捕まりたくない、ヴィラン人生   作:サラミファイア

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4話「ついに始まる物語」

朝起きたときから、妙に目がさえていた。

別に何かしなくちゃいけないわけでも、死柄木さんや黒霧さんに無茶ぶりされたわけでも、殺されかけたわけでもないのになんだか妙な感じだった。

死柄木さんに、

「今夜スカウト行くぞ」

と言われ素直についていくことにしたら、

「なんか気持ち悪いな……」と暴言を吐かれた。言うこと聞いたら聞いたで気味悪がられるってどうなのだろうか。

 

 

とにかくスカウトまで、つまり日が高い間は暇である。もともと十二時くらいに目覚めてそれから、朝昼兼用の食事をとってから昼寝をするのがルーチンなのだが、昼寝する気にもなれない。

とにかくなんだかこう、もやもやとするのだ。

バーのシックなテーブルに頬杖をついてそのもやもやの原因を考えていたら、どこかにお使いにでたらしい黒霧さんはともかく、死柄木さんにさらに気味悪がられた。

 

 

死柄木さんはなれなれしく隣に腰掛け、

「なんだよ、今日は昼寝すらしないのか」

「ああ……考え事」

「考え事? お前が?」

 

 

ナチュラルに失礼である。元からだが。

 

「へえ、……内容は?」

「別に……」

「なんだよ人に言えない悩み事か? ずいぶん青少年らしいじゃないか。ふふ、悩み事かぁ」

「違う」

 

そんな言い方されるのはふつうに嫌だ。

 

「じゃあなんだよ」

「ただ……なんか、もやもやするだけだ。なんか大事なこと忘れてる感じの」

「あー、あるよな。何かしようと思って忘れているタイプの」

「そう……。?」

 

なんだか今の死柄木さんらしくない反応じゃなかったか。俺の言葉に肯定を示すことなんてめったになかったような。

頬杖をといて隣の死柄木さんの方に視線を向けた瞬間、

 

「近い」

 

目の前に死柄木さんの顔、というか顔についている手型のマスクが迫っていた。さすがに少し驚いた。

指の先から見える目が楽しそうにゆがめられている。

 

 

「変だなあ、変じゃないかゼロ。お前がそんなこというなんて」

「……というと?」

「お前に忘れちゃいけない大事なことなんてあるのかよ?」

「……」

「なあ?」

 

 

 

「……それも、そうだな」

 

 

これから何があろうと別に大したことではないか。死柄木さんの言う通りだ。

この世界は作り物の世界。そこに何のマニュアルもなく放り込まれた俺は、なんにも持っていないのだ。

 

二度目の人生が始まって、前世の物差しで世界が測れなくなったときに、もうじたばたしないと決めたのだった。

 

 

「そうだな。別に、考えることでもないか」

 

すっかり忘れていた。何かが起こったときにそれから初めて思考を割けばいいのだ。それ以上はしない、疲れるから。

 

死柄木さんを見れば頬杖をついて満足そうに笑っている。

 

「何か面白いことでも?」

「いやあ、意外でさあ。ガキは嫌いだけど、ガキがつまらないことでペースを崩しているのを見るのは楽しい。お前だとなおさらな」

「……そりゃよかったな」

 

 

聞かなきゃよかった。中身が見た目通りの十六歳じゃないから、余計に心に刺さった。

ここで昼寝に入ろうとすればたぶん、ふて寝だと思われる。ささやかな矜持で頬杖を維持すれば、それすら見透かされているようで機嫌よさげにニタニタ笑ったままだった。腹立つな。

 

 

手慰みに、テレビをつけた。バーのカウンターに背を向ける形、つまりカウンターに寄りかかればちょうど壁際におかれたテレビを見ることができる。死柄木さんがこちらを笑いながら見てくるのがちょっと、というかかなりうっとうしい。

 

 

テレビはちょうど夕方のニュースの時間だったらしく、今日ついさっき起きた事件について報道している。

 

 

 

―――――――あ。これか。これだよ、もやもやの正体。

 

 

『ヘドロに変形できる個性を持ったヴィランを、オールマイトが一撃で撃破!』

 

視聴者からの提供なのか、スマートフォンサイズの映像が流れる。そこにはヘドロに巻き込まれた中学生の姿が映っている。爆破を起こし、必死に抗っているようだ。彼を助けようとしたのか飛び出した友人らしき同じ制服の、緑色の髪の少年。少年二人の姿は遠くぼんやりとしか映っていない。

 

そして突如として姿を現し、二人の中学生をひっつかんで右腕を振りぬくヒーロー―――オールマイト。

 

一瞬で塵となってヘドロは飛散し、その上昇気流で雨が降り始める。

野次馬の歓声――――。

 

 

「……チッ、まぁた、オールマイトかよ」

 

 

死柄木さんは先ほどまでの機嫌から一転、不機嫌そうな声音で悪態をつく。

まあオールマイトが大嫌いな彼としては、オールマイトが活躍するニュースなんて虫唾が走って仕方ないだろう。

 

 

それよりも俺としては『大事なこと』がわかった。

――――ついに、原作の開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

      * * *

 

 

 

結局その日のスカウトは中止となった。オールマイトは四六時中活躍しているが、その彼が特に目立った活躍を見せた日はさすが平和の象徴というべきか、ヴィラン達の行動がかなりおとなしくなるのだ。日和った、といい代えてもいい。

そういうときに勧誘しても芳しい結果は得られないので、死柄木さんはさらに不機嫌そうであった。

 

何日かはスカウト自体が中止になったため思う存分昼寝を満喫していたのだが、そうヴィランがゆっくりしていい暇もない。

死柄木さんは鬱憤をはらすかのように夜の街に繰り出すので夜の睡眠時間が短くなる。

昼は機嫌が悪くなるので、俺はそうそうにバーから退避することにした。

 

 

 

そしてやってきたのは例の公園である。

桜もすっかり散って、春先用の薄いコートだけでちょうどいいくらいの気温だ。先日も買った新作バーガーを購入しベンチで日向ぼっこをしていたら、何日かぶりに爆豪君がやってくるのが見えた。

 

 

「よう、()()()。大変だったみたいだな」

「やめろ」

 

 

爆豪君は汚物を見るかのような視線を俺に向けた。相当嫌そうな顔である。物凄い眼の吊り上がり方だな。

 

全身にシップや絆創膏のたぐいはついていない。ヘドロ事件でついた傷がもともと大したことがなかったのか傷が癒えたのか、健康体なようでなによりだ。

 

ちなみにいうと、ヘドロ事件のあと改めてネット等で調べたら、一瞬だけ被害者であるところの爆豪君の名前はさらされていた。もちろん称賛の対象としてだ。

その名前を俺が言ったことで、ヘドロ事件のことを俺が知っていると爆豪君も気づいたらしい。

 

ずかずかとガニ股で公園をつっきりベンチまで迫ってくる。

まるっきりヴィラン顔で俺の鼻先に右の指先をびしっと向けた。人に指をさしちゃいけないんだがな。

 

 

「その話は俺の前ですんじゃねえ、二度と」

「なんでだよ。ヘドロ事件、随分もてはやされてたじゃないか」

 

ぴきっと青筋が立つ瞬間を見た。

 

「いいから、言うんじゃねえ! 口に出したらぶっ殺すぞ」

「殺されたくはないな」

 

 

でも正直に言えばもっと聞きたい。

だって原作の開始である。僕のヒーローアカデミア、という物語の一番最初のストーリー。

 

主人公の緑谷出久が現実を突きつけられながらも、自身の性質を最高のヒーロー(オールマイト)に認められワン・フォー・オールの継承者となるきっかけ。

それが主人公の幼馴染、爆豪勝己が巻き込まれたヘドロ事件なのだ。爆豪君の反応を見る限り原作通りのことが起こったようだし。

 

今頃オールマイトと一緒に体を鍛えてるんだろうなあ、緑谷君。

 

 

爆豪君の方は俺の眼の前にいるわけなんだが。

 

 

「大体何が気に食わないんだよ。そりゃ名前がネットに出たことは嫌かもしれないが」

 

もちろんもう名前の方は削除されているだろう。中学生の、それも被害者の方の名前が広まるのはあまりよくない。

だが結局削除してアップされて、削除してアップされて、のいたちごっこになってしまうから爆豪君はばっちり有名人になってしまった。

 

 

「プロヒーローがサイドキックに誘ったとかいう噂もあったしな」

「そりゃ当然だろうが! 俺はプロヒーローになんだよ!!」

「それはわかってるさ。それで?」

 

 

促してみれば見事に黙り込んだ。

 

「……うっぜぇんだよ、」

 

え、俺うざがられた。やっぱりしつこく聞くのはまずかったか。

 

 

「いつもいつも……! 一人でできたのに、無個性のくせに、」

 

おや。これ俺じゃねえな。

 

「助けられたわけじゃねえっ……クソ、クソナードが! あの野郎が……いっつも出しゃばりやがって!」

 

「……ふうん」

 

 

すげえ。こりゃよっぽど彼的にきつかったらしい。

会う頻度はそれなりに高いとはいえ、まだ名前も知らない俺にこんなことをこぼすなんて。

 

まあ爆豪君もまだ中学三年生。それなりの歳を生きた俺とは違って精神的に未熟だろう。愚痴を吐き出してストレス発散する時間も必要か。

 

爆豪君、緑谷君本人にもそれ言ってたけどすっきりしなかったのか?

まあいいか。

 

 

「そういえば爆豪君。その靴汚いな」

「アァ!? てめえどういうつもりだこのタイミングで!」

 

キシャアっと獣のように威嚇する爆豪君。

 

「いや。初めて会ったときよりかなりその靴すり減ってる。どうせトレーニングするってことはこれから時間あるんだろ? 今からどこかに買いに行こうぜ。

新しい靴の方が気合い入るってもんさ。それに」

 

話しているときに気付いたのだが。

 

「爆豪君、水は?」

 

爆豪君はとっさにいつも持ってきている肩掛けのバッグに手を突っ込み、そこに明らかに何もない事に気付く。

中身がねえ、とぽかんと間抜けな顔をさらしている。多分家に忘れてきたんだろうな。

 

 

「調子くるってるときに変にトレーニングしても身にならないんじゃないか」

 

 

すくっと立ち上がれば爆豪君はぽかんとしている。

ようは気分転換だ。買い物行って靴と飲み物を買おう。

 

「俺どこかでコーヒーが飲みたい。というわけで行こうぜ」

 

 

すたすたと迫れば爆豪君はやっぱり間抜け面をさらしていた。

 

 

そのあとはもうなし崩しだ。強引に公園から連れ出して電車で二駅くらいのショッピングモールに向かう。ショッピングモールについてショップマップを探す。

爆豪君が私服でよかったな。変に目立つこともない。

 

「気に入ってる靴のメーカーとかはあるのか?」

 

そんなことを聞いたときにようやく爆豪君は我に返った。

 

「って何してんだ俺は!?」

「何って靴の買い出しだろ」

 

 

よっぽど調子が崩れてたらしい。俺に素直に丸め込まれてここまで来ていたとは。本調子だったら公園の時点で連れ出しに失敗してただろう。

 

「声が大きい。ここショッピングモールだぞ」

 

公共の場であることを利用したたしなめである。我ながらずるい。

俺も平然とこんなところにいるが一応ヴィランである。もしかしたら別のところであったヴィランとばったり鉢合わせ、なんてことにはなりたくない。目立たないに越したことはないからな。

 

俺の策略にはまるしかない爆豪君はものすごく殺気だった目でこちらを見てくる。

が、「ほら、早く」とせかせば、わざとらしいほどの大きなため息をついて歩き出した。方向からしてやはり靴の専門店のテナントが入っている方向だ。

 

諦めたのかな? ついてくんじゃねえとも言われないので普通に隣を歩くことにする。はたから見れば、どこにでもいる友人同士に見えるだろう。

 

あれ、これっていわゆる友達と遊びに出かけるってやつじゃないか。今世初めてである。隣が爆豪君っていうところが何とも言えないが。

 

爆豪君が入っていく店は若者に人気らしく、客層が全体的に若い。スポーツ向けの靴を売るよくあるお店だった。

 

 

「これとかよくね」

「ピンク? お前ふざけんなよ」

「じゃあこれ」

「またピンク!?」

「じゃあこれ」

「今度は普通……ってこれレディースじゃねえか!」

 

なんか爆豪君にピンクって言わせるの面白い、とめぼしいものを探して差し出していたら「お前出てけ」と店から追い出された。

買う気はなかったとはいえ客には変わりないのにひどい扱いである。ジャイアニズム爆豪だ。

 

仕方ないのでおとなしく店の外で待っていれば、自分のことは自分で面倒を見れる爆豪君は自分で靴を選んで購入してでてきた。満足のいく買い物ができたようで珍しく薄く笑みを浮かべている。

不機嫌も治ったようで何よりである。

 

「俺喉乾いた。コーヒー飲めるか?」

「舐めんなよ、コーヒーくらい飲めるわ」

 

心底心外だ、と言いたげな声音だったが機嫌は維持されたままのようで、率先して歩き始めた。

どこのコーヒーショップでもこだわりなく好きだが、やはり専門店のもののほうが値が張る分美味しい。砂糖をスティック一本分だけ入れて飲むのが好きだが、爆豪君はブラックのまま飲んでいた。

 

「イメージを裏切らないよな」

 

ざー、とわざとシュガースティックを一本爆豪君のコーヒーにつぎ込んだら睨まれた。彼、切れやすいからな。糖分とった方がいいよ。エネルギー源にもなるし。

 

 

「マジでお前、なんなんだよ……」

「何が?」

 

お、ここのコーヒーうま。

 

「そもそもなあ、俺の一つ上ってことは高校一年ってことだよな? どこ高だよ」

 

そういえばそういった俺個人の話は一回もしたことがないな。

俺は原作知識と今回のヘドロ事件のせいで爆豪君の本名も出身中学のことも、ついでに未来のことも知っているというのに、彼は俺の名前も何をしているのかも、ついでに個性も知らない。

 

さすがに変か。

 

 

「高校か? ふつうの高校だよ」

「普通科ってことか?」

「そう。適当に家から近いところで」

 

いや嘘だけど。死柄木さんの部下でヴィランなので当然高校には行っていません。

だけどさすがに俺くらいの歳で高校に行っていないなんて何か変な背景があると勘繰られるだろう。変な背景、あるんだけれども。

 

「なんだ、つまんね」

「ヒーロー科の先輩だと思ったか?」

「は、それはねえわ。お前みたいなやる気皆無人間が」

「ひっで」

 

否定はしないが。

というかヒーローから対極の位置にある人間だが。現在進行形で。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なんだかんだで結局だべって時間は過ぎてしまった。

来た道を逆戻りし、最寄り駅に到着する。

 

爆豪君の家がある方向は住宅街の方向だから、最寄り駅で別れた。これから帰宅するのだろう。俺もアジトに戻ることにする。

 

「じゃあ、またな」

 

たぶんまた会うだろうと思ってそう声をかければ、ざっと爆豪君は背を向けて歩き出した。が、

「おう」

と不愛想な返事が聞こえた。

案外コレ、仲良くなれたんじゃないかな。たぶん。

 

 

 

 

さて、俺も戻ろう。

日が完全に暮れてきたのでフードをかぶった。夜のネオンの下だと、白い髪の俺の頭はそれなりに人目につきやすい。ふつうの高校生っぽい服装をしている分、夜はチンピラとかに絡まれやすいのだ。

チンピラに絡まれるのは死柄木さんとスカウトをしているときで十分である。

 

誰かにつけられてはいないと思うが、アジトに戻るときにはいつも遠回りをする。

歩いていけばどんどんと風俗店や飲み屋が並ぶ区画に入り、きらきらとネオンが光っている。そこのビルの隙間に入り込むようにまがれば、そこはあっという間に裏世界のにおいがする。

 

たいていはここで何事も起こらないのだが、普段よりも戻る時間が遅かったためか。

 

 

「おいおい不用心だなあ、兄ちゃん。ここは兄ちゃんみたいな素人が来る場所じゃないんだぜぇ」

 

 

どん、と太い腕が行く手を阻む。

俺よりも身長が高く、見上げれば目つきの悪い、ザ・チンピラがそこに立っていた。常時発動の異形型の個性を持っているらしく、なんと形容すればいいのかわからない顔つきである。

 

面倒だな。避けようと思って振り返ればそこにはすでに別の人が立っていた。にたついてこちらを見てくる様子、どうやら前を阻んだ男とグルであるらしい。

 

二人がかりで金でも奪おうといったところだろうか。

平凡な顔つきは気に入っているが、こういう風に巻き込まれるのは本当に面倒くさいな。

仕方ない。金を奪われるのは面倒だ。それに最近俺の小遣いももうなくなってきている。

 

こいつらからもらおうか。襲ってきたのはあちらだし、正当防衛だよな?

 

 

 

 

そういうわけで、殴りかかろうとしてきた背後の男に向けて個性を発動した。

 

 

 

 

 

 


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