当作の主人公の転校生君は、あっちの幸せな婚約をして終了した転校生君とは別の世界線、混迷する時空が同窓会によって解き放たれた後あるいは前の転校生君です。
「ドナドナドーナードーナー・・・」
―――女神・・・僧侶・・・シスター・・・あっそうだ、神様はー揺れるー・・・
「・・・お、おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロのオリに入って膝抱えた女を運んでる時点で、ただでさえ街の住民の注目を集めてるんだからな?というか、もう安全な街の中なんだから、いい加減出て来いよ」
依頼を終えた俺達は、ギルドへ向けて馬車を走らせていた・・・オリに入った女神アクアを荷台に乗せながら、だが。ついでに言えばその重みで歩みも遅い。
「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いからしばらく出ないわ」
オリの外から無数の巨大ワニに群がられるのは相当怖いようだ。いや、
もっとも、受けた被害といえばアクアのトラウマだけ。多少
「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、そんな所で!」
見知らぬ男が唐突に駆け寄り、そんな事を言い出した。
髪は黒。夢ノ咲学院のアイドルにも劣らず整ったアジア系の顔立ちや発言内容から見るに、彼もまたアクアによってこの世界に転生した日本人なのだろう。この辺りでまず見かけない強力そうな装備は、いかにも「自分こそ勇者」と言わんばかりに
そんな彼はアクア
―――たやすくこじ開けた!?
彼は人間離れした
「・・・おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応していないのだが」
いち早くダクネスが反応する。少し前まではワニに襲われるアクアを羨ましそうに見ていたが、今は真面目に高潔なクルセイダーだ。
そして彼女に相対する勇者くんは、やれやれと言わんばかりの態度だ。ため息までついて、自分は面倒事は嫌いだが仕方ない、と言葉も無いのに伝わってきそうだ。ダクネスも顔をしかめている。
渦中のアクアに和真がそっと耳打ちする。
「・・・おい、あれお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし。お前があの男を何とかしろよ」
「・・・・・・ああっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわねー!
・・・・で、そいつ誰?」
こ れ は ひ ど い
信じて送り出してくれた女神がオリに閉じ込められて自分の事を忘れていたと知った勇者くんは呆然としている。しかもアクアはアクアで、自分が何者だったのかも忘れかかっていたようだ。
「何言ってるんですか女神様!僕です、
やはり彼、御剣響夜はアクアによってこの世界に連れてこられた転生者であっていたようだ。
彼の事を忘れられていたのは単にアクアの馬鹿さ加減か、あるいは一々覚えていられない数を転生させてきたのか・・・どちらかといえば前者な気がするが、こっちで調べた中の転生者らしき記録の数を考えると後者の可能性も捨てきれない。
それはさておき、彼の後ろには二人の少女がいるが、その片方に見覚えがある。キャベツ収穫の後、武器屋で腕輪を買おうとしていて、その折りに俺を変態認定・・・あれはきつかった・・・・あの後都市伝説になるほど泣いたな・・・
「うげえっ・・・キョウヤ、あいつが例の変態野郎よ」
「・・・なんだって?あの男が君に
「エフエックスってのは知らないけど、きっとキョウヤにボコボコにされるのが怖いのよ!クレメアのためにも、あいつを叩きのめしちゃって!」
酷い言われようである。俺は悲しい・・・
「・・・ええっと、まずアクア様、お久しぶりです。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っていますよ。職業はソードマスター。レベルは37にまで上がりました・・・ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうしてオリの中に閉じ込められていたんですか?一緒にいたあの男、かなりの変態だって聞きますし・・・」
「変態っていうのはよく分からないけど、私はあっちの男・・・カズマさんに転生特典として選ばれてこの世界に来たの。そうよねカズマさん?」「おう、そうだ・・・って、顔が怖えよ。ちょっとの間でいいから黙って聞いててくれ。まず―――――」
アクアと和真が事情を説明する。アクア以外の女性陣はほとんど話についていけてないが、御剣くんの表情はどんどん険しくなっていく。和真はだんだん言葉選びに慎重になっているが、アクアはそれに気づいていない。むしろ生活環境など、オブラートに包んだ和真の表現をつまびらかにしている節もある。
そして一連の話を聞いた御剣くんは、
「・・・バカな。ありえないそんな事!君は一体何考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストではオリに閉じ込めて湖に浸けた!?」
激しく怒りを
また、彼は今回の仕事での収入30万を『たった』と言い切ったり、馬小屋で寝泊まりしている事を信じられなかったりと、一般の冒険者の感性からずれた発言が目立った。アクア曰く、彼女があげた魔剣の力で高難度クエストをバンバンこなし、安宿だとか金欠だとかの冒険者あるあるとは無縁だったらしい。俺達はなんだかんだで順応したが、転生した人達は大体そんな感じだろうとも言った。
そして御剣は多数の美女上級職に囲まれる和真をろくでなしと認識したらしい。俺についてはやはり変態と認識されているようだが、生産職の俺も戦闘に参加していると知り『生産職なのに戦わせられている変態』という何とも対応に困る認識になったようだ。
そして彼はめぐみんとダクネスの方を向き、こう言い放った。
「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは、僕と一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買い揃えてあげよう。というか、パーティーの構成的にもバランスが取れていていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と、そしてクルセイダーのあなた。僕の仲間の盗賊と、アークウィザードのその子にアクア様。まるであつらえたみたいにピッタリなパーティー構成じゃないか!」
どこから突っ込むべきか迷うが、まずその苦労は自業自得だと思う。
御剣の性格はかなり難があるが、まだ許容範囲だろう。俺は行きたいとは思わないしそもそも誘われてないが。そんな彼の誘いを受けた三人は、
「ちょっと、ヤバいんですけど。あの人本気で、ひくぐらいヤバいんですけど。ていうか勝手に話進めるしナルシストも入ってる系で、怖いんですけど」(小声アクア)
「どうしよう、あの男は何だか生理的に受けつけない。攻めるより受けるのが好きな私だが、あいつだけは何だか無性に殴りたいのだが」(小声ダクネス)
「撃っていいですか?あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に、爆裂魔法を撃ってもいいですか?」(小声めぐみん)
「ねえカズマ。もうギルドに行こう?私が魔剣をあげておいてなんだけど、あの人には関わらない方がいい気がするわ」(普通声アクア)
まさに満場一致。流石に本人らが拒否するのであれば引き留めるも何もないだろう。
「えーと。俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには行きたくないみたいです。俺達はクエストの完了報告があるから、これで・・・・・・
・・・・・・どいてくれます?」
俺達の前に立ち塞がる御剣。どうみても彼は納得していない。強い信念を持ちながら人の話を聞かない、俺の考えうる中で最も面倒なタイプだ。
「悪いが、僕に魔剣という力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。君にはこの世界は救えない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方が絶対にいい・・・ねえ君、彼は、この世界に持ってこられるモノとして、アクア様を選んだ、という事でいいんだよね?」
―――えっ、俺?・・・まあ、そうだが。
「なら佐藤和真、僕と勝負をしないか?アクア様を、持ってこられる『者』として指定したんだろう?ボクが買ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」「よし乗った!!じゃあ行くぞ!」
―――御剣の発言は予想できたが、和真の対応は予想外だった。
思慮どころか改行さえ許さず・・・改行って何だ?まあ、御剣が身構えるより速く、和真の小剣が彼に襲い掛かった。
それでも御剣は魔剣で和真の攻撃を防ごうとする。自分なら魔王を倒せると豪語するだけあって、その瞬発能力はかなり高い。無事に防ぐかと思われたその時、
「『スティール』ッ!」
・・・どこまで狙ったのか。御剣の手に魔剣は無く、和真の突き出した左手に収まっていた。
「はっ?」
それは誰の声か、それは問題ではない。
レベル30を超えるソードマスターの御剣は、レベル10も無い最弱職の和真に殴り倒されていた。
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元、夢ノ咲学院所属。今はアイドル養成校である
『一日一善』をモットーにしているが、態度がでかい。自分は他の人間より上で村長されるのが当然と言わんばかりの態度、自分のやりたい事しかしない超絶わがまま貴族様。うーん、(態度)でかい。口癖は「~な日和」。