USJ編一気に投稿。
本日1話目。
真っ先に動いたのは、プロヒーロー・イレイザーヘッドだった。素早く生徒たちに指示を出しゴーグルを装着する。ぐいと首に巻いてあった白い帯状の拘束具を操ると、五十段はあろうかという階段を一気に飛び降りてきた。
その行動に喜んだのは階段下のヴィランたちだ。ありゃ誰だ、と驚くが個性を発動しつつ、
「大まぬけ!!」
とプロヒーローを倒しにかかる。
だがそううまくいくはずもなく、白い帯に絡めとられた前衛三人組は秒殺された。
ほんとうに秒殺である。
さすがだ。強い。
見た者の個性を消す、という個性の通用しない異形型の個性の持ち主についても、身軽な動きと生き物のように動く白い帯によってうまく態勢を崩してつぎつぎと撃破していく。
それなりにスカウトも頑張ったつもりだったのだが、これほど簡単にやられるとむなしさよりも先にスカッとするな。ヴィランの俺が抱いちゃいけない感想な気もするが。
「嫌だなプロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」
死柄木さんなど首をガリガリと掻きながら分析している。
有象無象って。
どうやらこの広場に配置するヴィランたちにはイレイザーヘッドについて大して教えていなかったらしい。彼への肉壁というか、彼の個性を分析するまでの時間を稼ぐための捨て駒だったのだろう。
本意とは反対に利用されたらしいヴィランたちは地面に這いつくばっていく。
「ゼロ」
黒霧さんが俺の背中に突如隠れた。
「壁に使わせてもらいますよ」
「……どうぞ」
返事を待たず俺の背後でワープゲートが発動され、黒霧さんの気配が消え去る。
イレイザーヘッドの視界から外れるためか。俺が死柄木さんの背中に隠れようと思っていたのがバレていたかのように同じ手を使われると複雑だな。
そして黒霧さんは生徒たちを誘導して逃げ出そうとした十三号の前に立ちはだかる。
行うのは犯行声明だ。これからの一連の事件を起こす犯罪者集団の名前を添えて。
黒霧さんもマメだ。死柄木さんが怠りそうな犯行声明はきちんとこなしておくのだから。
「初めまして。我々は
しかしそのオールマイトは不在である。予定変更せざるを得ない状況に黒霧さんは不本意そうだったが、結局ぶわりと靄を広げた。
―――が、盛大な爆発音がする。どうやら生徒のうちの二人が黒霧さんに向かって攻撃を仕掛けたらしい。
「やられたか」
「バカいうな、黒霧だぞ」
信頼がお厚いようで。
死柄木さんは一言俺の言葉を否定すると、じっとイレイザーヘッドの観察を始める。
代わりにもう一度黒霧さんに視線をやれば、計画通り生徒たちの何人かをランダムにこの敷地内にワープさせることに成功したらしい。黒靄に吸い込まれた生徒たちが跡形もなくなる。
飛ばし損ねた残りの生徒と十三号を行動不能にするのが黒霧さんの仕事だ。
イレイザーヘッドを抑えるのが手下のヴィランたちと死柄木さんの仕事。
今のところ暇を持て余している脳無の相手がここにはいないオールマイト、俺は適当にサポートだ。変わらない。
オールマイト早く来ねえかな。脳無がやられれば早く撤退できるかもしれないのに。
* * *
くしくも命を救うための訓練の時間に現れた
緑谷出久はイレイザーヘッドの壁を容易く抜けたワープと思わしき個性の持ち主により、クラスメイト二人とともに水難ゾーンに強制的に移動させられていた。
出久とともに水難ゾーンに飛ばされたのは蛙吹梅雨、それから峰田実。
同じピンチに陥った生徒同士、素早く船の上に避難する。
「……殺せる算段が整っているから、連中こんな無茶してるんじゃないの?」
教師が全員プロヒーローというヒーローの巣窟にわざわざ入り込みながら、時と場合は選び警報が鳴るのを防ぐための個性の持ち主も呼び寄せておく。
これだけ大胆な奇襲だ。肉弾戦でもオールマイトを殺せる、と思うだけの自信があるのだろう。
三人組唯一の女子である蛙吹梅雨は冷静に状況を分析し、慌てふためいている峰田実をよそに出久は決心する。
「奴らに……オールマイトを倒す術があるんなら、僕らが今すべきことは……戦って、阻止すること!」
それから三人は素早く目の前の敵に視線を走らせた。
水難ゾーンに明らかに有利な個性をもつ蛙吹が移動されているということ、そこから導き出される答えは一つ。生徒の個性は敵に知られていないということ。
三人の個性の情報を合わせ、三人は明らかに人数も場所の相性も上なヴィランたちに立ち向かう。
まず出久が大声で威嚇し敵を寄せ集めてから、水面に大きな衝撃を放つ。
一時的に大きく広がり大きく波立つ水面に向かって、強力な吸着力をもつ謎のもぎもぎを峰田が放つ。
収束した水面に、紫のボールに絡めとられたヴィラン達が勢いよくぶちあたる。船は廃棄して、空中に飛び出した出久と峰田の回収は蛙吹の仕事だ。
結果として、相手がヴィランであろうと不必要に傷つけることなく、制圧に成功した。個性を無駄なく使い、状況に合わせた最適解をはじき出したといっていいだろう。
水面深くに別のヴィランが潜んでいるということもなく、運もあって三人は無事にその場を切り抜けることができた。
ヒーローとしては及第点の解答だ。だから三人は、というより出久はすぐに他のゾーンに飛ばされたと思わしき生徒たちの避難、それから自身の避難に動き出す。
ここから一番状況が把握しやすいのはイレイザーヘッドが飛び出していったUSJ中央広場であろう。
「とりあえず助けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って広場を避けて出口にむかうのが最善」
「そうね、広間は相澤先生が敵を大勢引き付けてくれてる」
しかし、その広場には相澤先生に対しかなりの数のヴィランがいた。
いくら強力な個性を持っていたとしても、人数の不利は覆せない。
出久の言わんとするところを察して、峰田が焦り出す。
「え、まさか緑谷、バカバカバカ……」
「ケロ……」
「邪魔になるようなことは考えてないよ!」
ただ、少しでも先生の負担を減らせれば。
その思いで水難ゾーンの池の中を進み、人目につかないように中央広場へと向かう。
「着いた!」
「……え」
ちょうど、主犯と思われる顔面に手をつけたヴィランと相澤先生が戦っているところだ。
一対一なら負けなしの個性でも、まわりにちょっかいをかけてくるヴィランがいるせいで得意の戦術に持ち込めないのははたから見てもわかった。
「無理をするなよ、イレイザーヘッド」
感情の昂ったような、楽しそうな声で顔面手男がつぶやく。彼に受け止められた相澤先生の肘が、ボロ、と砂みたいに崩れ落ちる。
「!」
とっさに距離をとるが、間髪入れずに別のヴィランが襲い掛かり息をつく暇もない。
先生は常に動き回っているというのに、ヴィランの中では、特にコートを羽織りフードを深くかぶったヴィランなどはポケットに手を突っ込んだまま見物する余裕を持っているらしい。
顔面手男は相変わらず愉快そうな声でイレイザーヘッドの個性の分析を重ねていく。
「かっこいいなあ、かっこいいなあ。ところでヒーロー」
ず、と今まで攻撃に参加していなかった黒い巨体のヴィランが音もなくせわしなく動き回る彼の背後に忍び寄る。
「本命は俺じゃない」
まさに一瞬、イレイザーヘッドの腕をつかんだ脳みそ丸出し男はその瞬間に腕をへし折った。
「!!」
「ひっ」
痛みにうめくイレイザーヘッドの隙を逃さず、脳みそヴィランは次々と攻撃を加えている。
手から始まり足、それから彼の個性の重点である目。それらを重点的に地面に叩きつけるように、脳みそヴィランは叩きのめして行く。
一目でわかる重傷。もう彼は戦えない。プロヒーローの応援は見込めない。
「対平和の象徴———改人、脳無」
がたがたと震える峰田にぶくぶくと水に沈もうとする蛙吹。茫然と一方的にやられる担任教師を見つめる三人組。
「〝個性〟を消せる。素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまりただの〝無個性〟だもの」
だから、と顔面手男は彼からして左斜め後ろにつかず離れず立っていた、フードをかぶったヴィランに視線をやった。
「ゼロ。お前いい加減俺の背中側にいるのやめろ」
「……バレてたか」
「気付かないわけないだろ」
「……ちゃんと働くときは働くさ」
一方的に攻撃し続ける脳みそヴィランをよそに、二人は気軽な会話を繰り広げている。そこに出久たちを水難ゾーンに飛ばした張本人である、黒靄のヴィランがずずず、とワープゲートを広げて現れた。
「死柄木弔」
「黒霧。13号はやったのか」
しかし黒霧と呼ばれた男の反応は芳しくない。
「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」
「……は?」
「へえ」
一瞬の沈黙のあと、死柄木弔と呼ばれた顔面手男はガリガリと首をひっかいた。黒霧と呼ばれた男は若干気まずげに、ゼロと呼ばれたフードの男は興味がなさそうに死柄木を見る。
「は―――…黒霧おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……。さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ……今回はゲームオーバーだ」
気を取り直し、軽く彼は言う。
「帰ろっか」
「帰る……? カエルっつったのか今?」
「そう聞こえたわ」
やったぁ助かるんだ俺たち! と喜びいさんでとびかかって蛙吹に沈められた峰田とは違い、彼女と出久はヴィランたちの気味の悪さに戦慄する。
対して、緊張感のないゼロと呼ばれたフードヴィランは死柄木の帰ろう宣言に同調した。
「帰るなら早く帰ろう。プロヒーローたちが来るんだろ」
「まあ待て。その前に、平和の象徴としての矜持を少しでも、」
こちらに振り向いた瞬間には、三人の目の前に死柄木の手が伸びていた。
「へし折って帰ろう!」
これだから、とゼロが溜息をついているとは露知らず顔面手男は生徒を壊しにかかる。
ぞっとおぞけが走る。
蛙吹梅雨の顔に迫ったその右手は、先ほど相澤先生の肘をボロボロに崩した。そういう個性だ。
(え、蛙吹さんーーー)
ひた、と顔面に手が触れる。
「……おい。視界ふさぐくらいしておけよ」
「悪い」
気のない詫び。
彼の個性が発動しなかったのは、脳みそヴィランに大怪我を負わされながらも顔を上げたプロヒーロー――イレイザーヘッドの個性『抹消』によるもの。
助かった、先生が助けてくれた! でも、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
直感する、さっきの
早く彼女を助けて、逃げなければ!!
だから出久は自分の腕を犠牲にして顔面手男をどうにか撃退する判断を下す。
「離れろぉぉ!!」
「働けゼロ」
「わかってるよ」
「———スマッシュ!!」
ズドッと重い音を立てて爆風が立ち上る。ワン・フォー・オールという個性を発動した際のエフェクト、視界がけぶる中、確かに何かに攻撃がヒットした手ごたえを抱く。
思いっきり殴った、ワン・フォー・オールをまだコントロールできていない出久にとっては、腕一本が折れるという犠牲をともなう。本来は。しかし、
(———折れてない!? 力の調節がこんな時にできた! うまくスマッシュが決まった!!)
やった、と思い顔を上げる。
一メートルも離れていない。煙が晴れた先に何事もなくこっちを見ている視線。
先ほどのフードヴィラン。ポケットに手を突っ込んだまま傷一つなくこちらを見下ろしているその体の前。出久の放った拳は彼に届く五十センチメートルほど手前で何か硬質の壁に当たったかのように止まっている。
(———え、ガード、バリア!? っていうか、この人高校生くらいじゃ……!)
フードから覗く無表情を見てとっさにそう判断する。出久とそう年が離れていないのは察する。
それよりもガードだ。今まで一回も個性を使っていなかったが、もしかしてそういう個性?
ワン・フォー・オールの力を使っても破れない、強力なバリア……!
「いい動きをするなあ……スマッシュって、オールマイトのフォロワーかい?」
「残念だったな」
フードヴィランはポケットから手を出してぐいと無防備に突き出されたままの出久の右腕をつかんだ。
「君って、無個性じゃなかったっけ」
ぼそりと呟かれた言葉に驚愕する。
まじまじとその顔を見て、
(———!? なんで、この人、あれ? どこかで見たような……!?)
「まあ、いいや君」
目の前のフードヴィランが出久を、顔面手男が残りの二人を始末しにかかる。
ちょうどそのとき、ヒーローはやってきた。
「———もう大丈夫」
壁をぶち破っての派手な登場。顔面手男もフードヴィランも思わずという風に息をとめ、出口を振り返った。
「私が、来た」
「オールマイトオオォ――――!!」
「あー……コンテニューだ」
まさにヒーロー。ネクタイをぶちりと引きちぎり、彼は状況を把握する。
だが出久はわずかに不安を抱く。オールマイトが、笑っていない。
「待ったよヒーロー。社会のごみめ」
顔面手男とフードヴィランの注意は一気にオールマイトに持っていかれた。
今のうちになんとかフードヴィランの手から抜け出そうとしたとき、それを察したかのようにフードヴィランの手から力が抜けた。
「焦った」
え? と自由になった右腕をさすりながら、出久は首をかしげる。
* * *
「焦った」
本当に焦った。このまま死柄木さんによって蛙吹さんと峰田君がやられるかと思ってしまった。
原作通りにいくように心がけた甲斐があったのか、ほんとうにぎりぎりでオールマイトの到着が間に合った。
とっとと帰ろうとごねたのに、まったく聞き入れない自分勝手さは予想通りだ。ある程度ごねることで時間を稼ごうと思ったのにひとりで生徒を殺そうと動く始末。
さっきまではオールマイト来る前に帰りたいと思っていたのだが、今はオールマイトが来てくれて助かった感じだ。
階段上に現れたオールマイトに誰もが視線を奪われる。
「あれが……! 生で見るの初めてだぜ……迫力すげえ……!」
「バカ野郎、尻込みすんなよアレを殺って俺たちが……!」
ほとんど同意だ。
その巨体も相まって、ヒーローコスチュームでもないのに気圧される。
が、そのオールマイトがとんっと地面を蹴るとほとんど一瞬でチンピラたちは撃退された。
うお。すごい。全力ではないにしろ十人も秒殺している。
反応のない脳無からイレイザーヘッドを引き剥がし、怪我の状態を確かめている。
正直イレイザーヘッドには悪いことをした。両手両足に加え、顔や頭にもかなりの怪我を負っていることだろう。
そして仲間をやられた人間がうつす行動はかなり限られる。
念のため死柄木さんのそばによっておこう。普通ヒーローたちは人質にされそうな生徒のそばにいるヴィランを積極的につぶそうとするものだから。
きっとこちらをにらむオールマイト。主犯が顔面に手を付けた男、黒い靄をまとっている男ということくらい察しがついているはずだ。
さて次どう動———
「!?」
個性に強い衝撃。
そばにいたはずの生徒3人は搔き消えるように消え、びゅん、とそよ風が顔に吹き付けた。
今の衝撃は……殴られた?
……個性を発動しておいて良かった!!
「皆入り口へ! 相澤くんを頼んだ、意識がないんだ早く!」
「えっ、あれ? 速っ!!」
救助された三人すら気付かないほどの豪速。
原作で読んだが相当だ、脳無のように意識が無いわけでもないからその速さに圧倒される。
そうだ、死柄木さんは?
背後にいた死柄木さんを振り返れば、こちらも茫然としている。懸念だった顔についている手が外れることはなく、ただ純粋に驚いただけの様子だ。
「助けるついでに殴られた……国家公認の暴力だ……」
俺は個性を発動しっぱなしだったお陰で無傷で済んだ。
ってあれ?
「死柄木さん、殴られたのか?」
「……お前が盾になった」
「そりゃ何より」
俺の後ろにいてよかったな。
「さすがに速いや目で追えない……けれど思ったほどじゃない。やはり本当だったのかな? ーーーーー弱ってるって話」
どうでもいいから早く帰りたい。