捕まりたくない、ヴィラン人生   作:サラミファイア

8 / 12
8話「とびきりのニュース」

いわゆる「家出」をしなくなってから数か月。

『先生』が俺に「ふらふらするのやめろ」と言いつけたのを知らない死柄木さんは、俺がずっとバーにいることを訝しんでいたが、数か月もすれば慣れたようだった。

おかげで俺の話し相手はほとんど死柄木さんと黒霧さん、それからスカウトしたチンピラたちである。同年代の話相手がいないせいで、高校生らしい年相応のしゃべり方を忘れそうだ。かわりに一回終えた分の年齢を合わせた精神年齢の方の話し方が時々飛び出る。ガキらしくねえ、生意気だと毒づかれるが正直仕方ないと思う。

 

それから、死柄木さんは相変わらずマイペースだ。

 

「ゼロ。行くぞ」

「……スカウトか?」

「さあなぁ?」

 

ついてこい、と言われて素直に立ち上がる。

黒霧さんのワープゲートを通れば、そこはどこかのアジトでありスカウトしたらしいチンピラたちが何人か集まっていた。

それぞれなんらかの武器を携え、それを時々揺らしながらアジトを歩き回っていたが、俺が現れたら動きが一斉にとまる。

彼らを眺めれば、逆に鋭い眼光を飛ばされた。相変わらずの敵意である。

今日の用事は最近始まったお遊びの方だったらしい。

 

俺がサポートしたときにスカウトされたチンピラ連中は、何故だか俺には高確率でそれなりの敵愾心を抱く。自分の個性をもって俺の個性を破れなかったのが、かなり悔しいらしいのだ。

俺としては心底どうでもいいのだが、死柄木さんは「鍛錬」と称して彼らを俺と戦わせるようになった。それは俺と彼ら自身の鍛錬も含まれるが、それ以上に俺への嫌がらせを含んでいるのではないかと最近疑っている。

 

 

「あんときは全然かなわなかったが……今度こそぶっ殺してやる」

「おうよ!」

「このクソガキが……!」

 

もしかしたらガキの俺に負けたという事実の方が悔しいのか?

負けた方がよかったのか? いや、そんな余裕はなかったし、俺が負けたとして結局黒霧さんや死柄木さんに怪我させられるのは変わらなかったはずだ。むしろ戦ったのが俺であったから彼らも無傷でいられたのだ。俺、案外マシな方じゃないか? それなのに恨まれるとか、なんだか釈然としない。

 

じゃあスタート、と死柄木さんがのんきな声で掛け声をした瞬間、計六人のチンピラが襲い掛かってくる。

たいていのチンピラは徒党を組んで襲い掛かってくるが、この六人は三人ずつの二グループに分かれた。最初の三人は異形型の個性を持っているようで見るからにヴィラン、という造形だが後半の三人はそうではない。遠距離攻撃を持った三人といったところだろうか。

 

襲い掛かってきたチンピラの前で個性を発動する。三人の物理攻撃を全て透明な壁で防ぐ。

硬質な壁に防がれ、彼らの拳の方がダメージをうける。

それはもうすでに彼らも経験済みだ。だから本命はその次。

 

「!」

 

三人の攻撃をいなした直後、彼らまで巻き込むかのように水が発せられた。どうやら水を操れる個性をもったやつがいたらしい。

まるでレーザーのように射出された水はカッターみたいに容易く俺の背後の壁を切り裂く。バターでも切るかのようだ。俺の個性で阻まれた分は跳ね返って霧状になる。

おいおい、いくら俺の個性がバリアに近いとはいえ、この技、直接当たれば簡単に人体両断できるだろ。完全にヴィラン顔だし、本気で俺を殺しにかかってきているとしか思えない。本当にやってられない。

 

攻撃を防いだ分は床に水たまりのように広がっていて、なんらかの作為を感じる。

電気系の個性でもいればそこをバリバリっとやってきそうだな。よくある攻撃だが……もしかしたら本当にやるかもしれないので、予防は必要だ。

 

現時点で個性を使っていないのは二人。どちらかが電気系だったりするのだろうか。

しかしいちいち顔を覚えていないし、それに真面目に相手をするのは、

 

「面倒くさい」

 

ちゃちゃっと終わらせよう。

 

俺の前に立った異形型の個性の三人はもれなく俺に攻撃した。

大体、見た目がほんとうに人間じゃないんだよ。歯とか歯茎ごとむき出しだったり、頬骨、白い骨が露出していたり、全身に鉱物みたいなのが埋め込まれているようなムキムキだったりとか。

 

そういう人たちがその発達した上腕で殴るかのようなフォームをとれば、それだけで怖いわ。普通に。

 

「死柄木さん、黒霧さん」

 

避けろよ、という意味で声をかけたときには二人ともすでにかなり距離をとっていた。黒霧さんなどいつでも逃げられるようにワープゲートを半分発動している。

逃げの準備はきちんとしていることで。

 

そういうわけですぐにパーソナルスペースを拡大させる。

意識一つだ。以前チンピラに絡まれた時と同じ要領でパーソナルスペースを拡大させれば、この狭い室内、六人なんて場所が足りなくなって壁に叩きつけられる。

 

「うっぐっ!?」

「な、んだ! いってぇ!」

 

そうか。こっちの方を彼らは知らなかったか。

スカウトの際は使っていなかったから俺の個性をバリア一つだと勘違いしたままだったのかもしれない。

壁に貼り付けられ困惑した表情を浮かべている。

筋骨隆々な男は「ふんぬっ」と気合を入れて脱出しようともがいているが、引く力と押す力では後者の方が力を入れやすいように、俺の圧力からは逃げ出せない。

 

でも死柄木さんもいろいろと容赦のない人である。

俺の個性だと室内戦のほうが有利だと知っていて、室内で俺と彼らを戦わせたのだから。

 

壁があれば俺の個性で圧し潰せるし、正直負ける気はしない。よほどの頑丈さじゃなければ持久戦に持ち込まれる前に気絶するからな。

 

あ、そろそろ気絶しそう。このまま押し切るか?

 

「おい、そろそろ発動やめろ。鍛錬だって言ってるだろ?」

 

椅子に座って観戦のていを装っていた死柄木さんはどこか楽し気にそういいつける。

 

言う通り個性を解除する。一度戦っておけば、それ以降はいちいちつっかかってこないというのは経験則でわかっている。

気絶寸前に圧力から解放され、六人は壁際に折り重なるように倒れこんだ。

必要以上に怪我をさせて恨まれるのも本意ではない。これで終わりだといいんだけれど。

 

 

そのとき、ぴちゃんと妙な音がした。自分から少し離れた位置に感じる人の気配。

変だ。個性で押しつぶして壁際で折り重なっているチンピラたちとは別の場所からだ。

 

とっさにコートのポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、刃を出すとその方向に向けてナイフを投擲する。

 

「ってえ!!」

「!」

 

軽い男の悲鳴、それから何もないように見える場所から赤い液体が飛び散った。血だ。

 

間違いない、何かいる。透明人間、それとも擬態?

どうでもいい、すぐさま個性を発動してその透明人間らしき生き物を壁に叩きつける。距離を詰めて胸倉と思わしきところをつかみ、壁にもう一度叩きつければ「ぐえ」と悲鳴があがった。ぐらんと頭が揺れたのか、体重が俺の右腕に集中する。

 

ほぼ同時、空間がゆがんでいるように見える場所に色がつく。正しくは本来の色が戻った。

なんだこれ。この顔、カメレオンか?

カメレオン……なんだか覚えが。

 

「なんだ、気づいたのか」

 

気絶したカメレオン男を片手でぶら下げていれば、死柄木さんが残念そうに両腕を広げた。

 

そうか。もともと七人いたのか。六人だと思っていたけど、俺が来る前から透明化を維持し続け、俺が個性を解除したタイミングで奇襲を仕掛けたと。天井にでもくっついていたのかな。

つまり、あの六人は全部このカメレオン男の奇襲を成功させるための布石だったわけか。地面が水でぬれていてよかった……その水の波紋で存在に気付けた。

 

カメレオン男はとりあえずそのまま地面に落とす。俺が投げたナイフがちょうど頬をかすっていたらしく、ダラダラと血が流れている。

正直危なかった。やられたらいろいろと面目が立たないところだった。

死柄木さんは逆に残念そうにしている。そうか、それほど俺にやられて欲しかったか。

 

 

「ちっ……奇襲でも無理だったか……」

 

俺がカメレオン男を叩きつけている間に先の六人が立ち上がり始めた。

舌打を連発したり、「くそっ」などと悪態をついている。俺を悪役かのように扱うのやめてくれませんかね。

 

「このクソガキが……」

とヘイトをためているチンピラを、死柄木さんがなだめにかかる。

 

「ガキだからって舐めすぎたな。重要なのは個性だ、ガキだろうと個性が強けりゃ強い。高圧の水のレーザーならやれるかもしれないと思ったんだろ? あいつの奇襲はあくまで保険で」

 

え、保険だったの?

チンピラたちは図星だったようで無言で頷いている。

 

「ま、ここはお前らの個性には不利な場所だったしな。奇襲を保険にしたのはいい考えだ。ゼロをやれなかったのは気にするな、俺も一度もやれてない」

 

一度でも殺られていれば俺は今ここにはいないのですが。

 

突っ込みどころ満載だが、なんだか偉そうにねぎらっている死柄木さんに従う彼らは気を取り直したらしい。さきほどの不機嫌さはわずかにやわらぎ、次こそはと案を練っているようだ。俺をそんなにやりたいのかな?

 

 

「それとゼロ。お前いつからナイフなんか使うようになった?」

「ああ……最近ちょっと」

 

俺の個性だと攻撃手段がかなり限られる。だからナイフとか包丁とか、とりあえず武器があった方がいいかもしれないと思い『先生』に告げてみた。

とりあえずコレを使ってみなさい、と届けられたのがこのナイフである。折り畳み式でコートのポケットにひそめられ意外に便利だ。大して重くもないので投擲にも使える。

 

個性を発動した状態で内側から何かを投げた場合、その攻撃は成立する。

つまり個性を発動し続けてナイフを投げまくれば、集中が続く限りずっとバリアを張りながら攻撃を続けることができるのだ。

投げナイフとして使うため、安い包丁やナイフも仕入れてきた。本格的に戦うことになったら、俺は「ひたすらナイフを投げる人」になるだろう。

本格的な戦闘に巻き込まれたくはないのだが、まぁ仕方ない。対策はしておかないと。

 

「俺は盾要員だけど、攻撃手段が個性だけじゃ心もとない」

「へぇ……? 意外だなぁ、お前がそんなこと言うなんて」

「捕まりたくないだけだ」

 

ヴィランなのは否定しない。ただ巨大な犯罪に巻き込まれる今の状況、追われるのは必至な以上捕まらないために努力はしたいのだ。

俺が努力なんてことしているのが意外でたまらない、といった様子だが、死柄木さんは満足そうにしている。

 

死柄木さんも最近は機嫌が良さそうだ。自分の思い通りにことが進んでいるからかもしれない。

 

 

 

 

そんな死柄木さんに朗報が届いたのは、それから数日後のことだった。

 

ヴィラン連合はそれっぽく偽装したバーをアジトの一つにしている。そこには毎朝きちんと新聞が置かれている。バー名義にして契約しているのかそれとも毎朝黒霧さんがどこかに買いに行っているのかは知らないが、黒霧さんが新聞を読んでいるのはそれなりに様になっている。

 

朝起きれば、その新聞を持っていたのは死柄木さんだった。

バーカウンターにグラスを置きっぱなしにしたまま新聞を読んでにたついている。いつにもまして不気味だ。

 

喉が乾いたな、と思えば黒霧さんがグラスに水を出してくれた。氷もしっかり入っているし、親切だな、こういうとき意外と。

軽く礼を言ってグラスを傾ければ、死柄木さんが新聞を寄越した。

 

「読んでみろよ、その記事」

 

一面に飾られた言葉は、『オールマイト、雄英の教師に』。『事務所一時休業』。

ああ……これか。

 

「教師だってさ……どうなると思う?」

 

平和の象徴が、(ヴィラン)に殺されたら、とどこか聞き覚えのある言葉を言い放った。

 

 

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。