軽い少女   作:ふーじん

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明日のご本家投稿に先駆けるスタイル

・修正報告
【超練体士】の《練技・竜体転身》ですが、最終奥義から奥義に差し替えました。
最終奥義はデスペナルティに相当するリスクを負うという仕様を失念していたためです。
誤った情報を記載してしまい申し訳ありませんでした。


【ヒダルガミ】

 □上空

 

【ヒューッ! ジェットコースターなんてメじゃねーじゃんよ!】

 

 超音速で飛翔する台座の上で黒猫が快哉した。

 自前のAGIによる超音速機動とは異なり、乗り込んだオブジェクトの高速移動によって視界に入り込んだ光景は、体感時間の遅延によるスローモーションではなく実像も定かならないまま過ぎ去っていく景色の濁流だった。

 

【これでは肉声は届かなかっただろうね! 都合良く【テレパシーカフス】があって助かったよ】

【ウチの一座の設営に使ってたかんね。予備はじゅーぶんあったってわけよ】

 

 既に周辺の気流は暴風域に達しており、鼓膜を鳴らす風の音は至近距離であっても肉声を遮る轟音と化している。

 ステラの提示した作戦を実行するにあたって意思疎通を可能にするために用意されたのが、黒猫も言った通り<黄龍雑技団>が天幕設営の現場指揮に用意されていた【テレパシーカフス】だった。

 これならば例え物理的に会話は不可能であろうとも念話で滞りなく意思疎通が可能である。

 

【これもそうですが、この窮地に好条件が揃っていたのは奇跡的としか言いようがありませんね。作戦を実行するにあたって最大の懸念事項だったのがヘイさんの耐久力でしたから】

【そのへんもありったけの耐久バフ貰ったからな! 少なくともあのクソ隕石をぶん殴るまでは保つはずだぜ】

 

 共に万を超える高ENDを有するステラとGA.LVERはともかく、MPとAGIに特化した黒猫では騎乗物の超音速機動による負荷には本来耐えられない。

 また高度を増すにつれて周囲の大気成分は人体に有害なオゾンと化し、【グランドバァン】の待ち受ける地上一〇万メートルの熱圏に至っては大気そのものが存在しない宇宙から降り注ぐ放射線の嵐である。

 

 それを解決するための手段が地上の<マスター>達が総出でかけてくれた各種バフの豪華セットであったり、全身に貼り付けれられた道士系統謹製の護符であったり、ステラから貸与された酸素供給マスクだった。(ちなみに黒猫はマスクがステラのお古であることを知ってとても微妙そうにしていた)

 

【わたくしとしてもアレの存在する領域まで翔んだことはありませんから、少しばかり不安もありますが……、そこは伝説級特典武具の性能を信じるほかありませんね】

【ああ、やっぱおまえのソレ、特典武具だったんだ?】

【ええ、半年ほど前にカルディナで遭遇した<UBM>を討伐した折に。わたくしにとっては大変便利ですので愛用しています】

 

 黒猫が見遣ったのはステラが着用している淑女然とした意匠の、上半身と下半身の枠を埋める装備だった。

 銘を【三界天衣 スーピーシー】といい、元は【三界遊魚 スーピーシー】という名の陸・海・空の三界を高速で回遊する怪魚だった。

 元となった【スーピーシー】の性質を受け継いだその特典武具は装備スキルに特化し、異常環境への耐性と適応に秀でている。

 既に成層圏に差し掛かりつつある中で生身のステラが無事でいられるのも、持ち前のENDもさることながらその効果によるところが大きかった。

 

 酸素供給マスクを必要としないのも、環境適応の副次効果として一時的に呼吸を必要としなくなっているからだ。

 必要とする諸成分の供給をスキル発動によるMP消費で代替することで、例え大気の存在しない超高空であろうが深海であろうが瑕疵無く活動できる。

 <エンブリオ>の特性によって陸上以外でも活動可能なステラにとっては頗る相性の良い、本人が言う通りの愛用品だった。

 

 そのステラは念話で雑談を交えながら、今も継続的にMPを消費して三人の乗り込んだ足場の移動制御に専念している。

 

 超音速での上昇で三人が足場から振り落とされないように制御し。

 音の壁となって行く手を阻む空気抵抗を避けるべく周辺気流を制御し。

 目標への最短距離を取るために都度足場の移動方向を修正するため制御し。

 目標へ到達した後も戦闘を継続できるよう、攻防に用いるための蓄積エネルギーを制御している。

 

 術者以外には理解できない目まぐるしいエネルギーの応酬。

 それを傍目には涼し気な様子で行うステラの制御・演算能力もさることながら、それ以上にその行動を支えるMPの量が膨大であった。

 

(こいつ……、こんだけできるほどMPあったっけ?)

 

 魔法系超級職にも匹敵するMPの消費量。

 戦闘スタイルはどう見ても白兵戦術の延長線上にある広域殲滅のステラには似つかわしくない動き。

 たとえ<エンブリオ>のステータス補正がENDの他にMPにも優れていたとしても、黒猫が知る限り拳士系統を主軸としていたステラには望むべくもないMPの最大量……彼女の疑念も尤もだった。

 

 だが、黒猫は少し思い違いをしていた。

 彼女の知る限りにおいてステラは【鋼拳士】をメインとする殴り合いの白兵戦を得意としていたからこそ、彼女が就いた【撃神】という超級職もその延長線上にあるものと勘違いしていた。

 

 否、その推測はあながち的外れではない。

 ただ少しだけ足りない。

 ステラの就いた【撃神(ジ・インパクト)】というジョブ――衝撃スキル特化超級職への理解がいま一歩足りていなかった。

 

 ◇

 

 □【撃神】について

 

 ずばり()()()()()とはなにか。

 

 それは天属性に位置するエネルギーの派生形態の一種、わかりやすい例で言えば風属性魔法による強力な風圧打撃。

 あるいは黄河のある武術体系に存在する《発勁》、拳打によって魔力を対象へ打ち込み内部を破壊する浸透攻撃。

 または大槌など一部武器系統のスキルによる一撃、その強度と重量を渾身で振り抜くことによって生じる大打撃。

 

 即ち衝撃(インパクト)

 エネルギーの発露による強大な一撃こそが骨子。

 

 そのため【撃神】へ至るためのアプローチは幾つか存在する。

 魔法スキル、武術スキル、武器スキル……まるで系統の違う三種の職能の、ある選択の果てにその座は待つ。

 それ故に【撃神】のステータス傾向はMPとSPに特化している。それこそ他の魔法系超級職と遜色ない程に。(無論超級職故に他のステータスも上級職よりは伸びも良い)

 

 ステラのスタイルがスタイルなために誰もが見紛うが、黒猫の心配は杞憂だった。

 前衛職一辺倒のステータス傾向であればMP消費の激しさ故に連続使用の難しい必殺スキルも行使に容易く、効果を継続させることに何ら障害はない。

 

 転職条件の定かならぬ【神】シリーズだが、ステラは己の<超級エンブリオ>【星震撃 テュポーン】の特性故に、『世界で最大級のインパクトを放つ存在』としてシステムに認められこの座を開示された。

 転職の前後でMP・SPの最大量には雲泥の差があり、【撃神】そのものも運動エネルギーの扱いに長けたジョブということもあって、【撃神】となってからステラの戦闘能力は飛躍的に増大している。

 

 超級職と<超級エンブリオ>、どちらかひとつだけでは決して成し得なかっただろう作戦が今だ。

 格別にシナジーした両者の特性を利用することで、ステラ達は不可侵領域へ足を踏み入れる資格を得ている。

 

 ◇

 

 しかし、あくまで資格を得ただけだ。

 実時間にして数分程度しかない領域到達までの片道、それを阻まんとする障害は当然ながらある。

 

【! おい、上見ろ。奴さんの歓迎だぜ!!】

【やはりそうきましたか。こちらの想定通りですね】

 

 超音速で上昇する三人の頭上から、亜音速で落下しようとする隕石群の数々が見えた。

 それらの頭上に名前表示のウィンドウは見えず、それが単なるオブジェクトであることがわかる。

 眷属である【セル・バァン】の種に変質させるでもなく、《大彗星》のように圧縮して放つでもなく、ただ取り巻く衛星をそのままに眼下へ向けた【グランドバァン】の迎撃。

 

 眷属に変質させなかったのは、そうしてしまえばモンスターとしての命を宿してしまうためにあの正体不明の薄闇による消滅があり得ると判断したからだ。

 故に受け止められこそしたものの薄闇での消滅はされなかったオブジェクトとしての衛星を差し向け、迫りくる脅威を撃ち落とさんという【グランドバァン】の目論見である。

 

 事実、その判断は正しい。

 もし眷属化した衛星が飛来していたなら黒猫のヒダルガミによって瞬く間に殲滅させられていた。

 だが対象が命を持たないオブジェクトならば……ヒダルガミは何ら意味を持たない。

 命持つ者の防護を無為とする闇属性攻撃は、命持たぬ物からの防衛には無力である。

 

 そして制御するエネルギー量と、動かしている質量が質量なだけに、ステラにそれを回避するだけの制動は望めない。

 己の身一つならば如何様にでも避けてみせようが、最短距離を翔ぶことで到達を可能にしようとしている現状では、回避どころか迎撃もステラには望めない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

【ガル兄、いっちょ頼むじゃんよ!】

【ああ、任せてくれ!!】

 

 迎撃の手がオブジェクトによる純粋物理攻撃だった場合に備えていたGA.LVERが応える。

 人竜と化した総身を震わせ力強く両の拳を握り締めると、亜音速落下と超音速上昇の相対速度が生む目にも留まらぬ高速飛翔物を前に竜眼を細め――、

 

【《波動拳》! 《波動拳》!! 《波動拳》――!!!】

 

 拳士系統でメジャーな、数少ない遠距離攻撃スキルの《波動拳》を連続で繰り出した。

 STRに依存した攻撃力のSP消費武術スキルにMP消費の《発勁》を組み合わせ、常人の放つそれとは比較にならない威力の《波動拳》の一撃で迫る隕石群を破砕する。

 

 一個一〇メートルは下らない隕石を、直接打撃からは大幅に威力の減る遠隔打撃で粉砕し、質量を減じた欠片はステラが足場の周囲に展開した運動エネルギー結界に逸らされ地上へ落ちていく。

 特別に防護されていた【セル・バァン】の核となる隕石や、巨大圧縮質量だった《大彗星》とは異なり単なる物体に過ぎないそれらは大気圏での空気摩擦により燃焼し、地上へ到達することなく蒸発した。

 

 げに恐るべきはGA.LVERの拳打。

 しかしながらそれは尋常の仕業ではない。GA.LVERが見せた全力あってのことだ。

 即ちGA.LVERが変じてみせた竜体こそがその証左。

 人を模した竜の姿にこそ秘密があった。

 

 ◇

 

 □【超練体士】について

 

 練体士系統は実に小器用なジョブ系統であると言える。

 低コスト・ピンポイントの短時間自己バフスキルは他のジョブ系統をメインに据えても使用可能な汎用スキルであり、およそどんな前衛職でも腐ることなく機能する利便性の高さは誰もが認めるところだろう。

 取ることのメリットはあってもデメリットは無く、枠に空きがあるならば()()()()()で取得していても決して不利にはならない前衛職のお供と言えよう。

 

 だが一転してその上級職となると、途端に取得者は少なくなる。

 二つしかない上級職枠の余裕の無さもそうだが、それ以上に下級職の時にはなかったある種の()()が混じってくるのが最たる理由と言えよう。

 

 下級職の【練体士】で覚える自己バフスキル―《練技》―は、いずれも低コストかつどのジョブをメインにしても使える汎用スキル。

 しかし上級職の【高位練体士】になると他の系統をメインジョブにしていては使用できない汎用ならざるスキルを覚え始め、かつ【練体士】で覚えた汎用スキルも然程強化されないこともあって、わざわざ限られた枠を消費するだけの費用対効果を見込めなくなってしまう。

 単純にステータスを伸ばすだけなら他に有利な上級職は幾らでも存在し、手っ取り早く強くなるにしても有用なスキルも五万とある。

 ステータス傾向としても器用貧乏な【高位練体士】でわざわざ限られた枠を消費する必要性は限りなく薄い。

 そして【高位練体士】になって覚えることのできる汎用ならざる練技には、<マスター>には理解し難いある()()が存在した。

 

 練体士系統で覚えることができる汎用スキルは、いずれも直截的にステータス値や耐性を強化するわかりやすいシンプルなバフだ。

 翻って汎用ならざる練技は、そうした数値上の強化ではなく()()――()()()の名の如く()()()()()()()()()()()()()スキルとなる。

 

 それは腕を巨人種の如き怪力なるものとしたり。

 それは足を人馬種の如き俊敏なるものとしたり。

 それは指を悪魔種の如き巧緻なるものとしたり。

 

 あるいは翼を生やして飛翔を可能としたり。

 あるいは牙を生やして咬撃を可能としたり。

 あるいは尾を生やして一掃を可能としたり。

 

 果ては血を、表皮を、目を、感覚を。

 肉体のありとあらゆる部位を異形に変質させることへの()()に優れなければ決して熟達できない狭き門。

 その適正こそが最初にして最後、最大の壁として立ちはだかる。

 

 万能の才を持ち如何なるジョブにでも就ける<マスター>とは違い、資質や才能によって取得可能なジョブが大きく制限されるティアンを、その要求適正の厳しさがふるいにかける。

 そうでなくとも死霊術師系統の【大死霊】や武者系統の【鬼武者】のようにジョブ特性として異種族に変じるのとは異なる、人間のままその都度異形なるものへ変えることへの異常に耐えられなければならない。

 

 この世界へ大なり小なりゲームと認識して上で参加してきた<マスター>はともかく、この世界を生きる一個の命として常識を培ってきたティアンであればあるほどに、それへの忌避感は強い。

 利便性の高さ故に門を潜るものは絶えずとも、その道を極めようとする者はほとんど現れない理由がそれだ。

 

 そうした常識の中で【超練体士】に就き、剰え道場を構え一大流派を立ち上げた"人竜"虎頂道の偉業たるや凄まじい。

 彼の活躍と尽力が無ければいずれ頂きの座はロストジョブと化していただろうことは想像に難くないほどに、簡易な入り口に比べその深淵は複雑極まる。

 そしてその頂道や、その門下の【高位練体士】を極めた高弟達、あるいはそれ以前に【超練体士】を目指した者達は、練技を極めようとする中である種の気付きを得た。

 

 練体士系統の奥義と言っても過言ではない肉体変質スキル。

 それを数多収め同時に行使したときの姿は――どこか()に似ていないだろうか?

 

 あるいは彼ら黄河の民が信仰する帝国の守護神【龍帝】にも通じるものがあるその姿に、彼らは希望を見出した。

 もしくは()()と言ってもよい。

 黄河の民の魂に連綿と受け継がれてきた竜――()()への信仰。

 それへの階ともなり得るかもしれない可能性を前に、いつしかこう信じるようになった。

 

 練体士を極めた先にこそ、我らが父祖たる古龍への道は開かれる――と。

 

 歴代ティアンの中で尤も資質に恵まれ、【超練体士】のレベルを伸ばして"人竜"の異名まで持つに至った古豪・虎頂道。

 その彼が生涯を掛けても片鱗しか見えなかった古龍への道。

 しかし彼は、己に無い無差別の才能、そして己の生涯を容易く越えていけるだろう異能(<エンブリオ>)を持つ伝説の<マスター>――GA.LVERを見出し、彼へ託すことにした。

 

 果たしてその目論見は半ば叶ったと見て良いだろう。

 彼らが変じた純竜のそれとは比べるべくもない亜竜紛いの()()()()とは違う……美しいまでの人の形をした竜そのものに、誰も疑いを挟む余地などない。

 

 そう、それこそは【超練体士】の奥義、《練技・竜体転身(エンハンス・シェイプドラゴン)》。

 あらゆる練技を収め、それを極め、メインジョブレベル一〇〇〇の壁を越えてようやく開示されるそのスキルは、修得練技の性能を格段に跳ね上げた上で一斉行使し、全身を竜へと変える()()()()()である。

 

 その強化率たるやそれまでの練技とは比較にならない。

 変身を持続させるにあたって膨大なMPを持続的に消費するものの、その費用対効果は釣りが生じて余りある。

 まして<超級エンブリオ>【無双玉体 ヘラクレス】により恐るべきレベリング効率を誇り、レベルの暴力で器用貧乏から器用万能と化したGA.LVERがそれを用いれば、余程の長期戦で無い限りは難なく持続し続けられる脅威の必殺技へ変貌する。

 

 如何にステータスの伸びが器用貧乏な傾向にある【超練体士】でも、それを補って余りあるレベルがあるならば話は別。

 およそメインジョブレベル一〇〇〇につきHP・MP・SPは五〇万、その他DEXとLUC以外のステータスは一万強上昇するとなれば、その成長性と将来性には限度が無い。

 そして素でそれだけのスペックを誇るGA.LVERが、強力な自己バフである練技を使用すれば更に戦力は跳ね上がる。

 レベリング効率の有利以外に一切の強みを持たないGA.LVERが、並み居る強豪に引けを取らない理由がこれだった。

 

 超大器晩成型とも言える超級職を、その異能故に最高速で駆け抜け極めた男。

 "人竜"と呼ばれた師・虎頂道を越え、地上の人々に"人竜王(ドラグマン)"と今囁かれた今代【超練体士】GA.LVER。

 今はまだ最高ならざるレベルだが、遠からず"最高記録(レコードホルダー)"と呼ばれることとなる彼が、初めて衆目にその全力を晒したのが、今であった。

 

 ◇

 

 急変する周辺環境の猛威にも、竜体と化したGA.LVERの隔絶した各種耐性、そして桁外れのENDが悪影響を阻み、MPの消耗こそ加速すれど地上と変わらぬスペックを維持している。

 

【フウウゥゥゥゥ……、カァッハァ――!!】

 

 大気の薄い超高空において胸を膨らませるように大きく溜め込んだGA.LVERが吐き出したのは、息ではなく()()だった。

 【高位練体士】で修得可能な練技、火属性ブレスを放射する《練技・紅蓮吐息(エンハンス・ファイアブレス)》だが、本家【紅蓮術師】の魔法と比べれば矮小に過ぎるはずの本来威力に比べて、隔絶したレベルによって得た莫大なMPを練り込んだそれは恐るべき火力を実現した。

 《波動拳》の連撃では対処しきれなかった隕石群を、レーザーの如き熱線で薙ぎ払うことでまとめて融解せしめそのまま空気摩擦で蒸発せしめる。

 

 その結果は果たして、他の二人の想定を越えて凄まじいものだった。

 既に雲海は遥か下だが、代わりに埋め尽くすように天を占めていた隕石群は、GA.LVERの奮闘により軒並み消滅し【グランドバァン】の全容を覗かせていた。

 同時に遂に三人は成層圏を突破し、【グランドバァン】の鎮座する熱圏――不可侵領域へと到達する。

 

【【【遂にここまできたぞ――!!】】】

『KYUUUUUUUuuuuuuuuu――……!!』

 

 GA.LVERのこじ開けた空隙越しに、見下ろす【グランドバァン】と見上げる三名の視線が交錯する。

 残った衛星を総動員させた渾身の迎撃隕石群を物ともせず、遂にここまできた過去最大の脅威を前に、【グランドバァン】は先程までの狂乱を潜め、唸るような猛りを上げた。

 

 無論、その声は大気のほぼ存在しないこの領域では届かない。

 だが、事ここに至って【グランドバァン】は怯懦に竦んでいるだけでは決して状況を打破できないことを悟り、意を決して相対した。

 なぜなら、【グランドバァン】は速度を出せない。亜音速にも満たない回遊速度では決して眼前の敵を振り切れず、今ここでそれらを撃滅しない限りは安息は決して訪れないことを重々理解していたから。

 

『KYUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!!!』

【大技が来ます! 注意を……、――!?】

 

 故に【グランドバァン】は最後の切り札を切った。

 表層を渦巻く斑模様がこれまでで最大の流動を見せ、主星に相当する本体がさながら減法混色のように黒一色に染まり――、

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――《過重圧殺領域(ギガ・グラビティフィールド)》』

 

 ――周囲一キロメートルを()()()()()が襲った。

 

 これこそは【大怪遊星 グランドバァン】最後の大技。

 ゴーレム運用の延長線である《眷属生成》。

 土属性魔法の延長線である《大彗星》。

 それらと並ぶ地属性エレメンタルの究極系として獲得した、()()()()魔法の奥義。

 

 範囲内の敵性対象の各部位を無作為に襲うランダムベクトルの超重力が、その五体を引き裂かんと荒れ狂う。

 その強度たるやENDに長けたステラとGA.LVERをして防御に専念せねば到底耐えられるものではない。

 仮にそのまま耐え続けたとしても、長く地中のエレメンタルとして成長し続けてきた【グランドバァン】には地脈から得た無形の魔力炉が存在し、対象が精根尽き果て倒れるまで展開し続けることになんら不足は無い。

 

 ましてENDは最低限しかなく、ありったけのバフを得たところで二人とは比べるべくもない耐久力の黒猫では耐えられようはずもない。

 歴戦の【グランドバァン】は黒猫が最も脆弱であることを過たず看破せしめ、戦力未知数な敵の一人をこれで始末したと確信した。

 

 無論、だからといって攻めの手を緩める【グランドバァン】ではない。

 敵を脅威に思うからこそ、臆病だからこそ。敵が己の攻撃で防戦一方であることを把握して、確実に息の根が止まるまでこの《過重圧殺領域》を展開し続けることを選択していた。

 たとえ膨大な己のMPが尽き果てることになろうとも――それより先に目の前の敵が死ねば、あとで幾らでも取り返せるのだからと考えて。

 

『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!! ――……、???』

 

 だが、そう考えていた【グランドバァン】の前に奇妙な光景が映っていた。

 否、奇妙な光景などここまでの攻防で幾度となく目撃している。

 およそ【グランドバァン】にとってこの一戦は、過去にない例外事のオンパレード。

 だから今更光景そのものに心乱すようなことはせず、努めて冷静にその真相を暴こうとして、

 

【…………クッ、クク……、いひひひひひははっはハーハッハーッハーハー!!!】

 

 三つの敵のうち最も小さなそれが、仮面越しに獰猛な視線を向けた気配を察した。

 

【ざァんねェんでぇしたァアアアアアアアアア!! わりーけどそれ、あたしには効かねーんだわ!!】

 

 超重力が荒れ狂う領域の中で、まるで抗う様子も無く自在に宙舞う黒猫に驚愕する。

 まるで凪の中にいるように、【テレパシーカフス】越しに哄笑する余裕さえ見せるその影に、【グランドバァン】の理解は遂に喪失した。

 

『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!??!?!?』

【まさかあたしのスキルがメタるとは思わなかったじゃんよ。いやぁ、こんな偶然ってあるんだなぁ、えぇ!?】

 

 《過重圧殺領域(ギガ・グラビティフィールド)》にまるで堪える様子の無い黒猫の現状の理由。

 「【雑技王】は自在に天を舞う」と謳われる理由そのものであり、事実先刻までのパレードで自由自在に天を泳いだ仕掛けの正体。

 

【《天地無用(ゼロ・グラビティ)》。……どーよ、驚いたろ?】

 

 ()()()()()()()()()()()()、【雑技王】の奥義である。

 

 無重力状態と化した全身は通常の物理法則から外れ、通常通りの動きは本来できない。

 この状態での正確な動きには、精緻極まる重心移動や体重移動、四肢の制御が必要になる。

 地上にあって宇宙空間と同様の環境は、慣れぬ人間にとっては満足に動くことすらできないデメリットでしかない。

 

 だが【雑技王】へ就くまでに五体制御を極めた【軽業師】なら別だ。

 それまでに培った身体制御と空間把握能力のノウハウにより、なんら瑕疵無く行動できる。

 というよりは、それができるこその奥義修得ではあるのだが……そのような背景を【グランドバァン】は知る由もない。

 

 ともあれ恐るべき超重力の嵐は、重力そのものを無為とする【雑技王】の奥義の前には無力に終わった。

 スキルそのものが無効化されたわけではないので、他の二人は今も超重力を耐え凌いではいるが……黒猫には蚊ほどの痛痒も与えられない。

 そしてそれは、最後の切り札をして仕留められなかった未知数の脅威を野放しにしたも同義で……【グランドバァン】は今度こそ絶叫した。

 

【黒猫くん! 勝ち誇るのはいいけどそろそろなんとかしてくれないかな!? 流石にこれは僕でも辛いよ!!】

【いやまさか、このようなことまでしてくるとは……流石に想定外でしたね。打つ手が無ければ詰みですが……ヘイさん?】

【まーそう焦んなって。ここまであたしを連れてきた慧眼に応えてやるじゃんよ!】

 

 焦燥する二人に黒猫は余裕綽々にそう言い放って、【グランドバァン】に改めて対峙した。

 

(つっても流石にバフもそろそろ切れるし……あってもいい加減限界じゃんね。……しゃーない、使()()()

 

 そして内心で覚悟を決め、両手を大きく広げて【グランドバァン】に差し向けると……黒猫も最後の切り札を切った。

 

 

【――――《鬼哭餓鬼道地獄絵図(ヒダルガミ)》】

 

 

 To be continued

 




(・3・)<次回
(・3・)<いよいよ決着
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