「ハア・・・ハア・・・た、たまらない、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色艶・・・ハア・・・ハア・・・ッ!」
めぐみんが手に入れた杖は相当強力なものだったらしく、若干変態的に見える勢いで興奮している。一応俺も魔法使いの端くれと言えるが、その杖からは確かに強力な力が感じられる。マナタイトは杖に使うと魔法の威力を上げる効果を持つらしいし、少なくとも普段の店売りとは大違いの代物だろう。
そしてそんな高額な杖で、めぐみんは爆裂魔法を更に強化するのだ。その大威力にどれほどの意味があるのかは知らないが。
見ればダクネスも同様に、新調した鎧を和真に見せびらかしている。やたらと装飾が凝っているようだがあれも高価だったのだろう。実際の性能はどうなのか知らないが、流石に見かけだけの代物ということはないだろう。
少なくとも、結局何も買わなかった俺達よりは良い装備の筈だ。
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「さあ、早速討伐に行きましょう!それも、沢山の雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!」
「まあ俺も、ゾンビメーカー討伐じゃ、結局覚えたてのスキルを試す暇もなかったしな。安全で無難なクエストでもこなしにいくか」
「いいえ!お金になるクエストをやりましょう!流石にサトシに借りっぱなしじゃ私、夜しか眠れないんですけど!」
「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ちいい、凄く強いモンスターを・・・!」
皆はこれからどんなクエストを受けるか議論している。
装備を更新した二人がどれほど変わったかは知らないが、普段のこの辺りのクエストなら難なくクリアできるだろう。
だが・・・
「?・・・どうした
―――見れば分かる。
「一体何が・・・あれ?何だこれ、依頼が殆ど無いじゃないか」
そう。普段は所狭しと依頼が貼られ、冒険者達に存分に行き渡るくらいはある掲示板が、今日だけは全然依頼が無いのだ。
そして残っている依頼は全て駆け出しにとって高難易度の、外部から来た冒険者向けらしいクエストばかりだ。レベル3,40くらいまで上げなければ普通にクリアするのは極めて困難なクエスト群を選ぶほど今はお金に切迫していないのだが。
そんな俺達のもとに、ギルド職員がやって来た。
「ええと・・・申し訳ありません。最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着きまして・・・その魔王の幹部の影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるらしいので、それまでは、そこに残っている高難易度のお仕事しか・・・」
俺は依頼の内容をざっと見てみる。
『山に出没する、ブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐』
『マンティコアとグリフォンの討伐』
『近隣に
・・・どれもこれもヤバそうだ。単体かつ敏捷性も高くないという、比較的やりやすそうなブラックファングさえも、領主の出した兵士達が死屍累々となって帰ってきた程の危険モンスターらしい。
「な、なんでよおおおおおっ⁉」
アクアの絶叫がギルドに響いた。
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それからというもの、俺達は依頼を受けず、それぞれ自由に生活していた。
めぐみんは何処ぞに爆裂魔法を一日一回放ちに行き、和真がそれに付き添っている。
アクアは毎日バイト三昧だ。俺も街で時々彼女を見かける。
そして俺は今日、実家で筋トレをしていたダクネスを呼び出している。
せっかくだから、彼女には《両手剣》辺りのスキルを取得して欲しいのだ。
彼女は攻撃が当たらないというただ一点だけで一気に扱い辛くなっている。現状で高い火力を出せるのがめぐみんの爆裂魔法一回分だけである以上、いくらダクネスが壁として機能しても処理が追い付かない。一撃で大軍を薙ぎ払うような力とは言わないが、素通りはさせないくらいの攻撃力(というか命中率)が欲しいところだ。
・・・おっと、ダクネスが来た。正直に理由を告げると断られそうだから伏せておいたのだが、聞き入れてくれるかどうか。
「サトシか。急に私を呼び出して何をするつもりなのだ?」
「・・・両手剣スキルを覚えて欲しい」「嫌だ」
・・・・・・
「・・・素通りとかされないのか?」
「問題ない。私はデコイという、他者からの敵意を自身に集めるスキルを持っているからな。そこの通りを埋め尽くすくらいの数が相手なら、私が全て受けきるさ」
そういうスキルがあるのは知ってたが、ダクネスはそれをかなりの水準で使いこなしているようだ。
「・・・でもあれは、一部のモンスターには効きにくかった筈」
そう。その手のスキルは、ゴーレム等の意志を持たない存在や、精神系の効果に高い耐性を持つ高位の悪魔なんかには効きが悪いのだ。
それでも、敵意を向けさせる対象が脅威と認識されているのなら効果は確かに現れる。しかしまともに剣が当たらないような相手をどれだけ脅威に見せられるのか。
「むう・・・だが、私はスキルポイントをデコイと防御系スキルにのみ割り振っている。今更両手剣に割り振るポイントは・・・」
なら特訓すればいい。特訓によってスキルが発現するパターンもあるらしいし、俺もそのパターンだった。
「む、組手をして習得するのか。そういうのは該当するスキルを持った者が指導するのが常識だが、お前も両手剣スキルを・・・ん?その冒険者カード、もしやお前が私に教えるのか?両手剣スキルを?」
―――そうだが、何か問題でもあるのだろうか。
「いや、お前はクリエイターだと聞いていたし、魔法補助の腕輪を装備しているから後衛だと思っていたのだが・・・剣も扱えるのか?」
ダクネスのその問いに、俺は素振りで返す。
俺の剣技は実のところ他人の剣を見て覚えた、云わば見様見真似の剣だ。
君咲学院の剣道部員はしばしば刀を振り回していた。衝動的に振り回したり、何か良くないモノに憑りつかれたり、まあ時々だが危険だったため、それを取り押さえるために動いたことも何度かある。他者が取り押さえる過程を見たことも。
そんな中で剣術について多少の理解を得たのはある意味当然だろう。元の型とはだいぶ離れているが、少なくとも当たりはするだろう。
そして魔法で土の柱を作り、それに斬りかかる。柱は斜めに両断され、上側の部分が地面に落ちた。
───やってみろ。
「・・・これに攻撃しろと?分かった・・・てりゃああ!」
・・・刃は届いたが、踏み込みが足りない。半ば程しか斬れていないではないか。
とりあえず土柱を修理して、もう一度やってみるよう促す。
「むう、もう一度やるのか。これに何の意味が・・・」
「ソォイ!」
「ぬあっ!?何故いきなり後ろから押す!?これは訓練なのでは・・・」
剣術というより身体ごと叩きつけたような形だが、土柱は見事に折れている。
───これでできた。
「いや折れたが!体当たりというのは騎士としてどうなのだ!?」
「踏み込みが足りなかった」
「む、確かに剣のリーチが微妙に足りなかった事は何度かあったが・・・だがそこまで踏み込むものなのか?流石に体当たりする勢いで斬りかかるとは聞いたことが無いのだが・・・」
「防御力が高いなら、多少無茶はできる。まず当たる距離を把握しろ」
俺の言葉に納得はしたダクネス。当面は自主トレに励むらしいが、俺に言われた事も検討してみるらしい。
俺はまあ人助けでもしようと考えているが、彼女に頼まれたらトレーニングの手伝いをするのもいいだろう。俺はそう思った。
ダクネス強化フラグ(振れ幅についてはノーコメント)。
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君咲学院2-C所属。紫のポニーテール。
剣道部の副部長でありながら生徒会の会計でもある。根本的には真面目。普段はおっとりした言動だが、常備している日本刀を抜くと豹変し、非情かつ好戦的な言動になる。わりと体は闘争を求める。生徒会随一の危険人物と言っても過言ではない。
持っている日本刀と脇差しには名前を付け、娘か何かのように可愛がっている。名前はそれぞれ『ぴょんぴょん丸』、『フランソワ』。作者がこのクロス小説を書こうと思ったきっかけ。
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君咲学院1-B所属。ショートカットの黒髪に、姉とお揃いの花の飾りを付けている。いちかの飾りは白。
剣道部所属で神社の娘だが現代っ娘でゲームが大好き。そして姉の
しかしながら悪霊に憑りつかれやすい体質で、君咲学院周辺に住んでいるためそういった事件も時々だが起こる。普段は剣道部の部長、副部長の剣技についていけないレベルだが、その状態では格段に戦闘力が増し、生者への憎悪を振るわせられている。