軽い少女   作:ふーじん

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今回は番外編。
本編主人公の親友、あっちゃんこと有栖川志乃(9)のお話です。
決して原作との設定被りを恐れて慌てて執筆したのではありません(強弁)

……でもモンスターの種族ごとに対応する将軍系があるらしいから、いつか絶対被りますよね。
そうなったらそうなったで、別の世界線ということで(

2019/07/23 
 修正:【従魔師】に関する記述を削除
 理由:将軍系統に従魔師系統の従魔強化スキルはシナジーしないと明言されたため。
    これによりアリスは従魔師に就いていないことになります。
    作中への影響はありません。


Another Episode
死の少女 前編


 □ある少女の話

 

 少女にとって<Infinite Dendrogram>は、未だ短い半生において最高峰のゲームだった。

 人々の夢想を忠実に叶えた夢の仮想世界は、少女の夢も素晴らしい形で叶えていたから。

 

 ◇

 

 少女、有栖川志乃はゲーマーである。

 それも恐怖と狂気、暴力と流血が彩るホラーゲームの類をこよなく愛する、世間一般的にはマイノリティに属するゲームファンであった。

 それは電子機器が発達・普及された二〇〇〇年代から半世紀近くが過ぎた現代においては比較的ありふれた趣味ではあるが、しかし齢十にも満たない幼子が熱心となるには些か以上に不穏な、ともすれば育ちを邪推されるも致し方のない嗜好であろう。

 とはいえ二親は既に無く、唯一の肉親である祖父は今時珍しく電子ゲームの類に疎いがために口出しすることもなく、彼女は誰憚ることなく趣味に没頭していた。

 

 一方で少女は同年代と比べて――否、彼女より一回りも二回りも年嵩の世代と比べても異様な程に聡明であった。

 彼女の精神性は己の趣味が世間一般的には歓迎されない根暗なものであると明確に理解し、また死に傾向した己の本性が社会性に欠け、ごくありふれた協同活動から排除される――所謂()()()状態を引き起こすに当然のものであるとも、明瞭に把握していた。(それが()()()に繋がらなかったのは、国内有数の名士である家柄と祖父の影響が多分にあったが)

 

 己を取り巻く状況と環境の全てを齟齬無く理解し、把握していた少女だったが。

 彼女自身はそうした境遇を良しとして受け入れ、俗世にほとんど関わることなく己の趣味に耽溺していた。

 

 例外は同じく闇を抱えた同類である少女、黒沢音子のみ。

 彼女を唯一無二の親友とし、己の世話を務める使用人(少女の主観では家具と同義であったが)を周囲に置く数少ない()()とし、早熟というにも早すぎる幼少の時分から人生を達観して生きて――少女に言わせれば()()()()()――いる。

 

 有栖川志乃はゲーマーである。

 それも残酷を是とするホラーゲームの愛好者である。

 しかしそれは実のところ、少女からすれば一種の代償行為に過ぎず、その真なる本性は更にどうしようもなく、悍ましい領域にあった。

 

 少女の名は有栖川志乃。

 彼女の名はアリス・イン・デッドランド。

 

 齢九を数えたとある夏の日。

 運命のように<Infinite Dendrogram>と巡り合い、妖精郷にて屍と戯れる一人の<マスター>であった。

 

 ◇

 

 管理AI一号を名乗る、奇しくも己の通名と同じ名を持つ女は、極めて親身に、心からの歓迎を以て志乃を案内した。

 キャラメイクの段階から既に他タイトルとは一線を画す超技術を思い知らせる<Infinite Dendrogram>に戸惑う志乃を、彼女は懇切丁寧に導いていく。

 

 各種設定を決め(途中アバターネームを決める際、志乃がゲーム上の通名「アリス・イン・デッドランド」を己が名にしたとき「私とお揃いねー」と微笑む管理AI一号"アリス"との雑談を挟んだりもしながら)、<エンブリオ>を移植し、最後に所属国を決定する段になって、ふと志乃あらため<マスター>アリスは"アリス"に問うた。

 

 ――このゲームでは何ができるの?

 

 一聴して特別な意味を持たない疑問。

 しかしアリスの魂胆を踏まえれば、その問いは意味をこのように変える。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは己がどこまで()()にしていいのか。

 現実ならざる仮想世界だからこそ、本性を解き放ってみたいと考えてしまった少女の、短くも切なる問い。

 

 それに"アリス"は、慈母の如き笑みで答えた。

 

 ――なんでも

 

 ――なんでも?

 

 ――そう。<マスター>であるあなた達は何をしてもいい

 

 ――生かすも殺すも、救うも救わないも、全て自由よ

 

 それは少女アリスにとって福音だった。

 運営側である管理AI一号が述べた一言一句は、己が裁量のうちにおいてあらゆる自由を保障する。

 ペナルティとしての"監獄"の存在こそ示唆すれど、それすらもこの世界からの追放を意味しない。

 プレイヤーは己の意志ある限り、<マスター>として活動し続けられる。

 

 その言質を取ったアリスは、最後に一つだけ問うた。

 

 ――わたし、()()()()()がほしいの

 ――それならレジェンダリアがオススメねー

 

 そうしてアリスはレジェンダリアに降り立ち、一直線に【死霊術師】ギルドを目指した。

 

 ◇

 

 この<Infinite Dendrogram>世界において【死霊術師】は、決して一般的とは言えない職種である。

 多くの物語において悪役として登場し、事実悪名を馳せる者も多い【死霊術師】は、排斥こそされないながらも決して歓迎されるようなものではない。

 故にこそ残る少ない正道の死霊術師達は自然と一致団結し、狭い内輪で互いを助け合うことが基本姿勢となっていた。

 

 そんな中伝承に語られる<マスター>が門戸を叩き、外道として悪行を振る舞うでもなく【死霊術師】を極めんと腐心する姿は、彼らにとっても光明であった。

 ましてやそれが見目麗しい少女ともなれば積極的に助けることを厭うはずもなく、先達の死霊術師達は競うようにしてアリスへ死霊術を教授していく。

 アリスもまた、そうして親身になってくれるティアンの先達に敬意を払い、極めて真摯に死霊術のいろはを学んでいく。

 

 <マスター>としての万能の適正。

 死すれど滅びには至らぬ不滅の存在性。

 そして何より、これ以上無く"死"に傾向した<エンブリオ>。

 

 持ち得る資質の全てが《死霊術》に傾いたアリスは、瞬く間に彼らの知恵を吸収していった。

 その成長はまさしく劇的と言って過言ではなく、地球時間で一週間もする頃には【死霊術師】を極め、更なる高みへの足掛かりを得られた程だ。

 

 【死霊術師】を極める中途で手に入れた【適職診断カタログ】。

 その音声案内に従い示された可能性は三つ。

 

 一つは生者として死者を制し、霊魂を導く【高位霊術師】。

 一つは自ら死者と成り果て、死を支配する【大死霊】。

 一つは生死の境に身を置き、数多の死者を統べる【死霊群師】。

 

 アリスの才能は、いずれの道でも大成を約束するだろう。

 空前絶後の天稟を宿すアリスの可能性にギルドは一丸となり、アリスも交えて議論を重ねる。

 

 内、真っ先に排されたのは【大死霊】の道であった。

 過去の伝承、事例の多くで悪名を轟かせたのがこの【大死霊】であり、正道を歩む善なる【死霊術師】達にとっては憎むべき同類である。

 転職の条件も鮮血と怨嗟が付き纏うと語り継がれ、間違ってもギルドとして支持できないその道を、アリスもまた己の求めるところとは些か外れると判断し切り捨てた。

 そのことに安堵したのは、他ならぬギルドの死霊術師達であろう。一月と経たない短い付き合いの中で類稀な才を大いに見せつけたアリスがその道を極めたら――それはきっと、空前絶後の大災厄の誕生でもあっただろうから。

 

 次に【高位霊術師】の道は、アリスが切り捨てた。

 この【高位霊術師】の歩む道は、慈悲と慈愛を以て霊魂を慰める聖者の道でもある。

 しかしその性質は死に迎合していても決して慈悲深くはないアリスの性根とはかみ合わず、担うべき役目を腐らせてしまうだろうと直観できた。

 故にこの道も断念。ギルドの者の多くは彼女がこの道を歩んでくれることを願っていただけに落胆も大きかったが、しかしアリスは斟酌しなかった。彼らもそれを理解していたからこそ、落胆を浮かべれど縋りはしなかったが。

 

 そして最後に残った【死霊群師】の道。――これにはアリスが大きく関心を示した。

 この【死霊群師】が如何なる職分であるかと言えば、死者を指揮して軍勢と成すジョブである。

 大勢の死者を統率することに長け、霊魂を慰めるでもなく、自ら死者となるでもなく、極めて直截的に死者を《兵力》として運用する、俗物的なジョブだった。

 

 ギルドの理念、【死霊術師】の本来あるべき姿から言えば、決して良い顔はできぬジョブである。

 世の偏見に反して、正道を歩む【死霊術師】というものは極めて慈悲深い。

 穢れに満ちた職分であるからこそ己を律し、生者には理解できない死者の苦しみを解し、その未練を解いて幽世へ誘い、安らかな眠りへ導くことこそが本懐であるが故に。

 その理念に誇りを持つからこそ、眠りから呼び覚まし兵士として戦場へ連れ出すなど、彼らにしてみれば本末転倒である。

 

 しかし、だからといってその道を閉ざすには、アリスの才覚はあまりに巨大すぎた。

 仮にここで反意を示し、これ以上の支援はできかねると言ったところで……アリスはそれで立ち止まることなく、独力で大成してしまえるだろう。

 そうなってしまえば彼らとアリスの縁はそこで途絶え、最早彼らの手が届かぬ領域へと去ってしまうだろうから。

 【死霊術師】の先達として彼女の成長を見守り、多くの知恵を授けてきた彼らだからこそ、そうして野放しになったアリスが万が一にも世に仇成す巨悪と化してしまう可能性を容認できず、その極みまでを見届ける義務と責任があると考えていた。

 

 故に彼らは、【死霊群師】の道に歩まんとするアリスへ、たった一つの約束を願った。

 

 ――アリス。才あるキミは我らの歩んだ道など一跨ぎで越えてしまえる

 ――我らはキミの道行きを阻めず、後ろから追えもしないだろう

 ――最早キミは我らの手を離れ、自由に飛び立てる。巣立ちの時だ

 ――だけどね、アリス。最後にひとつだけ約束しておくれ

 

 ――決してその力で哀しみを生まない、と

 

 それはあるかもわからない彼女の良心への訴えだった。

 いつか必ず力量で上回り、死による終着すらも望めない<マスター>であるアリス。

 もし彼女が悪意に染まってしまえば、最早自分たちでは正道に引き戻せないだろうから。

 この枷(約束)を壊してしまわないよう覚えていてほしい――人の心を。

 

 果たしてその願いが届いたか否か。

 その日を境にアリスはギルドを離れ、本格的な冒険を開始した。

 

 ◇

 

 【死霊群師】アリス・イン・デッドランドの冒険は常に死と隣合わせにあった。

 それは死線を潜り続けるという意味のみならず、彼女の活動スタイルにも起因する。

 

 アリスは生者を仲間としなかった。

 あらゆるティアンも<マスター>も友とせず、唯一配下のアンデッドのみを同胞としてモンスターを狩り続けるアリスの姿は、人々の目にこの上なく恐ろしげに映った。

 毎日のように魔物を狩り、日に日に引き連れる死者の数を増していく不気味な少女。ごく普通の日常を生きる人々が恐れるのも当然と言えよう。

 

 そんな周囲の視線も顧みず、【死霊群師】としてもアリスは瞬く間に頭角を現していった。

 《部隊指揮》で拡大化されたパーティ枠で多くの強力なアンデッドを統率し、尚も死者の軍勢をかき集める。

 いつしかレジェンダリアでも有数のトッププレイヤーとして名を馳せていたアリスは、その兵力に物を言わせて【死霊群師】も早々に極め、更なる戦力拡大を図っていった。

 そうして己を取り巻く死者の数と質が増すことに、アリスはこの上ない至福を感じていた。

 

 アリスは交流を広げない。この<Infinite Dendrogram>においてその本性を曝け出したアリスは、生者への一切の興味を失っていた。

 アリスは死体愛好家。性の情動すらも死者に向ける破綻者である。

 現実においては明晰な頭脳が自他の齟齬を理解させ、理性で本能を押し留めているに過ぎず――時代が異なれば、少女は稀代の英雄か大罪人として名を馳せていたことだろう。

 生きとし生ける命を尊重できないデストルドーこそが少女の本質であった。

 

 例外は唯一無二の親友のみ。彼女がいるからこそ、少女はかろうじてまともを取り繕えている。

 そのアリス最大の誤算は、一緒にこの世界を楽しむはずだった彼女と些細なすれ違いによって遠く離れ離れになってしまったことだろう。

 もしあの猫のように自由奔放な少女がアリスの傍にいれば、アリスの冒険はもう少しまともであったかもしれない。

 しかし唯一友誼を結ぶ対象が不在の今、彼女の興味は完全に死者へと傾けられ、結果としてそれが【死霊術師】の道に導き、その果てを示そうとしていた。

 

 死者を率いる群れ長の位から、死者を統率する将軍の位へと。

 

 ◇

 

 死者の兵力を拡充し続け、<Infinite Dendrogram>開始から地球時間で三ヶ月近くが経とうとする頃。

 突如としてアリスのもとへアナウンスが届いた。

 

【保有アンデッド数が五〇〇〇体を達成しました】

【条件解放により、【死将軍】への転職クエストが解放されました】

【詳細は死霊術師系統への転職可能なクリスタルでご確認ください】

 

 死霊術師系統死霊群師派生超級職、【死将軍】。

 伝承に語られながらも詳細な条件は失伝していた一つの頂点に至る方法に、アリスは得心した。

 

 既に達成していた「己と指揮下のアンデッドのみで構成されたパーティによるボスモンスターの複数体討伐」はともかく、たった今通知された条件は余程状況と機会に恵まれない限りは到底達成できないだろうから。

 この条件の難しいところは「過去に支配したアンデッドの累計」ではなく、「現在保有するアンデッドの合計」を参照する点で、戦時中ならばともかく国家間戦争の起きていないここ数百年においてこれを達成しようとするものなら、恐るべき労力と時間が掛かってしまうことだろう。

 そして短期間で大量の死者を生まない現在において最も手早くアンデッドの数を揃える方法は、無力なティアンをアンデッドに変えてしまうことだ。紛れもない重犯罪であり、露見すれば死は免れない大罪である。

 現在までロストジョブと化していたのも、間違いなくこの条件が原因であろう。おそらくかつてはアンデッドの軍勢の移譲と共にこのジョブを代々継承する系譜があったのだろうが、何らかの理由により失伝してしまえば改めてその条件を達成することなど、偶然に期待するには難易度が高すぎる。

 

 通常ならば到底日の目を見ることのないそのジョブがこうしてアリスの前に提示されたのは、偏に<エンブリオ>の影響が大きい。

 領域内の生者を死者に変え、それを魅了し配下に置く【ネビロス】の力は【死霊群師】の特性と極めて相性が良く、その戦力は恐るべき勢いで拡充されていった。

 生物のアンデッド化とアンデッドの魅了に特化したアリスの<エンブリオ>は、ことアンデッドの数を揃えることに関しては他の追随を許さず、本来生涯を賭して目指すべき条件をいとも容易く達成せしめた。

 《部隊指揮》によるパーティ枠拡大の上限こそあれど、その補充戦力となるアンデッドの数が多いに越したことはない。その思惑からの一見無駄の多い拡大路線だったが、それが功を奏した結果である。

 

 振り返って言えば、アリスは運が良かった。

 資質、環境、偶然、必然。全てが【死将軍】への道に通じ、運命のようにアリスを頂へ導いていく。

 アナウンスを得てアリスは、この<Infinite Dendrogram>に運命を感じ取った己の直感に改めて全幅の信頼を自覚し、粛々と準備を整えた。

 

 すぐにも転職クエストに臨みたいところだが、焦りは禁物だ。

 どうせ自分以外に条件を満たす者もいない。ここは万全の態勢を以て掛かるが一番の近道、と。

 

 アリスは今まで以上に戦力拡大へ注力し、レジェンダリアの国土を彷徨った。

 活動範囲を更に広げ、時には国境を危ぶませながらも只管に没頭し、条件達成に必要な数を遥かに越えて死者をかき集め続ける。

 そうするうちに物騒な異名の数々が付きもしたが、アリスはまるで頓着しない。

 周囲の生者がどう宣おうが知ったことではなく、アリスはただただ死に耽溺した。

 

 その努力が実を結び花となって咲き誇るのは古き聖者の生誕日、雪降る夜のクリスマス。

 かつてアナウンスを得たときのように、多くの<マスター>がクリスマスイベントに沸く中で、アリスは人知れず決戦の地へと赴いた。

 

 

 To be continued

 

 




奇人・変人揃いのレジェンダリアにおいても屈指の変態性癖の持ち主。
アンデッドを作成して即死○しようとしてプレイヤー保護機能に全力で阻まれた前科アリ。
ぶっちゃけ出る作品間違えてるレベルで世界観違うリアル背景な有栖川家のお嬢さんです。
本編主人公がなんで仲良しなのかは永遠の謎。多分地獄兄弟みたいなもん(

次回、後編へ続きます。
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