「えっと、ダクネスさんは行かないの?」
ダクネスというのはこの金髪の女性か。彼女はこのパーティーに入ろうとしているらしい。一体何が目的なのだろう。
彼女が言うには、職業の中でも地味な盗賊系の数は少なく、派手な前衛職の割合は大きいらしい。なので臨時パーティーの誘いもクリスより少ないのだとか。
ほどなくして臨時パーティーが見つかったらしいクリスは、数名の他の冒険者と共にギルドから出ていった。めぐみん曰く、ダンジョン探索の際は入口付近でキャンプし、翌朝から探索を開始するのだとか。
「それで、カズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」
説明に続くめぐみんの問いに、和真はニヤリと笑った。
「ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、『スティール』ッ!」
彼の握り拳から青い光が一瞬だけ漏れ、気がつけば、彼の手にはめぐみんの持っていた
そう、めぐみんのぱんつである。
・・・やはりゲスマだった!ひまりもぱんつを強奪したのは深鳥先輩から、しかも彼女が酷い偏向報道をやらかした時に一回だけだというのに!
「・・・なんですか?レベル上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?・・・あの、スースーするのでぱんつ返してください・・・」
「あ、あれっ⁉お、おかしーな。こんなはずじゃ・・・ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」
たしか和真の幸運値は凄く高いって話だった気が・・・もしや彼は無意識に少女の下着に興奮する変態予備軍・・・?
これではダクネスさんも仲間にはなりたがらないだろう。顔を真っ赤にして身を震わせている。彼女はバンとテーブルを叩いて立ち上がり、
「やはり、やはり私の目に狂いは無かった!こんな幼気な少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、なんとい鬼畜・・・っ!是非とも・・・!是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」「いらない」
「んんっ・・・⁉く・・・っ!」
工工エエエ(´Д`;)エエエ工工
この人変態だー!・・・人は見かけによらないってやっぱり本当なんだな・・・
見れば和真も彼女を駄目なものを見る様な目になっている。このくらいなら日々の彩りって事でいい・・・のか?流石に本気でヤバい事態になりそうなら性癖優先はしないだろうし・・・
「・・・実はなダクネス。俺と聖、アクアは、こう見えてガチで魔王を倒したいと考えている」
そう、俺達の目的は魔王討伐。
ダクネスがこれを聞いて怯えるようなら別に構わない。魔王を倒すとは、つまりそういう人達を助けるための仕事だ。その一人の顔と名前を知って何か問題がある訳でもない。
だが、それでも彼女がこのパーティーに入るのなら心強い。ガチガチの前衛職の様だし、俺のゴーレムとは違う活躍ができるだろう。
「丁度いい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。俺達は、どうあっても魔王を倒したい。そう、俺達はそのために冒険者になったんだ。という訳で、俺達の冒険は過酷な物になる事だろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」
「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場が決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」
「えっ⁉・・・あれっ⁉」
「えっ⁉・・・なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」
いや、一人で楽しむ分には別にいいのだが、この調子だと性癖のせいでパーティー全体が危機に陥る、なんて事は・・・
「・・・もし、積極的に人里に現れて女性を襲う・・・触手のモンスターがいたとして、どうする?」
思わずこんな質問を投げかけてしまう。それに対してダクネスは、
「しょ、触手⁉それは実に興奮す・・・い、いや、人里を襲うのなら野放しにもできないか・・・な、なら私が皆の盾となろう。仮に私一人だけでも、それくらいはできるだろう・・・その結果、私が帰れなくなったとしても、それは騎士の責務だ!うん、そうだ!」
・・・ならいい。
「いや何『これなら大丈夫だ』って顔してんだ⁉どう考えても性欲だだ洩れだったろ⁉」
でも人々の盾になるという志は立派だ。そこで多少の性欲を出しても結果さえ大丈夫なら問題ないだろう。無論、意味のない犠牲を出すのなら折檻でもするべきだが。
「なんでそんな馬鹿正直な・・・まあ、めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺達は。もし冗談か何かだと思ってたなら、無理して残る必要は・・」
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」
二人ともやる気と希望に満ち溢れている。理屈と損得勘定だけで動くような大人は彼女達を嗤うだろうが、その輝きは時に大きな力になると俺は信じている。閉塞した夢ノ咲学院の時計の針を進めたTrickstar、そして彼らを支えた
彼女達と一緒なら、俺達はもっと輝ける。どんな苦難が待ち構えていても、己の道を邁進できる者は強いのだ。
「・・・ねえ、カズマ、カズマ・・・私、カズマの話聞いてたら何だか腰が引けてきたんですけど。何かこう、もっと楽して魔王討伐できる方法とか無い?」
・・・ま、まあ、そういう風に魔王に怯える人達を助けるのが俺達の仕事・・・いややっぱお前が一番やる気出すところな気もするが。
・・・と、その時。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
街中に大音量のアナウンスが響く。
「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターが街に襲撃に来たのか?」
少し不安気な和真だが、対するめぐみんとダクネスはどことなく嬉しそうだ。
「・・・ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の季節だしな」
話には聞いていた通り突発的な収穫依頼だ。
和真達の事も気になるが、今回俺は他の冒険者とは違う依頼で動く事になっている。三人はどういうクエストか分かっていそうだし、俺は一足先にギルドに向かう事にしよう。
────────────────────
時はまず一週間前に遡る。
その日俺は『裁縫』スキルの練習のため、服屋か何かから安い端切れをいくらか手に入れようと街を歩いていた。
「あ、あなたはあの時の・・・」
その時、俺は冒険者登録の時の受付の人に偶然にも再会した。
それだけならまあ、少し立ち話をするかどうか、という程度だったが、彼女は俺に話すべきか悩んでいる事があるらしかった。
「あなたはたしかクリエイターでしたね・・・ちょうど、クリエイター向けの依頼があるのですが、お時間はよろしいでしょうか?」
彼女――――ルナさんに話を聞いたところ、近々アクセルでキャベツの収穫が行われるそうだ。
そのキャベツは力こそそれ程でもないが凶暴で、キャベツを入れるための網や袋は強靭な物が求められるそうだ。
・・・この世界のキャベツは暴れるのか・・・氷野さんみたいな人がこの世界にもいたのか・・・?
それはさておき、例年はそれを業者に発注しているのだが、今年は街道をモンスターに占拠されたらしい。この辺りのモンスターの平均よりは上のモンスターだが、少し遠方になら対処できるパーティーは少なくないらしい。そのうち街道もまた通れるようになるだろうが、それを待っていては収穫に間に合わない可能性が高いのだとか。
それで、今年はなるべくアクセルでも網や袋を作成する事になったらしい。
やり方は変わるが、君咲学院でいくらでもやってきた人助けと同じ様なものだ。何個でも作ろう。ヘルプマンの呼び名の由来・・・たっぷり分からせてやろうッ!
「ああ、いえ、やる気があるのは結構なのですが、空いた時間に進める程度でもかまいませんよ?報酬もあまり高額ではありませんし・・・」
そうか。ならば人は少ないだろうし困っていることだろう。何個でも作ろう。
「は、はあ・・・まああなたがそれでいいのなら咎めませんが・・・」
そんなやり取りの数日後である昨日、大量制作した網や布袋をルナさんに持って行ったところ、彼女はまた困っているらしかった。
「あなたですか・・・作った物はそちらに置いておいてください。後で確認しま・・・ええっ⁉何ですかこの量⁉これだけあれば当日には十分なんじゃ・・・」
それはそうと何か困っているのではないですか?俺でよければ話を聞きますが。
「実はギルド職員数名が食あたりで病院に・・・数日で復帰できる程度の症状なのですが、連絡によればキャベツ収穫は後三日以内での開始が見込まれているのです・・・キャベツの仕分け等で、当日は多くの人手が必要なのですが・・・」
それなら俺が手伝おうか?どの冒険者が持って来たキャベツかを区分するくらいなら俺にもできるだろう。
「え・・・その申し出はありがたいのですが、一玉数千エリスですよ?特に今年のキャベツは出来がいいですし、あなた程の冒険者なら収穫に回った方が良い稼ぎになると思うのですが・・・」
こんなに面白そうな行事なんだ。こんなトラブルで失敗してはそれこそ勿体無い。それに・・・
「困ってる人を助けるのは当たり前・・・」
・・・ルナさんを見ると、とても驚いた様に目を見開いている。
「・・・いえ、なんと言いますか、そんな風に人のために働ける冒険者の方って、なかなかいませんよ。大体は嫌がって避けるか、下心が透けて見える様な方か・・・まあ、なぜかこの街ではあまりそういった目で受付嬢を見る方が少ないのですが・・・私って女としての魅力が無いんでしょうか・・・?」
話が別の方向に飛んでますよ・・・しかしこれはどうやってなだめれば・・・こういう時は女の魅力を肯定する様な言葉を・・・
「俺も、まったくそういう目で見ない訳じゃ、ない・・・」
「っ・・・!」
あ、やってしまった?こうなったら話を早急に切り上げるしかない!
「キャベツ収穫が始まったら、ここに来ます。それでは・・・」
「あっ・・・」
こうして俺は依頼を半ば強引に受け、すみやかに帰宅(馬小屋に帰るのはこれでいいのか?)したのだ。
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あの後つい自罰的になってしまい、夜中に月を見ながら一人で泣いていたのだが、泣いたからといって俺の非礼が許される訳ではない。今日はまず謝らなければ。
「・・・・・・」
「あっ・・・ええと・・・」
ああ、困らせてしまっている。
「・・・ごめんなさい」
「え?ええっと・・・」
「・・・昨日、変な事を言って、謝らずに逃げてしまった」
「あ、ああ・・・その事なら、気になさらなくていいです。本日は、キャベツ収穫を行った冒険者の収穫物に、こちらのタグで名前を記してください。受け取りは私が行いますので、その時に読み上げた名前をあなたがタグに書いてくださいね」
良かった、あちらはどうやら気にしていない様だ。・・・顔がリンゴみたいに真っ赤だが。
ならばこちらも気にせず仕事に専念するとしよう。
「今日はよろしくお願いします」
「・・・はい、よろしくお願いしますね」
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君咲学院3-C所属。黒髪おさげの(見た目)典型的文学少女。
新聞部の部長。校内を駆け回りスクープを探している。しかし、新聞の内容に関しては大衆の目を引く事を優先し、情報の確度は放送部に比べ低い。実はお爺ちゃん子だったり、体温の上昇で記憶を失う特異体質だったりする。
生徒会にとって不名誉な記事を捏造した報復行為として、
・Trickstar
夢ノ咲学院のアイドルユニット。
夢ノ咲学院に転校して来た主人公が最初にプロデュースする事になったユニット。最初は未熟な点も多かったが、