軽い少女   作:ふーじん

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今回の話には全く関係のない話なのですが、TYPE:キャッスル系列の主人公を思いついたのでそのうちまた書いてみたいなって思いました(こなみ)


星喰らうモノ

 □■???

 

「ん? ……ほう、これは」

 

 定められた作業を黙々と進めていたソレは、脇に表示されたウィンドウを認めて興味深そうに声を漏らした。

 画面が放つ光で管理AI四号――通称ジャバウォックの顔が照らし出される。

 あらゆる生物の特徴を具えながらいかなる生物にも似つかない彼の顔は、常の無表情とは違い薄い微笑を浮かべていた。

 

「【大怪遊星 グランドバァン】……【封神(ザ・シール)】によって封印された<イレギュラー>か」

 

 古い記憶を思い返し、それまでの作業を一旦休止してその画面に向き直る。

 千年以上もの昔、大陸全土が未曾有の動乱に陥った三強時代よりも前に生まれ、破滅的な災厄を振り撒いていたその<UBM>は、かつてジャバウォックも回収しようとしたことがあった。

 しかし実際に回収へ赴くよりも先にとあるティアン――【封神】に先手を打たれ、その命を賭した()()()()()()()()()によって放逐されたという経緯がある。

 

「我々ならその封印を破って強引に回収することもできたが……ティアンの手によって始末がついたのならば、我々の介入は不要。そう結論し放置していたものが、何故今になって……」

 

 今では記録も遺されていない【封神】は、生まれてくる時代が違えば後世に名を馳せた()()()()に変わっていたかもしれないほどの規格外。

 

 対する【グランドバァン】もまた、ジャバウォックの■■■■■による干渉を得るまでもなく自ら成長し、その限界を突破してみせた地属性エレメンタルの究極系。

 

 共に人間とモンスターのハイエンドだった両者の激突は、長きに渡りこの世界を観測し続けてきた彼ら管理AI達にとっても類稀な事象であったこともあり、ジャバウォックの中でも忘れがたい記憶として認識されている。

 【封神】による対処が無ければまず間違いなく<SUBM>として管理されていたであろう<イレギュラー>の再来に、彼が興味を示さないはずもなかった。

 

 その彼が事の前後を把握しようと観測記録を精査し……【グランドバァン】解放のきっかけとなったとある<マスター>とその<エンブリオ>の情報に目を留めた。

 ログを読み込み、その経緯に驚いたように口元へ手を当てると、ついで浮かべていた笑みをやや深くする。

 

「……面白い。一点特化の出力、長期間のクールタイム、そして一度に一回限りという制限とはいえ、第六形態のリソースでは天文学的確率だろうに……よくぞ引き当てたものだ。このような<エンブリオ>もあるのだな」

 

 不確定要素の極みといえる<エンブリオ>に新鮮な驚きを味わいながらジャバウォックはウィンドウを操作する。

 リアルタイムで【グランドバァン】のデータを映し出す画面は、ソレが周辺環境を食い荒らしながら上昇し続ける様をモニターしていた。

 やがて高度一〇万メテルの位置に留まった【グランドバァン】が本格的な()()()()に移ったのを見送って、ふと思案する。

 

「この一件は奇貨となるだろう。我々の予定にないイベントではあるが、意図せずして<SUBM>投下と同等の超級進化誘発干渉を期待できる。しかし懸念は……」

 

 再びウィンドウを操作し、【グランドバァン】の詳細なデータを表示したジャバウォックは、ある可能性を憂慮した。

 

「……これを討伐できる者がいるかどうか。そして、これが討伐されたときに大陸が無事か。――万が一に備え、秘密裏に回収する手筈は整えておくとしよう」

 

 ジャバウォックは本格的にモニタリングに注力し、ソレと対峙する<マスター>達の健闘を祈った。

 

 

 ◇◆◇

 

 □市街地

 

「レベル一〇〇オーバー……モンスターでか!?」

「ひょっとしてこないだグランバロアに出たっていう【モビーディック・ツイン】の同類か!」

「てことは<SUBM>か! そりゃトンデモねぇわけだ……」

 

 【グランドバァン】のスペックを看破した<マスター>の報告を受けて、その場にいた者達は俄にざわめきたった。

 人間とは異なるレベルシステムを有するモンスターにおいて、レベル一〇〇の壁を超えることの意味はあまりにも大きい。

 本来であれば如何な<UBM>とはいえレベル一〇〇の限界に留まる中、その枠組みを超越したハイエンド中のハイエンドのことを<イレギュラー>……あるいは<SUBM>と呼ぶ。(厳密に言えば両者は別物だが、少なくとも現在の彼らにとって大差は無い)

 

 元より数の少ない<UBM>にあってより希少なそれらは長らく伝説上の存在として語り継がれるだけであったが、先のグランバロアを襲った【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】という<SUBM>の名はまだ人々の記憶に新しく、それ故に【グランドバァン】という規格外の出現を疑う者はなかった。

 事前の予兆や目撃情報も無く突如現れたことに疑念は残るも、前例となる【モビーディック・ツイン】も似たような経緯で急襲を仕掛けてきたことからそれを今議論する必要は無い。

 

 肝心なのは今。

 上空一〇万メテルという前人未踏の不可侵領域に留まりながら一方的な攻撃を仕掛けてくる敵に対し、如何に対応すべきか……あまりに分が悪すぎる戦況に、誰もが頭を抱えた。

 

「一〇万メートルって……実際何キロだよ? 桁が違いすぎてパッとわかんねぇんだけど!」

「一〇〇キロメートルだよ馬鹿! いやでもどうすんだよこれ……ンな射程余程特化してないと無理だろ」

「光属性魔法ができるやつは? あれなら距離減衰も……」

「まだログアウトしてない連中に聞いてみたが、生憎それに特化した<マスター>はいなさそうだ。それにいくら射程距離に優れた光属性でも、これだけの距離だと流石に分が悪いかもしれん。……奴さん、見たところ耐久力にも相当自信がありそうだしな。なんせあの見た目、ほとんど惑星だぜ」

 

 続く絶望的な報告に誰もが進退窮まっていた。

 彼らがそうしてる間にも空からは先に隕石群が断続的に飛来し、抜け漏れた隕石が地表に到達して【セル・バァン】を生み出している。

 本来の隕石衝突からは大幅に規模が小さいとはいえ都市への被害は既に無視できるレベルではなく、積極的に命あるものを狙う星の尖兵によってティアンの死傷者も少なからず出始めていた。

 残った<マスター>やティアンの実力者達の懸命な避難指示のおかげでまだ致命的な損害には至っていないが……それも打つ手が無い以上は時間の問題であることは明白だった。

 

「……チッ、あたしの結界を抜けてくる奴が増えてきやがった。あのヤロー、徐々に投下する【セル・バァン】のスペックを上げてきてやがるじゃんよ」

 

 いつの間にか合流していた黒猫が舌打ちして呟く。

 その言葉の通り、彼女の《心魂奪命圏・天之闇戸》では奪い切れぬ程のHPを持った【セル・バァン】が増え始めていた。

 そしてそれは、地表到達後の討伐難易度の上昇も意味している。

 GA.LVERとステラにとっては結果に変化の無い微々たる差ではあるが、一体につき複数人で対処していた上級までの<マスター>にとっては討伐にも時間が掛かり、被害を抑えきれないパーティーも出始めていた。

 

「なぁアンタ……黒猫、だったか? アンタの結界をもうちょっと強くすることはできねぇのか?」

「無茶言うねにーちゃん。これでも割と精一杯なんだけど? これ以上広げると制御に粗が出て悪いことにしかなんねーじゃんよ」

「確かに……寧ろ今のこの状況が最善に近いのか。アンタがいなけりゃどうしようもなかったもんな、悪い」

「いーよ、あやまんなくて。あたしが不甲斐ないのも事実だしね。……つーか」

 

 黒猫は肉眼では見えない距離にいる【グランドバァン】を見据え、その表情を憎々しげに歪め。

 

「あたしのさ、一世一代の大巡業をさ。その最後の最後の舞台をこうもメチャクチャにされて、一番ムカついてんのはあたしじゃんよ。……じーちゃんまでケガさせやがって」

 

 握りしめた拳からは血が流れ、睨みつけた双眸からは雫が一つ流れ落ちた。

 未だ嘗て、この世界でこれほどまでに黒猫が激昂したことはない。

 あまつさえ悔しさの余り涙を流すなど、リアルでも一度しかない経験だった。

 

「これはこれは、とても珍しいものを見ましたね。今まで見た中で一番子供らしい表情かと」

「……うっせーよメスゴリラ。それよかちゃんと駆除してんだろうな?」

 

 合流したステラの揶揄に仏頂面で返す黒猫。

 彼女の問いかけにステラは首を横に振り、状況の不利を伝える。

 

「……既におわかりかとは思いますが、千日手です。敵方の攻勢に対し、こちらの処理能力が明らかに足りていません」

「おまえならどーとでもなりそうなんだけど?」

()()()()()()()()()()()()、してみせましょう。その場合この街の放棄を認めていただくことになりますが」

「……ま、そうなるじゃんね」

 

 黒猫は溜息をついて肩をすくめ、どうしたものかと思い悩んだ。

 今も《心魂奪命圏・天之闇戸》を展開しながら、その制御でやや処理の遅れている思考を巡らせながら考え抜いて……ふと益体もない考えに辿り着く。

 

「メスゴリラならよー……元凶を直接ぶっ飛ばすってワケにはいかねーの?」

「貴方はゴリラを何だと思っているのですか」

 

 降りかかる隕石群を凌ぐのではなく、それを齎す【グランドバァン】を対処する。

 誰もが真っ先に考え、前提条件の困難さから断念した手段。

 あまりにも身も蓋もない黒猫の問いに、ステラは初めて澄ました顔を呆れたように変えた。

 そして人差し指を頬に添えて思案しながら、暫しの間を置いて黒猫に向き直り、

 

「……()()()()()()()()()()()

「マジかよすげーなゴリラ」

 

 そう、信じ難い答えを返した。

 問うた黒猫ですら期待していなかった中の思わぬ返答に、先刻の涙も忘れて目を丸くする。

 そんな黒猫に対し、ステラは「ただし」と前置きして言葉を続ける。

 

「あくまでも理論上の話です。現状では幾つかの条件を満たす必要があります」

「ほーん。条件って?」

「ひとつ。【グランドバァン】の座標まで辿り着くための推力を得ること。如何にわたくしのテュポーンが<超級エンブリオ>とはいえ、一〇万メートルもの距離を翔ぶだけのエネルギーを独力で捻出することは難しいでしょう」

「必殺スキル使えば……多分だけどおまえの必殺スキル、出力上昇や許容限界の拡大とかそんなだろ?」

「御明察ですね、その通りです。しかしこの星の重力を振り切ってほぼ宇宙空間まで到達するだけのエネルギーを増幅だけで得るのはそれだけでリソースが枯れます。となるとどこかから引っ張ってくる必要がありますが……」

 

 「置き去りになった大気が荒れ狂うのは御免でしょう?」とステラが告げる。

 事実彼女の広域殲滅戦術の一つとして「周辺大気から運動エネルギーを奪って自らの糧とすると共に、置き去りにされた大気が公転・自転運動で流動する大気と衝突することで暴風を巻き起こす」というものがある。

 得られる運動エネルギーは莫大だが、言うまでもなくそれによる被害は尋常のものではなく、超々音速など生温い加速度で衝突し荒れ狂う大気の制御などあるはずもない。

 ステラにしてもEND特化型で無ければ自滅必至の、人類領域外でしか用いられない戦術。

 それをこの状況で使っては【グランドバァン】が齎すもの以上に致命的な被害を叩き出すのは確実だった。……ステラが"人間台風"の異名で呼ばれる所以である。

 

「ふたつ。目標までの飛翔中、わたくしはその制御に専念する必要があります。過去にない垂直距離と重力の軛を振り切るには他に処理を割いている余裕がありません。当然敵方の迎撃には対応できず、撃ち落とされれば無為に終わります。二度目を実行する余力もおそらく残らないでしょう」

「おまえそのへんの細かいこととか下手くそっぽいもんな」

「ヘイさんが器用すぎるだけですよ。そして最後ですが……」

 

 ステラは頭上に浮かぶ【ヘリオス】のモニターを指しながら、

 

「単純に相手が巨大すぎ、おそらくは耐久にも相当優れているだろうことから単身では破壊できそうにないこと。アレが地上にあって目標到達にリソースを割く必要が無かったのなら話は別ですが、前者の条件があるために非常に困難なものとなってしまいます」

 

 そう締め括った。

 その返答を聞いて黒猫は、心底微妙そうな表情をしながら呟く。

 

「……それって結局、なんの解決にもなってないじゃんよ」

「だから言ったでしょう? あくまで殴るだけならの理論上の話だと。……せめてアレがもうひと回り小さく、かつ五万メートルまでの距離だったなら対処は容易だったのですが」

 

 その言葉を聞いた黒猫は思った。「やっぱりこいつゴリラじゃん……」、と。

 傍で聞いていた他の<マスター>もあまりに突飛すぎる話に苦笑いで冷や汗を垂らし、言葉を紡げないでいた。

 結局は避難を進めるしかないのかと誰もが行き詰まりを感じていたところ、思考を続けていたステラが再び口を開く。

 

「……とはいえ絶対に不可能、とも言えません。裏返せば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、かつ()()()()()()()()()()()()……勝機はあるはずです」

「…………おいおいおいおい、まさかおまえ……マジか?」

 

 黒猫の脳裏に過ぎったあまりに強引すぎる想像に、ステラは答えず笑みを深くするだけ。

 そこへおてんとを引き連れたGA.LVERが合流し、顔を突き合わせていた二人に割り込む。

 

「黒猫くん、ステラくん! 彼女から報告があるそうだ!!」

「拝聴しましょう」

「え、えと戦況をモニターしてて気づいたんですけど……。この【セル・バァン】……、っぐ……てぃ、ティアンの方達をこ、殺した個体は、その……」

 

 戦闘慣れしていないおてんとは、犠牲となったティアンの死に様に嗚咽する。

 そんな彼女を労るようにGA.LVERが背を撫で、急かさず彼女が勇気を振り絞るのを待つと……やがておてんとも意を決したように言葉を絞り出した。

 

「――()()()()()()()()()()()()! 逆再生みたいに、周辺の地形を巻き込んで、隕石に戻って……! でも行きに黒猫さんの結界で削れたあとだから、帰りは結界を越えられずに消滅してるんですけど……。この動きが、どうにも気になって……!」

 

 奇妙な報告だった。

 単に被害を拡大させるだけならそのまま野放しにしておけばいいものを、何故手元に戻すように引き上げようとするのだろうと、報告を受けた誰もが訝しんだ。

 皆が考え込む中、そのうちの一人、戦闘能力を持たない【釣師】の<マスター>が、ふと呟く。

 それを聞いたステラがハッと表情を変えてその<マスター>に問い直す。

 

「今、なんと?」

「いや……まるで()()みたいだなって思って……。その、どうでもいい連想なんだけどよ……」

 

 地上に到達した隕石と展開された【セル・バァン】が針か餌だとすれば、それに対応して討伐に群がる人間はさながら魚。

 その魚と一頻り交戦した後リールを巻かれたように引き上げようとする様を、根っからの釣りバカであるその【釣師】はそう見立てた。

 

「釣り……、本来生態的に生物を害する必要性の薄いエレメンタルにしては不可解な挙動……まさか」

「成程、そういうことか……!!」

 

 その言葉を受けて表情を変えたステラに、遅れてGA.LVER、そして他の<マスター>達も気づく。

 

「野郎……俺達が旨味の多い獲物だってことを知ってやがったのか!」

「見たとこエレメンタルがどうして好き好んで人間なんざ付け狙うのかと思ってたら……畜生!」

「眷属に獲物を殺させてその分け前を得ようってことか! 自分を構成する物質を回収させるついでに……!!」

 

 一連の行動はまさにその通り――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ◇◆

 

 

 ■地上一〇万メテル上空 不可侵領域

 

『KYUUUUuuuuu……』

 

 果たして彼らの推測は……見事に正鵠を射ていた。

 遥か上空の不可侵領域にて眷属を投下した【グランドバァン】は、いつまで経っても戻ってこない()に空腹にも似た感覚を覚えていた。

 

 彼らが知るよしもない【セル・バァン】の特性。

 それは殺傷した生物から得られるリソースを僅かに増幅しながらも自身には還元せず、内部にリソースを蓄えたまま周辺地形を用いて再び外殻(隕石)を形成し、【セル・バァン】のみを対象とした限定的な重力操作によって再浮上、手元に呼び戻して蓄えたリソースを回収すると同時に確保した地形を自らに同化させ構造体の拡充を図る……【グランドバァン】にとっての基本的な捕食行動。

 些か迂遠な捕食方法ではあるが、【グランドバァン】が直接殺傷するよりも得られるリソースの割合が多く、かつ容易に自らを構成する固体を補給できる。

 

 それに加え……何よりも()()()にいながらにして自給できるのが素晴らしい。

 

 人間らしい思考を持たない【グランドバァン】だったが、敢えて人語に訳するならばそうした感想を述べていただろう。

 そう。ソレにとって自らの安全確保が何よりも優先されるべきことであり、地上一〇万メテルという不可侵の安全圏から離れるつもりなど毛頭ない。

 

 圧倒的な能力と巨体を誇る【グランドバァン】は、その実――誰よりも()()な性質の持ち主だった。

 

『KYU? KYU……、KYUKYU? KYUUuuuuuu……』

 

 その【グランドバァン】は悩んでいた。

 先程から捕食のため幾度となく取り巻きの衛星――【セル・バァン】の核――を投下してはいるが、一向に訪れない給餌にどう動くべきかと。

 

 高度を下げて自ら捕食する選択肢はあり得ない。

 元は脆弱な地属性エレメンタルに過ぎなかった彼は、敢えて危険を冒す愚を重々承知していた。

 自らの最大の長所がこの不可侵領域に棲まうことであることを【グランドバァン】はよく心得ており、例え餌場である大陸が無くなろうと決して地上に降り立つつもりはなかった。

 

 生息域をこの不可侵領域に移した後の【グランドバァン】にとって唯一の例外は、千年(といってもソレに明確な時間感覚は存在しないが)の昔に己を封じた人間のみ。

 ハイエンドとして規格外の才能を持つ時の【封神】が全生命を魔力に替えて発動した封印魔法は、地上にいながらにして不可侵領域の【グランドバァン】を異空間へ放逐せしめている。

 故に【グランドバァン】は己が信ずる安全圏が必ずしも()()ではないことをあの一件から学習しており、それもあって一メテル足りとも降下しようとはしていない。

 

 地上の人間達にとって不幸中の幸いは、ソレが過去の一件から学習すれども現状の限界から滞在領域を変えられていないことだろう。

 並外れた性能を誇る【グランドバァン】でさえ地上一〇万メテルが限界であり、長く異空間に封じられていたためにそれを改良するだけの環境が無かったのも影響している。

 

 しかしそれも封印から解放された今となっては遠からず解決される弱点である。

 否、そもそも一〇万メテルという距離の暴力そのものが過剰ではあるのだが、一度致命的な敗北を味わっている【グランドバァン】には、現状に甘んじるつもりなど全く無かった。

 

 ()()()()()()()

 それこそが【大怪遊星 グランドバァン】最大の強みとも言える。

 決して野放しにしてはならない脅威。

 <Infinite Dendrogram>というゲームとしての体裁が無ければ、今すぐにでも管理AI達による対処が行われていただろう。

 

 【グランドバァン】は奇跡的に取り戻した自由を今度こそ絶対のものとするために、一刻も早く己を満たす必要があった。

 大地を削って構造体を拡張せしめ、リソースを蓄え続けてより高みへ昇り続ける。

 それだけを求め続けて捕食に注力する。

 

 かつて大陸を轢き潰した()()()()()の脅威を片時も忘れてはいない。

 己が発生して間もない頃に知覚した未曾有の大破壊。

 あれを前にして味わった()()という衝動を動力源に、ソレは己を高め続けてきたのだから。

 

 故にこそ遅々として捕食が進まない現状は、【グランドバァン】に焦燥を齎していた。

 解放後再浮上を果たして初めに目についた旨味の多い獲物(人間)の気配。

 ソレが大陸上空を回遊していた頃と比べて格段に数を増し、尚且つこうも密集している絶好の餌場を見逃すことなどありえるはずもなかった。

 だからこそ念入りに大勢の眷属を投下したというのに、目標地点上空を覆う謎の薄闇のせいで眷属の帰還が阻まれている。

 

『KYUUUUUUuuuuu……、…………KYU?』

 

 忸怩たる思いでそれを眺めていた【グランドバァン】だが、やがてひとつの推測に思い至る。

 「あの闇はどうやら眷属のHPを奪い取っているようだが、それしか出来ないのではないか?」と。

 少しばかり飛躍の多い推測だったが、長年に渡って成長手段を模索し続けてきた【グランドバァン】は、その推測があながち的外れでもなさそうだということを経験則から直感していた。

 

 自らの記憶にない奇妙な能力を使う人間達ではあったが、そうと判断したなら話は早い。

 【グランドバァン】には少し惜しむ気持ちもあったが、現状の打破と己の安全には替えられないと割り切って、()()()()()を実行することにした。

 

『KYUUUUUUUUUUUUUUUuuuuuuuuuu――』

 

 【グランドバァン】は【セル・バァン】の投下を取り止めると、表層の斑模様を目まぐるしく変えて己を取り巻く衛星群を渦巻かせ――

 

 

 ◇◆

 

 

 □地上

 

「【グランドバァン】の動向に変化あり! こ、これは……!?」

 

 状況をモニターしていたおてんとが再び声を上げる。

 彼女のヘリオスが映し出す画面では、【グランドバァン】周辺の衛星群が渦を巻いて一箇所に集まる光景が見えていた。

 

 それはぶつかり合い、砕け合いながらも重力に引かれるようにして集結し続け……やがて【グランドバァン】よりも何回りか小さい、直径六〇〇メートル程の固体を形成する。

 

 それは【グランドバァン】の下方、地上と不可侵領域の間に留まり……その構えの意味を誰もが直感し、血の気を失って息も絶え絶えに呟いた。

 

「…………おい。おいおいおいおいおい、まさか……ウソだろぉ!?」

「待て……、待て! それはあまりにも――シャレにならなさすぎる!!!」

 

 そんな地上の人間達の悲鳴などソレは知る由もなく、彼らの最悪の想像のままに【グランドバァン】は斑模様の動きを止めて、

 

 

『uuuuuuuuu――――《大彗星(ヒュージ・メテオ)》』

 

 

 ――躊躇うことなく、地上に向けてそれを投下した。

 

 

 To be continued




 余談
 □【大怪遊星 グランドバァン】の特徴
・鳴き声が可愛い
・努力家
・向上心旺盛
・おっきなまんまるボディ
・表情(?)豊か
(・3・)<実質萌キャラ

 □現実
・眷属を介したリソース・物資回収能力(六割程も戻れば採算は取れる)
・絶対に安全圏から離れようとしない慢心の無さ(リスク管理の徹底)
・過去の反省からちゃんと学ぶ(人間って怖い【封神】ヤバい)
・上には上がいることをちゃんと知ってる(化身怖い石臼ヤバい)
(・3・)<すこれ
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