いったいこれはどういう状況なのか。
今夜はサキュバスが俺の夢の中に現れる予定だったが、どうも現実世界とは思い辛い空間で日本の知り合いとサキュバスが対面している。
日本にいる筈の彼女は
「どうやって来たの?」
俺がそう聞くと、少しの間をおいて彼女は答えた。
「・・・・・・あたしは『観測者』。遠い世界線の異なる時間軸から、いくつもの世界線を観測しているの。そこに存在する事もできる・・・普通の人とは、ちょっと違う在り方だけど」
たまに見せる普通の少女らしい言動で、比較的理解しやすい、しかし電波な内容を語るるり。というか未来人だったり異世界人だったりするのか・・・あれ、平行世界の住民は異世界人でいいのか?
・・・まあそれは別にいいとして、
「来た理由は?」
「『特異点』の消失!それ自体はいくつかの世界線で観測されました!しかし同一の反応の再出現は他のどの世界線でも観測されていない異常事態!るりは『特異点』の反応を追って新たに知覚した『異なる宇宙』、そしてそこに存在する『特異点』の観測を決定しました!この宇宙について、転校生のひとはある程度の知識を持っていますね?」
いつものマシンガントーク。あるいは無理にいつものテンションになっているのかもしれない。
彼女の言い分を訳すと、俺がこの世界に転生した事を未来のるりが観測して、一緒に見つけた異世界を調べに来た、という事か。
それはそれとして、俺はこの世界について話すことにした。
子供を助けようとしてトラックに
るりは俺の話を聞いて驚いたり懐疑的になったり、あるいは要所要所で質問を挟んだりと生き生きしていた。比率では懐疑的になる方が確実に多かったが。
「・・・それでは、あちらにいる人型の存在の説明を要求します!」
―――げっ。
「・・・・・・」「・・・・・・」
やべぇ、るりはサキュバスとか受け入れられるタイプなのだろうか。サキュバスを知ってどう行動するかがさっぱり想像できない。助けて名も知らぬサキュバスさん!
「・・・私はサキュバス。今夜、そこの彼の精気を頂こうと彼の夢に忍び込んだ悪魔・・・・・・そこにあなたという異物が介入してきたのは予想外だったのだけれど・・・あなた、どうやってここに入って来たのかしら?」
「るるる!高度に発達した科学は魔法と区別がつきませんね!
・・・・・・サキュバス、サキュバス・・・ま、まさか、精気を奪うというのは・・・・・・」
―――多分るりが想像してる通りの事です。
「る、るるるるるるるるるーーー!?」
あ、顔真っ赤になった。
声にならない悲鳴を上げながら頭を抱えている。
「・・・あ、悪魔というのは、どう対処すべきなのでしょうか!?るりは適切な判断を求めます!」
流石の天才も判断材料が不足していてはどうしようもないのか。それとも悪魔祓いの手段を求めているのか。
「下手に倒す方が面倒だから放置」
「るるる!?悪魔というと、こう、魂を奪われたり、といった可能性はないのですか!?」
「わざわざ一人から根こそぎ奪って警戒されるより、お互い気持ちイイ関係が長く続けられる方が良いのよ」
「気っ、気持ちイイ・・・・・・不潔です!」
―――あっそうだ。
「城の構造、わかる?」
「るるる?城とは・・・」
「日本式の城、大体どんな感じなのか・・・」
「・・・・・・・・」「・・・るり?」
「るるる!今から転校生のひとの脳に直接データを送り込みます!」
―――いきなり!?
「比較的少量のデータなので、計算上は脳への負担も軽度に抑えられますね!別に何かしら気にしている訳ではないのですが!」
―――そうはいっても、うぁあああーーーーっ!!
「えっ・・・ちょ、ちょっとぉーーー!?」
────────────────────
翌朝。
俺はるりに与えられた知識を基に、城の設計図を考えていた。
外壁の形はこんな感じでいいとして、天守の部分はここをこんな感じに・・・
「あら?今日はサトシ早いのね」
どうやらアクアが起きてきたようだ。
そういえば、元々サキュバスはアクアに気配を察知されるかどうか確かめに来ていたんだったか。結果はどうだったのだろう。
「アクアも早い」
「何でか今朝は妙に目が冴えてねー・・・サトシもそんな感じ?」
―――まあ、そうだな。
脳に直接知識を刷り込まれた影響だろうか。アクアはそんな理由ではない筈だが、ひょっとしてサキュバスの気配を僅かに感じていたのだろうか。
「カズマさんはまだぐっすり寝てるわね。朝ごはんにはまだ早いけど・・・それって冬将軍からの依頼の奴?」
―――そうだけど。
「まさか精霊から依頼を受けるなんて、よそで言っても誰も信じないでしょうねー。正直私も信じられないくらいよ」
やっぱりこの世界での精霊の扱いはそんな感じだよな・・・当然と言えば当然だが。
しかし、アクアの反応を見るにサキュバス達は大丈夫そうだな・・・まあ、彼女達が近くにいたからアクアの寝付きが悪かった、という可能性もあるし、一度あの店に行ってみるか。
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「あっ、サトシさん!昨夜はそちらで何かあった様ですが、そちらに行った娘に聞いてもいまいち要領を得ず・・・」
そういえばあのサキュバスには碌に説明してなかったな。その辺の話も必要か・。
かくかくしかじか。
「それ、本当に人間なんですか?夢の中に割り込んで現れるなんて、単に力が強くても無理なんですけど・・・」「異世界・・・そんなものがあるんですね・・・・・・」「意図せず重大な事実を知った気分です・・・」
店の奥の居住スペースで、リーダーの桃色髪を含む数名のサキュバスに事の顛末を話した反応がこれである。るりについて説明するために地球についても教えざるを得なかったが、大丈夫という事にしてもらおう。
「・・・それで、そのアークプリーストのアクアさんは、サキュバスに気づかなかったんですね?」
「・・・昨夜は寝付きが悪かったと」
「なるほど・・・注意を払えば十分に仕事が出来そうですね・・・」
そうか、彼女達は仕事を辞めなくて済むのか・・・良かった・・・・・・本当に、良かった・・・・・・
「泣き出した!?私達が仕事をするのがそんなに嬉しいんですか!?」
―――この仕事で幸せになる人が大勢いる・・・素敵じゃん?
「は、はい・・・ありがとう、ございます・・・・・」
何とも言えない雰囲気になった室内だったが、一番幼い容姿のサキュバスが唐突に口を開いた。
「あ、あの・・・もしかしてあなた、昨夜は私達のサービスを受けていないんじゃ・・・」
―――あ、そういえばそうだった。
今度はまた毛色の違う沈黙に包まれた室内で、さっきの幼いサキュバスがまた口を開く。
「そ、それじゃあ・・・今夜は私がサービスに行きます!それなら問題ないですよね?」
「あなた・・・確かにサキュバスに必要な技能は一通り教えたけど、あなたは私達の中で一番の新入り。警戒要素のある客なんだし、罪悪感だけだったら私が代わりに・・・」
幼いサキュバスを説得しようとするリーダーサキュバスを俺は制止する。
―――彼女が決めた事なんだ。周りがとやかく言うべきじゃないだろう。
「・・・・わかりました。それでは今夜は彼女があなたの夢に行く、という事で・・・夢のオーダーについては先日のものとは変えますか?」
―――いえ、あれのままで大丈夫です・・・
あっそうだ。設計の方もしたいし・・・
「店の方で軽食を・・・」
「あ、はい。分かりました・・・・
まあこの店の客なんて大半が淫夢目当てだろうしね、仕方ないね。
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君咲学院3-B所属。腰まで届く黒髪ロングに青い目の持ち主。
人並み外れた頭脳の持ち主で、普通の人とは上手くコミュニケーションがとれない。ぶっちゃけ彼女の喋り方が上手く表現できたか自信が無い。
天文学部の部長であり、副部長の
本質的には寂しがりの女の子ですが、同時にあんガル随一の超自然枠でもありますね?大宇宙~☆