USJ編一気に投稿。
本日2話目。
死柄木さん念願のラスボス、オールマイト。
原作だと確かに弱っていたらしいが、生徒を庇う様子といい先ほどの豪速といい、健全健康に見える。脳無より小柄なものの俺や死柄木さんよりずっと高い身長と筋肉。正直、正面に立ちたくないな。
「……ッ、オールマイト気をつけて下さい、あの手のヴィラン、触れたものを崩す個性があります! あ、あとフードのヴィランはバリアみたいなッ……!」
「緑谷少年! 情報サンキュー! でも、大丈夫!!」
オールマイトはこちらに向き直る。
爛々と光るその眼で睨むのは、俺たちヴィランの中でも特に緑谷君の指摘のなかった脳みそヴィラン―――脳無だ。
ダッ―――!と足を踏み出したかそうでないかの一瞬を見切り、死柄木さんは「脳無」と命令を下す。
「
巨体と巨体が各々の力を発揮しながらぶつかり合った。
だがオールマイトの全力に耐えられるよう改造された脳無。全力でもない彼に圧されることなどない。
「ムッ! やはり、さっきの攻撃も効いていなかったな!?」
拳を確かめながらも、二撃、三撃と打ち込んでいく。
さっき? あぁ、さっき俺が殴られた時か。俺と脳無を殴りつつも生徒の救出を優先したのだろう。そこで脳無への手応えの無さに違和感を抱いたと。
素早い脳無の攻撃をかわし、踏ん張って右手のストレートを腹に叩き込む。だがそれでも吹き飛ばされることなく反撃を仕掛ける脳無。
改めて見ると化け物だ。なんてもの作ったんだ『先生』たちは。
「マジで全ッ然、効いてないな!」
「効かないのはショック吸収だからさ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆうっくりと肉を抉り取るとかが効果的だね……それをさせてくれるかは別にして」
「おい……いいのか?」
個性をペラペラと喋って。
ぼそりとたしなめるが「いいのさ」と愉快気な声が返ってくる。
死柄木さんの言葉に嘘はなさそうなのを確認したらしいオールマイトは、「わざわざサンキュー!」と大声で笑う。
「そういうことならやりやすい!!」
ドォン、と白い煙が立つ。
いや、バックドロップだよなこれ。バックドロップでなぜこんな煙幕がたつんだ。当然だけどこっちもはるかに人を超えている。
が、ここで今の今まで気配を消していた黒霧さんがヴィラン的ファインプレーを起こす。
「っ~~! そういう感じか……!」
コンクリに突き立てられるはずの脳無の上半身は黒霧さんのワープゲートによりオールマイトの真下の地面にワープし、頭上にある彼の脇腹を鷲掴みにする。そして、その鋭い爪を深々と突き立てた。
初見殺しだ。13号も似たような手段でやられていたはず。
「コンクリに深く突き立てて動きを封じるつもりだったか? それじゃ封じれないぜ? 脳無はお前並みのパワーになっているんだから。いいね黒霧、期せずしてチャンス到来だ」
煽っていくな……。
ずずず、と脳無は超パワーでゲート内にオールマイトの体を引きずりこむ。
「君ら初犯でコレは……っ覚悟しろよ!」
しかしオールマイトの動きを止めたことで勝機を得た黒霧さんはまるで彼に追い打ちをかけるようにペラペラと喋り始めた。
「目にも止まらぬ速さのあなたを拘束するのが脳無の役目。そしてあなたの体が半端に留まった状態でゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目」
スピードとパワーで一時的にでも動きを封じる脳無と、ワープゲートの応用で体を引きちぎる黒霧さん。
前もっての計画通り、役割を果たせることに喜んでいるのかもしれない。
立場が逆になった。果敢に迫るオールマイトから、やられそうなオールマイトへ。
やべ、オールマイトがやられそうなんだが。この後どうなるんだっけ?
「オールマイトォ!!」
少し離れたところの大声。
視線をやれば緑谷君がこちらへ走ってきた。個性も行使せず。
「浅はか」
「緑谷少年……!」
黒霧さんならオールマイトの沈んでいるワープゲートを閉じながら緑谷君の相手をすることなど造作もないはずだ。
本格的に緑谷君かオールマイトが殺されそう。アクションを起こした方がいいか?
そのとき横から走ってくる者に気付く。
それから静かに走り寄ってくる者も。
「———どっ…け邪魔だ!! デク!!」
BOOOM!と盛大に爆発音が耳を劈く。
……うわ。久々に聞く声だ。
緑谷君に気を取られていた黒霧さんは、横合いからの爆発こみの奇襲におののき、なすすべなく本体を地面に叩きつけられてしまう。
「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
ほぼ同時、空気が冷える。足もとを真っ直ぐに氷が走り、ワープゲートを通じて脳無の半身が一瞬で凍りついた。
そしてその一瞬の後、「だらぁぁ!」と俺に襲いかかってくる赤髪の生徒が一人。個性を使うのも勿体無いので普通に避けさせてもらう。
バックステップで後退しながら途中で参戦した生徒たちを確認する。
「くっそ! いいとこねー!!」
「スカしてんじゃねぇよ! モヤモブが!!」
「平和の象徴はてめェらごときにやれねぇよ」
「かっちゃん、みんな……!」
緑谷出久、爆豪勝己。轟焦凍、切島鋭児郎。それぞれ飛ばされたところから舞い戻ってきた。
生徒に抑えられた黒霧さんに脳無。指示がないと動かない脳無はともかく、黒霧さん……。調子に乗りすぎたのだろう。
脳無の体が氷結で凍らされたことによってオールマイトも拘束から抜け出す。
状況は逆転だ。
「出入り口を押さえられた……こりゃあ、ピンチだなあ……」
爆豪君により黒霧さんの個性の弱点が暴かれる。物理無効の黒い靄はともかく、本体さえ押さえてしまえば動きを封じるのは案外簡単だ。
「『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐに爆破する!」
「ヒーローらしからぬ言動……」
悪どい笑みを浮かべての脅迫。マジでヴィランっぽい。
切島君の台詞に全面同意である。
さて、ここからが正念場だ。
「攻略された上にほぼ全員ほぼ無傷……すごいなぁ最近の子どもは……恥ずかしくなってくるぜ、ヴィラン連合……!」
「どうするんだ、死柄木さん」
「決まってる、元の計画の通りだ。まずは出入り口の奪還だ。ゼロ、お前あの爆発小僧をやっつけろ」
……俺かよ。
「脳無、お前はオールマイトだ」
合図をもとに脳無が動き出す。
半身を凍らされている以上無理に動かせば体が割れる。しかし超再生の個性も併せ持っており、痛覚なんてろくに働いていなさそうな脳無には関係のないことだ。ぬるぬると元の体の方から肉が湧き出て、失った分の体を補完する。
「ショック吸収じゃないのか!?」
「別にそれだけとは言ってないだろ。これは超再生だな。脳無はお前の百パーセントにも耐えられる、高性能サンドバッグ人間さ」
ヒーローたちは驚いているが、脳無も準備が整った。
俺も行くしかない。俺が一歩踏み出したとき、過剰に反応したのはオールマイトだった。
「爆豪少年には手を出させないぞ!」
「ハッ……心配ねぇよオールマイトォ! 全員ぶっ潰してやる!」
だが爆豪君は黒霧さんを押さえる必要がある。俺もここから逃げ出すためには、黒霧さんというワープゲートは必要だ。だから俺が死柄木さんの命令を聞く意義はある。
やるなら先手を取るべきだ。フードが外れないように強く引っ張り駆け出す。
「!」
ごうっと空気が動く。
「私を無視しないでくれるかな!?」
HAHAHA!とでもいいたげに目の前に現れるオールマイト。
速い! とっさに個性を発動し防ぐが、意識を刈り取るためのチョップは俺の首元すぐに迫っている。
人間の体格を意識しているためか威力は抑えめだがスピードは半端ではない。完全に目では追えない。
―――ああ、ほんとうに格が違う。俺の防御で攻撃が防げるというのに、勝てるビジョンが全く思い浮かばない。
距離にして1メートル以下。こんなに近づく機会なんてないし、勝てそうにもない相手と近づきたくもない。
でも、顔を上げてオールマイトと眼を合わせる。意思の強い瞳。俺とは比べ物にならない決意。
「っ!? 君は――」
「平和の象徴、本当に怖いな」
そうだ、怖い。俺は彼を敵に回したことをすでに後悔している。
でも、でもだ。
「『先生』の方がもっと怖い」
ぼそりと呟いた言葉はどうやら彼の耳に拾われたらしく、怪訝そうに彼は俺を見た。
だけど、こちらにばかり注目しているのはおすすめしない。
「!?」
俺の個性と呟きに気を取られたオールマイト。彼は機をうかがっていたらしい脳無に横合いから殴り飛ばされた。
一瞬黒い巨体が通り過ぎたかと思えば目前から姿が掻き消え、吹っ飛ばされたオールマイトにさらに追撃を図る脳無。とっさに距離をとって衝撃を殺したからか大したダメージはなさそうに見えるが、強制的に距離をとらされる。
「オールマイト!?」
ただのパンチで放たれたと考えられないほどの豪風に生徒たちの意識がそれている。俺の道を阻むものはいなくなった、今がチャンスだ。一気に黒霧さんたちと距離を詰める。
爆豪君は目にもとまらぬ速さでオールマイトをぶっ飛ばした脳無に目を奪われている、が。
「! チッ――!」
こちらに振りむいた。
BOOM!!
ほとんど同時に目の前を爆炎が埋め尽くす。爆発だろう、だが個性で防御したおかげでノーダメージだ。
すぐさま攻撃に転じてくるところとか反射神経どうなってるの?
でも黒霧さんの救出はしなければならない以上、仕方ない。
煙が晴れる前にどうにか引きはがさなければ。
手を伸ばした瞬間、爆豪君本人の腕が煙を払った。
―――あ。煙が晴れる。
目が合った。
「っおま―――」
思わず、キックを放った。ほとんど無意識の目潰しで、予想外にスムーズに爆豪君の顔面、というか見開かれた両目に吸い込まれる。
「がっ……」
顔面への一撃。
脳がぐらんと揺れた爆豪君の伸ばされた腕をつかみ、無理やり黒霧さんから引きはがす。爆発が起こるがおかまいなしだ。完全に引きはがした後になるべく遠くに突き飛ばした。
「黒霧さん大丈夫か」
「……っ」
悔しさに満ち溢れているらしいが特に外傷はない。
黒霧さんを引っ張り死柄木さんのそばに後退する。
状況は元に戻った。
こちらの戦力は死柄木さん、黒霧さん、脳無、俺。向こうは生徒四人とオールマイト。
「かっちゃん!?」
「爆豪! 大丈夫か!?」
向こうの負傷は脳無の攻撃を防ぎ続けているオールマイトと、今俺が蹴とばした爆豪君くらいだろう。
俺たちと彼らの距離は目測で十メートルくらいだ。オールマイトはともかくほかの生徒たちの攻撃は見てから対処して十分間に合う。
「加減を知らんのか……」
脳無に吹っ飛ばされたオールマイトが煙の中から現れる。多少スーツが汚れており、口から血がにじんでいる。
脳無は変わらず無傷だ。
「仲間を助けるためさ、仕方ないだろ? さっきだってホラそこの、あー……地味な奴。あいつが俺に思いっきり殴りかかろうとしたぜ? 他が為にふるう暴力は美談になるんだ、そうだろ? ヒーロー……」
語り始めるのはかまわないのだが、なるべく早く終わらせてほしい。
死柄木さんはまだ気づいていないみたいだが、こちら、というか俺に尋常じゃない視線を送ってきている奴がいる。
「俺はなオールマイト! 怒ってるんだ! 同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!」
何が平和の象徴なのか。所詮抑圧のための暴力装置にすぎないと、死柄木さんはオールマイトの『象徴』としての矜持を馬鹿にする。
「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの……自分が楽しみたいだけだろ嘘つきめ」
「バレるの、早……」
やべ、来る。
その前に言っておかなくては。
「死柄木さん……」
「あぁ? 何だ」
「たぶんサポートは無理だ」
「……はぁ?」
死柄木さんが苛立たし気にこちらを睨むが、割とそれどころではない。
「どいつもこいつも、ベラベラと意味わかんねえことを喋りやがって……!」
ダンッ!と地面に跡がつくくらいに踏み込み、彼は大声を上げる。
はたから見てもわかるほどの、破裂しそうな感情。
「か、かっちゃん……?」
「おい、爆豪?」
緑谷君と切島君が突如怒りをあらわにする爆豪君を見て、うろたえながら名前を呼ぶ。
しかし、それは彼には届いていないようだ。
地面を蹴り、両手から爆発を起こして加速し、一気に俺の目前で右腕を振る。
「———特にお前だよ!!」
目視した、声も聴いた。腕を振らずとも個性を発動できるくらいの余裕があった。
でも思わず左手を伸ばして、爆豪君の爆発を防御する。
それほどの気迫だ。腰が引ける。
だが、引かない。
「———大して喋ってなかったと思うが」
再び目が合った。
ギリィと妙な音が聞こえる。
「なにフッツーの顔してんだよ、お前俺と面識あるよなァ?」
「……」
「なァ!? ———バーガー野郎……!」
視界が爆炎で埋まるほどの連打を受けても俺の個性は揺らぎはしないが、彼の声は届く。
爆風が押し寄せても俺の個性で防げるが、俺が心地よいと思う程度のそよ風は届く。
もうフードも意味ないな。
そよ風に任せてフードを脱げば、一気に視界が広がり気分がいい。
でも気休めだ。わかっていたこととはいえ真正面から爆豪君とぶつかるのは好ましいことじゃない。
「なんか言うことあるだろ、テメエ……!」
ふう、とため息をつく。
「よう、爆破君。雄英高校入学おめでとう」
「そういうことじゃねえだろ!」
「怒るなよ。……そういえばお前に言ってないことがあった」
「——アァ!?」
相変わらず柄が悪いな。
「———俺はヴィランだ」
瞬間、一際大きな爆発が起こった。