この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 遅くなってしまい申し訳ありません。月に一、二回くらいは投稿したいんですけどね・・・
 そして進行する主人公オリ主化。


あるいはこれは運命

 俺は今、夢を見ている。

 こんな感覚は昨日の一件(るり襲来)以外で感じた事は無かったが、なんだか五感以外で把握しているような感覚だ。

 

 何かの気配のする方をぼうっと眺めていると、昼に会った幼いサキュバスがこちらにやって来た。

 

「・・・何でここを認識できてるんですか。話を聞いてた時は『ひょっとしてそのアマミヤルリさんの影響なのかなー』って思ってましたけど、この感じ、自力で悪魔と同じ領域に来てますよね。本当に人間なんですか?」

 ―――そんな事言われてもよく分からないです。

 

 そういえば、何時だったかアクアが俺のいた地域について意味深な発言を漏らしかけていたな。

 あの時は話してくれそうになかったからスルーしたが、ひょっとしたらその内容がこの状況と関係あるのかもしれない。

 

「まあ、かなり変な感じですが、人間と言っていい・・・んじゃないでしょうか」

 ―――そういうレベルの話!?

「そういうレベルです。それじゃあ無駄話はここまでにして、さっそく・・・始めちゃいましょう」

 ―――え・・・ちょっ、まだ心の準備が・・・・・・

 

 俺が戸惑っている間に、彼女の手は俺の――――

 

 

 

 

 

 ――――気づけば、俺の内側から力が湧き出る感覚があった。

 

「・・・・・・・・」

『・・・・・・・・』

「『・・・・・・・・』」

 

 サキュバスの少女の姿は見えないが、()()()()()()、と感じられる。

 

『・・・・・・本当にどういう事なんですかこれ』

 ―――わからない。けどなんだか力がみなぎる・・・そっちは?

『多分、今私達は魂レベルで繋がってるんだと思いますけど、そのみなぎってる力って私のじゃないと思います。』

 

 高位の悪魔やゴーストができるという憑依の類いではないだろう。あれは憑依する側に主導権がある・・・というか奪い取るものだと聞いた。

 この状態をやめるためには―――こうか?

 

「あ、そっちで解除できるんですね」

 

 人体に無い未知の部分に未知の動かし方をさせるような、形容し難い動作(?)で融合を解除する。

 

 しかしこんな事ができる俺はいったい何者なんだ。アクアが何かした可能性も考えたが、彼女がこんな風に悪魔を利用しようとするとは考えにくい。となると・・・・地球側か?俺が住んでいた辺りは怪奇現象や突出した才能の持ち主がしばしば見られたし、俺にもこんな霊媒師みたいな才能があってもおかしくない・・・のか?

 

「異世界から来れる人・・・人?もいたみたいですし、そういうもの・・・なんでしょうか?」

 

 そういうもの、って事にしておこう。

 それはそうと、この力があればできる事が広がりそうだ。悪魔と契約して得る強力な力・・・一部の方々が喜びそうだ。

 

 ―――サキュバスちゃーん、悪魔との契約ってどうすればいいのー?

「使うつもりなんですかこれ。確かにどちらか片方が単独でいるより強いのは確実ですが、お仲間さんから何か言われたりしませんか?」

 ―――当面は黙ってるつもり。説明できそうならそうするけど。

「ずるずると先延ばしにする奴ですね・・・一応、口頭でも契約は可能ですが、契約内容を紙に書くのが一般的でしたね・・・今ではほぼ誰も人間相手に契約はしませんが」

 ―――何かあったの?

「・・・・人間側が難癖をつけて対価の支払いを拒否する事案が多発しまして」

 ―――なんかごめんなさい。

「まあ、『頭のおかしい便利屋』なんて異名もあるあなたは信頼できる相手だと思ってますし、私個人としては契約をしてもいいのですが」

 

 わーいデレたー・・・ん?何だその異名?

 

「いつも人助けをしてるけど頭のおかしいクリエイター、一部では有名ですよ・・・正直あなたが来店する前は、どんな変人なのかとサキュバス仲間の間で話題になってましたが、えっと・・・・意外と常識的な方で安心しました」

 

 そ、そうなのか・・・

 

 まあ、それはそれとして、この力がどんなものなのか、先に調べておいた方がいいんじゃないだろうか?コントロールが難しすぎて実戦投入できないとか、使いすぎると記憶を失う、みたいなデメリットがあったら使いたくない。その辺りを先に調べておきたいが、後遺症なんかが長引くと依頼に差し障る。そうなると、冬将軍の依頼を終了してから調べておきたい。

 

 ―――それじゃあ、この力について後日調べたいから、そのうちまたお店に行くと思う。その時はよろしく。

「・・・それだったら、悪魔召喚の方法について覚えるのはどうですか?それなら店に来なくても私を呼べますし、もしあの力を本格的に使うのなら、召喚魔法がないと不便でしょうし」

 ―――お、そうだな。どうやればいいんだ?

「もう少し悪魔を疑うことを覚えたら・・・・あぁいえ、何でもないです。でも、召喚魔法は複雑な魔法ですからね・・・魔界から勉強用の書物を取り寄せてきます。明日か明後日には渡せると思います」

 

 そう話すサキュバス。俺は頷いて了承の意を示す。

 

 

 ――――――だが、彼女の本来の目的はまた別にあったのを俺は忘れていた。

 

「さて、そろそろ仕事に入らないと、時間が足りなさそうですからね・・・大丈夫です。昨日注文していただいた内容そのままのプレイですからね・・・」

 

 10歳程度にしか見えない少女の淫靡な笑みは、彼女が人間でない事を思い知らされる。

 そして俺の意識は暗転し――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺の目覚めは普段とは違うものだった。

 若干の倦怠感と、思考の冷静さ。

 率直に表現するのは避けるが、サキュバスのおかげだろう。

 

「あ、起きたか。俺も今起きたとこだ」

 

 和真はちょうど伸びをしていたところだったようだ。アクアはぐっすりと寝ている。

 今回はアクアの寝つきがよかったみたいだ。昨日のはただの偶然だったのか?

 

「そういえばさ、お前城の設計図作ってるけど、今はどんな感じなんだ?」

 ―――お、聞きたいのか。今はこんな具合だな。

 

 俺は設計図を荷物から取り出して和真に見せる。

 既に外装と基盤は(おおむ)ね出来上がっており、この内側をどうするかこれから考える予定だ。

 

「思った以上に真面目な城じゃねえか・・・これを冬将軍が使うのか」

 ―――まあ、そうなるな。

「完成した設計図を冬将軍に渡すのが・・・ああ、二日後か。これって間に合うのか?城の事はよく分からねえけど」

 ―――間に合わせる。

「根性論かよ!?間に合わなかったら俺達全員打ち首、みたいな話はねえよな!?」

「そういう話はなかった」

「今度は口で話すのか・・・そういうとこがあるから、『頭のおかしい便利屋』なんてあだ名が・・・」

 ―――そのあだ名有名なの!?

「あ・・・・俺は、その、あれだぞ。お前の事は仲間だと思ってる。うん」

 

 よ、良かったー!今すぐに独り立ちだったら立ち直れる気がしなかった。能力以前に、精神的にね?

 

 「こいつチョロインかよ・・・・・・」

 

 ―――ん?今何か言った?

「気にするな」

 ―――あ、うん。

 

 

 ────────────────────

 

 

 場面は飛んで翌日の昼。

 俺はサキュバスの店に向かい、頼んでいた召喚魔法の書物を受け取りに来ていた。

 店に入ると、先日の幼いサキュバスが俺を店の奥に案内した。

 そこにあるテーブルに置いてあったのは、思ったより薄い本が二冊と分厚いのが一冊。薄い方の大きさは、絵本よりは一回りくらい大きいか。分厚い方は専門書そのものな大きさだ。しかしどちらの装丁もいかにも魔導書といわんばかりに古めかしく、薄い方は赤茶色と灰色の二種類の表紙、分厚い方は焦げ茶色の表紙である。

 

「こちらの本が『ゴブリンにも分かる!召喚魔法のすゝめ』です。上位悪魔の方が書かれた本で、初心者にも分かりやすいと好評の本なんですよ」

 

 へぇ~、赤茶色の本は、暗記する内容はそんなに無いの?

 

「召喚魔法は、事前に対象と契約をしないと相手が応じない場合がほとんどなんです。契約の仕方や使う魔法陣なんかも対象によって違いますし、召喚される側が事前に魔法陣を設計するのが普通なんです」

「召喚する側向け?」

「はい。召喚される側向けは、こっちの分厚い本ですね。細かい設定なんかは魔法陣に組み込む形でして、これを参考にして私を召喚するための魔法陣を作ろうと思うのですが・・・契約内容はどうしましょうか・・・」

 

 二人で色々と考えたが、俺が召喚魔法を使ったときにサキュバス側の都合が良ければ応じ、俺の許可が出るまでは魔法陣から出られない、という契約内容で当面は契約することにした。召喚関係の契約は、両者の合意さえあれば内容の変更は簡単なのだそうだ。

 

 そうして作られた魔法陣は、灰色の本に書き込まれる。これは魔力を通しやすい紙を使っている以外は線の一本も描かれていない、スケッチブック同然の紙束だった。しかしこれには魔法陣の作成を補助する機能があり、ここに召喚用の魔法陣を書き留めておくのが通例なのだとか(これはその中でも質の良い物らしいが)。

 

 こうして俺は、サキュバスの少女と契約をした。その証ともいえる召喚用の魔法陣が、灰色の本の一ページ目に描かれている。これから俺が召喚魔法とどう関わっていくのかは分からないが、なんとも感慨深いものがある。

 おっと、サキュバスの方もしみじみと魔法陣を見ている。彼女も思うところがあるのだろうか。

 

「ええ、まあ、私達にとっては、ある意味大人に近づいたようなものですし・・・」

 

 そういうものか。

 

「これから、よろしく」

「はい・・・まあ、私をサキュバスらしく扱う気がしませんけど」

 ―――はっはっは。


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