「・・・なんでお前はこんなところにいるんだ」
仕事だ。
「すみません。彼がどうしても、といった具合で・・・」
それはさておき和真よ、そのキャベツを受付に渡してもらおうか。あまり長く居座られると受け取りに支障が出る・・・感じでもないな。まだキャベツ入りの布袋は二桁もない。袋の重さは人によってまちまちだが、彼の持って来た袋の重量感を考えるとトップクラスの収穫スピードではなかろうか。
まあこっちも一応クエストという形で受けてるからな。報酬金もしっかりある。俺の事は気にせず収穫に励むといい。
「まあ俺に迷惑とかかからないならいいけど・・・」
そう言って和真は次の布袋を貰い、またキャベツ収穫に戻っていった。
そしてしばらくして、一人につき一つ最初に配られる布袋を三つ抱えたダクネスがやって来た。誰のものだろうか?
「本当にここにいたのだな・・・ああ、これはアクアとめぐみんの収穫したキャベツだ。キャベツ収穫に乗じて現れたモンスターをめぐみんが爆裂魔法で一掃したから、今日はもう動けないらしい。キャベツ自体は数えるほどだが、モンスター討伐の分は期待できる筈だ」
なんと、さっきの爆音はそういう事だったか。どうやら大事には至っていないらしいし、他の野良モンスターも爆音を恐れて手を出してはこない・・・と信じたい。
ともあれ袋はまだある。アクアの分も取って行ってかまわないし、その辺で少しくらい休憩していてもいいぞ。
「ああ・・・ところでどうしてお前はこんなところで事務仕事をしているんだ?お前の実力は知らないが、収穫の方に行けば一攫千金も狙えるのだぞ?」
お前もそれを聞くのか・・・
「・・・このクエストには、成功して欲しかった」
「つまり・・・自分以外の多数の冒険者のためにやっている、と?まるで為政者の鑑の様な奴だな・・・」
俺は貴族じゃないんだが。というかその残念そうな顔は何なのか・・・そういえばこの人は変態だったか。もう少しゲスな方が良かったのだろうか。
「いや、別にダメという訳ではないが・・・しかし聞いた通り喋らないな。何か事情があるのか?」
「無い」
「そ、そうか・・・」
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キャベツの収穫を終えて、俺とギルド職員達はキャベツの仕分けに入っていた。
こうして収穫されたキャベツが全て同じ品質の筈が無く、こうして人力で仕分けているのだ。特に、中に混じっているレタスは経験値が得られず、捨て値同然の価格になるのだとか・・・カルチャーショック感じた・・・
俺は言われた冒険者の持って来た袋をギルド職員に渡している。本当なら品質の査定に回りたいのだが、飛んだり暴れたりするキャベツでは地球とは勝手が違うかもしれないため、そちらは遠慮している。
「うおっ・・・こいつは多いな。50は超えてるんじゃないか?」
「しかもこれ、質の良いキャベツが多くないですか?パッと見た感じですけど」
「おお!こいつはもしかすると100万超えいくんじゃないか⁉」
彼らが今見ているのは和真が持って来たキャベツだ。どうやら大活躍だったらしい。念願の無双だぞ、良かったな。
しかし数が多い。毎年大量のキャベツが収穫されるため、よほどの不作でなければ一日では終わらないらしい。明日からギルド職員は査定漬けらしいが、和真達の事が気になる。
「すみません。明日はこれるかどうか、分からない、です」
「いえ、本当なら正規の職員だけでやる仕事ですし、今日まで随分と頑張っていましたから、こちらとしてもこれ以上そちらに迷惑をかけるつもりはありませんよ・・・」
ルナさんはそう言って申し訳無さそうに、しかし僅かに名残惜しそうにこちらを見る。
これは・・・いわゆる恋愛フラグかな?日本でも何人かとこんな雰囲気になったし、場合によっては気づかないフリをするしかないのだが。
しかし女性職員の一人は俺達を見てニヤニヤと笑っている。あれは星海さんと俺が一緒にいる時のつゆりの目だ。あの頃のように
思えば君咲学院に来てすぐの頃は、前の学校がイケメン揃いだったために、「もしや」と思っても気のせいで済ませていた。それがどんどん多くなり、「好かれている」と認識した頃には対処法が分からなくなっていた。中には俺がいなければ危険(誰が、とは特定しない)な娘も複数人いたために、誰か一人と恋愛関係になるのも躊躇われた。
もしかしたら俺はこの世界に骨を埋めるような選択をするかもしれない。そうしたらこっちの女性と付き合う事になるのかもしれないが、彼女達が無事かどうかとか、俺が実はこの世界の人間ではないとか、彼女達がちゃんと一人立ちできるのかとか、諸々の悩みを受け入れられる女性でなければならないだろう。
ルナさんがそういった事柄を受け入れられる人間かはまだ分からない。だが今までの事を考えると、それを見定める間に誰かとフラグが立つかもしれないし、それを避けて人に優しくしないというのも無理だ。今更生き方を変えられるほど俺は器用ではない。
ひょっとすると自嘲が混じっているかもしれない笑みを浮かべ、俺は作業に戻った。
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今日の分の仕分けを終えギルドに戻ると、和真達はキャベツ料理を囲んで晩御飯を食べていた。そこにはダクネスもいて、今日の事で盛り上がっている様だ。
「おお、サトシも来たのか。では・・・名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」
こちらこs・・・待て、攻撃が当たらないって本当なのか?
「どうも本当らしいぞ・・・今日も一応何度か剣を振ってたけどほとんど当たらなかった」
それで彼女の収穫が少なめだったのか・・・明日にでも特訓をつけねばならないかもしれない。俺も一つ試してみたいことがあるし、和真の稼ぎが大きそうだからお金も大丈夫だろう。
「・・・ふふん、ウチのパーティーもなかなか、豪華な顔触れになってきたじゃない?アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そして、防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス。五人中三人が上級職で一人が生産もできるなんてパーティー、そうそうないわよ?カズマったら凄くついてるわよ?感謝なさいな」
ふむ、ポーションを代表する消費アイテムを自前で生産できれば金銭面で大分違うだろう。ダクネスの攻撃能力さえどうにかなれば確かに凄そうだ。他の冒険者パーティーがどんな感じなのかは知らないが、なかなか隙の無いパーティーに見える。実情は隙だらけではあるが。
「んく・・・っ。ああ、先ほどのキャベツやモンスターの群れに蹂躙された時は堪らなかったなあ・・・このパーティーでは本格的な前衛職は私だけの様だから、遠慮なく私を囮や壁代わりに使ってくれ。なんなら、危険と判断したら捨て駒として見捨てて貰ってもいい・・・んんっ!そ、想像しただけで、む、武者震いが・・・っ!」
・・・・・・天は二物を与えず、とはよく言ったものだ。俺達全員どこかしら問題のあるパーティーばかりじゃないか。だが日本にいた時もそんな尖った人は多くいた。
「それではカズマ。多分・・・いや、間違いなく足を引っ張る事になるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これから、よろしく頼む」
・・・まあいい、これから成長していけばいいんだ。
「こちらこそ、よろしく頼む」
和真の表情ににわかに絶望感が混じったが、まあ一緒にいれば良いところも見えてくるさ。
今回、
この世界線での転校生君はこんな感じです。