この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 番外編。ベースとなる世界は当作本編でなく書籍版準拠の世界です。つまりこの世界線では天光聖くんは転生してません。


もしもこのすば世界に転生したのがあの園芸部部長だったら

 彼――――佐藤(さとう)和真(かずま)はこう語る。

 

 ―――もしあの時、あの場所で()()に声をかけなかったのなら、自分の冒険者生活はもっと穏当なものになっていただろう、と・・・

 

 

 

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 最初に彼女と出会ったのは、彼らがジャイアントトード討伐のクエストを終えた翌日だった。

 和真、アクア、めぐみんの三人パーティーがギルドに来ると、受付では一人の少女が半泣きになっていた。

 

「うう・・・ギルドに登録するのにお金が必要だなんて聞いてないよ・・・・・・やっぱり異世界なんて来るべきじゃなかったのかなぁ・・・?」

 

 和真には、彼女が地球から来た転生者だと直ぐにわかった。

 髪の色こそ緑がかって日本人らしさは無いが、彼女の着ているセーラー服はおそらく日本のものだ。彼女がぼやている内容も、彼女かこの世界の人間でない事を匂わせる。

 

「おいアクア、あいつがギルドに登録する金を俺達が貸してやって、俺達のパーティーに入ってもらうってのはどうだ?」

「はあ?仲間を増やすのはともかく、なんであの子の登録費用を私達が出さないといけないのよ?」

「俺達も親切なプリーストの爺さんに金出してもらってたろ・・・服装や言動からして、多分あの子は俺達と同じ転生者だ。強そうな装備は見えないから能力を貰ったんだな。仲間になってくれれば心強い戦力になるだろ?」

「ああ、そういう事!多分転生させたのは私をこんな所に送ったあの天使ね。あの子が妙な失敗してないかも気になるし、そうしましょう!」

 

 和真達の懐には、先日のクエスト報酬がまだ残っている。初期装備の費用も含めて1500エリスもあれば大丈夫か。

 和真とアクアは、めぐみんにテーブルで待っていてもらうよう頼み、その少女を仲間にするべく彼女の元へ向かった。

 

「さっきから見てたけど、あんたも、登録しようとして金が無いのか?」

「は、はい・・・あれ、あんた『も』って、ひょっとしてあなたも・・・?」

「ああ、ところで・・・ちょっと聞きたいんだが、そのセーラー服、ひょっとして日本製か?」

 

 その瞬間、彼女の顔に驚きが浮かんだ。

 今の和真は安物のショートソードを背負ったジャージ男だが、彼女はそのジャージを日本と結び付けられるほど冷静でなかったのか、あるいはこの世界の文化レベルがまだ計りきれていないのか。

 

「ひょっとして、あなたも日本人なんですか!?」

「ああそうだ・・・って、そんな言い方するって事は・・・・・・まあ、若いんだしな、ちょっと髪染めるくらいするか」

「地毛です!」

 

 えっ、と声を漏らす和真。一方アクアは何かを察した表情になる。

 

「・・・まあ、髪の話は置いといて、あんたがギルドに登録する分の金を俺達が出してやるから、俺達のパーティーに入ってくれないか、って思ってさ・・・ああ、別に変な事しようって訳じゃない。実は俺達、まだこっちに来たばっかでさ、まだパーティーに三人しかいないんだ。出来ればあと一人か二人欲しいところだったから声をかけたんだ。何ならあんたが正式に入るパーティーを決めるまで、って事でもいいが・・・どうだ?」

 

 和真が少女にそう言うと、彼女は少しの間思案し、

 

「・・・えっと、それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます」

「決まりだな。俺は佐藤(さとう)和真(かずま)。こっちが・・・」

「私はアクア。この世界に百万の信者を持つアクシズ教の主神、女神アクアよ!」

 

 アクアのその言葉に、少女は思わず閉口する。

 

「まあその、なんだ。お前がこっちの世界に転生する時、手続きをしてくれた・・・神だか天使だかがいなかったか?俺はそいつを転生特典に選んだんだが、それで来たのが・・・」「・・・この人なんですね」

「ちょっとー!二人とも何よその目はー!」

 

 怒ったアクアを無視して和真は話を進める。

 

「で、向こうにいるのがこっちの世界の仲間なんだが・・・本人に名乗ってもらうか」

 

 そしてめぐみんの待つテーブルに少女を連れて行った。

 

「おや、私達のパーティーに入るのですか。カズマの話術がどれほどのものか不安でしたが・・・ならば名乗らせていただきましょう!我が名はめぐみん!紅魔族随一の爆裂魔法の使い手!そして、やがて魔王を打ち倒す者!」

 

 ドォーン!とでも効果音が聞こえてきそうな程の堂々とした紅魔族式の名乗り。それを見た少女は当然ながら絶句していた。

 

「・・・・・・紅魔族っていうのは、魔法に特化した民族らしい。こいつの名前とか名乗りとかも、紅魔族の里では珍しいものじゃない・・・らしい・・・・・・」

 

 和真のフォローは少女の耳に入っているのかいないのか。現実に戻った少女は覚悟を決めた顔をする。

 

「・・・うん、黒森(くろもり)先輩もあんな言動だけど悪い人じゃなかったし、何とかなる筈・・・・・・ええと、私は砂賀(すなが)みどりっていいます。よ、よろしくお願いします・・・!」

 

 

 

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 彼女は冒険者カードの作成時に多大な魔力や《精霊認識》という超レアなスキルが確認された。

 これは読んで字の如く、一部の職業の者達が使役(しえき)する精霊を認識し、それらと交流する事が可能になるスキルである。後天的に習得するのが非常に困難であり、冒険者の和真が後日、習得に必要なスキルポイントを確認したところ40以上ものポイントを要求された(冒険者でそのポイントなら、必死の努力を一年も続けずとも自力習得できる可能性は高いが)程だ。

 そんなスキルを持ったみどりが選んだ職業はドルイド。森と共に戦う職業とも称されるドルイドは、植物や土の精霊の扱いに特化しており、ウィザードと盗賊の相の子のような役割を持っている。

 

 そんなみどりをパーティーに勧誘した和真だが、彼女の()()を知るのはその翌日であった。

 酒場で知り合った盗賊のクリスから盗賊のスキルをいくつか教わり、驚くべき卑劣な手段で(盗んだパンツで有り金を毟り取って)クリスとの勝負に勝った和真だが、その直後に緊急クエストが発令。みどり共々困惑しながら正門まで行くと、飛来するキャベツを収穫(ほかく)するクエストに参加する事となった。

 そのクエストで彼女は、

 

「離して和真くん!私はあの子達を救わなきゃダメなの!静かな場所で一生を終えたがってるあの子達を、よく収穫しようなんて思えるね!?ああ・・・あの子達の悲しそうな声が聞こえる・・・」

「落ち着け!あいつらは野菜だ!収穫物だ!俺達が食べるために育てたんだから、俺達が食べるのが筋っともんだろ!多少嫌がっててもこれはあいつらのためなんだ!だからせめて落ち着けって!」

「でも・・・でも・・・ううう!!」

 

 キャベツ達を解放しようとして和真に止められていた。

 最初の内はめぐみんも手伝っていたが、キャベツに釣られてやって来たモンスター達を爆裂魔法で一掃した後、彼女は指一つ動かせない状態になってしまい、今は和真一人で彼女を羽交い絞めにしている。

 

「『スリープ』」

「こんな・・・狭い・・・檻はダメ・・・・・・」

 

 見かねた通りすがりのウィザードの男が唱えた呪文により、彼女は糸が切れた様に眠りに落ちた。

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

「まあ、なんだ。色々辛いだろうけど頑張れよ。うん」

「お、おう・・・分かった・・・」

 

 彼の同情の言葉を受け、和真も将来が不安になった。

 この際彼女を受け入れるパーティーが何処かにいないか、と考える和真。ちなみにこんな事を考えるのはみどりが三人目である。一緒にいた時間の都合で一人だけ回数が突出してはいるが。

 

「・・・うーん・・・世界を・・・・緑に・・・・」

 

 何かの秘密結社めいた寝言を漏らすみどりを見て、和真は改めて彼女の引き取り先を考えた。

 

 

 

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 彼女を押し付ける先が見つからないまま時は流れ、様々な出会いや事件があった。

 

 みどりが和真を農業の道へ誘ったり(地球準拠の動かない野菜を作る事から始めたいらしい)―――

 未知の植物系モンスターを発生させたり(繁殖力は高いが危険性はさほど無い。意図的に発生させた訳ではない、と犯人の砂賀みどりは念入りに主張)―――

 アクセルにやって来たデュラハンが、みどりを魔王軍へスカウトしようとしたり(強化モンスター開発局は優秀な人材を募集しているらしい)―――

 アクセルに機動要塞デストロイヤーが接近した時、みどりは先日購入した屋敷で育てている様々な植物達のために立ち上がった(魔道具やポーションの材料として収入源にもなる、と当人は主張)。

 紅魔族随一の天才(ぼっち)にサボテンとの高度なコミュニケーションの取り方を伝授したり―――

 砂賀みどりは多くの事件でその中心にあり、騒動の中で着実に力を付けていった。

 

「うう~・・・何でこんな風になっちゃったのかなぁ・・・?私はもっと普通の冒険者らしい事とかしながら、街に緑を増やしたいだけなのに・・・」

「緑を増やそうとしてるのが何よりの原因だろ!ぶっちゃけお前がいなかったら・・・というか植林にこだわらなかったら、俺はもうちょい普通の冒険者ライフが送れてたと思うんだが!?」

「植林ばっかじゃないもん!建物の陰に(こけ)を敷しいたりとかもしてるもん!」

「どこまで念入りなんだお前は!そんなんだからお前を引き取るパーティーがいつになってもいないんだろ!頭のおかしい植林女、って言ったらこの街じゃ皆知ってるぞ・・・」

 

 そんな喧嘩をしばしばする和真とみどり。

 彼らを見て、アクアがぽつりと漏らす。

 

「和真はああ言ってるけど、なんだかんだ言って和真が一番あの子の事を気にしてるわよね」

 

 それを聞いためぐみんもぽつりと、

 

「・・・これは強敵ですかね・・・・・・」

 

 傍から見れば迷惑さ加減は五十歩百歩なのだが、少女は妙な対抗心を抱いた。

 

 彼女達の冒険がどのような結末を迎えるのか、それは誰にも分からない。




 後半がダイジェストになってしまった。でもダイジェストの内容を全部書こうと思ったら番外編なのに無駄に大作になってしまいそうで・・・
 次やるならもっと一つのイベントに集中するべきなんでしょうか?

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