この素晴らしい世界にアンサンブルを!   作:青年T

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 最近リアルが忙しいのじゃ・・・


天光聖の楽しい雪造建築

 さしたるイベントもなく二日が経ち、冬将軍からの依頼の期限がやってきた。

 俺なりに努力した設計図だが、果たして受け取ってもらえるのだろうか。

 

 夕方、和真達にはしばらく帰らない旨を伝えておき、俺は冬将軍と出会った平原に一人で向かう。

 俺が着いた時には既に冬将軍が陣取っており、通常の魔物は恐れをなしたのか姿が見えない。そして冬将軍は、前回は見なかった馬に乗っている。色合いからして雪精の仲間か冬将軍の装備か・・・・どちらにしても、俺と冬将軍で二人乗りもできそうな巨大な馬だ。

 

 ―――設計図は?

 ―――これです。

 

 俺から受け取った設計図をじっくりと見つめる冬将軍。しばしの時間をおいて、俺に思念を飛ばした。

 

 ―――成る程、良い城だ。

 

 そう言うと、冬将軍の乗っている馬の背に、不意に鞍が出現した。異様に白く、冬将軍の鎧と本質的に同じものなのだろう。

 俺がそこに座ると、馬は一度(いなな)き、雪の降り積もる平原を駆け出した。

 

 足元の悪さを抜きにしても普通の馬より幾分(いくぶん)か速い。国一番の名馬と言われても納得できる速力に、野良モンスターは我先にと逃げ惑っている。冬将軍の背にしがみついていなければ落馬してしまいそうだ。

 

 そうしてしばらく後、俺達は見慣れない丘に着いた。冬将軍から依頼を受けたときに広さのイメージも伝わってきていたが、多分ここの面積だったのだろう。

 馬が足を止め、冬将軍は馬を降り・・・え、何今の!?(まばた)きしたら地面に立ってた!瞬間移動!?

 動揺を抑えて馬から降りると、馬は空気に溶けるように姿を消した。

 

 ―――余が魔力を流す。おぬしはそれを固めよ。

 

 そう言って冬将軍は俺の背に手を置く・・・わひゃっ!冬の精霊らしいというべきか、氷柱(つらら)を押し付けられたような冷たさを感じた。

 そこから俺に流れ込む魔力は量こそ少なめだが、冷気系の魔法にしか使えないと直感で分かる、言うなれば『冷たい』魔力だった。

 流れ込む魔力の扱いに俺が慣れるとともに、その量もみるみる増していく。最終的に半ば暴力的ともいえる勢いになった冬将軍の魔力により、土台や主要な柱はたちまち組み上がり、城そのものの幽霊と言われれば納得できる見た目になった。既に夜と言って差し支えない時間だが、作りかけの城は(うっす)らと光を帯びており、早くも幻想的な城になっている。

 

 しかしこの状態から更に建築を進めるのは難しい、という程度には俺の疲労は貯まっていた。

 え?文字数の割りに疲れるのが早すぎる?あんな量の魔力を短時間で操るのは実際辛いんだ。それで全てを消し飛ばすとかじゃなく建築に使うんだから、蛇口みたいに吐き出すだけやればいいって話でもない。

 冬将軍にとっても今回のような魔力の使い方は初めてらしく、俺の体調を気にするような仕草を見せている。プライド(ゆえ)か言葉に出すことは無かったが、少し休めば大丈夫なことを無言でアピールしたら若干安心したような雰囲気になり、建設中の城へと視線を向けた。冬将軍に心配された人間なんて他にいるのだろうか?

 

 しかし、この世界の『モンスター』と呼ばれる存在の知性はピンからキリまであるように思える。

 ジャイアントトードのように野生動物と大差ない知性のものが大半だが、今回の冬将軍なんかはテレパシーまで行える程の確かな知性を持っている。いつかのベルディアは元人間ながら邪悪な思考をしているが、アクセルのサキュバスやウィズは人間との共存を考えている。サキュバス達は打算もあるが、他のモンスターより明らかに危険度が低いのは明らかだろう。

 この世界の人間は、モンスター達を敵として認識し、その戦い方以上のことを理解しようという余裕が無いのかもしれない。それを短絡的と非難するのは()()だろうが、それは寂しいことだろう。

 モンスターと呼ばれている者達が、いずれ何らかの形で再分類される日が来るならば。

 時間に反して明るい平原で、弁当を食べながら俺はそんな事を考えた。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 翌朝、俺達は城の建造を再開した。

 とはいっても、昨日の作業は膨大な魔力でゴリ押しできたが、ここからは繊細な作業を必要とする。昨日のようにはいかないだろう。

 ・・・・・・しかし、普通なら数千人は人を雇うような作業の筈がここまでの超スピードで進行するとは・・・魔法の凄さを改めて感じる。厳密にいえば作っているのは城じゃなくて、それを魔力で形作るための『型』を作っているというべきなのかもしれないが。

 

 これは本来、建築に使われる素材に深い造詣がなければ不自然になりかねない。木を模倣した床が妙にツルツルだったり、逆に岩のようなゴツゴツした質感になったり、というのは冬将軍的にNGらしい。気持ちは分かる。

 だが築城に関する知識を脳に直接刷り込まれた俺には難しいことではない。むしろ変に癖のある素材にする方が難しそうだ。

 外観も内装も和風であり、日本人であれば空想するかもしれない隠し通路や曲者(くせもの)対策の罠も多数設置。主である冬将軍の意思で自由にオンオフが切り替えられる便利仕様だ。姉さんの知り合いの忍者マニアくんがこれを見ても満足してくれるだろう・・・・・・と思いたい。

 

 まるでコンピューターゲームのマップ読み込みのように実体化していく純白の城。画像でなら姫路城も見たことがあるが、冬将軍の魔力からなるこの城ほどの白さではない。いや、冬将軍のオーラ的なものが無ければ輪郭が分からないくらいには文字通りの白一色と比べるのもどうかと思うが。

 冬将軍が何処からか調達してくる食料(大半がモンスターの肉だし盗んだとは考えにくいが)を食べて、持ってきた寝袋でしばしば睡眠をとる。それ以外は全力で魔力を操作し続ける若干頭のおかしい生活を送った結果、城の完成には一週間を要した。

 だって冬将軍さん凝り性だったんだもん・・・不意に突っ込んでくるネタを真面目に検討して、それを導入するために全体のバランスからいじることもあったもん・・・そして家紋的なマークの作成には丸一日くらいかかったし・・・ちなみに家紋(仮)は雪の結晶を枯れ枝で囲ったデザインになり、真っ白な城の中でそれだけ色が違っている。具体的には茶色ベースに金。

 しかし、その甲斐あってなかなかの出来ばえだ。冬将軍は完成した城をしみじみと眺めている。俺としても、自分で建てた城と思うと感慨深いものがある。

 

 ―――お主には、儂の城を建てた褒美をやらねばな。

 ―――褒美、ですか?それはいったい・・・・・・

 

 不意につむじ風が起こり、俺は思わず目をつぶる。そして目を開けると、目の前には金貨の入った木箱と巻物が一巻あった。

 

 ―――そのスクロールを読めば、街に戻るのも容易(たやす)かろう。

 ―――ありがとうございます。

 

 当然というべきか、スクロールを開くと何かの魔法陣があった。ここに魔力を流すと起動する、使い捨てではないタイプのスクロールだ。見た感じから発動する魔法が分からないが、この口ぶりだとテレポートでも発動するのか?

 スクロールを発動すると、周囲の冷気が俺の手前あたりに集まり、やがて何かの形を取り始めた。

 四本の細めの脚、長い首、長さに対して太い胴体を持つこれは・・・

 

 ―――ここに来るときに使ったあの馬。

 ―――然り。冷気あらば風の如くお主を運ぶ無形の駿馬なり。

 

 これも精霊を行使する魔法の一種・・・とは違うか?あくまで実体を持っているのはスクロールに流した俺の魔力だから・・・あ、これ精霊と同じことをするタイプの魔法なのか。俺の調べた範囲では類似する魔法も見つからなかったな。

 

 ―――お主の往く道には苦難もあろう。励むがいい。

 ―――ありがとうございます!

 

 俺は冬将軍に一礼すると、アクセルの街に向けて馬を走らせた。

 ・・・・何か良い名前付けた方がいいかな。

 

 

 

 

 

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「サトシ、今戻ったのか!?今、あのデストロイヤーがアクセルの街に接近しているんだ!今はカズマも含めた冒険者達が、この街を守ろうと行動している。あっちで作戦会議に参加してくれるか?」

 ―――何事!?




 この回を当事者の時間感覚に沿って描写すると、延々同じ文を繰り返し続ける新手のヤンデレみたいになるのは確定的に明らか。


仙石(せんごく) (しのぶ)
 夢ノ咲学院1-B所属。黒髪金眼で、左目を前髪で隠す鬼*郎スタイルでござる。
 ユニット『流星隊』に流星イエローとして所属している他、放送委員会にも所属。忍者同好会も設立したがそちらの会員は彼一人。
 かなりの忍者マニアで、語尾に『ござる』と付けたり手裏剣を持っていたりする。忍者であれば実際雑食。日々忍者の修行に励む彼が、本物の忍者になれる日は来るのだろうか。

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