

オリジナルコア取り込み完了

新規フレーム再構築

戦闘用フレームの作成を呈示

通常フレーム並びに戦闘用フレームを再構築

保護対象の生命維持の為の機能を最優先

 

 

 

子供を襤褸切れで包み、その横で異形が人型を取り込み、変異を始めていた。

だが、その変異の途中で、近付いてくる足音があった。

 

「おいおい、なんで扉が開いてんだ? つか、なんだこのお、と……………!」

 

恐らく、このトラックの関係者だったのだろう。点検の為、トラックに近付くと、何かを噛み砕く様な音と、何かが折れ曲がり組合わさる様な不快な音が聞こえる。

怪訝に思った作業員が、半開きになっていた扉を覗くとそこには、ISを喰らう多腕多脚の怪物が居た。

 

「ぎゃああああああああああああぁぁぁ!」

 

作業員が叫びを挙げると、怪物は近くにあった襤褸切れの塊を優しく包む様に抱き抱え、トラックの荷台の屋根を突き破り、夜闇に消えた。

後に残ったのは、正気を失った様に混乱する作業員と、その大半を噛み砕かれ、コアを失った打鉄二体の残骸だった。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

機体再構築続行

保護対象の生命維持続行

保護対象の精神安定方法検索

精神安定方法〝歌〟を取得

 

『これがあなたの歌です。マスター』

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

ねえ、知ってる?

何を?

最近の町の噂

なにかあった?

〝出た〟らしいのよ

〝出た〟? なにが?

その名も〝IS喰らい〟

はぁ? 

いやいや、これマジなんだって。私の親戚の人がね、IS関係で働いてるんだけど、搬送中だった打鉄二機が喰われたって。

吹いてるでしょ?

いや、本当にマジなんだって! 関係あるかは分かんないけど、ほら、あそこのコンビニの防犯カメラにも、変な化け物が写ってたとか。

嘘くさーい。

嘘じゃないって、その事件で親戚の人、少しの間参って入院したんだから!

実害出てんの?!

だから言ってるじゃん。

いやだって、機械食べる怪物とかさ。

まあ、言いたい事は分かるよ。IS美味しいのかな?

さあ?

あ、後ね。その〝IS喰らい〟が去った後に、歌が聞こえたんだって。すっごい綺麗な歌声で。

歌?

うん、確か〝Silent Night〟

 

 

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