捕まりたくない、ヴィラン人生   作:サラミファイア

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今回は最後の方に別視点があります


3話「レッツスカウティング」

「死柄木さん。いい加減にしてくれないか」

「ははは」

 

聞く気なしか。

 

個性を発動し、死柄木さんと黒霧さんをかばいながら溜息をつく。気持ち真面目に防御するために、正面からつばを吐き散らしながら襲ってくるヴィランをまるで押しとどめるように、両手のひらを押し出す。あれだ、俺は個性を発動して防御してますよ、というアピールだ。本当はそんなモーション必要ないのだが。

 

大人の代わりに頑張って攻撃を防いでる、そんな涙ぐましい青年が俺である。

その十六歳(ガキ)の後ろに悠々と立っているのが死柄木さんと黒霧さんだ。「もう少し時間が必要だなー」とのんびりヴィラン達を眺めている。子供に守られて恥ずかしいと思わないのだろうか、この人たちは。

 

別に俺の個性的に、守り役に徹するのはかまわない。だがしかし、俺の個性にも発動限界がある以上、疲労は必須。本当にやってられない。

 

「くそっ、なんだこいつの個性!? 殴っても効かねえ、電気も効かねえっ!」

「バリアか!? 無敵じゃねえかよ……!」

 

先ほどまで俺たちに襲い掛かってきたヴィランたちは息を切らし、少し距離をとる。

バリア、に近い。でも実際はかなり違う。

いちいち彼らに説明する義理もないので黙っているが。

 

 

 

 

大体何でまずは戦闘なんだよ……。世の中のヴィランは戦わないと気が済まないのか?

 

黒霧さんのワープゲートで日本各地のヴィランたちに会いに行き、仲間を増やそうとするのはかまわない。ブローカーが紹介してくれるだけだと不十分だ、と死柄木さんというか黒霧さんは判断したらしく、ここ最近仲間を集めようとしている。

そのほとんどが個性を持て余しているチンピラだ。

 

「お前ら俺について来いよ。どうせ暇なんだろう?」

 

と、彼らを死柄木さんが勧誘する。

そう簡単に死柄木さんに与する人ばかりではなく、というかかなりの頻度で「ああ? ナマ言ってんじゃねえよ」という感じでオラオラ反撃してくる。個性を使ういい機会だといわんばかりだ。黒霧さんはともかく、死柄木さんが反撃するともれなくどこかしらに怪我を与えることになる。最悪死ぬ。とますますヴィランがついてくることはない。

 

そこで防御に専念できる俺である。俺が彼らの攻撃を防御し続け、キレた彼らが落ち着くまでひたすら待つ。それから死柄木さんが改めて勧誘をスタートするというわけだ。もうちょっと俺へのあたりがよくてもいいのではないだろうか。俺を使って楽してるだろ。

 

 

「こいつ……こいつを倒さねえとあの顔面手野郎を倒せねえ……かといってこいつをどうやって倒す?」

「くっそ、打つ手がねえ……!」

「おいおい、俺らは戦うために来たんじゃねえよ。ほら、少しくらい話をしようぜ?」

 

俺の前に進み出て、首を軽くかしげるようにヴィラン達を見る死柄木さん。

……そろそろいいか? 個性解除しても。

独断で個性解除して、廃ビルの壁に寄りかかる。

 

 

「わかるぜ、退屈なんだろ?」

「っ……!」

「生まれ持った個性すら自由に使えない、規則(ルール)に縛られたこの国が! ムカつくんだろう!? ヒーローなんてものがもてはやされ、日陰者の個性はどうにも淘汰されるこの社会が!」

 

芝居がかった仕草で、両手を広げる。その声音、語る思想にヴィラン達は魅入られる。攻撃が一切通用しなかったことへの狼狽と、個性を発動し続け疲労に満ちた頭で、彼らは死柄木さんの言葉を受け入れていく。

 

「———俺と一緒に来いよ。暴れようぜ? 好きなだけ個性を使って、さ。気に入らないものを全部壊して、」

 

自由になりたいだろう?という言葉にヴィランたちは息をのんだ。伸ばされた手を凝視する。

 

俺という盾から出たその姿は、不思議と人を引き付けるらしい。無邪気に破壊を望む姿は、ヴィラン達には黒い光をまとっているように見える。悪の性というものか。

余裕のある態度、ワープゲートという便利な個性と、攻撃を一切通じさせないバリアの個性を両脇に従えていれば貫禄もでるというもの。俺がその片棒をかついでいるのがものすごく不本意だが。

 

 

「ま、ものは試しさ。とりあえず来いよ」

 

不意にへらりと死柄木さんが空気を変えた。

 

「あ、……」

「そ、そうだな、ものは試しさ!」

 

ほとんど茫然としていたヴィランたちははっと我に返った。なんだかソワソワと、死柄木さんを見つめている。

おいおい気持ち悪いな。

 

なんか、あれだ。誘蛾灯みたいだ。死柄木さんが光って、それにつられたヴィラン達がふらふらと寄っていく蛾。哀れにも寄せられた蛾はじゅっと、こう、燃え上がってしまう。

 

「さて、じゃあ行きましょうか」

 

黒霧さんの落ち着いた声で、黒靄があたりに広がる。

ヴィランたちは数にして六人。六人が手下に加わったというわけだ。思い通りに事が運び、死柄木さんは満足そうだ。なによりである。

特に今回は単純な増強型の個性のほかに電気をぶっ放せるタイプの個性を持ったヴィランがいたおかげで、「派手でいい」と喜んでいる。その攻撃をさばいたのはもちろん俺である。溜息を禁じ得ない。

 

はぁ。でもこれで、ようやくアジトに戻って眠れる。時刻は深夜二時をゆうに回っているのだ。

意外なことだが黒靄での移動は割と快適である。足を突っ込んで、その次の瞬間には目的地までたどり着ける感じだ。座標移動なのか? 原理は聞いていないけれど、移動を楽しむタイプじゃない俺としてはとても楽でいい。

哀れにも引き寄せられたヴィラン達に続いて、最後に黒霧さんのワープゲートを通る。

 

アジトのバーの空気感、とても落ち着く。定位置の、一番端の椅子に腰かけ寝る体勢に入れば、ヴィラン達がバーに感動しているらしかった。

なんだか大丈夫そうだ。寝よう。

 

 

 

 

「なんか、お前妙にすごかったな。どんな個性なんだ!?」

 

起きたら、今日スカウトしたヴィラン達が妙に親し気に話しかけてきた。

死柄木さんを見るに、どうやら彼は見事にシンパを増やしたらしい。

 

新興宗教みたいだな。こわっ。

 

 

 

 

 

 

   * * *

 

 

冬はどうも、何かを積極的にやろうという気力がわかない。これは前世から変わらない、俺の性質である。一回死んでも治らなかった。

 

だから、原作が始まろうという感じになっても基本的にごろごろとしていた。意外にも暖房が効いていて過ごしやすいバーでの昼夜を問わない昼寝は最高に背徳的で素晴らしい。死柄木さんに無茶ぶりされそうになったら公園に出向いて、爆豪君の観察をしたりしてやっぱりそこでも寝たりしていた。

 

「今日も行くぞ、ゼロ」

「嫌だ」

「おい……」

 

昼寝していたところをたたき起こされ、回らない頭でも一刀両断する。そういやそろそろ夜だ。どうせヴィランのスカウトだろう。俺がいなくても何も問題はない。

 

「代わりにあいつら連れてけよ……ほら、なんだっけ。蛾の何人か」

「蛾?」

 

間違った。蛾みたいだなとは思ったが彼らの中に蛾っぽい人は誰もいなかった。

 

「この間スカウトした人たち……きっと俺よりやる気ある」

「お前……あいつらを蛾だと思ってたのか?」

 

やべ。思わず無言になる。しかし特に気にしなかったのか、黒霧さんは話を戻した。

 

「ゼロほどやる気のない人は、私は見たことありませんけどね」

「俺の代わりに、そいつらを盾にすりゃいいだろ……」

 

俺よりきっと、死柄木さんの役に立とうと頑張ってくれることだろう。しかし納得いかないようで、

「死ぬかもだろ」と反論する。

 

「死柄木さんが頑張ればいい」

「なんで俺が!」

「じゃあ黒霧さんだ。……なんでもいい、俺は面倒だから行きたくない」

 

 

ヒュッ。俺に向かって踏み出す鋭い気配。風を切る音。

ぞくっと背筋が粟立った。とっさに突っ伏していた体を起こし、右斜め後方から感じた殺気に向かって右手を広げた。振り向きざまに見えたのは、手のマスクから覗く怒りにたぎった片目だ。

ほとんど本能的に発動した俺の個性に、死柄木さんの伸ばした手は俺の伸ばした手にあたる寸前で静止する。まるで見えない何かがあるように。透明であるがゆえに、死柄木さんの射殺すような視線は俺に注がれたままだ。

……やばかった。今のはかなり本気だった。割と本気で俺を殺そうとしていた。

 

「……」

「……」

 

無言のまま、しばしにらみ合う。表情、変わってないよな?

 

「やめなさい、二人とも。ゼロ、お前のやる気のなさはいい加減にすべきです。ですが死柄木弔、確かにこれは先日スカウトした彼らの個性を伸ばす機会にもなります。今日のところは、彼らを連れていきましょう。前例を自身の眼で見れば、よりスカウトしやすくもなる」

 

! 思わぬフォローだ。死柄木さんは俺の意見を聞き入れることはほとんどないが、黒霧さんの意見は割と素直に聞き入れる傾向にある。俺よりも長い付き合いだし、参謀的立場だし、お守的な立場だからだろう。

 

「……チッ」

 

軽い舌打とともに死柄木さんが離れていった。一安心だ。

 

「今日はあいつらを連れてく。……ゼロ、お前あんまり勝手なことばかり言ってると、今度こそ殺すからな……?」

「……わかった」

 

あんまり死柄木さんを逆なでるのはやめよう。最近は殺そうとしてくる回数が減ってきていたから、油断していた。反省だ。でもこれ、死柄木さんこそ言われるべきではないだろうか。

 

ともかく、やる気がないのは仕方ない。最初は気付かなかったが、何人かヴィランをスカウトしていって気付いた。

こいつら多分、原作において死柄木弔達が雄英高校の面々と初めて出会った事件――—USJ事件で出てきたチンピラたちだ。

気付かず、原作開始への準備を着々と進めていた。

原作で一体何人が捕まったんだったか。このペースであと一年を過ごすなら、かなり多くなりそうなんだが。

 

……まあどうでもいいか。USJ事件の前にどうにかすればいい話だ。

 

 

 

 

とりあえず今日のところは十分な睡眠時間をとることができた。

 

次の日起きたら、この間スカウトした連中と、見たことのないチンピラが増えていた。どうやらスカウトにまたまた成功したらしい。しつこく絡んできそうだったので、そうそうにバーから出た。個性のことをしつこく聞かれるのはフツーに拒否したい。

 

そろそろ季節は春。世間じゃ卒業式シーズンを通り過ぎ、入学式のシーズンだ。桜も舞うようになる。

死柄木さんとの攻防やら、ヴィランのスカウトやら、そんなことをしていれば時はあっという間に過ぎていく。他の時間はほとんど睡眠に費やしているせいもあって、ぼうっとしていると本当に一年は一ヶ月くらいに感じるな。……前世の記憶があるせいかもしれないが。

ともかく、そろそろ冷たい風は吹き付けなくなり、日差しも(ぬく)くなり昼寝にちょうど良くなる。

原作開始もそう遠くないか。……はあ、しんど。

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

ふらふらとした足取りでバーに模したアジトから出ていく少年――ゼロを黒霧は見送る。

今回スカウトした連中とつるみたくなかったのか、それとも単に興味がなかったのか。ゼロならいずれにせよ、このバーから離れるという選択をしただろう。

 

死柄木弔自身の行動と、黒霧やゼロの手助け、それから『先生』の助言によって、徐々に手下は増えている。

ヴィラン達と言葉を交わしている死柄木の姿をバーカウンターから眺め、黒霧はそばのモニターに視線をやった。モニターは常時淡い光を放っていて、備え付けのカメラによってこちらの映像は向こうに送られ続けている。それは常に向こうと繋がっているのと同義で、つまりいつでも『先生』と会話をすることができることと同義。

 

黒霧はモニターに問いかけた。

 

「先生。ゼロをどうしてここに?」

『どうして、とは?』

 

返事は早かった。モニター越しの彼の声には愉悦が含まれている。

 

「大方言うことを聞くとはいえ、彼は自由すぎる。それ以上にやる気というものが感じられない。おかげで、死柄木弔といざこざを起こすばかりです」

 

止めるこちらの身にもなってくださいよ、と言わんばかりだ。

黒霧の言葉に、『先生』はふふと笑い声を漏らす。

 

『彼はそれでいいんだよ。ゼロのやる気のなさは筋金入りだ。一回死んでもたぶん治らないね。だから、弔のそばに置く価値がある』

「というと?」

『思い通りにいかないものがそばにあった方が忍耐力もつくというものさ。ゼロは弔自身を批判したりしないから、時々ストライキを起こす仲間程度で済む。変に対立することなく、弔の成長を促せる』

「はあ、なるほど」

 

しかし、その軋轢の緩衝材は黒霧に一任されている以上、あまり素直に頷きたくはない。黒霧は若干納得のいかないような声音で理解を示した。

 

『それに、ゼロの考えていることは私にもよくわからないんだよ』

「……逆に何か考えているんですか、彼は?」

 

さらりとけなされているゼロである。バーにいるとき、ほぼぼうっとしているか眠っていれば仕方のないことだが。

それからゼロは『先生』にも黒霧にも微妙に勘違いされている。

 

 

『あの年の割には成熟しているし、初対面で弔に殺されそうになっても驚かない。どこか欠けていると、ああいう人間ができる。不完全だからこそ、完成しているのさ』

 

 

成熟しているのは、中身が本当の十六歳(ガキ)ではないからだ。この世界の誰も知らないことだが、ゼロの中身は三十路を軽く超えている。

そのうえ人生を一回終え、しかも転生などと非現実的なことを経験しいろいろと諦めたのだ。そりゃあ人並み以上に驚かなくなるだろう。不満はたらたらだが。

全部『先生』の知らない外的要因にあるのだが、彼がそれを知ることはない。

 

 

『———それに、ゼロの個性は面白い。それだけで十分、そばにおく理由にはなるよ』

 

 

そうですかねえ、と黒霧は溜息をつく。

死柄木弔のために『先生』は先生として生きている。黒霧のワープゲートやゼロの『個性』。いずれ死柄木弔がしかるべき『シンボル』になるまでの、有効な手札になるだろう。そのために、ゼロをここに連れてきた。

彼は特に心配していなかった。ゼロの存在は思った通りに、死柄木弔の成長を手助けしているだろう、と。予測通りに。

弔が必要ないと判断するなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それまで、あと何年かは近くにいてもらおう。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

そんなことを考えられている張本人、ゼロはその時常連のハンバーガーショップにいた。新作のバーガーを購入して、いつも通りに公園へと向かう。

 

(さて、どうしようかなあ……これから)

 

ポテトをつまみながら、ゆったりした歩調で街を行く。先生にどう思われているかも知らずのんきな様子である。

一刻も早く逃げた方がいいことを、彼はまだ知らない。

 

 


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