この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 あんさんぶるガールズ!!サービス終了。
 悲しいけど、こっちはまだ続くんじゃ。


魔剣の勇者の苦悩

 御剣の泊っている宿屋には特に問題なく到着した。

 この辺りの住民は避難したか正門側に戦力として向かっているらしく、非日常的な静けさが辺りを覆っていた。爆裂魔法らしき爆音が後方から聞こえたが、聞こえた物音などそれと自分の足音くらいだ。

 ひょっとしたらベルディアの配下のアンデッドが街にも出没して、御剣達がそれに対処していたりするのかも、と考えていたが、アンデッドどころか野良猫一匹いやしない。

 

 とりあえず中を見てみようか、と思っていると、途方に暮れた様子の中年の男が宿から現れた。

 

「・・・・・・おや?貴方はどちら様で・・・もしや、ここに宿泊している魔剣の勇者ミツルギ様の力を借りに?」

 

 その問いかけに、俺は(うなず)いて返す。

 

「そうですか・・・私はここの経営をしている者なのですが、ミツルギ様は何やら部屋に篭ったまま出てこないのです。私のみならず他の宿泊客の方も、彼に魔物を倒してきてもらおうと頼んだのですが効果はなく・・・彼の善良さは私も聞き及んでいるところですし、彼のパーティーには自己責任、ということで、私は先に避難しようと・・・」

 

 御剣は今日、魔剣を失ったばかりだ。彼が引き篭もる要因に心当たりがありすぎる。まったくの第三者が呼びかけるのとは違うだろうし、それだけ聞いてとっとと帰るというのも問題だろう。同郷の縁もある。

 とりあえず俺も御剣に呼び掛けて、御剣の様子を確認したら戻ることにしようか・・・

 

 ────────────────────

 

 別にダンジョンでもあるまいし、主人に言われた部屋はすぐに見つかった。

 ここがあの男のルームね。ノックして無言・・・・・・返事無し。じゃあ声付きで。

 

「・・・・・・御剣」

 

 すると、一拍空けて中から声が聞こえてきた。

 

「・・・・あんた、何しに来たのよ」

 

 御剣の声ではない。一緒にいた少女の声、確か武具ショップで揉めた方のものだ。

 

「魔王軍の幹部が来てる。魔剣の勇者を待ってる人達がいる」

「あんたもさっきの奴らと(おんな)じ事を・・・・・・え、キョウヤ?」

 

 少女の声が途中で止まる。そして部屋から御剣が現れた。

 

「君は・・・確か・・・・・・・・サトシくん、だったかな?」

「・・・天光(あまみ)(さとし)

「・・・君と二人っきりで話がしたい。フィオ、クレメア、少し部屋を出てくれるかい?」

 

 それを聞いた二人が部屋から出たのを確認すると、御剣は話を始めた。

 

「・・・さて、君がこうしてここに来たのは、魔剣を返してくれる・・・・という事かい?」

 

 あくまで様子見と割り切っていそうだが・・・

 

「・・・いきなりか」

「自慢じゃないが僕はアクア様に、そして魔剣に選ばれた勇者だ。あれさえあれば強力な力を得られる・・・悪い選択じゃない筈だけど?」

「・・・高レベルのソードマスターなんだろう?力はある筈だ」

 

 俺がそう言うと、御剣はしばし黙り込み、やがて悲痛な面持(おもも)ちで語り始めた。

 

「確かに素のステータスやスキルはこの街の冒険者よりは上だろう。でも・・・・はっきり言おう。僕は今、敵と戦うことが怖い」

 

 御剣は続ける。

 

「この辺りに上位悪魔が出没していたのは知ってるかい?」

 ―――後になってからだが。

 

 なんでも、その悪魔が積極的に人間を攻撃する様子ではなかったために、悪魔の襲来を知った冒険者達には箝口令(かんこうれい)が敷かれたらしい。ちょっと調べればすぐに分かる事ではあったのだが、その時は土木作業に精を出していたし、アクアが大物っぽい悪魔を撃退していたから、まあ大丈夫かと楽観視したのもあったな。

 

「そいつと交戦した?」

「・・・・・・そうだ。『魔剣を持った僕なら大丈夫』って考えてね・・・でも結果は惨敗。佐藤和真みたいに姑息な手段を使った訳でもないのに手酷くやられてね・・・(さいわ)い死者は出なかったけど、悔しいとか考える以前に信じられない、って感じだった」

 

 御剣の話は続く。

 

「それから一月もせず佐藤和真と戦って、君も知る通りの敗北・・・・僕は、自分がひどく弱い存在に思えて来た」

「だから、行かない?」

「・・・・・・そうだよ。あの悪魔も、僕の事はとりあえず追い払った、って感じだった。魔王軍幹部が相手で、しかも魔剣も無い僕が相手じゃ勝てる筈が無い。だから僕は行かない」

 

 はは、と御剣が自虐的に笑う。

 この様子では、俺が何を言ったところで聞きはしなさそうだ。早く戻るとしよう。

 

「・・・確か今、冒険者ギルドが臨時の避難所として開放されている筈だ。そこまでなら僕が送ってもいい」

「いや、正門に行く」

 

 俺の返答に御剣が目を丸くする。

 

「・・・無茶だ。確か君はクリエイターだった筈。直接的な戦闘は不向きだろう。ここは戦闘系の職業の冒険者に任せて、君は避難してもいい筈だ」

 

 なるほど、彼の言う事はもっともだ。俺は最初から高いステータスを持っていたが、生産職は基本的に前線には出ない。ゴーレムの製造が得意な場合は即興で造って戦わせることも可能だが、そうでなければスキルだけ習得してどこかの工房に弟子入りするのが普通だ。前者にしても、ゴーレムを(じか)に操れる程度の後方が安全とも言い切れない。

 

「困ってる人を見捨てる事は、俺にはできない」

 

 だがそれでは自分が自分を許せない。誰かが助けを求めたのなら俺がそれに応える。俺は君咲学院でそうやって生きてきたし、今更それを変えるのも無理だ。

 俺が行っても何も変わらないかもしれない。だが、それが行かない理由になるほど俺は利口ではないのだ。

 

「・・・・・・・・ははっ」

 

 呆れた様な、感心した様な笑い声を御剣があげる。自分がおかしいのは俺も一応理解しているが失礼じゃなかろうか。

 

「・・・僕も行こう。こんな所でへこたれてちゃ、魔剣の勇者の名が(すた)る」

 

 御剣がそんな事を言った。さっきまでしょげかえっていたのは大丈夫なのか?

 

「正直言ってまだ怖い・・・でも、君が行くというのに僕が安全な場所に引っ込んでるっていうのも怖いって思ったんだ。魔剣は返してくれなくていい。予備の剣は持っているからね」

 

 そう言って御剣はドアを開け、少女二人を呼ぶ。そして魔王軍幹部の討伐に行く事を彼女達に告げた。無理に付いてくる必要は無い、とも言い含めて。

 

「・・・・あんた、まさか魔剣をダシにしてキョウヤをこき使おうとしてるんじゃないでしょうね」

「フィオ、それは違う。彼は自分も戦いに行くと言っただけだ。それを聞いた僕も行こうと思っただけ。フィオが思ってるような事は何もない」

 

 御剣はそう言ったが、それを聞いたフィオ、もう一人のクレメアはまだ半信半疑といった様子だ。まあそれで俺のやる事が変わる訳ではない。

 御剣、フィオ、クレメアの三人が僅かな時間で身支度を終え、俺達は四人で正門へ向かう事となった。

 

 ────────────────────

 

 街中にモンスターの姿は見えない。人の姿も同様に見えず、まだ戦線が崩れるような事態にはなっていないのだろう。虎の子の爆裂魔法は多分とっくに使われているが、アクセルの冒険者達が頑張っているのだろう。

 そんな中を走っていると、御剣が不意に足を止めた。それに応じて俺達三人も立ち止まる。

 周囲に意識を向けると、正門の方から音が聞こえる。アンデッドナイトではないだろう。足音ではなさそうだが、何かが押し寄せるようではある。数メートル離れたところで道がカーブしているが、その向こうからいつ、何が飛び出すのかはわからない。

 ・・・しかし、正門の方からは何か神聖な力を感じる。もしやその力で何か邪悪なものが追いやられ・・・いや、押し寄せている何かも神聖なものの気がする・・・・じゃあ神聖な何かがこっちに押し寄せて・・・?

 

 その考えに至ったのは、押し寄せる鉄砲水が見えたのと同時だった。

 

「『クリエイト・アイアンウォール』ッ・・・・!」

 

 俺はとっさに魔法で鉄の壁を作り出す。一枚でなく二枚、俺達が鋭角の壁の内側に入るように置かれた壁は、俺達が水流に流されるのを防ぐ。

 しかし水流の勢いは凄まじい。俺が魔力を壁に流して強化し続けなければたちまち突破されてしまうだろう。

 

「――――――――――!」

 

 誰が何を言ったのか。壁を維持するのに精一杯な俺には分からない。ただひたすらに魔力を込め、水を防ぎ続ける。

 水流が治まった頃には、俺の魔力は殆ど尽きかけていた。

 

「・・・・・・終わった・・・のか?」

 

 俺がため息を吐くと、御剣が困惑した様子で辺りを見回しながら言った。

 

「そうみたい・・・ね。魔王軍の攻撃かしら」

「確か敵はアンデッドなんでしょ?アンデッドって水が苦手だった筈だから、こんな攻撃するとは思えないけど・・・」

 

 クレメアの呟きにフィオが応える。

 壁の外側に出ると、鉄砲水で多くの建物が損壊しているのが分かる。誰の仕業かは分からないが、こんな大規模な攻撃がそう何度も出来るとは思えない――――というか思いたくない。次があれば今度こそ流されてしまう。

 

「向こうが心配だ。もう正門間近だし、様子を見に行こう」

 

 御剣のその言葉に同意する。

 廃墟と化した街並みを越え、正門から冒険者達の様子を(うかが)う。するとそこには・・・

 

 

 

 

 

 

「おいお前ら、サッカーしよーぜ!サッカーってのはなあああああ!手を使わず、足だけでボールを扱う遊びだよおおおおお!」

 

 和真がベルディアの頭部を蹴り上げ、遠巻きに見守っていた冒険者達にパスした。

 

「なああああああ!ちょ、おいっ、や、やめっ!」

 

 ベルディアの必死の懇願を聞かず、冒険者達はボール替わりにベルディアの頭を蹴って遊んでいる。

 俺の知ってるサッカーはもっと普通のボールでやるものだ。喋る生首ではない。

 御剣の顔が面白い事になっており、フィオとクレメアはサッカーもどきにドン引きしている。多分今の俺の表情は御剣寄りだろう。

 

「おや、サトシに・・・ええと、魔剣の人達ですか」

 

 冒険者の一人に背負われているめぐみんが俺達に気づいた。

 

「ええっと、君・・・これは・・・どういう状況なのかな?」

「アクアが使ったバカみたいな規模のクリエイト・ウォーターでデュラハンが大ダメージを受けて、そこに和真がスティールを仕掛けたらあの頭に効いたんです。そしたら、視界とかはあの頭部にあるらしく、それで和真があんな事を始めた、という訳です」

「・・・どうやら自力で立てないくらい弱ってるようだけど、もしかして何かの呪いとか・・・」

「私は最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者・・・しかし今の私では一発撃つのが限界。その後しばらくはこのような状態になってしまうのです」

 

 めぐみんの説明を聞き、御剣の顔が更に面白くなっていく。実際にベルディアはまともに立っていることさえ難しい有様だし、戦略的には正しいのだろう。正しいのだろうが、御剣の決意とか、見栄えとか、俺の苦労とか、そういうのに優しいやり方は無かったのだろうか。

 

 そうしている間にダクネスがベルディアの鎧を砕き、アクアのセイクリッド・ターンアンデッドがベルディアを浄化。サッカーボール替わりにされていたベルディアの頭部も消滅した。




 マツルギ強化ルート。どこに需要があるのかなんて知らない。
 後、今しか書く機会が無さそうなのでここに書きますが、14話でクレメアが買おうとしていた腕輪は悪魔対策です。どこぞの上位悪魔に敵わなかったので、対悪魔用の装備を探していた訳です。

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