この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 今回で第1章は終わり。番外編をちょっと挟んでから第2章に入ろうと思います。


戦後、今しばらくの別れ

 勝利に沸く冒険者達だったが、その犠牲は決して皆無ではない。

 一人のみならず三人も――――あるいはたった三人か――――、この戦いで死んだ冒険者が物の様に転がっている。

 人の死体など見たのはこれが初めてだ。今回はたまたまその場にいなかったが、ひょっとしたら死んでいたのは自分だったかもしれない。あるいは和真達か。それを思い知らされるような感覚だ。

 するとそこにアクアが歩み寄る。そういえば彼女はアークプリーストだったな。高位のアークプリーストは魔法で死者の蘇生さえ可能と聞いたことがある・・・もしや。

 

「・・・『リザレクション』」

 

 彼女がそう唱えると、死体達がほんのりと青く輝く。光がおさまると、彼らは一様に息を吹き返した。

 

「え・・・?俺、確か・・・」「あの世に行ったと思ったんだが、これは・・・?」「・・・まさか復活魔法か!?」

 

 生き返った者達は初めは困惑し、状況を理解すると、自分達を蘇生させたアクアへ感謝と賛辞の言葉を述べ・・・はしなかった。彼らの目線は一人のクルセイダー――――ダクネスへと向かっていた。

 

「・・・腕相撲勝負をして私に負けた腹いせに、私の事を『鎧の下はガチムチの筋肉なんだぜ』と、バカな大嘘を流してくれたセドル・・・

『おいダクネス、暑いから団扇(うちわ)代わりにその大剣で(あお)いでくれ!なんなら当ててもいいけど。当たるんならな!』と、バカ笑いして私をからかったヘインズ。

 そして・・・一日だけパーティーに入れて貰った時に、『何であんたはモンスターの群れに突っ込んで行くんだ』と泣き叫んでいたガリル・・・

 ・・・皆、あのデュラハンに斬られた連中だ。今思えば、ろくでもない連中ながらも、私は彼らを嫌ってはいなかったらしい・・・・・・」

 

 ダクネスの独白に、彼らの表情が困惑に戻る。アクアが復活魔法を使えるのを知らなかったのか、あるいは失念しているのか。

 

「・・・あいつらに、もう一度会えるなら・・・一度くらい、一緒に酒でも飲みたかったな・・・・・・」

「「「お・・・・おう・・・・・」」」

 

 ダクネスが言った内容について、男達がそれぞれに謝罪をする。状況が状況だから追い打ちの様になっているが。

 顔を赤くして震えているダクネスは、これで一緒にお酒が飲めるじゃない、というアクアの言葉にとうとう涙を流しはじめた。

 

「・・・死にたい・・・」

 ―――死ぬな!!!!!!!

「いや死なないだろ」

 

 ────────────────────

 

 翌日、ギルドは宴会ムードになっていた。

 何と言っても、こんな駆け出し冒険者の街が魔王軍幹部を倒したのだ。それも死者三名、アクアの復活魔法があったから実質0人と言っても過言ではない。

 緊急クエスト扱いだったデュラハン討伐の報酬が多くの冒険者に行き渡り、むしろこんな雰囲気にならない方がおかしい。誰もが酒や料理を豪勢に飲み食いしている。

 ちなみにこの国では子供が酒を飲むのを咎める法律は無い。酒に酔った勢いでのトラブルは年齢問わず自己責任らしく、俺も一杯飲んでみた・・・初めてだからか苦味しか感じられなかったが。

 

 ・・・おっと。寝坊助(ねぼすけ)な和真がやって来た。戦いの疲れもあるのだろうが、多分彼が最後の受け取りだな。

 酔っぱらってハイテンションのアクアを後目にカウンターへと向かう和真。いつも通りルナさんのいる所に行くが、彼女は和真を見てなんとも言えない表情を浮かべた。

 

「・・・あの・・・ですね。実は、カズマさんのパーティーには特別報酬が出ています」

 

 その時俺はその場にいなかったが、和真がいなければベルディアは討伐できなかったと皆に言われる程の大活躍だったらしい。

 パーティーのリーダーである和真が代表として報酬を受け取る。その額は・・・

 

「えー。サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を称えて・・・ここに、金3億エリスを与えます」

 

 ―――3億。

「「「「さっ!?」」」」

 

 絶句する俺達。一拍置き、冒険者達が現実を受け止めると、大歓声がギルドに響き渡った。

 

「おいダクネス!めぐみん!それに聖も!お前らに一つ言っておく事がある!俺は今後、冒険の回数が減ると思う!大金が手に入った以上、のんびりと安全に暮らして行きたいからな!」

 

 ・・・どうやら和真は魔王討伐を諦めたか。前にもこのパーティーの尖り具合をぼやいていたし、危険を避ける生き方を選ぶ可能性はあった。

 まあ、俺はそれを咎めるつもりは無い。一度バカみたいに死んだ彼が、今度は普通に死にたいと思ってもいいだろう。半年くらいで自分の堕落ぶりに驚愕して復帰しそうだと俺は思っているが。

 

 そう思っていると、ルナさんが何かの紙を出しているのが見えた。申し訳無さそうな表情で差し出された紙には34と0がいっぱい、それと何かの文章が書かれているが・・・

 

「ええと、ですね。今回、カズマさん一行の・・・その、アクアさんの召喚した大量の水により、街の入口付近の家々が一部流され、損壊し、洪水被害が出ておりまして・・・」

 

 え、あの激流アクアの仕業だったの・・・

 

「・・・まあ、魔王軍幹部を倒した功績もあるし、全額弁償とは言わないから、一部だけでも払って・・・と・・・・・・」

 

 それだけ言ってさっと奥へ引っ込むルナさん。

 和真からのアイコンタクトを受け、俺はアクアを取り押さえる。彼女は引き攣った笑顔でこちらを見た。

 そそくさとめぐみんが逃げ出し、さっきまで奢れコールをしていた周りの冒険者達はそっと目を逸らした。

 ルナさんが提示した請求書に書かれていた金額は3億4000万エリス。特別報酬が3億だからプラスマイナスでマイナス4000万エリス。つまりその分が借金として・・・

 

「・・・カズマ。明日は、金になる強敵相手のクエストに行こう」

 

 ダクネスの提案に、和真はノーとは言わなかった。

 

 ────────────────────

 

「結局、僕らが駆け付けた意味は無かったんだよね・・・」

 

 アクセルの街の正門前。

 和真に課せられた借金で空気の落ち着いたギルドを抜け、俺は御剣一行を見送りに来ていた。

 最初に会った時の傲慢さや、次に出会った時の弱り具合は見えず、多少はいい顔に見える。

 

「・・・僕は今回で自分の無力さを実感した。これから修行の旅に出るよ。それで僕がグラムを持つに足る人間になれれば返してくれる、ってことでいいんだよね?」

 

 グラムを持て余していた俺は、御剣にそう提案したのだ。

 だがこれを提案したのは俺ではない。なんとグラム自身なのだ。

 魔剣に宿っていた意志は御剣を見てきたらしく、和真にしてやられた時点でもう見限っていたのだとテレパシーと(おぼ)しきやり方で伝えたのだ。それに対し宿屋での立ち直りを伝えると、その条件を提示したのだ。

 グラムの意志の存在を御剣は知らないらしく、また伝えてもいない。彼――性別があるのか疑問だが、便宜上男性系とする――が持ち主に干渉する事自体が普通ではないらしく、かつての持ち主に一度も干渉しない事の方が多いのだとか。それがわざわざ抗議する程以前の御剣が嫌だったのか・・・

 

 そんなバックストーリーはさておき、御剣の確認に俺は(うなず)く。

 御剣のほっとした表情に、お付きの少女達も嬉しそうな雰囲気になる。そんなに彼の事が好きなんだな・・・

 

「・・・おっと、そろそろ乗合(のりあい)馬車(ばしゃ)が出る時間だ。これでしばらくはお別れだね」

 ―――元気でな。

 

 御剣達は馬車に乗り込む。一緒にいるフィオが馬車のドアを閉めると、数台ある馬車が一斉に動き出した。

 あいつらとも当分はお別れか・・・あんまり良い思い出なんて無かった・・・というか碌な思い出が無いが、別れというのはやっぱり(さみ)しいかな・・・ちょ、ちょっとだけだけどね!!

 ・・・等と考えていると、遠くなっていく馬車の窓からクレメアが身を乗り出すのが見えた。彼女は俺の方を向き、そして・・・

 

「アマミサトシー!あんたの事ー!変態呼ばわりしてごめーん!」

 

 最後の最後で許された。許された。許されたァァァァーーーーーッ!

 

「ええっ、ちょっ、泣くほどの事じゃないと思うんだけどぉー!?」

 

 こうして、一組の冒険者パーティーがアクセルの街を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに御剣達は緊急クエストの報酬を貰っていない。彼らが駆け付けた時点で後はとどめくらいしか残っておらず、それもアクアが持っていった以上、彼らは緊急クエストに参加していない扱いとなったのだ。避難誘導にでも参加していればまた違ったのかもしれないが、今更言っても仕方が無い。




 キェェェェアァァァァシャベッテタァァァァァ!!
 今回のオリ設定、意志を持つグラム。どこかの神器は女性を好んでいましたが、喋るグラムはどちらかというと持ち主を承認するAIの様な感じです。擬人化などあり得ないしそもそも性別不詳。よしんば擬人化しても歴代のグラム所有者の中で最も肉体的に優れた人物を真似た姿とかになると思われます。





・あんさんぶくぶスターズ!
 『電撃オンライン』にて連載されている、大川ぶくぶ氏による掻き下ろし4コマ漫画。流石にポプ*ピピック程のクソ漫画ではなく原作準拠だが、たまにクソっぽくなる。

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