軽い少女   作:ふーじん

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修正1:【鋼拳士】のルビを「ソリッド・ボクサー」に変更。
理由:流石に無理があるかなと思ったので

修正2:【名軽業師】のルビを「エース・アクロバッター」に変更。
理由:「ハイ・アクロバッター」だと命名規則的に少しおかしいので。あと語感。

他の話も発見次第修正しておきます。


交渉決裂じゃんよ

 □【名軽業師】黒猫

 

 ねーちゃんもといステラに連れられてやってきた場所は、山茶郷から幾らか離れた山中に打ち棄てられた砦だった。

 半ば廃墟と化したかろうじて雨風が凌げるだけの内装に、無秩序に持ち寄られた家具の類が調和も無く並べられている。

 スペースが広いだけの物置のような広間に、あたしを抱きかかえたステラは天井から着陸して降りた。

 

「スーパーマンっつーよりはハルクじゃんね。マジで乱暴だなテメー」

「申し訳ありません。これが一番手っ取り早いものでして」

 

 着陸の衝撃で舞う塵埃を振り払いながら悪態をつく。

 あたしの皮肉が通じた様子も無く、ステラはあっけらかんと答えた。

 素直過ぎるその態度はあたしよりもずっと子供じみていて、まるで年上を相手にしている気がしない。

 ついでに言うと、同じ人間を相手してる気にもなれない。まるで人語を解せるゴリラと話してるみたいだ。つまりメスゴリラじゃんね。

 

「で、だ……お望み通り来てやったけどさ。いつまで隠れてるつもりじゃんよ」

 

 周囲をゆっくり見回し言葉を放つ。

 向こうは隠れてるつもりだろうけど、生憎あたしには筒抜けだ。

 別に《気配感知》のせいじゃなくて、単純にあたしの感覚が存在を捉えているだけだけど。

 僅かに身動ぎした際の衣擦れや、殺し切れていない小さな息遣い。なによりあたしに向けた意識の鋭さがビシビシと突き刺さって、それで隠れているつもりならとんだお笑い種じゃんね。

 

「ビビってねーで顔出せよ。別に取って喰いやしねーよ」

「……はっ! 冗談かよ」

 

 だね、我ながらナイスジョークじゃんよ。

 あんときは文字通り()()()()()()やったけど、今日のあたしは淑女的だ。

 とりあえず問答無用でブッ殺すことだけはしねーでやる。

 

 あたしの挑発に顔を出したのは、あのときに見た紅いバンダナを巻いた<マスター>だった。

 つってもあのときは頭に血が昇ってたせいで顔なんざ覚えてねーし、そもそも覚える気もなかったけど、その紅いバンダナだけは唯一最大の目印として印象に残っていた。

 

 そうした連中がぞろぞろと、物陰から次々に顔を出す。

 ざっと見て二〇人くらいか。大体はあのときあの店にいた連中だろう、あたしを見る目に隠し切れない恐怖が混じっている。

 

 例外は……すぐ後ろのステラに、真正面の暗がりから出てきた男か。

 連中にあって頭一つ抜けた気配を漂わせる、首に紅いスカーフを巻いた筋肉もりもりのマッチョマン。

 見るからに野性的な、盛り上がる筋肉をさらけ出し剛毛を揃えたそいつが連中の頭で間違いない。

 

 そいつはあたしを見るなり驚いたように表情を変えると、ついでおかしそうに腹を抱えて笑った。

 傍に立つ子分の肩をバシバシ叩いて抱腹絶倒すらしている。

 

「おいおい……マジかよお前らぁ……! こんなガキにヤられたってのかぁ!? 冗談キツいぜまったくぅ……ここ最近で一番笑えるぜ……」

「じょ、冗談じゃないですよ親分! マジでこのガキがやりやがったんス!」

 

 見た目に反してねちっこいイントネーションのそいつは、どうやらあたしの見てくれに意表を突かれたらしい。

 自分の腰ほどまでしかない小娘相手に良いように蹴散らされたのが、よっぽど冗談めいておかしかったのだろう。

 ()()()()()()といった風に、小さく涙すら浮かべる瞳の色は剣呑だった。

 

「はぁ……笑った、笑った……。まったく笑わせてくれるぜ、お前らはよぉ……」

「芸も見せてないのに笑われるなんざ心外じゃんね」

「おまけに戦闘職でもないときた。いや悪いねぇお嬢ちゃん……うちの子分が不甲斐なくてなぁ」

 

 ひとしきり笑ったあと、ニタリとした笑みを浮かべたそいつは――そのまま釈明した子分の首を叩き斬った。

 

「はへっ――?」

 

 そいつは何が起こったのかも理解することなく、首を落として光の塵と化す。

 頚椎損傷による即死効果。すなわちデスペナルティだ。

 

「あとは……おうデンジぃ、こっちこいやぁ」

「ひっ!?」

 

 唐突な凶行を、しかし何事でもないかのように捨て置き、また別の男の名を呼ぶ。

 呼ばれて血相を変えたそいつは涙を浮かべて後退るも、他のメンバーに押されて親分の前へと連行される。

 差し出されたそいつも、差し出した連中も、皆一様に恐怖の色を浮かべていた。

 

「お前と……さっき殺ったハルヤンだったな。騒ぎを引き起こしたのはぁ……」

「はぁっ!? やっ、な、なんで……!? 親分、カタキ取ってくれるんじゃ――」

 

 抗弁するデンジとやらを、聞く耳持たず手にした鉈で叩き斬る。

 そいつもまた、さっき死んだやつと同じように、身体の部位を欠損して出血多量の後に死んだ。

 

 その光景を誰もが――メスゴリラは他人事のようにのんびりしていたが――青ざめた顔で見送り、恐怖に震えた。

 一連の流れから察するに、今しがた死んだ二人があのとき店で喧嘩していたやつらなのだろう。

 つまりは直接の原因となった二人。だけどそいつらをわざわざあたしの目の前で殺す意図は何か。

 

「ケジメってワケ? 随分と潔いじゃねーの」

「悪いことをしたら謝らないとなぁ……? 誰だっておまんま台無しにされたら怒るさ……俺だって怒る……。気持ちはよぅくわかるぜぇ……」

 

 ニタニタとした笑みを浮かべたまま、そいつは「悪いことをした」と頭を下げた。

 随分と軽い頭だ。しかしそれを子分どもが驚く様子もない。変わらない恐怖の表情でそれを見守っている。

 

 粗野な見た目。それに反する陰湿な口調。

 最初に見せた子分を気遣う優しげな態度。しかし有無を言わさず二人を殺した冷徹。

 それが素にしろロールにしろ、酷く不安定で薄気味の悪ぃ男だった。

 

「あたしは「四日前の借りを返す」って聞いたんだけど?」

「ああ、返させてもらった……ケジメはちゃんとつけないといけないからなぁ……。これで許してもらえるかい? お嬢ちゃん……」

「…………まぁ、別に。それでいいケド。……あたしもやりすぎたって頭冷やしたあとだし」

「そうかぃ、それはよかったぁ……これで心置きなく()ができるってもんだぁ」

 

 話?

 それこそ話が見えず疑問を顔に出すと、そいつはニンマリと笑顔を浮かべる。

 ……つくづく笑顔の胡散臭いやつじゃんね、こいつ。ねちっこいタイプって嫌いだわー。

 

「単刀直入に言おうかぁ。――お嬢ちゃん、俺の子分にならないかい?」

「はぁ? 冗談かよ」

 

 思いがけない言葉に思わず白けた声が出る。

 茶番のような詫び入れにも呆れたが、言うに事欠いて喧嘩売ってくれやがったあたしに仲間になれなんざふざけてんね。

 確かに手打ちにするとは言ったけどさぁ、だからってこいつらのことを許したつもりは欠片もねーじゃんよ。

 ましてや子分とか、こいつを親分呼ばわりするなんて鳥肌が立ちそうだ。

 第一あたし、そういうの柄じゃねーし。

 

「楽和……いや燕青もいいなぁ。ちょうどそこは枠が空いててねぇ、お嬢ちゃんなら中々ハマると思うんだがねぇ……?」

「ガクワ? エンセー?」

「おやぁ、水滸伝をご存知でない? 楽和は歌の名人、燕青は……なんでもござれのイケメン超人さぁ、腕も立つぞぉ。今なら燕青の枠をプレゼントしちゃうよぉ?」

「ワケわかんねーし。そもそもあたし、アンタの名前すらしらねーんだけど」

 

 生憎あたしは三国志派でね、水滸伝なんてタイトルの名前しか知らねーじゃんよ。

 

「おっと、これは失礼……俺はアッシマンっていうのさぁ。クラン<紅巾党>のオーナーを務めてる。当面の目的は百八人のメンバーを集めることでねぇ……お嬢ちゃんには是非とも仲間に加わってほしいのさぁ」

「三国志か水滸伝かはっきりしろよ。つーか名前も思っきり横文字じゃんか」

「そこはほら、成り行きってやつでねぇ……正直名前変えられるなら変えたい」

 

 最後の一言は素だった。

 

 しかしねぇ、百八人の部下か。

 触りしか知らないあたしでも、水滸伝は百八人の好漢達が主人公の物語ってことは知ってる。

 それになぞらえてか肖ってかは知らないけど、わざわざ百八人になるまで集めようってのは、なかなか筋金入ったファンってことかね。

 

「ちなみにそこの金髪ねーちゃんはどーなのよ?」

「うん、誘ったんだけどねぇ……趣味が合わないって断られちゃったのさぁ。目的は今のところ一致してたから、協力体制ではあるんだけどねぇ」

「ちなみにわたくしも「燕青はどうだい?」と誘われましたの。お揃いですね」

「いや知らんし。喜ばれても困るし」

 

 背後から嬉しげなねーちゃんの声が聞こえる。

 むさ苦しい男所帯のなかで紅一点というのもあるが、そうでなくともこの浮きっぷりはとてもじゃないけど水滸伝って柄じゃねーじゃんね。

 

「で、どうだい? その気になってはくれないかなぁ……?」

「分かりきってること聞くんじゃねーよ。あたしも趣味が合わないじゃんよ」

 

 再度放たれたアッシマンの問にNOを突き付ける。

 考慮するまでもなくお断りだ。

 水滸伝なんてキョーミねーし。そもそもの発端からして許す気はねーし、第一こいつら全体が気に食わねぇ。

 

 つーかあたしは現在進行形でクエストの真っ最中。

 更に言うと【名軽業師】としてまがりなりにも芸を磨いている最中で、この先もあちこち旅する予定。

 じーちゃんとおっちゃんとの三人旅の今でさえこいつらのせいで順風満帆とはいってないのに、何が悲しくてその元凶に付き合わにゃならんのだ。

 拉致同然に連れられて茶番の詫び入れを受け入れるだけでもめんどくせーのに、もう一段とめんどくせー真似を受け入れるワケねーだろバァカ。

 

 そういうわけでも中指をおっ立ててから親指を下に向ける。

 これを最後にテメェらとは金輪際関わる気はねぇからそこんとこヨロシクじゃんよ。

 

「ま、つまりは寝言は寝て言えってことじゃんね」

「…………そっか、そうかぁ。残念だなぁ、本当に残念だぁ……。これはもう……()()()()()()()()()しかないねぇ……!」

 

 交渉にもなってない駄弁り合いは決裂した。

 アッシマンから膨らむ殺気に総身を動かし上空へと逃れ出る。

 その瞬間にさっきまであたしがいた場所へ、四方八方から攻撃が繰り出された。

 

 

 ◇

 

 

 □山茶郷近郊・<紅巾党>アジト

 

「総員戦闘開始、――――殺せ」

「「「ウォオオオオオオオ――!!!」」」

 

 先程までの恐怖はどこへやら、アッシマンの号令一下で子分達が威勢を放つ。

 以前に店で戦ったときとは比べ物にならない動きのよさに攻撃のキレ。

 間違いなく何らかの強化が掛かっていることは明白。

 見れば頭であるアッシマンを中心に、形無き力場が濃密に展開しているのが察せた。

 

「《怒涛の攻陣》展開、一気呵成に攻め立てなぁ……出し惜しみは無しだ、()()()もいくぜぇ……!?」

 

 次いでアッシマンが左手を掲げ、そこに描かれた紋章が淡く輝く。

 最初に展開された力場に上乗せされるように、別格の重みを孕むそれが展開される。

 

 《看破》を持たぬ黒猫には知る由もないが、最初に展開されたのはアッシマンのメインジョブ【大軍師】が得意とする広範囲バフによるもの。

 その効果範囲はスキルレベルに準拠し、《怒涛の攻陣》は攻撃力とAGIに補正を与え、その名の如く怒涛の猛攻を後押しするスキルだ。

 

 そして、次に展開された力場こそは【大軍師】のジョブスキルに依らぬアッシマン個人のオンリーワン。

 即ち【好漢演義 リョウザンパク】の固有能力に他ならない。

 中国の四大奇書の一つ<水滸伝>にルーツを持つそれは、物語中で百八人の好漢が集った通り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、広域強化系に属する<エンブリオ>であった。

 

 ジョブによる範囲内強化と、<エンブリオ>による人数限定強化。

 二重のバフによってクランメンバー達のステータスは跳ね上がり、本来は下級でしかないそれが上級に迫るまでに強化されている。

 その結果たるや凄まじく、野良犬の集団が統率された狼の群れが如く豹変し、卓越した連携を以て黒猫を四方から取り囲み、その包囲を狭め間断無く攻撃の雨が降り掛かる。

 

「おいおいおい、ケジメはつけたんじゃねーのかよ?」

「お嬢ちゃんに迷惑かけた二人の分はつけたけどねぇ、お嬢ちゃんに殺られた分はまでケジメつけられてないからねぇ!」

「ギャハハハ、最初からそうしとけってんじゃんよぉ! 下手な芝居してねぇでさぁ!」

 

 が、しかし。

 黒猫は却って上機嫌となり、哄笑を上げる余裕すらあった。

 尋常の<マスター>であれば、たとえ上級であってもたちまち屠られていたであろう逃げ場無き連撃の嵐。

 本来地上でしか戦う術の無い戦闘職の類であれば、如何な攻撃力や耐久力を誇ろうが、打つ手も無く、遠からず削り切られていたであろう渦中。

 しかし縦横無尽の身軽さを以て右に出るものはいない【軽業師】、その上位互換にして本人も卓越した身体操作能力を誇る黒猫にとって、その攻撃は笑えるほどに()()()()だった。

 

 戦端を開くや否や、各種スキルを発動した黒猫は上空へと跳躍。

 本来死に体となるしかない宙空にあって神妙極まる重点移動と身体操作によって泳ぐように位置を変え、するりと包囲を飛び越えて外部へ逃れる。

 それに気付いた内周のメンバーが他の仲間へそれを伝えるが、嘲笑うように外周にて遠距離攻撃を放っていたメンバーの背へ黒猫の手が添えられる。

 

「《心魂奪命拳》」

「ひっ、あ、あの手だ! ヤツに触れられるな、()()()()!?」

 

 幾重にも掛けられた強化によって、かつてのように即死するまでには至らないが……ほんの数秒触れられただけで増量されたHPの多くが削られ、先の死に際を思い出した獲物が恐怖の声を上げる。

 黒猫はそんな彼を心底面白がるように、愉しげに歪めた嗜虐の笑みで見上げ、もう片方の手を添えた。

 

「ほぉら二の手――」

「《再起の命陣》! ……成程、こりゃ確かにおっかねぇ」

 

 再び奪われんとした命を、アッシマンの発動したスキルが救う。

 瞬間回復により一時は持ち直すものの、しかしAGIの差によって魔の手から逃れる能わず、フォローも虚しくデスペナルティとなった。

 

「あー……マジかぁ、強化重ねても向こうがAGI上かぁ」

「お、親分……あいつ動きがおかし――うわぁこっち来たぁ!?」

 

 黒猫がAGIで上回るとはいえ、超音速の領域でもない今は体感としての差はさしたるものではない。

 単純な速度で言えば同じ距離を黒猫の方が数秒早く走り切れる程度の話で、競走でもない戦いにおいては幾らでもやりようのある程度の速度差だ。

 それでも彼らが捉え切れないのは、以前にも見せた通り黒猫の体捌きが巧妙極まるからであり、加えて周囲の環境が味方しているのも大きい。

 

 つまりは木々の生い茂った山中。

 風化し崩れ落ちた砦の歪な形状。

 なにより戦場を駆け回るメンバー達の肉体そのものが。

 猫のような身軽さと柔軟性、俊敏を併せ持った黒猫にとって、何よりの足場であった。

 

 尋常の戦闘職であれば、如何に縦横無尽に跳ね回れるとはいえ、それが攻め手に繋がりはしない。

 剣撃にしろ、拳打にしろ、魔法にしろ。それを攻撃として成立させ、対象にダメージを与えるためにはその前提となるエネルギーを得るための姿勢、動き、あるいは詠唱や発音が必要となる。

 その多くは地に足を着けることが前提の動作であり、特別にそうした経験を積みでもしない限りは、踏ん張りの利かない宙空で満足の行く剣撃や拳打を放つ、あるいは魔法を行使することなどできはしない。

 

 だが、しかし。

 黒猫の<エンブリオ>はそうした前提を根底から覆す特性を持っている。

 なぜなら【奪命神咒 ヒダルガミ】は範囲内に収めるだけで――あるいは触れるだけでいいのだから。

 武器を持つ必要も、拳を握る必要も、魔法を口にする必要も無い。

 ただ発動するだけで日常の所作がそのまま致命となる【ヒダルガミ】は、黒猫にとっては攻撃ですらなく単なる生態と言えよう。

 

 あるいは()()

 黒猫の本質を反映した<エンブリオ>の顕す、底無しの衝動である。

 

 とはいえ、弱点が無いわけではない。

 同格以上の相手にはどうしてもレジストの余地が生まれてしまうし、人間と比べて耐久力に優れるモンスターが相手では、素直に武器を執って戦うよりも必要以上に時間が掛かることも多い。

 

 だがしかし、この場にて鎬を削る敵手は揃いも揃って格下である。

 現状如何に強化を施されていようとも、元の力量はジョブのレベルも<エンブリオ>の位階も、黒猫とは比べるべくもない有象無象。

 特に格下に対してこそ最大の効力を発揮する【ヒダルガミ】は、<紅巾党>の面々にとって最悪の相手と言えた。

 

 唯一対抗し得るは首魁たるアッシマン。

 しかしビルドコンセプトを配下の強化に傾けた彼は、力量で下回る子分達を相手取るならばともかく、その戦闘能力において同格以上である黒猫へ対抗するには些か以上に役者が不足している。

 これまでは如何に相手が戦闘職であろうと尋常の範疇に収まる手合ばかりであったために、強力なバフを施した配下による物量戦術によって勝利を収めてきたが、今このときばかりは過去に例のない未知なる天敵の登場に劣勢から抜け出せないでいた。

 

 故に――

 

「しかたねぇ……()()()()()()

「あら、もう良いのですね? 承りました」

 

 故に、最大戦力をぶつけることにした。

 配下による物量ではなく、極めて強力な個人戦力の投入を。

 

「実は先程から腕が疼いて仕方がありませんでした。どうかお相手願いますね」

「ようやくお出ましかよ、メスゴリラ」

 

 飛び出たのはそれまで傍観に徹していたステラ・ザ・デストラクト。

 鋼の義手が異彩を放つ貴族令嬢の如き佳人。

 しかし打ち鳴らす両腕の響きは落石の衝突にも似、けたたましい大壊音を以て黒猫を襲った。

 

「【鋼拳士(ソリッド・ボクサー)】ステラ・ザ・デストラクト、参ります」

「【名軽業師(エース・アクロバッター)黒猫(ヘイマオ)、受けて立つじゃんよ」

 

 律儀な名乗りを上げたステラに対し、黒猫も気まぐれで名乗りを返す。

 本来であれば同じ戦場に立ち、ましてや戦うはずのない異色の両名が並び立った今こそ、初めて闘争が成立した瞬間である。

 

 即ち――争いは同じレベルの者同士でしか発生しない!

 

 

 後に<黄河三奇拳>と謳われる三者。

 その内"妖拳"に"星拳"と称される両名が、初めて激突した瞬間であった。




……ゴリラに縁のある作者だぁ()
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