「おーし!ご苦労さーん!今日はこれで上がっていいぞ!ほら、今日の日当だ・・・お前達が良く働いているから予定より仕事が進んでてな、今日はその分ボーナスしてるぜ」
「おおっ!ありがとうございます!」「それじゃあお疲れ様でしたー!」「ありがとうございます」
親方の仕事の終了の声で、俺達は日当を受け取ると挨拶と共に頭を下げる。しかしボーナスというのはこうも嬉しいものなんだな。
「じゃあ皆さんお先でーす!」「でーす!」ぺこり。
カズマに続いてアクアと俺も挨拶する。
先輩の声を聴きながら、俺達は現場を後にした。
やはり労働はいいものだ。誰かの役に立っているという感覚がある。
俺達は日当を片手に街の大衆浴場に向かう。
日本の銭湯とさほど変わらない施設だが、値段は比較的高めに設定されている。ちなみに1エリス=1円程度という貨幣価値らしい。
「あー・・・生き返るわー・・・・・・」
仕事上りの風呂はやはりすっきりする。汗でべとべとなまま眠るのは嫌だし、多少の出費も致し方無いな。
二人で風呂から上がるとアクアが浴場の入口で待っていた。
「今日は何食べる?私、スモークリザードのハンバーグがいい。あとキンキンに冷えたクリムゾンネロイド!」
「俺も肉がいいな。聖はどうするんだ?」
「新鮮なサンマを仕入れた、って聞いた」
「じゃあそれか?スモークリザードのハンバーグ定食二人前とサンマ定食頼むか」
「異議なし!」ああ!
食べ終わったら特にする事も無いので、いつもの馬小屋で眠る。俺が《裁縫》スキルでぼろ布から作った簡素な毛布があるので藁の寝床よりはましか。
三人で狭い川の字になって寝転がる。
「じゃあ、お休みー」
「おう、お休み・・・ふう。今日もよく働いたなあ・・・」
さて、明日も早い。疲れを持ち越さないように早く眠るとしよう・・・
「いや、待ってくれ」
カズマがムクリと身を起こした。
「どうしたの?寝る前のトイレ行き忘れた?暗いし付いて行ってあげようか?」
「いらんわ。いやそうじゃなくてな。俺達、何で当たり前の様に普通に労働者やってんだって思ってさ」
確かに俺達はここ二週間、街を守る外壁の拡張工事の仕事をしていた。
だがそれのおかげでカズマは体力がついた。この世界の金銭感覚も実感として分かった。人の役に立った。何が不満なのだろう。
「そりゃ、仕事しないとご飯も食べられないでしょ?サトシもそんな感じの顔してるじゃない。それとも工事の仕事が嫌?全く、これだからヒキニートは。一応、商店街の売り子とかの仕事もあるけど?」
「そうじゃねえ!そうじゃなくて、俺が求めてるのはこう、モンスターとの手に汗握る戦闘!みたいな!そもそも、この世界は魔王に攻められてピンチなんじゃなかったのかよ⁉平和そのものじゃねーか、魔王の魔の字もないぞ、コラッ!」
「おい、うるせーぞ!静かに寝ろ!」
「あっ、すいません!」
駆け出し冒険者は貧乏であり、1パーティで一部屋以上というのはまずあり得ない。
大部屋の代金を大勢で割り勘するとか、宿屋の馬小屋を安価で借りてそこで寝泊まりするのが基本だ。ちなみに『裁縫』スキルの練習で作った毛布の中で、他人に使わせられるくらいの出来栄えのものは馬小屋仲間に安価で売っている。おかげでここの馬小屋は他より多少は貧乏臭さが薄れている気がしないでもない。
モンスターを倒してもそれだけでどこからかお金が手に入る筈もないし、郊外にある森のモンスターは軒並み駆除されたらしい。そしてそんな安全な森での薬草なんかの採取をわざわざ人に頼む仕事なんかもまず無い。よって今の俺達にできるのは、街の人々の手助けという俺好みな、しかしロマンと言える要素があまり無い仕事だけだ。
確かに一日で一泊数十ゴールドを何日もできる金額が簡単に手に入る仕事、なんて現実に言われたら胡散臭い話だが、最初がファンタジー的な始まりだったために失念していた。しかしこんなところで急に現実味を出されると確かに気概的なものが削がれるのは分かる。
「わ、私に言わないでよそんな事。ここは魔王城から一番遠い街なのよ?こんな辺境の、しかも駆け出し冒険者しかいない街なんて、わざわざ襲いに来ないわよ・・・つまりカズマは、冒険者らしく冒険したいって事?まだロクな装備が調ってもいないのに?」
それもそうか。鍛冶師なら石装備くらいはその辺の石を集めて作れたかもしれないが、クリエイターでは《鍛冶》スキルの習得は少々難しいらしい。なので魔道具の作成に使える《魔道具作成》と《裁縫》スキルを習得しているが、まだ即戦力になる様なアイテムを生産できる程の腕前ではない。
なので俺達は比較的安全かつ体力がつき、実入りも良い土木作業でお金を稼ぎ、装備を手に入れることを目標としていた。
「そろそろ土木作業ばっかやるのも飽きたんだよ・・・俺、労働者やりに異世界に来たんじゃないぞ。パソコンもゲームも無い世界だけど、俺は冒険するためにここに来たんだ。魔王を討伐するためにここに送られてきたんだろ、俺は?」
すまん、土木作業が楽しくてそっちの話を忘れていた。
「おおっ!そういえばそんな話もあったわね。そうよ、労働の喜びに夢中になって忘れてたけど、カズマに魔王を倒して貰わないと、帰れないじゃないの」
「お前ら・・・」
カズマくんに呆れかえった目で見られた。思えば君咲学院でも度々こんな目つきで見られたなぁ・・・ああ、故郷が懐かしくなってきた・・・
「いいわ、サトシもホームシック感じてる顔だし、明日は討伐行きましょう!大丈夫、この私がいるからにはサクッと終わるわよ!期待して頂戴!」
「な、なんかもの凄く不安だが・・・そうだよな。お前女神だもんな。サトシは普通にチートスキル貰ってるし、頼りにしてるぞ!おし、それじゃ、貯まった金で最低限の武具を揃えて、明日はレベル上げだ!」
おう!「任せて頂戴!」
「うるせーってんだろこらっ!しばかれてーのか!」
「「「すいません」!」」
他の冒険者に怒鳴られてしまったが、明日はいよいよ俺達の初戦闘だ。
俺の働きが良かったとかでそこそこお金はあり、一人だけなら武器に加えて革鎧なんかも買えるだろう。そうなると後衛に回るであろう俺とアクアの装備を後回しにし、危険な前衛を務めるカズマに装備を集中させるべきか?それとも高いステータスを持っているらしいアクアか俺に装備を回し、荒稼ぎしたお金でカズマの分を買うか?あるいは全員に均等な金額を?
そんなことを考えている内に、俺は眠りについた・・・
・夢ノ咲学院
『あんさんぶるスターズ!』の舞台。主人公が転校してくる前年度までは男子校、しかもアイドル養成校としての面もある学院だったが、そのアイドルをサポートする人員を育てる事、及び共学化に向けた試験のために主人公(当作での名前は『
・
夢ノ咲学院2-A所属。『あんさんぶるスターズ!』の主人公で、デフォルトネームは「あんず」。当作では『あんさんぶるガールズ!!』でしばしば語られる「あんず」「アンジ―」と同一人物で、
転校した理由は上記した他に、元々通っていた君咲学院で教師を中心としたいじめを受けて居心地が悪くなっていたのもある。いじめに遭うまでは問題児の筆頭として学院をカオスに陥れていた。
当作では聖ほどではないが無口な方で、きっかけさえあれば何処までだってハジケられるタイプ。実は1年留年しているのは夢ノ咲学院では内緒にしている。