「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者-っ!」「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」
御剣の仲間の彼女達は、幾度も剣が交わる熱い戦いを、あるいは圧倒的強者で正義の御剣が、瞬く間に敵を倒す姿を想像していたのだろう。少なくとも、不意を突かれて魔剣をスティールで奪われ、一撃で昏倒させられる姿ではなかった筈だ。
だが正攻法で和真に勝ち目が無いのはわかりきっていた筈だ。そこで『まさか不意打ちなどされるまい』と油断したのは御剣だし、あんな形とはいえ彼を倒したのは間違いなく和真だ。戦い方については擁護できないが、暴力沙汰になれば和真に味方するくらいはしよう。
「俺の勝ちって事で。こいつ、負けたら何でも一つ言う事聞くって言ってたな?それじゃあ、この魔剣を貰っていきますね」
「なっ!?バ、バカ言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。既にその剣は、キョウヤを持ち主と認めたのよ?あんたには、魔剣の加護は効果がないわ!」
話を聞いていたアクアも否定していないし、そういう武器なのか・・・でも持ち主を強化する能力は気になるな。ひょっとしたらゴーレムとかに転用できるような力があるかもしれないし、はっきり言って今の和真の武器よりは加護無しでも強いだろう。こっちは危うく・・・危うかった?まあパーティーメンバーを半分以上奪われかけたんだし、これくらいしないとこのナルシストはまた何処かで似たような事をやるかもしれない。
―――それにしとこう和真、ゴー。
「わかった。それじゃ、そいつが起きたら、これはお前が持ちかけた勝負なんだから恨みっこ無しだって言っといてくれ・・・それじゃアクアも、ギルドに報告に行こうぜ」
よーし、これでやっとこの場を離れられる。正直変態扱いは居心地が悪すぎる。早く帰って寝たい。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!こんな勝ち方、私達は認めないわ!」
「そうよ!それに、その変態の事もなあなあにする気でしょ!」
ぬわーーーーっ!!
「なんでお前今吹き飛んだの!?・・・・・・まあ、あいつはちょっと・・・いやかなり・・・頭のネジの外れたお人好しなんだ。それこそ金が足りなくて困ってるなら遠慮なく金を渡す頭のおかしい奴で・・・・・・というか、俺もそろそろ帰りたいんだ。あんまり難癖つけるようなら、真の男女平等主義者な俺のスティールが炸裂するぞ。俺のスキルは凶暴でね、何を公衆の面前に晒すか俺にもわからんぞ?」
和真が何やらすごくいやらしい手の動きをしている。
「「「「うわあ・・・・・・・・・」」」」 「「ひっ・・・・」」
あっ、声出ちゃった。
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そんなこんなでギルドに戻ってきた俺達。今回の報酬は、
「だから、借りたオリは私が壊したんじゃないって言ってるでしょ!?ミツルギって人がオリを捻じ曲げたんだってば!それを、何で私が弁償しなきゃいけないのよ!」
30万エリスからオリの修理代20万を引き、10万エリスである。借りたオリが壊れたのは事実だし、その間は俺達が管理する扱いだという契約だったのだが・・・御剣の奴、今度会ったら20万取り立ててやろうか・・・
「あの男、今度会ったらゴッドブローを食らわせてやるわっ!そしてオリの弁償代払わせてやるから!!」
神意は我にあり。見てろ御剣絶対に支払わせてやる。
「ここにいたのかっ!探したぞ、佐藤和真!」
───お前・・・覚悟はできてんだろうな・・・?
「佐藤和真!君の事は、ある盗賊の少女に・・・ん?君、僕を取り押さえて何おぶっ!?」
「「ああっ!?キョウヤ!」」
俺が御剣を後ろから押さえつけ、そこにアクアがゴッドブローを打ち込む。俺達の連携プレーに御剣はノックアウト・・・はしなかったが、その顔には明らかな動揺が見てとれる。
「ちょっとあんたオリ壊したお金払いなさいよ!おかげで私が弁償する事になったんだからね!30万よ30万、あのオリ、特別な金属と魔法で出来てるから高いんだってさ!ほら、とっとと払いなさいよっ!」
ちょっとサバ読んだなこの女神・・・でも渋々だが払う御剣の様子を見るに、彼の財布には大した問題ではなさそうだ。
「・・・さて、元々僕が用があったのは君だ、佐藤和真・・・いや、負けを認めない訳じゃない。あんなやり方でも、僕の負けは負けだ。そして何でも言う事を聞くと言った手前、こんな事を頼むのは虫がいいのも理解している・・・だが、頼む!魔剣を返してはくれないか?あれは君が持っていても役には立たない物だ。君が使っても、そこらの剣よりは斬れる、その程度の威力しか出ない・・・・どうだろう?剣が欲しいのなら、店で一番良い剣を買ってあげてもいい・・・返してはくれないか?」
本当に虫のいい話だな。
「私を勝手に景品にしておいて、負けたら良い剣を買ってあげるから魔剣返してって、虫が良いとは思わないの?それとも、私の価値はお店で一番高い剣と同等って言いたいの?無礼者、無礼者!仮にも神様を賭けの対象にするって何考えてるんですか?顔も見たくないのであっち行って。ほら早く、あっちへ行って!」
アクアの言っている事が辛辣ながらも正論で、御剣は顔を青くしている。必死に言い訳を並べているが、アクアは聞く気がないようだ。
・・・・これはちょっと説教が必要だな。
「魔剣はある・・・だが今、返すつもりは無い」
「そんな・・・その魔剣がないと僕は・・・」
「お前には魔剣の力しか無かった」
彼の言動を見て感じたのは、自分の価値観が正しいと信じて疑わない傲慢さと、魔剣がもたらす力でそれを押し通したのであろう考え方だ。
信頼し合っているのであろう仲間の存在を考えると決してそれだけではないのだろうが、こういう手合いは自分が間違っていてもそれに気づかず、返り討ちにするくらいじゃないと反省もしないのだが、魔剣があるから負けないという厄介さ。
「その傲慢さがある限り、これは渡せない」
一度痛い目を見ても、彼は懲りずに自分本位な振る舞いをした。これで三度目が無いとは俺には思えないし、その相手が何処の誰かも俺には分からない。
だが、今度こそ反省させないと、彼の増上慢がどんな結果を生むか分かったものではない。
だから一時的にでも魔剣とその恩恵を取り上げ、自分の意見を力で押し通さない事を覚えてもらわなければならない。
本当はこういうやり方は好きではないが、間接的かつ未遂とはいえ俺も被害者だ。これくらいは神様にでも許してもらう事にしよう。
それを耳にした御剣は呆然と立ち尽くしている。傲慢とまで言われ、どうやら彼なりに思うところがあった様だ。
「キョウヤ!そんな奴とっとと叩きのめしちゃいなさいよ!」
「・・・いや、いいんだ・・・
そうか、傲慢か・・・・・・・・とりあえず、僕は宿に戻る」
「あっ!ちょっとキョウヤ!?」
どこか煤けたような顔をした御剣は、とぼとぼとギルドを出て行き、お供の少女達も慌てて彼に追従してギルドを出た。
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彼らが去って、俺達のパーティーもようやく一息つけるようになったが、アクアが御剣に『女神様』と呼ばれていたのはダクネスやめぐみんも気になっていたらしい。まあ当然の疑問か。
(・・・なあアクア、それにサトシも。二人にアクアの事、言っていいと思うか?)
―――いつまでも隠し通せるような内容でもないと思うし、身内には言っておくべきだろう。
和真のアイコンタクトに俺は同意。アクアも同じ意見らしく、和真に向けて頷いた。
そしていつになく真面目な顔になったアクアは口を開き、
「今まで黙っていたけれど、あなた達には言っておくわ・・・私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神・・・そう、私こそがあの、女神アクアなのよ・・・・・・!」
「「っていう、夢を見たのか」」
「違うわよ!何で二人ともハモってんのよ!」
・・・・・・普段の言動が
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!!』
また緊急クエスト!今度はいったい・・・
―――あっ、そういえば、あのデュラハンが言ってた期限って確か今日までだったっけか・・・・
いや、まだあいつだと決まった訳では『特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』「・・・・・・えっ」
・・・・・・これはほぼ確定じゃないか・・・?
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夢ノ咲学院3-A所属。プラチナブロンドのショートヘアーにエメラルドグリーンの瞳の物腰柔らかなイケメン。夢ノ咲学院の生徒会長であり、常勝無敗のユニット『fine』のリーダーでもある。
病弱で入退院を繰り返している。家は大財閥で芸能界にも顔がきき、校内でも圧倒的な影響力を持っている。聡明で仲間思いだが、自分の意に沿わない相手には権力を用いた容赦無い攻撃が出来る。
日本のアイドル業界を世界と渡り合えるレベルに押し上げるという大志を抱き、その為のシステマチックな機関として夢ノ咲学院を変革しようとした。
当作では聖が元は夢ノ咲学院所属だったため、彼の事はその所業も含めてある程度知っている。