この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 新年、明けましておめでとうございます。
 話の都合上、今話は長くなりましたが、最後の書き溜めです。今後は宣言通りに不定期更新ですのでご了承ください。


女神の金策

 デュラハン襲来から一週間。

 ダクネスの命も含め、何事も無い平穏な日々だった。

 ・・・・受けられるクエストも無かったのだが。

 

「クエストよ!キツくてもいいから、クエストを請けましょう!」

 

 アクアがそう提案するのも無理からぬ事だろう。(もっと)も、アクア以外は金銭面に余裕があり、和真とめぐみんは露骨に嫌がっている。そんな時にわざわざ高難度のクエストを請けたくないのはわかる。

 

「私は構わないが・・・だが、アクアと私では火力不足だろう・・・ん?サトシか。お前も来るのか?それなら火力も補えるが、今あるような高難度のクエストにどれだけ通用するか・・・」

 

 そうだ。そもそもクエストを請けるといっても、達成可能なクエストが無ければどうにもならない。アクアは何か自分にもできそうなクエストを見つけたのだろうか。

 

「それをこれから探すのよ。今は掲示板を見てる人なんてほとんどいないし、探せば私にできるクエストくらい見つかるんじゃないかしら!」

 

 つまりノープランか。

 和真とめぐみんは明らかに面倒臭がっており、こちらを見ようともしない。

 

「お、お願いよおおおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なのよお!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私、全力で頑張るからあぁっ!!」

「しょうがねえなあ・・・じゃあ、ちょっと良さそうだと思うクエスト見つけて来いよ。悪くないのがあったら付いてってやるから」

 

 これで五人全員が行くことになるのか。俺もクエストを見に行くか。

 

 

「・・・カズマ、一応あなたもクエスト見に行って来てもらえますか?アクアはとんでもないのを持ってきそうですし、サトシはサトシで変なクエストを選びそうですし・・・」

「・・・わかった」

 ―――俺を何だと思ってるんだ!?

 

 さて、掲示板は見事に高難度クエストばかりだ。推奨レベル40以上なんてものもある。一番楽そうなのは・・・

 

『―― 開発中の魔法薬の被検体募集 ―― 魔法抵抗力が高い人が望ましい。皮膚に浴びせることで状態異常を付与するもの及びそれを治療するものを数点ほど実験する予定。報酬は20万エリス』

 

 ・・・アクアはアークプリーストだから状態異常を治療する事は容易の筈だ。その能力はデュラハンの死の宣告で実証されている。ダクネスは魔法抵抗力も高いらしい・・・いや、失敗したらどんな影響が出るかわからない。治療できないような影響が出ないとも限らないし、これは保留か。

 

「おい、流石にそれは請けないよな?確かに状態異常の治療はアクアにもできるが、そんなの請けるなら被検体にはお前が行け、な?」

 ―――いや、それくらいわかってるからな?見てただけ!見てただけだから!

 

「・・・よし」

「よしじゃねえ!お前、何請けようとしてんだよっ!!」

 

 ん?一体どんなクエストを・・・

 

『―― マンティコアとグリフォンの討伐 ―― マンティコアとグリフォンが縄張り争いをしている場所があります。放っておくと大変危険なので、二匹まとめて討伐してください。報酬は50万エリス』

 

 無茶すぎる・・・これをどうやって討伐しようというのか。一体だけなら寝ているところに爆裂魔法という案もあるが、二体となると難しくなるぞ。

 

「何よ二人して・・・二匹まとまってるとこにめぐみんの爆裂魔法食らわせれば一撃じゃないの。ったくしょうがないわねー・・・」

 

 どうやって二匹まとまってるところに安全に近づくのか。どちらも比較的知能の高いモンスターらしいし、後ろで凶悪な魔法を詠唱している魔法使いを二匹とも無視するとは思えない。

 どんな方法があるか考えていると、アクアがまた別のクエストを自信満々に指し示した。

 

『―― 湖の浄化 ―― 街の水源の一つの、湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着き始めたので湖の浄化を依頼したい。湖の浄化ができればモンスターは生息地を他へ移すため、モンスター討伐はしなくてもいい。※要浄化魔法習得済みのプリースト。報酬は30万エリス』

 

 確かアクアは、アークプリーストが使える魔法は全部習得していたんだったか?それなら浄化魔法も使えるのか。

 

「その通り!というか、私が何を(つかさど)る女神かわかってるでしょう?そんなスキルは最初から持ってるレベルよ」

 

 そこにまず和真が、

 

「ああ、宴会の神様だったな」「違うわよヒキニート!サトシはちゃんと言えるわよね!?」

 

 ・・・じゃあ俺も。

 

「水・・・と宴会の神様」「ちょっとサトシ!?」

「まあ、水の浄化だけで30万は確かに美味しいな。でも浄化だけならお前一人でもいいんじゃないか?そうすれば報酬は独り占めできるだろ?」

 

 多少はアクアの事を見てきた自覚はあるが、今お金に困っているアクアが、困っていない俺達に報酬を分けようと考えるとは思えない。

 

「え、ええー・・・多分、湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに寄ってくるわよ?私が浄化を終えるまで、モンスターから守って欲しいんですけど」

 

 ブルータルアリゲーターが沸いているんだったか。名前からしてワニっぽいが、ワニなら君咲学院にもいたな。長町さんが手懐けていた感じだったから戦闘シーンは見たことが無いが、確か陸上では口が開かないように押さえれば大丈夫なんだったか・・・いや、野菜が飛ぶ世界のワニがどんな存在なのか調べていなかったな。この辺りで出てくるモンスターを調べた後は、この世界のトップクラスを重点的に調べていたからなぁ・・・

 

 ―――よし、ダクネスー。

「ん?どうした・・・何、ブルータルアリゲーター・・・・について教えて欲しいのか?

 そうだな、あれは泥沼なんかを好むが、このクエストの様に、濁った池なんかに住み着くこともある。ただし、基本的に数十体ほどの群れでだ。それに一斉に襲われたらどれだけ気持ち良いか・・・おっと。後はジャンプ力が目立つな。二、三メートル程度の距離ならひとっとびに跳びかかられて噛みつかれる。全体的な能力の高さもあって、並のパーティーでは質量で押し潰されるな・・・私を囮にして一体ずつ倒すか?」

「お前がやりたいだけだろ・・・それはそうと、浄化ってどれくらいで終わるんだ?それ次第ではダクネスを囮にするのもアリだが」

「・・・・・半日くらい?」「(なげ)えよ!」

 

 いくらダクネスといえど半日はな・・・俺がゴーレム(防水仕様)を放り込んでその間に少しずつ浄化するか?一応転生特典としてもらった凄いスキルなわけだし・・・

 

 すると、依頼を掲示板に戻そうとしていた和真が何かを思いついたらしく口を開く。

 

「・・・なあ、浄化ってどうやってやるんだ?」

「・・・へ?水の浄化は、私が水に手を触れて浄化魔法でもかけ続けてやればいいんだけど・・・」

 

 それを聞いた和真は何かを一瞬諦めたようだが、もう一度何かを思いついたらしい。

 

「おいアクア。多分、安全に浄化できる手があるんだが、お前、やってみるか?」

「本当!?やるやる、やりますカズマ様!」

「決まりだな。それじゃあ必要なものを借りたいから、ちょっと聖もついて来てくれるか?」

 

 ―――え、俺?

 

 

 ────────────────────

 

 問題の湖。

 山からここに流れ、ここから街へ向けて流れる川は、アクセルの街にとって大切なものだ。しかし、湖共々濁りが見える。流れる分はまだ比較的綺麗だが、いずれ生活にはとても使えないような淀みになるのだろう。地味に街の危機ではないのだろうか。

 

 そしてそれを浄化するアークプリーストは今、

 

「・・・・・・ねえ・・・・・・本当にやるの?・・・・・・私、今から売られていく、捕まった希少モンスターの気分なんですけど・・・」

 

 希少なモンスターを閉じ込める、鋼鉄製のオリの中で、所謂(いわゆる)体育座りの体勢でいた。

 

 和真が提案した作戦。それはアクアをオリに入れ、ティーパックの様に湖へと放り込む事だ。

 最初は遠くからちまちま浄化する事を考えたそうだが、水に触れ続けなければならないと聞いてこれに変更したそうだ。

 このオリは特別性で、各地のギルドに一つずつ、高額を投じて置かれている高性能なものらしい。普段は滅多に使われず、修理費も馬鹿にならないそれを貸し出してくれた辺り、ギルドもこの一件を重要視しているという事か。

 水の女神であるアクアは、半日水に浸かるどころか一日沈められても平気だそうだ。さらに彼女の浄化能力は人のレベルを超えており、水に触れるだけで浄化効果を発揮するほどらしい。世が世ならまさに救世の女神だな。

 俺、和真、ダクネスの三人でオリを湖に入れる。まあ体育座りのアクアの(くるぶし)辺りまでしか水位の無い場所だが。

 当然その場所にもブルータルアリーゲーターは余裕で侵入してくるし、縄張りを荒らす相手には容赦しないだろう。しかしアクアを入れたオリの頑丈さは、レベル30代の戦士が全力で壊そうとしても僅かな歪みを残すのみと聞く。単体の力でなく群れの波状攻撃の危険性をもって恐れられるブルータルアリゲーターが壊せるとは思えない。

 湖の浄化が終わればワニ達もここを離れるらしいが、万が一そうならなかった時は鎖で引っ張り上げる予定だ。まったく、和真の完璧な作戦には脱帽だ。

 

 

 

 そして二時間ほど経過したが、まだ問題のブルータルアリゲーターは見えない。アクアも余裕でくつろいでいる。

 

「おーいアクア!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?オリから出してやるから!」

「浄化の方は順調よ!後、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」

 

 へえ~、トイレは冒険者にとって死活問題とも言うから、その能力は地味ながら役に立つだろう。良い事だ・・・いやそんな事あるのか?

 

「・・・今サトシ絶対信じかけてましたよね。一応言っておきますが、依頼を受ける時は知り合いに確認してもらってくださいね。後、大きい買い物とかもですよ。それが本当に必要な物かどうか、よく考えて・・・」

 

 めぐみんの目が出来の悪い弟か何かを見る目だ。一応俺の中にも人を信じる度合いというかレベルというか、まあそういうものがあるのだが。ちなみにアクアが嘘をつく時はもっと態度が分かりやすい。

 

「カ、カズマー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」

 

 

 

 さらに二時間。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!ギシギシいってる!ミシミシいってる!オリが、オリが変な音立ててるんですけど!」

 

 十は確実に超えている数のブルータルアリゲーターが、アクアのいるオリに殺到していた。

 中のアクアはわあわあと泣き叫んでいるが、その顔はワニの群れでほとんど見えない。俺達に向かって来ないのは良かったが、オリの中のアクアを食い殺さんとしている。

 

 ・・・手助けでもするべきだろうか?

 

「アクアー!ギブアップなら、そう言えよー!そしたら鎖引っ張ってオリごと引きずって逃げてやるからー!」

「イ、イヤよ!ここで諦めちゃ今までの時間が無駄になるし、何より報酬が貰えないじゃないのよ!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!!・・・わ、わああああーっ!!メキッていった!今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴った!!」

「・・・あのオリの中、ちょっとだけ楽しそうだな・・・」「・・・行くなよ?」

 

 先程までの余裕は何処へやら、懸命に浄化魔法を唱え続け、一刻も早く浄化を終えようと尽力している。

 大丈夫・・・・なのだろうか?

 

「・・・助けた方がいい?」

「いや、ブルータルアリゲーターは脅威と認識した者を集中して狙う。下手に手を出せば、追加のワニが私を無視してお前に押し寄せるだろうな。流石の私も、あれらを全て引き付ける事はできない・・・いや、私があれに攻撃すれば・・・ふふふ・・・・」「やるなよ!?」

 

 流石ダクネスぶれない。

 

 

 

 もう三時間後。

 なんということでしょう。あんなに濁っていた湖は、美しい綺麗な湖へと変わりました。水源としても申し分ないでしょう。

 ブルータルアリゲーターが群れで潜んでいたのであろう一帯も澄み渡り、彼らは一体、また一体と湖を離れていきます。こうなった彼らは遠く離れた地へ、敵のいない湖を探しに行きます。しかしその旅は過酷で、群れの大きさは確実に縮小するでしょう。

 そしてその際には、(アクア)の入ったオリがボロボロになりながらも健在。本来の役割とは幾分(いくぶん)か離れた使い方ですが、確かに(アクア)を守り切りました。

 

「・・・おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ」

「・・・ぐす・・・ひっぐ・・・えっぐ・・・・・・」

 

 既に泣き喚く気力さえ無くしたアクア。本来ならこんな駆け出し数人でやるクエストではなかったのだろうが、それを俺達のパーティーがやったのだ。アクアには後で何か奢ってやるべきか。

 

「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。俺達で話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。報酬の30万、おまえが全部持っていけ・・・・・・

 

 ・・・・・・おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないから」

「・・・・・・まま連れてって・・・・・・」

 

 おや、どうしたんだろう?

 

「・・・オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

 カエルに続き、アクアのトラウマがまた一つ。祝勝会でもしてやろうかな・・・


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