この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 初の戦闘回。主人公の初期戦闘力はこんな感じです。
 それと、今までは一人称視点で進行していましたが、今回は少しだけ三人称視点に視点変更してます。視点変更はこんな感じでいいのか少々不安ですが・・・


ジャイアントトード

「ああああああああ!アクアー!聖ー!助けてくれえええええ!」

「プークスクス!やばい、超うけるんですけど!カズマったら、顔真っ赤で涙目で、超必死なんですけど!」

 

 雲一つない晴れやかな空の下、カズマは巨大なカエルのモンスター、ジャイアントトードに追いかけられていた。

 俺達はギルドでクリアできそうな依頼――――クエストを探し、報酬金が低いが初心者向けと明記されたジャイアントトードの討伐を選んだ。

 ジャイアントトードはその名の通りカエルのモンスターだが、牛より大きな体を持っている。繁殖期には人里まで現れ、多くの獲物を食べて体力をつけるのだが、その獲物は家畜の山羊や、人間。更にその厚い脂肪が打撃系の攻撃を防ぐというまごうこと無き凶悪モンスターだが、金属を嫌う性質を持っているため、金属製の防具を身に着けた冒険者にとっては余裕の相手だそうだ。

 アクアは武器を振るうのはお気に召さないらしく、装備を買うための資金はカズマのショートソードと、ゴーレムの操作をサポートする青銅の腕輪になった。本当は金属性の鎧が欲しかったが、思ったより鎧の値段が高く、攻撃力を確保するためにはこうするしかなかったのだ。

 それでも、「三人もいれば何とかなるだろう」という見通しで、ジャイアントトードが生息する平原へ向かったはいいが、その結果がこのザマだ。

 

 ともあれ、こうなったのは俺の責任でもある。始めての魔法といえる『クリエイト・アースゴーレム』を使い、足元の地面から土のゴーレムを作り出す。

 シルエットこそ人型に近いが、ゴツゴツした表面にのっぺらぼうの顔を持ち、これを人間だと思う者はいないだろう。身長は2メートル程で、両腕は剣の様に鋭利な形にした。ジャイアントトードにダメージを与えるためだ。

 一般的なゴーレムは機敏な動きをあまり得意としないが、高いスキルレベルを持つ俺の『クリエイト・アースゴーレム』は、練習を重ねたアスリートの様な理想的な走行をゴーレムに実現させていた。

 カエルに走り寄りながら跳び上がったゴーレムは、その右手の剣をジャイアントトードの口の下辺りに突き刺す。殺すことを考えたら喉元とかに突き刺すべきなのだが、危険を察知したカエルが身を伏せたために失敗した。

 そしてカエルもまた跳び上がる。その勢いにゴーレムの右手も肉から抜け、地面に転倒する。即座に起き上がるも、そこはカエルの落下地点。逃げ切ることは叶わず――――いや、あえて逃げず、両手の刃を落ちて来るカエルの喉元に向けた!

 その刃は狙い通りに突き刺さり、カエルは苦悶の声を上げる。そしてこの刃を――――

 

 瞬間、俺の視界は暗闇に変わった。

 上半身だけが奇妙にヌルヌルし、下半身はどうやら空中に投げ出されているらしい。僅かに光で見える視界は肉色に染まっている様に見える。つまりこれは・・・

 

 ────────────────────

 

「聖ー!おま、お前、食われてんじゃねええええええ!」

 

 この土壇場で現れた2体目のジャイアントトードが、聖の下半身を口から垂らしていた。

 ゴーレムの格闘に目を奪われ、集中していた隙に現れたのだろう。

 足がじたばたしている事から彼の生存は分かるが、放っておけばそれも呑まれてしまう。

 

「どうやら私の出番の様ね!お礼にはアクシズ教団への入信がいいわね!神聖なる女神の力を受けてみなさい!ゴッドブローッ!」

 

 女神アクアの力が拳という一点に集中し、光と共にそれが放たれる。

 神聖な力を宿した拳は、ジャイアントトードの腹部を正確に打ち抜き――――

 

 

 

 ――――ジャイアントトードの脂肪によって遮られた。

 

「・・・」

「どりゃあああーっ!」

 

 背中からよじ登っていた和真の一撃が、ジャイアントトードの頭を砕いた。

 

 ────────────────────

 

 ふう・・・死ぬかと思った・・・

 日本にいた時も自覚していたが、どうも俺は不意打ちには弱い。反省せねば。

 さて、どうやらカズマに助けられたようだな。こっちに来てから色々と頼りになってるな。ありが・・・

 

 ・・・さっきのジャイアントトード、どうやらこっちに狙いを定めたみたいだ。ゴーレムを操ったのが俺だと気づいたのか、仲間の敵討ちか、あるいは八つ当たりなのか。どうあれ目がマジな気がする。カエルの目つきなんてあんまり知らないけど。

 ともあれ、手負いの獣は危険だと聞く。あのジャイアントトードの様子を見るに、その言葉は正しいのだろう。のっしのっしと、こちらを威圧しながら迫ってくる。これはさっきと同じ戦法では倒せないかもしれない。ならば・・・

 

「二人とも見てなさい!今度こそ私が華麗にこいつをぶちのめすんだから!ゴッドブ」

 ぺろり。

 

 ・・・・・・・・

「アクアー!お前もかー!」

 

 俺もあんな風に食われてたのか・・・あっあっぱんつ見えそうヤバい。これは早めに決着をつけねばならない。

 和真がカエルの背にしがみ付こうとする。しかし相手はそれを察するやいなや激しく跳ねまわり、和真は振り落とされてしまった。運が悪ければ足くらいは潰されていたかもしれない。

 しかし奴は今周りが見えていない。俺は暴れまわるカエルに近づき、持っている魔力を使いさっきと同じ形の、しかし上半身だけのゴーレムを作る。もっとも――――今出したゴーレムは、さっきの数倍の大きさはあるが。

 カエルは数舜、そちらを凝視し、口のアクアを吐き捨てると巨大ゴーレムへと向かう。ギリギリまで近づき、跳び上がってその体躯により押し潰そうと。

 しかし、巨大ゴーレムに近づいた時、カエルの足元が派手に陥没する。

 そう、この巨大ゴーレムは、カエルとゴーレムの間の土を、落とし穴になるように使用して作ったのだ。『クリエイト・アースゴーレム』の応用で地面を補強しなければならなかったが、ジャイアントトードは確かな隙を晒した。

 ほんの僅かな隙だが、巨大ゴーレムがその腕を振り下ろすには十分な時間だ。

 そしてそれを確かに実行し、怒れるジャイアントトードはその体を深く切られ、断末魔の声と共にその命を終えた。

 

 

「ぐすっ・・・うっ、うええええええっ・・・あぐっ・・・!」

 

 カエルに呑まれたあげく地面に吐き捨てられたアクアは、気づいた時には既にこの調子で泣きじゃくっていた。

 さっきまでは戦闘に集中して気にしていなかったが、俺もカエルの唾液でヌメヌメする。

 さっきの巨大ゴーレム並のものを作れば一撃で倒せるが、特に頭に血の上っているような個体でなければ不用意には近づかないだろう。そして受けたクエストは三日以内にジャイアントトード五体を討伐するクエストだ。この場所までは街から日帰りで通える距離だから余裕は十分にある。今日のところは引き返し、明日またここに来ればいい。

 

「ぐすっ・・・女神が、たかがカエルにこんな目にあわされて、引き返す訳には・・・!」

 よしよし、お前は良く頑張った。ヌルヌルした体で申し訳ないが、泣きたい時は泣け。胸は貸してやる。

 

 ふと和真を見ると、唖然とした様な感心した様な表情をしていたが、撤退には賛成のようだった。

 なので今日のところは引き返すことにしたのだが、ふと思いついた事がある。

 今、俺のゴーレムは大きさとスピードを両立させる段階にはない。しかし、スピードをあまり気にしなくていいなら・・・

 

「うおっ!大きめのゴーレムがカエル二体を運んでる!こんなの作れるならクエストも楽勝じゃないのか?」

 モンスターの死体の買い取り価格もクエストの報酬に含まれているが、ギルドに輸送を頼むとそのサービスの分の金額が取られるからな。それとこれはあまりスピードが出せないからな。生きてる奴相手だとまず逃げられる。

「・・・えーと?お金が、取られる?で、遅い・・・ああ、なるほど、何となく分かった。多分」

 

 この日、俺達が稼いだ金額は一万六千エリス。一人当たり五千ちょっとだ。

 この金額、昨日までの土木作業の日当とあまり変わらない。「初心者向けだから多少準備がおざなりでも何とかなるだろう」と考えたのはやはりまずかった。

 今度は準備を怠らない。夜のうちにゴーレムの練習をしっかりやる。後方への警戒も気を抜かない。ひょっとするともう一人くらい仲間を募集するべきかもしれない。今度こそ、クエストを成功させる。




鬼龍(きりゅう) 紅郎(くろう)
 夢ノ咲学院3-B所属。和風アイドルユニット『紅月(あかつき)』のメンバー。赤髪の大男。
 空手部主将で喧嘩が得意。だが妹のことを大切に思っていたり裁縫が得意だったり面倒見が良かったりするイケメン。

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