「うっ・・・うぐっ・・・ぐすっ・・・生臭いよう・・・生臭いよう・・・」
俺も同様に生臭い。一度アクアを撫でようとしたのだが、
「その手も生臭い・・・」
と拒否されてしまった。ちくせう。
でもカエルの体内は温度だけはいい感じだった。生臭さや身の危険等が圧倒的に減点だが。こんな知識いらなかった。
めぐみんは和真の背におぶさりながら、こちらをゴミを・・・この言い方だと語弊があるか?ゴミ捨て場でも見る様な目でこちらを見ていた。
俺やめぐみんの様に魔法を使う者は、魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を使う事になる。
そんな状態になれば感覚で分かるが、そこから更に魔法を使おうとすれば命に関わる事態になりかねない。
「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ。めぐみん」
和真の言う通りだ。彼女が爆裂魔法を使う度にその状態に陥るのなら、下手な使用は逆に危険な状態になりかねない。
「・・・使えません」
「・・・は?何が使えないんだ?」
めぐみんの言葉に、和真はオウム返しに言葉を返す。
「・・・私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」
「・・・マジか」
「・・・マジです」
それは・・・どういう事なのだろうか?
「・・・スキルポイントは・・・?」
レベルアップや冒険者カード作成時、冒険者はスキルポイントを得る。それを使えば容易にスキルを習得できるのだ。爆裂魔法は多大なスキルポイントを必要とするらしいが、それを習得するためのスキルポイントを得るのにどれだけの戦いが必要なのだろうか。
アクアも同じ事を思ったらしく、彼女も口を開く。
「そうよ。爆裂魔法なんて習得できる程のアークウィザードなら、他の魔法も習得できないはずがないじゃないの」
スキルポイントについての説明を聞いていなかったらしい和真がアクアから説明を受ける。その時にアクアが習得したスキルを聞いたが、彼女はまず宴会芸スキルなるものを全て習得し、それからアークプリーストの魔法も全て習得したらしい。お前頭がAmazingかよ・・・
それはさておき、爆裂魔法が所属する爆発系の魔法は複合属性といい、火や風の魔法に関する深い知識が必要という。つまり爆裂魔法を習得できる魔法使いは他の魔法、とりわけ火や風の魔法を習得するのはもっと簡単な筈らしい。
「爆裂魔法なんて上位の魔法が使えるなら、下位の他の魔法が使えない訳が無いって事か・・・で、宴会芸スキルってのは何時どうやって使うものなんだ?」
そんな中、めぐみんがぽつりと呟く。
「・・・私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないです。爆裂魔法だけが好きなのです。
もちろん他のスキルを取れば楽に冒険ができるでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでも違うでしょう・・・でも、だめなのです。私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ今の私の魔力では一日一発が限界でも。たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法しか愛せない!だって、私は爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」
「素晴らしい!素晴らしいわ!その、非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」
ああ、その愚直なまでに自身の道を貫くその姿は君咲学院で多く見た、俺が応援したいと思える姿だ。その背中を守り、後押ししたくなる。アクアも賛成だし、和真がOKを出すなら大歓迎なのだが。
「いやいや、めぐみんの力は俺達みたいな弱小パーティーには勿体無いからさ、もっと別のパーティーを探すといい。俺達みたいな駆け出しには普通の魔法使いで十分だろ?ほら、俺なんて最弱職の冒険者だぜ?今回の報酬は山分けにして、お前はもっと相応しいパーティーを見つけるといい」
いやいや、俺達のパーティーは稀代のアークプリースト、アクアが所属している。桁外れの火力を持つめぐみんが所属するのに不足は無いだろう。それに自分を最弱冒険者と卑下するのなら、彼女も魔法一発で戦えなくなるポンコツアークウィザードだ。知力の残念なアクアも含め、このパーティーが彼女に相応しいのではないだろうか。
「何言いたいのかよく分かんねえけど、あいつを誘うのはやめた方がいいだろ。一日一発しか使えない魔法使いとか初めて聞いたぞ俺。どう考えても使い勝手が悪いぞ」
「聞こえていますよ・・・私は上級職ですがレベルはたった6。もう少しレベルが上がればきっと魔法を使っても倒れなくなりますから。そちらの方も私を歓迎しているっぽいですし、何なら報酬も山分けでなく、食事とお風呂とその他雑費を出して貰えるならそれだけで十分なのです。そう、アークウィザードである我が力が、今なら食費とちょっとだけ!これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか!」
契約しよう契約。俺達と契約して、専属魔法使いになってよ!
「いやいやいや、こいつ多分他のパーティーに捨てられた口だぞ。というかダンジョンにでも潜った際には、爆裂魔法なんて狭い中じゃ使えないし、いよいよ役立たずだろ。お、おい離せってめぐみん。報酬はやるから!ちょっ!妙に痛い!」
「見捨てないでください!もうどこのパーティーも拾ってくれないのです!ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします!私を捨てないでください!」
背中から離れられないめぐみんが、その状態で叫んでいる。もう街の中、それも人々が帰宅し始める夕方なので、もの凄く目立ち、こちらを見てひそひそと話す声も聞こえる。
「やだ・・・あの男、小さい女の子を捨てようとしてる・・・」「隣の二人はなんか粘液まみれよ」「あんな小さい子を弄んで捨てるなんて、とんだクズね!」「あっちの二人、もしかしたら背負われてる子に・・・見せつけてたんじゃない?」「・・・気持ち悪い!変態の集まりかしら」
・・・変態扱いされた。氏にたい。
「どんなプレイでも大丈夫ですから!先程あの人達がやった様なプレイを、私がやる事になっても耐えてみせ」「よーし分かった!めぐみん、これからよろしくな!」
噂話を聞いためぐみんが一瞬ニヤリと笑い、それに合わせた爆弾発言を放った事が決め手となり、彼女は正式に俺達の仲間になった。
・・・なかなか強かなところもあるじゃないか(白目)
そんなこんなで冒険者ギルドまでカエルを運んだら、俺とアクアは一足先に風呂に入り、体のヌルヌルを洗い落とすために先に帰る事にした。
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夢ノ咲学院3-B所属。Amazing銀髪ロン毛変態仮面。校内でトップクラスの人気を誇るユニット『
演劇部の部長であり、世界を驚きと愛で満たす事を理想としている。その手段には手品や変声術、突飛なパフォーマンスに個人所有している気球など実に多彩。一人で五つもの楽器を演奏する姿はまごうことなき変態。『三奇人』と呼ばれる校内随一の奇人変人の一角に数えられる。
ひょっとしたらアクシズ教徒なのかもしれない。