この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 章分けを忘れていたり前話後書きに注釈を忘れていたりしましたが訂正しました。


城を建てるために

 サキュバスの店で淫夢サービスを注文した俺は、特に何事も無く買い物を終えて宿屋に帰った。流石にこれ以上予定を詰められたら俺にも手に負えない。

 そして荷物の整理をした後、紙とペンを懐に街へと出る。どこぞの天才じゃないが、いい感じの図面がいつ浮かぶか分からないからな。

 

 

 

 そうして歩いていると、一つの店を発見した。

 

『ウィズ魔道具店』

 

 そういえば以前に出会ったリッチーのウィズさんが教えてくれた住所、ここだったな・・・

 

「いらっしゃいま・・・あら?あなたは先日の・・・」

「・・・こんにちは」

 

 店に入ると、見覚えのある女性が商品の整理をしていた。

 別にすぐに欲しいものがある訳ではないが、せっかく近くまで来たのだから覗いてみることにしたのだ。

 さて、たくさんのポーション類が並んでいるこの棚は・・・

 

「あっ、そのポーションは強い衝撃を与えると爆発しますので・・・・」

 

 へああっ!?じゃあこっちは・・・

 

「それはフタを開けると爆発して・・・そっちは水に触れると爆発、そちらは温めると爆発を・・・・・・そんな顔しないで下さい!その棚が爆発シリーズだけ集めているだけですから!」

 ―――爆発シリーズって何!?

「なんでそんな物を・・・?」

「『これは凄い』って私が思った魔道具を集めてたら、爆発系のアイテムが多くなっちゃったので・・・爆発シリーズとして一ヶ所にまとめようと・・・」

 

 魔法使いは爆発の事しか考えないのか・・・?そうなると生産系の魔法を使う俺もいずれゴーレムを爆発させる様に・・・あ、それはそれで強そう。

 ・・・そういえば、

 

「建築関連・・・ある?」

「壊れた壁の修繕する魔道具でしたらあるのですが・・・仕入れの際にでも探してみましょうか?」

 

 無理っぽいな。城の図面を作る助けになる何かが欲しいが、仕入れを待っていたら時間が無くなりそうだし、やっぱり素直に本屋でも探してみるか。

 ついでに何か良さそうな魔道具を物色。異世界(こっち)に来てからは俺も魔道具を作る事は可能だが、まだまだこういう市販の商品に敵う品質じゃないし・・・

 

「そう言えば、私、最近知ったのですが、サトシさん達があのベルディアさんを倒されたそうですね」

 ―――らしいですねー俺がいない間に大体終わってましたけどねー

「あ、あれっ!?何で急にそんな微妙な顔に!?私、何か変な事聞きました!?」

「気にしないで下さい」「でも・・・」「気にしないで下さい」

 

 こうして変な空気になった店を、俺はそそくさと出ていった。

 

 ・・・・・・・・しかし俺以外に誰一人客がいなかったな・・・

 

 ────────────────────

 

 俺は今、街の外にいる。

 今は強力なモンスターと日本人の転生者くらいしか出歩かない危険な時期だが、それでも俺はこっちに用事があるのだ。

 

 遠くに見える丘の上には、一目見て使われていないと分かる廃城がある。ある程度の想像力があれば、そこに住まう幽霊の想像をしてもおかしくないだろう。

 あの城は、先日アクセルの街にやって来た魔王軍幹部、デュラハンのベルディアが根城としていた場所だ。

 まあその事はわりとどうでもいい。重要なのは、あれが()だという点だ。

 冬将軍のために建てる城は日本式、大阪城だとか竹田城だとかみたいなデザインが好ましいだろうとは思う。

 しかし城というからにはある程度の防御能力も必要な筈だ。張りぼてを建てる訳にはいかないだろう。

 なので、俺はこの城の構造、特に防衛設備を参考にするため、この廃城を調べる事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 城門を久々のゴーレムでこじ開けて中庭に入ると、低木と雑草まみれ・・・・ではなく、エントランスまで一直線に切り開かれた道があった。おそらくベルディアが作った道だろう。

 ・・・そしてその向こうからは腐った肉の臭い。そして遠巻きにこちらの様子を窺う数体のアンデッドがいた。

 

 なるほど。この廃城は今、アンデッドの巣窟となっているようだ。

 考えてみれば、ここは薄暗くてじめじめし、滅多に人が寄り付かない廃墟。城として使われていた時に誰も死ななかったとは考えにくいし、アンデッドが沸くには十分な条件だろう。そこに強大なアンデッドであるデュラハンがしばらく住み着いていたとなれば、この現状も当然か。

 

 強い変種なんかが発生していたらせめて報告くらいはしておきたいし、ひとまず俺一人で調査してみよう。

 ある程度のアンデッドになると道具や装備の使用も可能と聞くが、城門に近づいても矢や投石なんかが飛んでくる事はなかった。そんなレベルのアンデッドがいないと考えるのが自然だが、城内の兵だけで十分と考えている可能性も捨てきれない。

 元々ここを調べたかったのもあるし、俺は半開きにしていた城門を、念のためゴーレムで大きく開いておく。そして俺と同程度の体格のゴーレム三体を作ってから中に入った。

 

 中に入ると、案の定ゾンビ達がこちらに向かって来た。しかし遅い。ゴーレムが腕を振り回すだけで簡単に制圧できた。多分和真一人でもここは十分だっただろう。あいつならヒットアンドアウェイで慎重に立ち回るだろうけど。

 城内のゾンビ達を蹴散らしながらしばらく調べていると、今までのゾンビより上位のアンデッドナイトが守っている部屋があった。壊れた扉の向こうに数体で立ち尽くしているのが見える。彼らは近衛兵(このえへい)か何かだったのだろうか。全部で六体いる。

 とはいえ、ここはまだ廊下だ。ゴーレムを横一列に並べれば突破は難しいだろうし、それ抜きでもこんな立て付けの悪そうな扉、一度にすんなりとは二体も通れそうにない。上手く立ち回れば十分に戦える。うん、大丈夫だ。

 ゴーレムが近づくと、アンデッドナイト達は一斉に槍を構え、一斉にこちらへ詰め寄ってきた。しかし予想通り扉は狭く、彼らは一瞬だけ立ち止まった後、一体ずつ廊下に出て来た。そんなアンデッドナイトを一体ずつ倒す事は俺のゴーレムには簡単な仕事だった。床に叩きつけるも良し、室内に吹っ飛ばすも良し。人数差に対して、制圧にさして時間はかからなかった。

 

 幸い、この廃城はそのアンデッドナイトが一番強かったくらいで、今の俺に苦戦する要素はなかった。強力な奴は大体ベルディアがアクセルを攻める時に使われたのだろうか。

 流石に貴重品なんかは残っておらず、埃、当初の目的はこの城の防衛設備を知る事だ。そのくらいの余裕はあり、獲得した経験値もなかなかの量。今日の収穫は上々と言えるだろう。

 

 ・・・しかしこれ、俺みたいな転生特典持ちじゃなきゃどれくらい時間がかかったんだろうか。一番強いのが数体のアンデッドナイトというレベルだし、何人も死ぬような展開にはならないとは思うが。和真のチート呼ばわりも理解できる。

 

 ────────────────────

 

 そして夜。設計図をいくらか考えた後、俺は普段より若干早めの時間に就寝した。

 目的はサキュバスによる淫夢。そして彼女達の潜伏力がどれだけ通用するかを試す事だ。

 もし見つかっても、ただの野良悪魔として店の存在に気づかせるつもりはないと言うし、俺が気にする必要もないとは言われたが、彼女の命がかかっていると考えると気にしない事なんてできない。いつだったか工事中、飛来してきた悪魔を一撃で撃退していたアクアを俺は覚えている。

 だが、今更俺に何が出来る訳でもない。俺は眠るとしよう。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 (さとし)の夢の中。

 今、彼が夢を見ていない以上、ここに()()がある筈がない。しかし、そこに入り込む者がいた。

 

 サキュバス。

 下級悪魔にして淫魔である彼女達は眠っている男性の夢の中に現れ、男性の精気を吸うのが常だ。

 しかし今回、彼女はそれ()()を目的に現れたのではない。

 まず、この街でサキュバスと男性冒険者は一種の共生関係にある。サキュバスは生活に支障の出ない程度の精気と僅かな金銭を貰い、男性冒険者達に淫夢を見せる。

 しかし、そんな関係は許されるものではない。敬虔な聖職者や女性達にバレれば、この街はサキュバス達にとって安息の地ではなくなるだろう。

 だがこの街には、もっと言えば聖のすぐ近くにはアークプリーストがいる。それも凄腕。その人と碌に話した事が無ければ、『何故王都辺りに行かないのか?』と疑問を抱くだろうが、サキュバス達にとっては殊更(ことさら)に切実な問題だ。

 ともあれ、彼女達がこの地で商売を行うのであれば、彼女を無視する訳にはいかない。逃げるか、避けるか、懐柔するか、いずれにしてもアークプリーストを意識せざるを得ない。

 なのでまず、共に暮らす聖の夢に入り込めるか試すのだ。それでバレなければ現状維持、見つかれば一匹の野良悪魔として討伐されるだろう。敬虔な聖職者に存在を知られるリスクは先達、あるいは魔界の知り合いから何度も聞いたし、つい最近も邪神の眷属である上級悪魔が二人、討伐されたと聞く。彼と一緒に寝ていた仲間で、神聖な力を感じた方は女性だ。懐柔も難しいとなると、店の事を話す訳にはいかない。

 

「され、この人が頼んでいた夢は・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・るるる?」

「・・・え?」

 

 謎の気配。

 プリーストが持っている様な神聖さとは違う、まして淫魔の類でもない、しかし高位のモノと思われる気配が、いつの間にか聖の夢の中に新たに入り込んでいた。

 

「るるる!人間ではありませんね!るりはやはりここが異世界なのだと確信します!」

 

 ―――何だアレは。あんなモノ、私達は知らない。

 異世界?彼女は異世界から来たのか?

 異世界から来たと自称する強い戦士の存在はサキュバスも知っている。アレもその同類なのか。しかし聞いた限りだと彼らはあくまで()()()()()()()()()()だけで、既存の人間を逸脱した性質の力の持ち主ではない筈だ。

 ソレは姿こそ黒い髪に空色の目をした少女だが、その見た目通りの存在だとサキュバスはとても思えなかった。

 

「・・・・・・あなたは、どうしてここにいるのですか?」

 

 サキュバスはそう尋ねる。

 

「未知ですね!本来の在り方を大きく外れた特異点が、るりに新たな世界線を観測させました!それを知覚しようとするのは必然です!大宇宙~☆」

 

 ―――意味が分からない。

 するとどこからか足音が聞こえてきた。その足音は徐々にこちらに近づいている。

 

「・・・・・・るり?」

 

 ―――今度は眠っている筈の聖まで現れた。自身の夢の中だからってそんな簡単に活動は出来ないのだが。しかも少女を知っている風だし。

 

「転校生の人!」

 

 もう訳が分からない。

 サキュバスは頭を抱えた。




ラストに出て来た大宇宙なSilhouetteの解説は次回に。


月永(つきなが) レオ
 夢ノ咲学院3-B所属。オレンジ色のショートカットにライトグリーンの目。
 ユニット『Knights』のリーダーで作曲に関しては自他共に認める天才。しかしそれ以外はわりとダメ人間な天才肌。好きなものは妹の『ルカ』の事と妄想。過去の偉大な作曲家達の事も尊敬しているがモーツァルトは嫌い。
 唸り声は『がるるる!』。

・月永 るか
 君咲学院1-B所属。オレンジ色のセミロングにライトグリーンの目のぼくっ娘。
 軽音部で作詞を担当しており、部長の黒森(くろもり)すずを尊敬している。中二病の気があるが、甘々なラブソングなんかが好みだったりする。あがり症。相手を威嚇する時は『がるるる!』
 彼女の事が大好きな兄がいるというが詳細は不明。

 上記の二人には共通項が多いが、要所要所で別人らしき描写(るかの兄がボカロPとして活動している、レオが妹の事を話す時は『るか』でなく『ルカ』表記、など)が見られる。しかし当作ではそれらの差異はパラレルワールド(ゆえ)とし、両者は兄妹としている。

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