軽い少女   作:ふーじん

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エピローグなので超短いです。


エピローグ

 ■<紅巾党>アジト跡地より遠方

 

「あ、こりゃ駄目だわ。喧嘩売る相手間違えちまった」

 

 ステラと黒猫の激突する元アジトより遠方、丘の上から成り行きを見守っていたアッシマンが素面な調子でそう零した。

 子分の一人が持つ監視に長けた遠隔操作型<エンブリオ>が映し出す戦闘風景、かつての根城が木っ端微塵に崩され、あるいは周囲の環境ごと荒廃していく様に、いつもの親分ロールも忘れて呟く。

 

「ありゃあ完全に格が違うなぁ、同じ<下級>でもセンスが違う。センセも大概だったが、あの嬢ちゃんはそれに輪をかけて()()()。」

「ええぇ……そりゃねぇっすよ親分……。これじゃあオレら、かませじゃねっすか」

「デンジとハルヤンには悪いことしちまったなぁ、こりゃ戻ってきたらフォローいれねぇと……戻ってくるかな?」

「どうっすかねぇ……あんときの親分ガチで成り切ってたし、二人もガチでビビってたじゃないっすか。トンズラこいてもおかしかねぇと思いますよ?」

「あー……そりゃ困るな、とても困る。ただでさえ人手がまだまだ要るってのに、こりゃ俺のミスだなぁ」

 

 そう軽口を叩き合う様子は、黒猫と相対していたときとはまるで別物だった。

 実のところ、彼らはこちらが素である。あのときは状況が如何にも()()()()()せいでアッシマンのロールにも熱が入り、今までに無い悪役振りを披露することとなったのだが……不幸なのはそうした親分側のノリを知るには付き合いの浅かった、ケジメ(という体のロールプレイ)として処断された新人二人であろう。

 

 身内以外に見ている者もいない遠隔地で二人の戦いを見守るうちにすっかり観戦ムードとなってしまい、黒猫を脅しつけようと演じていた悪役ロールも忘れ、決着がついた今になってようやく我に返った次第である。

 

 そして素面に戻ったアッシマンの胸中に過ぎったのは「あ、これ藪蛇だったわ」という、なんとも間の抜けた感想であった。

 クランを結成して三週間以上、荒くれロールのもと多くの<マスター>を襲い、物資を奪って派手に過ごしてきた彼らだが、ほとんど罠ですらある一見幼気な少女の思わぬ反撃に去就を決めかねているというのが本音だ。

 そもそもの発端となった喧嘩騒ぎの現場にいたメンバーなどは、当時の恐怖を思い出してかすっかり心を折られ、アッシマンもまた最強戦力であるステラが打ち負かされた今、すっかり牙を抜かれつつあった。

 

 さしあたっては今の状況、如何に収拾をつけるか……

 アッシマンの思考はその一点に注がれている。

 

「どうします親分? 姐御がデスペナっちまった以上オレらじゃ打つ手無しっすよコレ」

「……うーん」

 

 他人事な様子の部下に問われ、アッシマンはしばし考え込んだあと、開き直ったように表情を変える。

 

「よし、素直に謝ろう。もしデスペナったらごめんな、明けたら切り替えていこうぜ」

「マジであいつらのフォローお願いしますよ。本気でビビってたんすから」

「おうおう、レベリングでもなんでも好きなだけ付き合ってやらぁ。そうと決まればホレ、伝言用意頼むぜ」

 

 実際開き直りであった。

 結局のところ、<紅巾党>もまた多くのクランと同様、ロールプレイを主体とはしていてもそのノリは軽かった。

 

 アッシマンの指示を受け、伝達役の<マスター>が己の<エンブリオ>を飛ばし、互いに声を交わせるように場を整える

 そしていざ降伏宣言と詫びを告げようとした瞬間――――頭上から降ってきた()()()に呑まれ、配下共々敢え無くデスペナルティとなった。

 

 諸行無常。

 彼らが対応を決めかねている間に接近した黒猫が、先手必勝とトドメを刺した結果である。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □【名軽業師】黒猫

 

 ふぅー……つ か れ た !!

 なんであたし、少年漫画的なバトルジャンキーに絡まれてんだよってね。

 完全に世界観があたしと違いすぎて、素面に戻った今脱力感パネェわ。

 まったくもう疫病神以外の何物でもねーぜ。店でのことといい<紅巾党>はクソだな、クソ!

 これ以上因縁つけられても困るから、後始末だけはきっちりしとかねーとな。ちょいと遠くに逃げたみてーだけど、生憎今のあたしには射程範囲内じゃんよ。

 

 少なくともこれで三日間はあいつらがこっちに来ることはねーし、その間にとっととオサラバすっかねー。

 メスゴリラがロケットさながらにぶっ飛ばしてくれたせいで町からは随分と離れちまったし、戻ってる間にこりゃ夜も更けんじゃんね。

 これ以上じーちゃんたちにメーワクかけてらんねーし、バレないうちにとっとと戻ろっと。

 つっても行きがロケット便だったせいで方角もわかんねーんだけど……あの町にはセーブポイントが無かったのがつれーわ。

 

 ◇

 

 結局町に戻れたのは、すっかり夜も更けた深夜だった。

 月明かりと星明り以外に光源の無い夜道を走り抜けるのは中々の手間で、昼間よりも若干強いモンスターに襲われるは道に迷うわやらで、<万景酒家>以外の店は軒並み閉まっちまっている。

 これでもまだ龍都に近い分賑わっている方で、田舎だと日の入りと共に寝静まるなんてことも普通らしいね。じーちゃんの話だけどさ。

 

 ともあれそろそろ部屋に戻って寝とかなきゃ明日に響く。

 あーでも向こうからこっち歩きづめで腹も減ったし、店でなにか食べたいところだけど……じーちゃん同伴じゃないから今は無理だな。

 とりあえず部屋に戻ってから考えようと、取っていた宿に戻ったその店先で。

 腕組みして仁王立ちしているおっちゃんと目が合った。

 

「げっ……」

「なんだその反応は。それより貴様、こんな時間までどこをほっつき歩いていた!」

 

 わかっていたけど開幕説教。

 仮にも護衛の名目で同行しているのだから勝手な単独行動は言語道断云々かんぬん、半日も行方を眩ませていたのを叱られる。

 一頻り叱られたあと、空気を読まずに大きく鳴ったあたしのお腹におっちゃんが呆れ、長い長い溜息と一緒に首根っこ掴まれて部屋へと連行された。

 今日はやたらと扱いがぞんざいな一日じゃんね。

 

「おお、戻ったかヘイや。どこにも見当たらんから心配したぞい。滞在最終日ぢゃから穴場巡りでも一緒にしたかったんぢゃがのう……」

「えっマジで? うっわそりゃもったいないことしたぁ……ごめんよじーちゃん、実はさぁ」

 

 と、何があったのか一連の出来事を報告。

 思いの外メスゴリラとの戦いに二人が食いついたので、あたしにわかる限りのことを説明したら、じーちゃんは目をキラキラさせて、おっちゃんはまたも重い溜息を吐いてあたしを見た。

 

「ほほう、ほほう! そのような猛者がおったとはのう! いやこれまでも幾人かの<マスター>は見てきたが、それほどの使い手はとんと知らぬのう! 是非とも観戦したかったところぢゃわい」

「まったく無茶なことを……勝って生き延びたから良いものの、もし貴様が敗れていればまた足止めを食うところだったではないか。黒猫、貴様本当に自分の立場を弁えているのだろうな?」

 

 じーちゃんったら相変わらず子供みたいね、少年の心か!

 そしておっちゃんの言葉にはぐうの音もでねぇ。つっても逃げようにも難しかったし……少なくともあのメスゴリラがいるうちは無茶だろ。

 とはいえそもそもそんな因縁をつけられたのはあたしがやりすぎたせいでもあるし、そこを突かれるとあたしはなんも言えないじゃんね。

 大人の言う責任ってむずかしーね。

 

「まぁまぁ楊よ、不可抗力ぢゃてそう目くじらを立てることもなかろう。今は無事に戻ってきたのを労ってやりなさい」

「まったく大人はこいつにお甘い……。しかし、まぁ……貴様のレベルを見れば激戦であったのはよくわかる。それを生きて乗り越えたのは評価してやらんでもない」

 

 当たり前のように《看破》され、おっちゃんの頬がちょっぴり緩む。

 おっちゃんの言うとおり、あの戦いを経てあたしのレベルはまた一段と上がっていた。

 それはあたしと同格の強敵(ステラ)を倒したことによるものか、単純にモンスターを狩るよりもずっと()()した実感と共にあたしに刻まれている。

 更に言うと上がったのは単純なレベルだけではなくて……<エンブリオ>もまた同様に成長を果たしていたようだった。

 

 これであたしの【ヒダルガミ】は第四形態、すなわち<上級>に昇格だ。

 それはつまり、現時点でのトッププレイヤー層の仲間入りを果たしたことを意味する。

 あっちゃんにもこれで追いついたってことじゃんね。あっちゃん曰く第四形態からはそれ以前までとはまるで別物らしいから、この先使うときが楽しみだ。

 今回の戦いで気付けた()()も含めて……ね。

 

「とはいえ今回のことでよぅくわかった。やはり貴様は目を離しておくには危うすぎる。この先は勝手な行動は許さぬぞ!」

「はぁっ!? なんで!?」

「そこで反論するからだ、馬鹿者。いかに貴様が子供とはいえ、道理の通じぬ<マスター>であるからには容赦せんぞ。貴様が心底から反省するまでみっちりと躾けてくれる故、覚悟しておけ!」

 

 一喝するおっちゃんの表情は、これまでにないほどマジだった。

 

「……じーちゃーん」

「ほほほ」

 

 そしてじーちゃんはのほほんと笑うだけ。

 前にもあったな、この流れ。

 

 今回ばかりはあたしが何を言っても問答無用っぽいので、観念して項垂れる。

 ちっくしょー……それもこれも全部あいつらのせいだ。何が<紅巾党>だ、揃いも揃ってドルオタみたいな格好しやがって!

 マジであいつら疫病神だわ。次見かけたらまたぶっ殺して……ああいや、それはよくないな。んなことしたら今度こそおっちゃんに追い出されそうだ。

 

 と、ここでまたもお腹が鳴った。しかもかなり盛大に。

 場を遮る腹の音に二人が顔を見合わせ、じーちゃんは吹き出し、おっちゃんは苦笑いして、やがて二人して声を上げて笑い出す。

 おかしい……こんなのあたしのキャラじゃない……!

 

「ま、御主も大した冒険をしてきたところじゃろうからの。ちと遅いが店に繰り出そうぞ。相当に腹を空かせておるようぢゃしのう?」

「この時間では女中に食事を頼むにも遅すぎますからな」

「マジで!? やったーじーちゃん大好き!!」

「ほほほほほっ!」

 

 とはいえ空腹の前には代えられない。

 じーちゃんの小粋な提案に飛びつき、袖を引っ張って催促する。

 振り返ってみれば今日は過去にない激戦で、あたしのお腹はいつも以上にレッドゾーンだ。

 それでも心の磨り減るような飢えに苦しまず、この空腹を最高のスパイスとして楽しめているのは――

 

 ――ひょっとしたら、<Infinite Dendrogram(この世界)>で得られた一番大きな変化かもしれない。

 

 そんなことを考えながら。

 町一番の食堂で食べる最後の晩餐に心躍らせ、あたしの気分は晴れ上がっていた。

 

 

 To be continued

 

 




よーっしなんとかMHW発売前に第二章終わらせられた!
作者なりのガチバトルを描くことになった章でした。楽しんでいただけたなら幸いです。
見返せばほんと大人や周囲が主人公に甘いですよね。何気に作中最大のご都合主義だと思います。

なにはともあれ、第二章までご覧いただきありがとうございました!
次回以降の更新は……その、正直に申しますとMHWを遊ぶために遅くなるかと思います。
でも書きたい意欲はまだまだあるので、閑話とかはひょっこり投稿するかもしれません。
いずれにせよ中途半端なシーンで投げっぱなしにするつもりはないので、何卒ご容赦ください!

余談ですが、主要キャラのステータス? 軽いキャラ紹介みたいなのって必要ですかね?
別作のデンドロ二次もですが、結構なオリキャラを登場させてますので……。
書くにしても、設定だけで更新通知とするにもアレなので、最新話と同時投稿になりますが。
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