軽い少女   作:ふーじん

9 / 31
新年明けましておめでとうございます。
今年ものんびり二次創作していこうと思います。
よろしくお願い申し上げます。


第一章
はじめての長期クエストじゃんよ


 □地球・有栖川邸

 

「ふぃー終わったー! 宿題しゅーりょー!」

「おつかれ。これで気兼ねなくデンドロできるね」

 

 シャーペンを放り投げて背を伸ばす。

 夏休みに入ってから真っ先に宿題を終わらせるべく、あっちゃんの屋敷に泊まり込んで片付けてたけど、よーやく今終わって解放感パないね。

 丸三日で日記と自由研究以外の宿題を終わらせられたのも、ひとえにあっちゃんの助けあってのことじゃんね。あっちゃんってば頭いーし、こういうときはほんと助かる。

 

「たった三日でも向こうは九日だもんねー。ほんとリアルに優しくないゲームだわ」

「先行逃げ切りの傾向強いしね」

 

 ガチ勢のあっちゃん曰く、デンドロには先着一名しか就くことのできない"超級職"とかいうジョブがあるらしいじゃんね。

 一部の有名なNPCが就いていることが多いらしくて、下級職や上級職と違ってレベル上限の無い所謂エンドコンテンツ的な要素みたい。

 なんであっちゃんがそんなこと知ってんのかって? 仲良くなったNPCから聞いたらしいよ。あっちゃんってばレジェンダリアの死霊術師ギルドではちょっとしたお姫様扱いで可愛がられてるらしくて、耳寄りな情報を良く聞くんだってさ。

 ちなみにあっちゃんはもう目当ての超級職があるらしいじゃんね。詳細はお楽しみつって教えてくんなかったけど、早けりゃ夏休みが終わる頃には就けるかもっつってたっけか。

 なんで知ってんのかって聞いたら、死霊術師界隈では有名らしいじゃんね。つっても転職条件は虫食いらしくて、名前だけが伝わってるらしいけど。

 その転職条件も大体当たりつけてるあっちゃんマジ半端ねー。

 

「そういやあっちゃん、今<エンブリオ>いくつだっけ?」

「第四形態。かなり成長早い方だと思う」

「まじか。あたしまだ第三形態じゃんよ。なんか違いあるんかねー?」

「……んー、すごく抽象的な憶測になるけど」

「なるけど?」

()()()()()()()()()()()()()()()ような気がする。なんとなくだけど」

「あー……わかるようなわかんないような? でもそれならあっちゃんが早いのも頷けるかもじゃんね」

「ねこちゃんは気まぐれなとこあるから……」

「まぁそれはそれ、これはこれって感じだし。でもまーやっぱ凄いね、<エンブリオ>」

「正直、不気味。<エンブリオ>はほとんどオカルトの領域……っぽい」

「こわい?」

「ううん、楽しい。すごく素敵。もう他のゲームできないね」

 

 筋金入りだねー。

 クソゲーから神ゲーまで、国の内外問わずにホラーゲーム漁りまくってるあっちゃんだけど、こうもキラッキラしてるのは初めてじゃんよ。

 いろいろ訳わからん仕様とか、小難しい理屈とかあるけど、まぁ楽しいならそれでいいし。細かいとこはどうでもいいじゃんね。

 あたしの場合はほら、ジョブと<エンブリオ>は完全に切り離してるから。ジョブの方は完全に趣味の領域だしね。

 あっちゃんの場合はジョブと<エンブリオ>の両方が趣味のど真ん中だから、逆に極まってガチ勢と化してる感じだし。そう思うと変に一緒の場所で遊ぶよりは互いに離れてた方が良かったのかもね。つまりは結果オーライってこと。

 

「ねこちゃんもいつか絶対こっち来てね。わたしの方からはそっちいけないから」

「やっぱ砂漠越え無理っすか」

「無理。夜はともかく昼は天敵。海も無理」

「アンデッド抱えまくってたらそりゃそうなるじゃんね。まー気長に待っててちょ」

「なるべく早く来てね」

 

 気長に待てって言ってるのにせっかちだねー。

 まぁこっちもこっちでやることあるし、どうなるかな。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そんなこんながあって夏休み突入からのデンドロ三昧なわけだけど。

 あたしの方はと言えば、あっちゃんにやや遅れる形で上級職に就いていたりする。

 その名も【名軽業師】。【軽業師】の直截上位職じゃんね。

 転職の条件に各種主要スキルの上限到達や指定された演目のマスター、あと【軽業師】のレベルカンストがあったけど、ぶっちゃけどれも楽勝だったじゃんね。

 普通は演目の方で躓くらしいけど、あたしは全部一発オーケーだったし。いやぁ悪いね才能有り余ってて!

 だんちょーや王じーちゃんは異例の早さだっつって驚いてたけど。これは新たな【雑技王】誕生か否かって。

 ふふん、気分は昔懐かしのなろう主人公? よいしょされる側としては悪い気分じゃないじゃんね。

 

 で、だ。

 【軽業師】としては順風満帆。上からの覚えも良く、レベリングも<エンブリオ>のおかげで順調なんだけど、一つ困った? うん、困ったこともあるじゃんね。

 ぶっちゃけるとね、同僚以下からの反発がパネーの。

 まぁあたしってば見た目小娘だし? 何から何までリアル志向なとこあるデンドロだから、人間関係もそりゃまー複雑怪奇のリアリティってなわけだから、嫉妬の視線が多いのなんのって。

 ちょっとした超時空シンデレラばりにスターへの階段を駆け上ってるあたしだから、周囲のやっかみが激しいんだわ。

 

 上はね、雑技の世界は実力がモノを言う世界だからってわかってるから何も言わないんだけどね。

 見習い――具体的に言うと【軽業師】止まりの連中からはまったく良く思われてない。

 ちなみにプロとして活動できるのが【名軽業師】からで、【軽業師】の間は舞台に上がることができない見習いの下っ端扱いだ。

 あたしが以前舞台に上がれたのは、例外的なお披露目会だったからじゃんね。ここトリビアね。

 

「つーわけでだんちょー、今日もクエストほしいじゃんよ」

「まるで脈絡が無いが……まぁいい。しかしなぁヘイ、お前もう少し気に留めはせんのか」

「んー? つってもあたしにゃどうしようもねーじゃんね。別に足引っ張られてるわけじゃないし、どーでもいいカナー」

 

 だんちょーこと<黄龍雑技団>代表、黄刃華の天幕でクエストをねだる。

 【名軽業師】としての活動は軽業ギルドからクエストという形で提示され、ギルドの重鎮でもあるだんちょーはクエストに関する権限を持ち合わせている。

 ちなみに軽業ギルドってのは黄河帝国に根を伸ばす芸能ギルドの一派閥で、そこの重鎮は雑技団の長達であるというのは王じーちゃんの弁だ。

 

 NPC――ティアンと違って存在が不安定な<マスター>はティアンの団員とは別枠として扱われていて、言ってみると助っ人役みたいな扱いに近い。

 雑技団の垣根を問わずあらゆる団から依頼を受けて舞台に上がり、その成果が依頼元の団の評判に繋がり、依頼受注者は報酬を得るという流れじゃんね。

 もちろん個人的な友誼やしがらみで特定の団からのみクエストを受ける<マスター>もいるけれど、如何せんそもそも【軽業師】になりたがる<マスター>が少数なこともあって、この辺のシステムはあまり周知されていなかったりする。

 

 ちなみにあたしは大体<黄龍雑技団>ってーか、だんちょーのクエストをメインに受けてるじゃんね。

 別に恩義がどうこうってつもりはなくて、単にだんちょーが知り合いで話が通じやすいってだけで他意は無いケド。

 【軽業師】としての短い期間、天幕で修行をつけてもらったりもしたから、まぁ別にわざわざ他の団で受けることもないしってだけでね? まぁその辺はどうでもいいじゃんね。

 

「つかさーあたしのことよりも、だんちょートコの見習いちゃんの底上げ頑張るべきじゃね? 実力主義が聞いて呆れるじゃんよ」

「お前な、間違っても他の団員の前でそれ言うなよ。ただでさえ燻ってるんだ、油を注いで炎上してはかなわん」

「理屈と人情の間で揺れ動く心ってやつかー。だんちょーも大変じゃんね」

「誰もがお前みたいに才能に恵まれてるわけじゃないんだ。持たざる者には持たざる者にしか分からないものがある。あまりつついてくれるな」

 

 才能、才能ね……まぁ確かにそうかもネ。

 なに? 世の中才能だけじゃないって? 努力こそ素晴らしい? それもそうかもネー。

 努力も才能もそれはそれ、これはこれ。どっちも認めて自分に都合の良いほうだけ利用するのがあたしのスタイルじゃんよ。

 

 <マスター>とティアンは<エンブリオ>の有無で決定的に格が違うって言われるけどさー。

 別にあたし、<エンブリオ>の力で有利なってるわけじゃないし。ていうかあたしの<エンブリオ>ってば【軽業師】とは全くシナジーしてねーし能力関係ねーし。

 なんならステータス補正切っても構わんしね。<エンブリオ>が無くても今の立場余裕で取れてるし、てことはやっぱあたしってば天才じゃんね?

 って誰に対して言い訳してんだってね! 別に誰も今文句なんて言ってきてねーしね、我ながら被害妄想乙!

 

「まぁそんな哲学はいいじゃんよ。それよりはよ、クエストはよ」

「哲学、哲学か? んでクエストなぁ……ちょっと待ってろ」

 

 ガサゴソと奥の棚から書類を漁るだんちょー。

 雑技団の長として興行にも精を出す傍ら、ギルドの重鎮として雑務にも追われるだんちょーは実のところすんげー忙しい人なのね。

 かつての名門の跡取りとしての矜持か、なるべく興行に顔を出せるよう頑張ってるらしいけど、そのせいかここ最近は疲労が溜まり気味っぽいじゃんね。

 そういや【雑技王】も超級職なのか。今まで適当に聞き流してたけど、狙えるようなら狙ってみるのもアリかな?

 

「ふむ……少し離れた場所での興行になるが、どうだ?」

「んあ? 龍都じゃねーの?」

「龍都にはギルド本部があるからな。それに合わせて団の本拠地も置いてあるが……興行自体は帝国の各地で行われている。というか、各地を巡って興行するのが本来の形だ」

「ほーん」

 

 そんなことをつらつら考えてたら、だんちょーがそんなことを言い出した。

 思えば今までのクエストは龍都近隣ばっかだったけど、そういうものとばかり思ってたわ。

 確かにサーカスってあちこち回って芸を披露するものだし、雑技団も似たようなもんか。

 

「ウチでは【名軽業師】を極めた高弟が副団長となって各地での興行を務めている。言い換えれば支部長だな、それぞれが一座を率いて東西南北の四方を拠点に巡っている」

「今更な組織形態の説明はともかく、どこの支部からのクエストなワケ?」

 

 帰ってきた答えは北。

 <厳冬山脈>の真東に位置する寒冷地に今はある支部からの要請らしい。

 支部っつっても此処と同じく天幕らしいけど。だからちょくちょく移動して定まった本拠を持たないらしい。

 ていうかさぁ、それって……

 

「遠くね? <厳冬山脈>つったらアレっしょ、禁域指定の最北端。龍都からどんだけ離れてんだって話じゃんよ」

「だから長らく塩漬けになってたんだがな。……ああ、お前が心配してるような懸念は無いぞ。別に北地での興行が苦しいわけじゃあない。クエストとして発令するのは有力なゲストを招いて興行に華を添えるのが目的だ」

 

 てっきり僻地で興行が苦しいから助っ人を~、的な事情かなと思ってたら否定された。

 ま、それもそっか。<マスター>が関わる案件でそんな重要度の高いものは早々回ってこないっしょ。

 芸能ギルドの雑技団一派に限らず、既に地盤を築いている組織での<マスター>の扱いは、良くも悪くも外様でしかない。

 その不安定な存在から要職に就けることもできず、機密に関わらせることもできず、多くの場合ティアンよりも力量や技量に優れる手腕を買って一時的に利用し合うのがあるべき姿。

 言ってみれば超敏腕なアルバイトが派遣社員? 言い換えると途端にダサくなんね。

 

 ともあれ、特段重い事情も無く、単に遠く行ってお仕事すればいいだけなら気は楽じゃんね。

 大体あたし、まだお子様よ? 九歳よ? いくらあたしが才気煥発だからってマジな組織運営に関わらされても困るじゃんね。

 あたしとしてはクエストの受注に否はないけど、最後にひとつ問題があるわ。

 

「足はどーすんのよ? 最北なんて一日二日で行ける距離じゃねーっしょ? 交通費どんだけ掛かるかって話よ。第一あたし土地勘ねーし絶対迷うじゃんよ」

「そこは問題ない。お前が受けたなら是非とも同行したいという御仁がいる」

 

 誰よその物好き通り越して酔狂なヤツ――と言おうとしたら、背後から聞き慣れた笑い声が聞こえた。

 勝手知ったるとばかりに団長用の個人天幕に入ってきたのは、丸々太った鯰髭の爺ちゃん。

 

「ほほほ、話は聞かせてもらったぞい」

「王大人。まだ話はまとまっていませんが……」

 

 よくこっちに遊びに来る王じーちゃんじゃんね。

 勝手に入るなとは言わないあたり、もう半分諦めてるっぽいだんちょーがいと哀れ?

 

 王じーちゃんはあたしのデビュー以来何かと面倒見てくれていて、じーちゃん曰くあたしのファンらしーね。

 あたしにとってはよくお菓子とかくれる優しいじーちゃんだけど、黄河有数の名士にして黄河の芸能ギルドの存続に直結する最大手パトロンの一人。加えて本人も極め付きの芸能ファンってこともあって、芸能に関わる人間にとってはまったく頭が上がらない相手だとか。

 そのじーちゃんと個人的に仲良くしてるのも、あたしがよく思われない原因の一つらしいね。どうでもいいケド。

 

「なになに、じーちゃんが依頼主なワケ? それならあたしとしても受けるに吝かじゃねーじゃんよ」

「口を慎めとあれほど……申し訳ありません、王大人。こやつにはよく言って聞かせますので」

「よいよい、ほんの戯れぢゃて。ほれ(ヘイ)や、飴玉はいるかね?」

「いるいる! 毎度ちょーありがとじゃんね!」

 

 流れるように突き立つ拳骨。

 だんちょーといるときにじーちゃんが来ると毎回こうなるのはマジ勘弁じゃんね。

 

「はぁ……話が脱線したが、王氏が目的地まで同行する。道中の警護を務める代わりに氏の竜車に便乗してよいとの申し出だ」

「御主ならいずれ龍都を離れ各地で興行することになろうと思っていたでの。その際に足が無くば不便であろうと、わしが横から口出しさせてもらったのぢゃ。どうかの? この爺と一緒に行ってみんかね?」

 

 爺馬鹿かよじーちゃん。

 あたしとしては渡りに船だけどさー、それって超過保護じゃね?

 いや嬉しいよ? 使えるものは何でも使うし、貰えるものは何でも貰うあたしとしては願ったり叶ったりだけどさ。

 じーちゃんの方こそいいのかよって感じじゃんね。ちょっと強権行使しすぎじゃね?

 

「まーいいけどさ。そゆことならあたしはオッケーじゃんよ。だけどじーちゃんも好きだねー、わざわざあたしをご指名なんかしてくれちゃってさ」

「長く芸能に関わってきたが、いつになく愉しませてもらったからのう。ほほほ……ま、この爺の話し相手をするとでも思って付き合っておくれ」

 

 ほんとに至れり尽くせりじゃんね。

 さすがのあたしもここまで優遇してもらっちゃ悪い気がしてくるわ。

 ちらっと横目でだんちょーを見るも、重い溜息と共に。

 

「お前の芸が勝ち取った成果だ。氏もこう言ってくれている、ここは甘えておくといい」

「ん……おっけ。なら正式にそのクエスト受注するじゃんよ」

 

 そうまで言われれば是非もない、クエストを正式に受注する。

 なんのかんの言って、中央以外の場所も気になってたしね。じーちゃんが足出してくれるってんなら否は無いじゃんね。

 道中の護衛もまぁ、余裕かな。他にも警護役はいるだろうし、あたしの<エンブリオ>もあるしね。

 

「んじゃじーちゃんよろしくじゃんよ。いつ出るとかは決まってんの?」

「そうぢゃな……明後日の朝で良いかの? それまでにこちらの用意を整えておくぞい。御主にとっても初の遠出ぢゃろう? 準備はしかと整えておくんぢゃぞ」

「おっけおっけ」

「…………お前の荷造りは俺が見てやる。あとになってなにそれを忘れたなどと言われては適わんからな」

 

 これまた溜息混じりにそう言われた。

 毎度メーワクかけてすまないじゃんよ。だんちょーってば根っからの苦労人じゃんね。

 

 そんなこんなであたしのクエストは始まった。

 




というわけで第一章開始です。
今回の話で今作のメインキャラ登場――――予定!
あっちゃん氏は完全にチラ見せ要員ですね、書くとしたら番外編かな。

今更ですが不定期投稿です。
よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。