軽い少女   作:ふーじん

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いつか星を震わす一撃

 □山茶郷近郊・<紅巾党>アジト

 

 名乗った直後、風を切って繰り出されたステラの拳を、黒猫は()()()()()()()()()避けた。

 根拠のない直感に従った素人動きのそれ。しかし次いで起きた現象によってその判断が正しかったことを悟る。

 突き出された拳の直線上、固唾を呑んで見守る<紅巾党>メンバー達の包囲を突き破って、一陣の風が吹き抜けた。

 

 ――否。()などという生易しいものでは断じて無い。

 

 まさしく()()

 未だ音の壁を越えるには至らないステラの拳が、しかし超音速の飛翔物が放つ激音に勝るとも劣らない爆裂を生み出し、巻き込まれた哀れな外野を纏めて屠った。

 

 半円の形に抉れて伸びる大地の傷痕。

 巻き込まれた木々は巨人に蹴破られたが如く砕け、突風の吹き抜けた先へ諸共に吹き飛ばされる。

 さながら横向きに放たれた一個の嵐が駆け抜けたが如く、例えようもなく凶猛極まる暴力の名残が一瞬の静寂を生んだ。

 

「――あら、勘がよろしいですのね? ますます気に入りました」

「いや……【鋼拳士】ってそういうジョブじゃねーだろ」

 

 ほんの小手調べ。

 ただの選別にすぎない一打で過去にない火力を察した黒猫が、僅かに畏れを含んだ声音で言う。

 対するステラは変わらぬ笑顔で、淑やかな姿勢を崩さぬまま愉しげに、己の初手を避けてみせた黒猫への関心を深くした。

 

「いいえ? わたくしが【鋼拳士】なのは間違いありませんよ。お疑いになるのでしたら、是非打ち合ってくださいな」

「ジョーダン。アンタと殴り合ったらあたしなんて木っ端微塵じゃん――よ!!」

 

 黒猫は今の現象が如何なる能力に起因するものかを探るため、懐に隠し持った短剣を片手で投じた。

 過去に何度か用い、趣味ではないと死蔵していた投擲武器の一つである。

 <エンブリオ>を用いるまでもない雑魚を遠距離から仕留めるために一応持ち合わせていただけのそれは、同格以下を容易く屠るに足る速さと鋭さを以てステラに迫った。

 

 職分の範疇において少なからず投擲の心得に長ける軽業師系統職の後押しと、抜きん出て高いDEXがなまくらを致死の弾丸へと変える。

 HPに与えるダメージは低くとも、急所を抉れば傷痍系状態異常によって大ダメージを引き起こす短剣を、しかしステラは避ける素振りを見せない。

 その鋼の腕を持ち上げ、重厚な見た目からは想像も付かない軽やかな動きを以て迫る刃を迎撃し、見た目通りの硬さを以て悉く打ち落とす。

 

 からからと頼りなく地へ投げ出される短剣の数々。

 その一連の光景を黒猫は脳裏に刻み、更なる数を今度は両手を用いて放った。

 

 一つの手に五つの刃。

 さながら札を広げるようにして構えたそれを、左手の一射。数瞬の間を置いて右手の一射。

 全く異なる拍子で放ち、容易には見切れぬ呼吸と軌道を以てステラの急所を射貫かんとするも、やはり振るわれた腕に打ち落とされる。

 

「僭越ながら、そのような軽いなまくらでは幾ら投じられたところでかすり傷一つ負えませんよ? 見たところ貴女のSTRは低水準、狙いは良くとも豆鉄砲のようなもの。更に申し上げれば、被弾したところでダメージを負うにも足りません」

「……っぽいねー。んじゃお望み通り殴り合おうじゃん!」

 

 投擲の無為を察した黒猫が、樹上で姿勢を屈めて跳躍する。

 まさしくネコ科の野生動物の如き柔軟性と俊敏さで、本来人が足場とするには向かない樹上からの強襲は、初めてステラに脅威を喚び起こさせた。

 

 戦闘を開始してから初めてステラが歩を後ろに進める。

 地に降り立った黒猫はそのまま這うようにして低い姿勢で、四肢を以て大地を掴み地を駆ける。

 かと思いきやステラの数歩目前で姿を消し、それが全身のバネを用いた斜め前方への跳躍であることを察した次の瞬間には、黒猫の小柄はステラの背後にあった。

 

「――ンなわけねーだろ。誰がテメェみたいなメスゴリラと殴り合うもんか」

「まぁ、いけずですね」

 

 ステラの背後へ伸ばされた()()()

 ステラの脚は今まさに身を翻すべく動作を開始したばかりで、その手が触れるのを避ける猶予は無い。

 一度触れれば問答無用に(HP)を簒奪する《心魂奪命拳》、その力が発揮されようとしたその瞬間――

 

「ならばわたくしも。少々はしたないですがお許しくださいね?」

「あン? ――――チッ!」

 

 ――ステラの身体が前方へと()()()、黒猫の右手は空を掻いた。

 

 返す刀の右脚蹴り上げ。

 最初の拳と同様に、風の弾丸を伴ったそれは嵐を巻き起こし、小さく軽い黒猫を吹き飛ばす。

 

 黒猫は咄嗟に《軽業》を発動して己の自重を減じ、《重心操作》と身体操作の妙を以て身体の制御を奪還。

 敢えて面積を広く取った衣装の余分で風を捉え、ムササビの如く滑空して身近な樹上に着陸した。

 

 その一連の動きにステラは目を見張り、戦いを見守っていたその他の<マスター>達が驚愕に顎を開く。

 とても人間業とは思えない身のこなしに柔軟性。全身をもみくちゃにする嵐の渦中から風を読んで乗り、そのまま脱出してのけた絶技に理解を手放した。

 

 当の黒猫はというとそんな周囲の驚愕など意に介せず。

 嵐の発生源であるステラを細めた眼差しで睨みつけた。

 

「……()()()とは思わなかったじゃんよ」

「こんなに早くバレてしまったのは初めてですよ。大抵は()()()だけで片が付いてしまいますので」

 

 歩調を覆い隠す長袴の如きスカート。

 それを大きく肌蹴て天に蹴り上げられたその脚は、腕と同じ鋼鉄に覆われていた。

 四肢を置換する()()()()の<エンブリオ>。それがステラの可能性(オンリーワン)

 

「名を【星震撃 テュポーン】と申します。見ての通りTYPE:アームズの<エンブリオ>ですわ」

「迂闊に名前教えちゃっていいのかよ?」

「名前だけでは容易には察せられぬ能力ですのでご心配なく。まぁ、知られたところで()()()()()()()という代物でもありますが」

 

 そう言ってのけるステラの言葉の端には、これ以上無い自負が込められていた。

 その拳打、蹴撃で引き起こした嵐こそは、台風(Typhoon)の語源となったギリシャ神話最大最強の怪物の名を冠するに相応しい。

 恐らくはその嵐すらも余技であろうが……その原理を黒猫は解明できなかった。

 

 黒猫の疑問を置き去りにして、ステラの猛攻が再開された。

 彼我の距離を数歩で詰めて、至近距離からの殴打蹴撃。

 黒猫は優越するAGIと生来の動体視力、あるいは超常的とすら言える直感によって先読みし、その連撃を全て紙一重で避けていく。

 

 紙一重で避けて――しかしダメージを逃し切れない。

 先の攻防で無駄が多いと判断したか、あるいは別の理由か。

 その一打から風が放たれることはなかったが、しかし決して満足に触れ得ぬはずの拳から殺し切れない()()が黒猫の肉体に伝播する。

 それは紙一重の回避でほんの僅かに掠るだけの接触から黒猫の肉体へと浸透し、徐々にではあるがダメージを蓄積させていた。

 

 明らかに複雑怪奇。

 本来直撃せねば到底伝わるはずのない衝撃が、刹那の接触で打ち込まれる不思議。

 黒猫は敢えてその衝撃に身を任せることでその威力を最低限にまで殺しているが、それでも尚不利は否めない。

 

 ステラが名乗った【鋼拳士】のジョブ。

 【拳士】の数ある派生上級職の一つにして、文字通り()()()()()()を特長とするそのジョブは、習得スキルの大半を肉体強化に偏っている。

 即ち只管に硬く、鋭く、重いフィジカルの極みを是とし、その特性から耐久型に有利な一方で、そもそも被弾を許さない回避型を極端に苦手とする特徴を持つ。

 

 その点で言えば黒猫のスタイルは天敵中の天敵。

 ただでさえAGIに秀でる軽業師系統の上級職でありながら、本人の戦闘センスも抜群に良く、その証拠にこれまでまともな被弾など一つとしてない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()というシンプルな理屈の通りに、まともに当てて初めて威力を発揮する【鋼拳士】の攻撃は、黒猫のような手合にはどうしても不利を強いられるはずである。

 

 不思議と言えば他にもある。

 連撃を繰り出すステラの姿勢が要所要所で、攻撃を繰り出すに適さない不自然な形になりながらも手を伸ばそうとするのがそれだ。

 黒猫の《心魂奪命拳》でもあるまいに、触れれば良しと繰り出されるその一打が決まって不穏な気配を纏っており、黒猫は一見してダメージの大きそうな拳よりもその一撃こそを徹底的に回避していた。

 

 そして最後に、その姿勢制御こそが不自然極まる。

 本来何らかの動作を起こす際には、必ずその予兆となる()()()が発生するもの。

 一般的に()と呼ばれる特定動作は、武術に精通する者ならばそれぞれの理合で殺し、あるいは隠すものだが、ステラの動きにはそれがない。

 ()()()()()()まるでコマ落としのように――()()()()、不自然な姿勢のまま自然な動力を生み出し、それを攻撃に転化しているという気味の悪さがあった。

 

「埒が明きませんね。実を言うと、これ程までにやりにくい手合は初めてです」

「そっちこそあたしの動き真似してんじゃねーよ。しかもクッソ下手だし」

「貴女の動きはわたくしとしても大変参考になりますので。しかしいけませんね、戦いの最中でそれを確かめるのは些か調子に乗りすぎていました」

 

 そうした攻防をしばらく続け、先にステラが言葉を口にした。

 彼女の言うとおり、これまでの不気味な動きは戦いの中で黒猫の動きを取り入れようとした結果であった。

 スタイルも体格も違う黒猫の動きをステラが模倣しようとするのは、さながら鉄がゴムの動きをするようなもの。

 黒猫からすれば不恰好にも程がある猿真似に、その言葉に棘が立つのも無理はない。

 詰るような黒猫の言葉にステラは恥じ入るような様子を見せ、それまでの珍妙を通り越した不気味な動きから一転、最初に見せた【鋼拳士】本来の構えに戻る。

 

「茶番に付き合わせてしまい申し訳ありませんでした。何分これまでにない極上の体捌きでしたから……この機会を逃しては、と。いっそ師事したいほどです」

「……なぁ、なんなのそのキャラ? なんで格闘マンガのキャラみたいなこと言ってんの? 世界観違いすぎて困惑しかねーんだけど」

「あちらではこのように動き回ることなどありませんでしたから、その反動かもしれませんね。少々お転婆が過ぎましたでしょうか?」

「素手で砦ぶっ壊すお転婆なんて見たことねーよ!」

 

 言葉を交わす間も応酬は続く。

 黒猫はとうに《心魂奪命圏》を行使しており、その効果範囲にステラのみならず砦全域を捉えている。

 遠巻きに戦いを見守っていた<紅巾党>の面々も、特にレベルの低い<マスター>が何人か巻き添えを食らってデスペナルティとなってからは、肉眼で捉えられない遠方から望遠アイテムで眺めるに留まっていた。

 

 一方で対峙するステラはといえば、展開された《心魂奪命圏》の術中にありながら、黒猫に伍する力量によって幾分かレジストし、簒奪されるHP等の割合を少量に留めていた。

 発動した当初こそ<紅巾党>メンバーの言う()()()と同質の結界に警戒を示したものの、それが即座の決着をつけるものではなく、また己のパフォーマンスを乱すものではないという判断により効果圏内から逃れずにいる。

 緩やかに、しかし確実に己の命を削る黒猫の<エンブリオ>を意にも介さず、それより先に仕留めれば良いのだと言わんばかりに持ち前の豪気を発揮していた。

 

 今や戦場は黒猫の簒奪結界によって命を奪われ尽くした枯れ木の森と、ステラの剛拳によって打ち砕かれた瓦礫の山とが織り成す荒涼の地であった。

 互いに方向性は違えど及ぼす影響が甚大であるために大破壊を周囲に撒き散らしながら、しかし互いの攻め手が噛み合わぬせいもあって今尚決着をつけられずにいる。

 これに焦燥を表しはじめたのが、他ならぬ黒猫であった。

 

(マジでタフすぎんじゃんよ……ぜってーあん時のクマよりつえーわコイツ。まるでくたばる様子がねー)

 

 黒猫が内心で舌を巻く。こうも己の手が通用しない相手は初めてであった。

 なにせ触れれば謎のダメージを負う。かといって《心魂奪命圏》で仕留めようにも、敵の力量のせいで()()()が悪い。

 本来であれば一定以上簒奪した時点で《飢餓》の状態異常が発症するところだが、その兆しも見えない。

 何より《心魂奪命圏》の効果範囲に対してステラ一人が対象では明らかにコストパフォーマンスが悪く、そのロスも致命的であった。

 

(相手が前衛系なせいでそもそものMPが低いし、周囲から賄おうにももう限界。せめて<紅巾党>の有象無象が居てくれりゃ外付けタンクにできんだけど、とっくに逃げ出してるしなぁ……。ぼちぼちあたしのMPも限界が近いじゃんよ。そうなるとあたしには打つ手がなくなるし……)

 

 黒猫の【奪命神咒 ヒダルガミ】は極めて強力かつ凶悪な<エンブリオ>だ。

 効果範囲は広く、問答無用に複数対象からHP・MP・SPをドレインし、一方的な搾取を可能にする。

 スキルの行使には少なくないMPが消費されるが、対象数か、あるいは対象の有するMP量が十分であれば収支はプラスに傾き、ドレイン対象がある限り半永久的に展開し続けられる。

 およそ大多数を一網打尽にする上で、これほど都合の良い能力もそうはないだろう。

 後に分類付けられるスタイルでは、黒猫は典型的な広域殲滅型に属する。

 

 しかし一方で、弱点とする相手も明確であった。

 それは己と同格以上の、MPに頼らない戦闘手段を持つ個人戦闘型である。

 特にステラのような手合は天敵で、ドレインの効きが悪い上にスキル維持の前提となるMPの簒奪も見込めないという、率直に言えば()()()()()相手であった。

 AGIの高さと持ち前のセンスによって対抗できてはいるが、非戦闘職の【名軽業師】ではどうしたって同じステージには上がれず、遠からず先に力尽きて封殺されてしまう。

 

 そうした手合のための第二のスキル、《心魂奪命拳》であるが。

 触れることが前提となる性質上、接触を許さぬステラの<エンブリオ>は、僅かな勝ち筋すらも奪い尽くす最悪の相性であった。

 

 迂闊に手を伸ばせば鋼の腕で防がれる――そして不可避の衝撃(カウンター)を食らう。

 かといって腕を掻い潜って触れようとすれば――予兆の無い無動作回避で空を切る。

 しかして敵の拳をまともに受ければ問答無用に粉砕される――それを砦だったものが証明している。

 

 過程と結果が釣り合わないインパクト。

 その答え。その仕組みがあと少しで形になりそうなのに、それを言葉にするだけの前提知識が黒猫の中に無く、小骨が刺さったままのようなもどかしさを覚えた。

 そうした黒猫を様子を見て、ステラが手向けのように言葉を口にした。

 

()()()()()()()ですよ、ヘイさん」

「うんどうえねるぎー?」

「文字通り物体の運動――動くとか落ちるとか、物理的な動作全般に伴うエネルギーの制御。それがわたくしの<エンブリオ>、【星震撃 テュポーン】の特性です」

 

 学習知識に無い概念に疑問符を浮かべる黒猫へ、ステラが指を立てて講釈する。

 

「たとえば最初、貴女が投擲されたナイフを弾きましたが……あれは厳密には弾いたのではなく、飛翔に伴う運動エネルギーをわたくしの【テュポーン】が奪った結果、推進力を失って落下したにすぎません」

「???」

「奪った運動エネルギーは【テュポーン】に蓄積され、わたくしの自由に引き出せます。拳打で嵐を巻き起こしたのも、【テュポーン】に蓄積された運動エネルギーを大気に込めて放った結果です。――ああ、貴女から奪った運動エネルギーと釣り合わないのは、貴女以外からも運動エネルギーを奪っていたからですね。例えば強風とか……()()()なんてどこにでもありますから。そうでなくとも、奪ったエネルギーを増幅することもできますが」

 

 「勿論、限度はありますけどね」などと笑って言い放ったその内容は、およそ大半の戦闘職にとって絶望的なものだった。

 運動エネルギーを掌握するということはつまり、物理的な過程を挟む()()()()()()()()()にとって、最悪の相性であるからだ。

 

 たとえば剣で斬ろうにも、物体を断ち切るための運動エネルギーが奪われる。

 あるいは拳で打とうにも、物体を打ち砕くための運動エネルギーが奪われる。

 果ては弓矢で射ようとも、物体をつらぬくための運動エネルギーが奪われる。

 

 まともにダメージを通すならば、魔法に頼るしかない。

 物理で強引に打ち破るならば、【テュポーン】の許容限界を越える過剰火力を繰り出すしかない。

 しかしそれは遥かな格上でもなければ到底望めず……少なくとも己と伍する程度の使い手では不可能だ。

 

 そして奪い取った運動エネルギーは、【テュポーン】が強化して自由に引き出せる。

 

 運動エネルギーを引き出して、動作もなく身体を移動させたり。

 運動エネルギーを引き出して、触れるだけで衝撃を与えたり。

 運動エネルギーを引き出して、質量の低い大気を弾丸に変える。

 

 まさしく"物理無敵"。

 ありとあらゆる原始的攻撃手段の否定者。

 一方で行使者はどこまでも原始的に、奪ったエネルギーで捻じ伏せる。

 

 ステラにとって黒猫はまさしく天敵であった。

 黒猫の【奪命神咒 ヒダルガミ】は、その攻撃手段を物理的作用に依らず、ただスキル的・魔法的に奪うだけなのだから。

 言い換えれば――天敵でも無ければ、ステラ・ザ・デストラクトの【星震撃 テュポーン】の優位が圧倒的に過ぎるのだが。

 

 理系知識に乏しい黒猫には、ステラの説明が意味するところを正確には理解しきれなかったが。

 それでもなお、彼女の<エンブリオ>が凶悪極まるものであることは察せられた。

 元よりまともに打ち合うつもりなどなかったが、その警戒がより一層強まるという結果に変わりはない。

 

 運動エネルギーという最も身近で原始的なエネルギーを貪る怪物(テュポーン)

 モチーフとなった神話において、神々も恐れを為して逃げ出すしかなく、星をも震撼させる圧倒的暴力の行使者。

 リアルでの反動から()()()()()()()()とちょっぴり願っただけの少女の、あまりに乱暴に過ぎる可能性。

 

「貴女があまりにも素晴らしいから、わたくしも隠し事はしたくなくなりましたの。無遠慮に動きを見せてもらった詫びともお思いください。これがわたくしの力の全て。願わくば貴女も全身全霊を賭して、わたくしに立ち向かってくれることを期待します」

 

 そう言い放った彼女の顔は真剣そのもの。

 心の底から黒猫への称賛を示し、敬意を抱き、心ゆくまでこの戦いを味わい尽くしたいという感情の発露。

 ようやく己と戦える好敵手との邂逅を、そのままの想いで口にした結果だ。

 

「…………よくわかんねぇけどさぁ」

 

 対する黒猫は困惑していた。

 いっそ情熱的な程に思いの丈をぶつけてきた彼女に、かける言葉が見つからない。

 最早戦いの発端となった出来事など心中になく、この片想いすらしているような敵手への態度を、黒猫は図りかねているようだった。

 

 だが暫しの逡巡の後、一つの答えに行き当たる。

 それは至極単純、相手のお望みのままに――――

 

 

「いいぜ、きっちりかっちりぶっ殺してやんよ」

「! ――――その言葉を待っていました!!」

 

 

 ――――白黒ハッキリつける、それだけだ。

 

 




キュマ犬肉体特化サイバーアーム&レッグのパッシブビルド
ダメージ増強エフェクト盛り盛り、しかもバリアクラッカー回数制限無し、みたいな(
原理がややインテリ風味な脳筋前衛です。

次回、決着
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