この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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現れる死の黒騎士

 あれから一週間。

 

 今日は予定もなく、とりあえず路地の清掃をしようと準備していたのだが、

 

「緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっ!」

 

 ルナさんの緊急アナウンスが街中に響き渡る。通りを歩いていた人々も何事かと顔を見合わせている。キャベツ収穫のように毎年恒例のイベントという訳ではなさそうだ。

 まだ馬小屋を出ていなかった俺達は、指示の通りに装備を整えて正門へと向かう。

 

 街の正門には俺達より先に集まった冒険者達も多くいた。

 だが、気迫も、存在感も、そこにいたモンスターは冒険者達を圧倒していた。

 

 そのモンスターはデュラハン。

 高位のアンデッドとして蘇ったそれは、人に死の宣告を与え、絶望を振り撒く首無しの騎士だ。

 

 全身鎧を身に纏い正門前に立つデュラハンは、人が増えたのを見計らい、左脇に抱えていた(おのれ)の首をこちらに差し出す。差し出された首は一対の角を付けたフルフェイスのヘルムに守られているが、そこからくぐもった声で話を始めた。

 

「・・・俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが・・・

 

 まままま、毎日毎日毎日毎日っっ!!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だあああああああー!!」

 

 ―――爆裂魔法。

 その習得の難しさ、運用面での諸々の問題点から、その圧倒的威力にも関わらずネタ魔法扱いされている魔法だ。

 それを習得できる魔法使いも、習得しようと思う魔法使いも、俺達は一人しか知らない。

 冒険者達の視線がめぐみんに集まり、彼女の目線はそこから少し離れた所にいた魔法使いの女の子に視線を向ける。

 

「ええっ⁉あ、あたしっ⁉なんであたしが見られてんのっ⁉爆裂魔法なんて使えないよっ!」

 

 めぐみんと和真は冷や汗を垂らしながら苦い顔をしている。彼女達はここ一週間、街の外で爆裂魔法を撃つのを日課にしていた筈だが、あのデュラハンの言葉と二人の様子から見るにその対象は・・・

 

 そしてめぐみんがため息を吐き、嫌そうな顔で前に出た。

 デュラハンから十メートルほど前に立つめぐみん。十中八九彼女の身から出た錆なのだろうが、和真と俺、それにダクネスとアクアもその後につき従う。

 

「お前が・・・!お前が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んで行く大馬鹿者か!俺が魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい!その気が無いのなら、街で震えているがいい!何故こんな陰湿な嫌がらせをする!?この街には低レベルの冒険者しかいない事は知っている!どうせ雑魚しかいない街だと放置しておれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって・・・っ!!頭おかしいんじゃないのか、貴様っ!」

 

 圧倒的強者のオーラを放ちながら至極常識的なことを怒鳴るデュラハン。

 その怒気にめぐみんが(ひる)むも、すぐに肩のマントをひるがえし、

 

「我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者・・・!」

「・・・めぐみんって何だ。バカにしてんのか?」

「ちっ、(ちが)わい!・・・我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、魔王軍幹部のあなたをおびき出すための作戦・・・!こうしてまんまとこの街に、一人で出て来たのが運の尽きです!」

 

 デュラハンに杖を突きつけ勝ち誇るめぐみんの後ろで、俺達は小声で話す。

 

「・・・そうなのか?」

「いや・・・あいつが『毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬ』とか言ってたから、爆裂魔法の後のめぐみんを運んでたんだ。場所に特に理由は無いな」

「・・・しかもさらっと、『この街随一の魔法使い』と言い張っているな」

「しーっ!そこは黙っておいてあげなさいよ!今日はまだ爆裂魔法使ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強気なのよ。今良いところなんだから、このまま見守るのよ!」

 

 俺達の囁きが聞こえていたらしいめぐみんは、ほんのりと顔を赤くしている。

 

「・・・ほう、紅魔の者か。なるほど、なるほど。そのいかれた名前は、別に俺をバカにした訳ではなかったのだな」「おい、両親からもらった私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 案の定というか、紅魔族の名前はこの世界でも独特らしい。俺や和真が名乗ってもあそこまで妙な名前扱いはされなかったと思うのだが。

 

「・・・フン、まあいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」

「それは、私に死ねと言っているも同然なのですが。紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

 じゃあ紅魔族の里は毎日ドッカン(爆裂魔法の音)バッコン(爆裂魔法の音)大騒ぎなのか!?

 

「お、おい、聞いた事ないぞそんな事!適当な嘘をつくな!というか後ろのお前、今本気でこの娘の言葉を信じただろ!普通に考えておかしいと思わないのか!?」

 

 大騒ぎじゃないのかー・・・

 

「聖お前・・・」

 

 和真達が俺を馬鹿を見る目で見ている。さっきまでデュラハンとめぐみんのやり取りに興味津々だったアクアも、そんなを俺に向けている。

 そしてデュラハンは右手に首を載せ、肩をすくめるような動作をして言った。

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気は無いと?俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味は無い。だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」

 

 デュラハンのその言葉は嘘とは思えない。

 全てを憎むような殺気、とは違うが、根本的に人間を仲間と見ていないのがわかる。あれがその気になれば、俺達を殺すのに躊躇(ちゅうちょ)はしないだろう。俺達が(はえ)()を潰すのに躊躇しない様に。

 

 だがめぐみんはその言葉に怯まずに答えた。

 

「迷惑なのは私達の方です!あなたがあの城に居座っているせいで、私達は仕事もろくにできないんですよ!・・・フッ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデッドのスペシャリストがいるのですから!先生、お願いします!」

「しょうがないわねー!魔王の幹部だか知らないけど、この私がいる時に来るとは運が悪かったわね。アンデッドのくせに、力が弱まるこんな明るい内に外に出て来ちゃうなんて、浄化して下さいって言ってるようなものだわ!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ、覚悟はいいかしらっ!?」

 

 めぐみんの声に(こた)え、アクア先生が得意げな顔で前に出る。この間はリッチーのウィズさんにターンアンデッドが効いていたし、対アンデッド性能は凄いのだろう。

 ・・・ふむ、これは『オイオイオイ、死んだわアイツ』とでもいう場面なのかな?既に死んでるけど。

 

 そのアクアに向けてデュラハンは自身の首を差し出す。様子を見た限り、デュラハンなりにアクアを注視しているのだろうか。少なくとも親愛の情は見えない。

 

「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか?この俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、アークプリースト対策はできているのだが・・・そうだな、ここは一つ、紅魔の娘を苦しませてやろうかっ!」

 

 そういってデュラハンは、アクアが魔法を唱えようとするより早く、左手でめぐみんを指差して叫んだ。

 

「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

 それと同時に、ダクネスがめぐみんを庇って後ろに隠した。

 ビームの類ではなかったが、ダクネスの身体は一瞬だけ黒く光っていた。今のところダクネスはダメージを感じていないようだが、おそらくあれは呪いだろう。

 先程の文言、そしてデュラハンが使う呪いといえば・・・!

 

「ふむ、そこの男はただの馬鹿かと思っていたが、勘は良いようだな・・・おそらく貴様の予想は正しい。さあ、俺が何をしたか言ってみるがいい」

「死の宣告・・・しばらくは何も影響は無いが、決められた時間が過ぎた時、相手を殺す呪い」

「正解だ。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者にはこちらの方が応えるだろう・・・よいか、紅魔の娘よ。このままではそのクルセイダーは一週間後に死ぬ。ククッ、お前の大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え、苦しむ事となるのだ・・・そう、貴様の行いのせいでな!これより一週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言う事を聞いておけばよかったのだ!」

 

 ―――やられたっ!

 

 死の宣告に防御力など意味を成さない以上、ダクネスの防御力をあてにすることもできない。このままでは・・・

 そう思っていると、ダクネスが口を開いた。

 

「な、なんて事だ!つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言う事を聞けと!つまりはそういう事なのか!」

「えっ」

 ―――えっ。

 

「くっ・・・!呪いくらいではこの私は屈しはしない・・・!屈しはしないが・・・っ!ど、どうしようカズマ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言う事を聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だっ!」

「・・・えっ」

 ―――ええ・・・

 

「この私の体は好きにできても、心までは自由にできると思うなよ!城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とかっ!ああ、どうしよう、どうしようカズマっ!!予想外に燃えるシチュエーションだ!逝きたくはない、行きたくはないが仕方がない!ギリギリまで抵抗してみるから邪魔はしないでくれ!では、行ってくる!」

「ええっ!?」

「止めろ、行くな!デュラハンの人が困ってるだろ!」

 

 保護者のようにダクネスを取り押さえる和真。ダクネスの目は確実にデュラハンの元へ行き、理不尽な要求をされたがっているものだった。

 ・・・うん、実は余裕なんじゃないか?一週間が過ぎても自然に復活してそうなレベルだ。

 

「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ!そして、紅魔族の娘よ!そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来る事ができたなら、その呪いを解いてやろう!・・・だが、城には俺の配下のアンデッドナイト達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着く事ができるかな?クククククッ、クハハハハハハッ!」

 

 最後にようやくかっこよく決めたデュラハンは、遠くに停めていた首無しの馬に乗り、高笑いしながら城へと去っていった・・・

 

 ────────────────────

 

 冒険者達が呆然と立ち尽くす。それは俺達も例外ではない。

 めぐみんもその中の一人、しかし一際顔を青くしていたのは、自分の責任を意識してしまっているのだろう。

 

「・・・今回の事は私の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法ぶち込んで、ダクネスの呪いを解かせてきます」

 

 めぐみんはそう言って、一人で街の外に行こうとする。

 

「俺も行くに決まってるだろうが。お前一人じゃ、雑魚相手に魔法を使ってそれで終わっちゃうだろ。そもそも、俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だって気づかなかったマヌケだしな」

 

 和真もそう言い、めぐみんと一緒に行こうとする。

 

 ―――まったく、二人だけで挑むつもりなのか?

「聖、お前も来るのか。お人好しだな・・・(いて)っ、なんだよ、『俺達は仲間だろう』って?・・・そうだな」

「俺の敵感知スキルで城内のモンスターを索敵しながら、潜伏スキルで隠れつつ、こそこそ行こう。もしくは、毎日城に通って一階から順に、爆裂魔法で敵を倒して帰還。毎日地道に削っていく・・・一週間の期限があるなら、そんな作戦でいってもいい」

 

 おお・・・!流石和真だ。それなら何とかなるかもしれない・・・

 

「おいダクネス!呪いは絶対に何とかしてやるからな!だから、安心「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」・・・」

 

 アクアはダクネスに魔法を使っていた。確か、あの呪文は結界や呪いなんかを解除するものだった筈だ。

 

「この私の手にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!どう?どう?私だって、たまにはプリーストっぽいでしょう?」

 

「「「・・・えっ」」」

 

 こうして、ダクネスの命は救われたのであった。

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