この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 ――― 一応説明しておきますが、当作において言語以外で意思表示をしているシーンでは、カギカッコの代わりにダッシュを使用しています。


第2章
誰かと何かとクエストと


 ―――歌が聞こえる。

 

 今、俺は夢の中にいるのだろう。明晰夢(めいせきむ)、という奴か。

 

 俺はこの歌声を知っている。君咲学院を卒業して行った、今では懐かしい()()

 

『――――――――――――――――』

 

 歌声は遠い。()()が色々な意味で俺とは遠く離れているのだと感じる。

 

『――――――――――――――――』

 

 少しずつ、歌声が近づいているように思える。

 だがそれよりも、俺が眠りから覚める方が早いらしい。

 

 意識が覚醒する――――

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 目が覚めると、もはや見慣れた馬小屋の朝だった。

 いや、同室の冒険者の少なさ――もはや俺達のパーティーくらいしかいない――は見慣れているとは言い難いか。

 別に俺達が寝坊助だという訳ではない。この地に冬が近づいているのが理由だ。

 この世界には四季がある。日本は季節風や偏西風なんかの関係で四季が訪れているらしいが、この世界では精霊とかの魔力なんかも気候に関係しているらしい。細かい理屈は調べてはいないが、この辺りは冬の寒さが厳しくなるのだそうだ。また、冬期に活動するモンスターは総じて屈強で、この時期に活動する――――活動できる冒険者など一握りしかいないとか。

 本来ならこの時期、冒険者達は(珍しく)貯めておいたお金で宿屋の一室を借り、危険な冬を(しの)ぐのが定番だ。つい最近の魔王軍幹部の襲来もあって、資金に余裕の無い冒険者は数える程にしかいないだろう。

 ただ、自分達がその『数える程』の冒険者だというだけの話だ。

 というのも、和真を挟んで向こう側に寝ているアクアが主な原因だ。彼女は先日のベルディア討伐の際に多大な貢献こそしたが、その時の魔法で街の一角が破壊され、その修繕費用の一部がアクアを擁する俺達のパーティーに請求されたのだ。その額なんと3億4000万エリス。ベルディアの賞金を全額返済に回して(なお)4000万という多大な借金が残り、今は手元にお金が無いのだ。

 

 それはそうと、まだ和真とアクアは眠っている。もうそろそろ夜が明ける頃ではあるが、今から二度寝できる気がしない。しかしこの二人の事だから、もう二、三時間は余裕で寝ているだろう。

 俺はちょっとだけ早朝の散歩に出ることにした。

 

 ────────────────────

 

 そうして街を歩いていると、不意に()()の気配を感じた。

 何故感じたのか、それは俺には分からない。だがそれが人間のものでないという事はなんとなく理解できた。

 その気配を感じる方向に足を進めると、路地裏にある小さな飲食店に辿り着いた。パッと見た程度ではただの飲食店としか言えない外装だが、中にいるであろう気配の主の存在を隠すための偽装にも思える。秘密の計画は露骨に怪しい場所で練られるものではないのだ。

 流石に今は準備中。まだ朝食も食べていないし、一旦帰るか・・・

 そう考え、宿屋(の馬小屋)に戻ろうとするが、ある事に気づきその足を止める。

 

 ―――さっきより気配を感じやすい・・・気がする。

 

 これも理屈は分からない。この気配に慣れてきたのだろうか?ひょっとすると今日になって気配に気づいたのも、前からこの街にあった気配に順応した結果なのかもしれない。

 ・・・そうなるとこれは気配というより何かのファンタジー系のパワーなのかもしれないが。その辺りは店内の方々に尋ねるしかないか。

 ちょうど店の窓から店員と(おぼ)しき女性がこちらの様子を(うかが)っている。

 

「・・・あの、今は準備中なのですが」

 ―――知っています。何か凄いパワーを感じたのですが。

「・・・・・・?・・・・・・・・・??」

 

 おおっと。いつものジェスチャー会話が通用しなかった。一部では十分通用するのだが・・・普通に喋るしかないか。

 

「・・・何かありますか?」

「いや何かって言われましても・・・開店しているのは昼から夜にかけてですが、当店に何か御用でしょうか?」

「パワー・・・?」

「流石にそんな上位悪魔の・・・様なものは売ってませんよ!?」

 

 ・・・流石にこれ以上は迷惑か。今日の依頼に良さそうなものが無ければ尋ねてみるか・・・現状で買えるような物を取り扱ってるかは疑問だが。

 俺は店員(仮)に一礼し、この場を離れていった。

 

 ────────────────────

 

 そして宿に戻った俺は、和真達と朝食を取ってギルドに向かう。別にやましい事があった訳じゃないし、眠れなかったから散歩に出たと伝えた程度だ。

 ギルドの掲示板には案の定、高難度のクエストばかりがあったが、あるクエストだけは和真にも出来そうなものであった。

 そのクエストは雪精(ゆきせい)討伐。数こそ多いが非常に弱い雪精を一体討伐するごとに10万エリス。弱いながらも早急にまとまった金が欲しい和真には天の恵みのようなクエスト・・・・・・とはいかない。めぐみんによる雪精の説明の後半を無視してクエストを請けようとする和真を制止に、めぐみんに続きを話してもらう。

 

「さっきも言った通り、雪精自体は弱いです。しかし、雪精がいるという事は、彼らの主である賞金首モンスター、冬将軍もいる筈なのです」

「・・・・・・・・冬将軍?」

 

 頭上に疑問符が浮かんでいそうな顔の和真にアクアが説明する。

 

「冬将軍は冬の精霊・・・精霊っていうのは、元々は決まった実体を持たないんだけど、冬に出歩く人なんて昔は冒険者にもいなかったから、存在が認知されたのは比較的最近ね。それが馬に乗った鎧武者って形で定着して、自分の(しもべ)である雪精をむやみに倒すと、怒って襲い掛かってくるようになったの。でも冬将軍は寛大だから、きちんと礼を尽くして謝罪すれば見逃してくれるわ。具体的に言うと土下座とかね」

 

 アクアによる分かりやすい説明。しかし雪精を討伐しても土下座で許すとは・・・精霊の死生観は人間とは違うものなのだろうか?

 しかしそこで和真が待ったをかける。アクアの手を引いて少し席を離れ、アクアとひそひそ話をし始めた。この時の内容を後で聞いたところ、次のような内容だったらしい。

 

「アクア、もしかしてその冬将軍って、日本人のイメージでその見た目になったのか・・・?」

「ええ、厳しい冬に出歩くようなのは余程の命知らずか、チート持ちの転生者くらいだしね」

「冬といえば冬将軍だから将軍の姿・・・バカじゃねえのかそいつら!?他にもサンタとか選択肢はあっただろ!」

「落ち着いてカズマ!あなたも日本人よ!」

「チクショウ!そういえばそうだった!」

 

 また、冬将軍――――というより精霊全般は魔法に対して強い耐性を持っている。転生者を含めた多くの強者を葬ったために特別指定モンスターとして扱われる冬将軍レベルにもなれば、めぐみんの爆裂魔法でも致命傷とまではいかない可能性が高いとも。

 そんな会話の後、和真は大いに悩んだ。それもそうだろう。命は惜しいが金も欲しい。そして冬将軍が賞金首ながらも温厚な性格と聞く。かなり重い二択だ。

 

「・・・このクエスト、受ける。対処法が分かってるなら大丈夫だろ。俺達は早急に金を稼いで借金を返さなきゃならないんだ」

 

 悩んだ末に和真が出した結論は、クエストの受注だった。

 

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 雪精の討伐が可能なのはこの時期、まだ一部地域にしか雪の降らない今だけだ。この時を逃すと雪精は姿を消し、それと共に各地で雪が降るようになる。おそらく雲の上にでも行って雪を降らせているのだろう。『雪精を一匹倒す毎に春が半日早くなる』という噂もまったくのガセでもないだろう。たった一体で半日も変わるとは思えないし、両者の関係を確信できる程のデータも無いが。

 そして今、街外れの平原地帯に俺達は来ている。この辺りだけ奇妙に雪が積もっていて一段と寒い。

 俺、和真、めぐみんは普段通りの装備だが、ダクネスは今までの鎧がベルディアにボロボロにされたので黒のタイトスカートのみ(本人曰くこれでも十分な防御力があるらしい)、そしてアクアは普段の杖でなく虫取り網と虫かごを持って来ている。彼女は俺に冷凍庫を作って欲しいらしく、その材料として雪精を考えているそうだ。まあやるだけやってみようか。

 

 平原に着いてから一時間弱。早くも討伐数の合計がそろそろ20になろうかという時、()()は突然現れた。

 この間のベルディア以上かもしれない威圧感。半透明の体を覆う雪の様に白い甲冑と陣羽織。青白く冷たい輝きを放つ双眸(そうぼう)

 それが特別指定モンスター、冬将軍であると確信したのは一瞬だった。

 仲間達に警告を発する事も考えたが、そうする前に皆それぞれに行動していた。

 和真は驚くべき瞬発力から繰り出される土下座。女神様(アクア)も捕獲していた雪精を解放した後に土下座。さっき雪精に爆裂魔法を使ったばかりで身動きのとれないめぐみんは死んだフリ。ダクネスは大剣を構えていたが、冬将軍も刀を構え(八双の構え・・・であっていたかな?)、恐るべき身体能力でもってダクネスの大剣を(なか)ばから斬り捨てた。

 

 ―――強い。素早さだけでも山條先輩とほぼ互角、パワーについては冬将軍(あっち)の方が上に見える。耐久力はまだ見えないが、精霊という超常の存在が人間より脆いとは考え難いな。

 

 さて、得物を破壊されたダクネスは、流石に頭を地に付け・・・・・・下げもしない!?

 

「おい何やってんだ!早くお前らも頭を下げろ!」

 

 あっ、ダクネスに気を取られて土下座してなかった。申し訳ございませんでしたァ!

 

「くっ・・・!私にだって、聖騎士であるプラあっ!?」

 

 クリエイト・ゴーレムのちょっとした応用だ。氷でできた腕だけを地面から伸ばし、それでダクネスの頭を下げさせたのだ。これで冬将軍的にセーフならいいが・・・

 

 そう思っていたが、冬将軍はダクネスの元へ歩みを進めた。

 もしや腕が問題なのか、と俺は氷の腕に目線を移す。()()を作る時に周囲の雪精を幾ばくか巻き込んでしまっていたが、魔法を解くと雪の様になって消えていった。雪精を殺した訳ではないが、これが許されるのかは分からない。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 

 気がつけば、冬将軍は俺の前に立っていた。刀は鞘に仕舞っているが、冬将軍から放たれる冷気が肌を刺す。

 

 ―――俺はここで死ぬのか・・・

 

 

 

 

 ―――否、その力を儂の為に役立てて貰う。

 

 ・・・ん?今、聴きなれない声が・・・

 

 ―――儂は、お主等が冬将軍と呼ぶ存在。儂等の会話は思念を持って行うものぞ。

 ―――冬将軍・・・様ですか!?・・・いえ、それより俺・・・私の力を役立てるとは・・・?

 

 俺の疑問を感じた冬将軍は、俺に思念を送る。

 

 ―――儂は雪の精霊と共に有る将にして主、なれど未だ城を持つ事叶わず。

 ―――つまり、私がその城を建てる、と?・・・・・・その、城というものは一人で建てるものではないと思うのですが・・・

 ―――元より精霊の住まう城。人の城とは違う・・・形を持つのは儂の力有る限りで良い。お主は儂の力が形作る城の原型を示せば良い。

 

 冬将軍のその言葉(?)と共に、彼が依頼する内容もイメージとして伝わって来た。

 俺はどんな城を建てるか決め、後日冬将軍がそれを思念で受け取る。そして俺は雪精達がその形をとれるように操作する。俺は精霊に関するスキルなんかは持ってないが、その作業は冬将軍がサポートするらしい。

 これでできた城は冬将軍が自由に出現、消失させる事が可能となり、冬にしか姿を表さない城になるそうだ。

 

 ―――分かりました。それで、いつまでに設計を決めておくべきでしょうか?

 ―――五日後。太陽が沈む時にこの平原にて待つ。

 ―――はい。努力します。

 

 俺のその思念を受け、冬将軍は頷き、つむじ風と共に姿を消した。

 

 冬将軍の放っていた威圧感が消え、戸惑う一同。まず和真が困惑から帰還し、俺の方を向く。

 

「・・・お前いったい何やったんだ?いや、無事に終わったのは嬉しいけどさ」

「仕事をもらった」

「どうしてそうなった!?」




 書籍版2巻目。ようやく明確にオリ展開&オリ設定に入れる・・・
 ちなみに後半のシーンは第三者から見ると無言の見つめ合いです。

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