この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 ハロウィン記念短編。こんなサブタイだけどハロウィンを意識しました。した筈だったんです(明らかに添え物レベルのハロウィン要素)


異世界に再臨する龍

 本来なら誰もが寝静まる夜半、アクセルの街を一体の龍が闊歩する。

 

 (いびつ)な姿をした黒い龍は口から雄叫びをあげ、無数の死霊を引き連れながら一歩一歩、己の威容を見せつけるかのように気ままに歩く。

 

 街の住民は我先にと逃げているが、逃げ遅れた者は物や建物の陰でじっと息を潜めている。龍はそういった者達に興味を示さないが、その様子を冒険者ギルド所属の盗賊達が密かに観察している。

 

 俺────天光(あまみ)(さとし)はそれを呆然と見つめていた。

 

 ────この光景を作り出した原因の一つとして。

 

 

 

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 事はまず一週間前に(さかのぼ)る。

 とある農場を狙う盗賊を捕縛するために、俺を含めた十人ほどの冒険者が動員されたクエストがあったのだ。ちなみに和真達は別行動。

 単純に防衛用の小型ゴーレムを数体配備して適宜(てきぎ)動かしていれば、まあ達成できる依頼だったのだが、日本ならそろそろハロウィンが行われているかという気候だった事、今後の事を考えると他の賊に対しても威圧できるような結果が欲しいと依頼主が漏らした事、後は最近無性に誰かを甘やかしたい気分だった事・・・それらの事を考えた結果、俺はあるモノを造る事にしたのだ。

 

「こ、これは・・・・・・!?」「ドラゴン・・・・か?」「鱗とかかなり本物っぽいぞ・・・」

 

 かつて、君咲学院における文化祭で校内に現れ、演劇部の本気を知らしめた超大型舞台装置『ヘルドラゴン(正式名称:ヘルプマンドラゴン)』・・・あれを造るのに主体となった演劇部の少女、遠見(とおみ)ちかはこの世界にはいないが、足りない技術力をゴーレム作成技術で補う事で高い完成度を実現したのだ。それでも随所の品質が本家ヘルドラゴンに劣るが・・・

 よし、これの名前は『レッサー・ヘルドラゴン』だ。より本物に近い外見にできるまでは劣った(レッサー)ヘルドラゴンだが、いつの日か真のヘルドラゴンに至れる時が来ると信じて・・・・・・! 

 

 そんな調子で始まった防衛クエストだったが、思った以上にあっさり片付いてしまった。

 夜、周囲の警戒に俺も当たっていた時間、近くの森の中から何かが動く気配がした。

 俺は召喚魔法の応用で、屋内に押し込んで隠していたレッサー・ヘルドラゴンをその場に瞬間移動させ、その背部から搭乗する。レッサー・ヘルドラゴンに付けた暗視機能を使用するためだ。

 そうして見えた先には・・・・盗賊らしき男達、ざっと十人とちょっとがこちらを見て、一様に怯えている姿だった。しかし怯えているとは言っても、足を竦ませている者、少し刺激すれば爆発してしまいそうな者、あるいは後ろの仲間を守ろうと震える手で武器を構える者など、その様子は多彩だが、これでは全員を一網打尽にするのは難しそうだ。

 

「お、お前達は・・・・逃げろ。俺達が時間を稼ぐ」

「あ、兄貴・・・! でもそれだと・・・・っ!」

「・・・・・・気にするな。こんな生き方を決めた時から、まともな死に方なんて期待してないさ」

 

 ───こいつら・・・・

 

 本家より黒めの鱗を持つレッサー・ヘルドラゴンは、この夜闇の中では十分本物らしく見えるのか。あるいはアングルの加減で、俺がドラゴンに変貌したようにでも見えたのかもしれない。

 彼らの仲間意識に関心したが、俺はある手段を思いつく。俺は盗賊達────特に逃げ出しそうな者の足元からゴーレムの腕を作り出し、彼らを捕縛していった。

 

「うわああぁぁぁぁっ!!な、何だこれ・・・・っ!」「す、凄い力だ・・・っ!」「ま、まさかあのドラゴンが・・・!?」

 

 武器を構えている者達の捕縛は最後になったが、彼らは一様に無抵抗で捕縛されていった。その顔には諦めの表情が浮かんでおり、抵抗しなかった理由は何となく察しはついた。

 彼らの仲間意識の高さや口振りを考えると、何か大変な事情が彼らにはあるのかもしれない。しかし彼らだけに生活がある訳ではない以上、今回は俺達を頼って依頼を出したこの農場の主を優先する。詳しい話は刑務所でするのだろうが、その時には俺も話を聞きたいな。

 俺は彼らに対しスリープの魔法を使い、依頼主に報告に向かった。

 

 

 

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 その後で他の盗賊が現れるような事もなく、クエストを達成した報酬を分配しそれぞれ帰路につく。レッサー・ヘルドラゴンの持ち運びには困る・・・事もなく、屋敷に着いて召喚するまでは農場に置かせてもらえる事になった。

 

「・・・・何というか、今回は分かりやすくチートって感じだな」

 ───和真、()ねてる? 

「拗ねてない」

 

 拗ねてないらしい。そういう事にしておこう。

 

「これは・・・・すごい出来ですね・・・爆裂魔法の的にしてもいいでしょうか?」

 ───いや何で!? 

「これを破壊した暁には、私は黒龍を破壊せし大魔法使いとして家族に自慢できると思うのです。既に私はデストロイヤーやバニルなどの超大物を倒していますが、ドラゴンについては実物と戦うあてが無いのです・・・見つけさえすれば、我が爆裂魔法が負けるはずは無いのですが」

 

 めぐみんには根気よく説得をし、これの出来栄えに俺がまだ納得していない事、更に完成度の高いヘルドラゴンが誕生した暁には爆裂魔法を向けてもいいと理解してもらえた。

 

「物語などでは、こういった龍は姫を攫ったりするのが定番ではあるが・・・ま、まさか私を連れ去って、あ、あんな事や、こんな事までさせるつもりなのか!?」

 ───お前は何を言っているんだ。

 

 ダクネスは・・・うん・・・・・・

 

「大きいわねー・・・・炎とか吐いたりするの?」

「中から魔法を使えば」

「あー、こっちにはガスバーナーとか無いわよね・・・」

 

 アクアに聞かれたが、現状ではヘルドラゴンの機能は移動なども含め魔法に頼りきりだ。元祖ヘルドラゴンは多数のレバーだけで操縦していたが、これは魔力で動くようになっている。一応、誰の魔力でも動かせるような作りにはしているが、ゴーレム操作の知識が無いと使えない機能もいくつかある。こんな世界だからと戦闘用の機能もいくつかあるが・・・和真が運用できるくらいが望ましいか。

 

 ともあれ、変なテンションで造りあげてしまった一品だ。二代目ヘルドラゴンになれる日まで、屋敷の物置にでも閉まっておこう。

 

 

 

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 そう。そうだ。ちゃんとレッサー・ヘルドラゴンは物置に入れ、鍵も掛けた筈だ。

 だがしかし、実際にあれは物置を抜け出し、夜のアクセルを闊歩している。

 明らかに異常な事態だ。あれはそもそも厳密には装備の一種であり、あれ単体で動く筈がないのだ。

 怪しいのは同じ屋敷に住み、鍵を置いている場所も把握している仲間達という事になるが、彼らは俺が起きた時────物置の方から何かが崩れるような音がした時に全員姿を見ている。彼らではありえない。

 

「・・・もしかしたらあの子かも。この家に住み着いてる幽霊の女の子」

「ああ、アンナちゃんだっけ?あそこのお墓に名前の刻まれてる。あれってお前の作り話じゃなかったのか」

 

 和真のその言葉を聞いて怒り心頭、といった様子になるアクア。俺はその時はアクセルにいなかったが、屋敷に入り込んだ浮遊霊が人形に取り憑いた事があったらしい。あのレッサー・ヘルドラゴンに憑依して動かすのも十分あり得る話か。

 

「だが、あれはちゃんと動かせているのか?私には、動かし方がよく分かってなさそうに見えるのだが」

「そういえば、出てきた直後はふらふらした足取りでしたね・・・」

 

 ダクネスとめぐみんの言う通り、あれは先日のクエストで使った時ほどの性能を発揮できていない。歩き方はそれなりにさまになって来ているが、唐突に雄叫びを上げ、尻尾を振り回す姿は正に初心者だ。あの調子だと何かしら事故を起こしそうな・・・・

 

「ちょっ、火!火ィ吹いてるぞ!あの機能いるのかよ!?」

 ───戦闘も想定しているからいる・・・でもうっかり出してみてビビったっぽいな。動きが急に小さくなった。

 

 流石に俺達が対処するべきか・・・と考えた時、盗賊の投げたダガーがレッサー・ヘルドラゴンの喉に刺さった。あの場所なら、首から上の機能は停止したと見ていいだろう。

 だが、頭部にしか攻撃能力が無いようなへなちょこドラゴンではない。

 

「っ!? 首が・・・・・取れた!?」

 

 ダガーを投げた盗賊が驚愕の声を上げる。レッサー・ヘルドラゴンは機能停止したパーツを切り離す事で、ボディの軽量化をすることができるのだ。バランスの急激な変化についてはまだ未対応だが・・・・

 

「・・・・・・あ、アンナちゃん、逃げ出したわ」

 ───俺にも何かの霊が屋敷に飛んでいくのが見えた。女の子かは分からないけど。

 

 とりあえず、動かなくなったレッサー・ヘルドラゴンを回収するために駆け寄ると、さっきの盗賊の姿がはっきりと見えた。

 

「・・・あれ?ダクネス久しぶり・・・お仲間さんも一緒か・・・・ところで、何でこのタイミングで出てきたのかな?」

 

 その盗賊はクリスだった。以前、ダクネスとパーティーを組んでいた少女であり和真に《窃盗》などのスキルを教えた人だ。

 

「俺が造ったものに、幽霊が取り憑いたから」

「え?造ったって・・・・・・あっ、これ作り物か!暗いから微妙に判別し辛いのもあるけど、こんなの造る人がいるなんて思いつかないから気づかなかった・・・これは負けたわ・・・・・・」

 

 どうやら俺のレッサー・ヘルドラゴンはこんなところでも通用したらしい。肝心の俺がまだ完成度に納得できていないが、この際しばらくは戦闘能力を高める方に尽力しようか・・・・

 

「・・・・ところで、これがあなたの造った物っていうのなら、幽霊が出る場所に放置したって事で管理責任を問われる可能性もあるね。街に大きな被害とかは出てないけど、早いうちに迷惑料とか払っておいた方がいいんじゃない?」

 

 ああ、そっかぁ・・・・・・

 

 

 

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 翌日、俺は先日のクエストの報酬を手に、レッサー・ヘルドラゴン(inアンナちゃん)が歩いた辺りとギルドを回り、迷惑料とついでにお菓子を配って歩いた。ゴーレムの技術を利用して自動化に成功した金平糖だ! なお、魔力の消費が地味に大きいため滅多に動かさない設備である。

 

「そういや、地球だったら秋はハロウィンだよな」

 

 一通り回り終え、レッサー・ヘルドラゴンを掃除しているところに和真が呟いた。お菓子を配る行為がハロウィンを連想させたか。まあ俺もハロウィンを意識してお菓子を添えたんだが。

 

「こっちの世界にはハロウィンの風習が無いのよねー・・・日本人もこの世界でハロウィンを広めるのはやらなかったみたいなのよね」

 

 この世界に多数の日本人を転生させていた女神、アクアはそう語る。

 

 ───今の日本ではコスプレするイベントみたいになってるけどな。

「街で一人だけ奇抜な恰好してても痛い奴扱いされるだけだからねー」

「思った以上に現実的な理由だった・・・」

「でもアルカンレティアなら何も問題ないわ! 何なら最近はアクシズ教の新しい祭りとして徐々に普及しつつあるし!」

 

 アクシズ教徒はハロウィンをどんな奇祭に変えるつもりだろうか。その思いはどうやら和真にもあるらしい。

 

 ───来年のこの時期は、アルカンレティアにも行ってみるか・・・・?

 

 そんな事を考えていると、アクアがレッサー・ヘルドラゴンを乗せた台車をアンナちゃんのお墓の所まで引いていき・・・お墓の上に龍を降ろした。

 

「今回はアンナちゃんのせいで迷惑かけられたから、ちょっとお墓を踏むくらい問題ないわよ!むしろ反省してもらわなきゃ!」

 ───それでいいのか・・・?

 

 見知らぬ少女が、苦い顔をしてお墓を見つめている気がした。


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