ちなみにこちらは執筆内容的に、世界が原作でも当作でも関係ない内容ですね。もしも次話を書くのならその時ははっきり決めますが。
彼――――
「あら、ここどこ!?誰かの事務室か何か?宇宙人にアブダクションされたとか?でも宇宙っぽい部屋じゃないしな・・・」
「・・・あの」「ああちょっと待って!いま妄想の世界に翼を羽ばたかせてるから!あっそうだ、メモとっとかないと!『寝起き』の発想力で素晴らしい曲が書けそう!
「あ、やっと話ができそう・・・私は女神アクア。
青い髪の少女が、レオにそう語る。
レオはその言葉を聞いて押し黙る。ややあって、レオが再び口を開く。
「俺が・・・死んだ・・・・・・?そうだ、あの時確かに俺は・・・・・・ッ!じゃあ俺という天才の楽曲が世に出る事はもうない、って事か!?ああああ、天才の才能が世界から失われる~!この宇宙から!因果律から!あんな事で!もったいない、もったいない、もったいない!今日という日は世界にとって厄日だ!無限に広がる音楽の萌芽が!今後生まれるはずだった作品が一瞬で消えた!世界的、いや宇宙的損失・・・!
ごめんなさいベートーヴェン!ヴィヴァルディ!バッハ!俺もすぐにそっちに行きます!でもモーツァルトはくたばれ!」
怒涛のように言葉を紡ぐレオに少女もたじろぐ。
「こういう取り乱し方は初めてね・・・しょうがないからだいぶ端折って説明するけど、あなたは今の記憶や能力を持って他の世界に生まれ変わる事ができるの」
「・・・え?それって、俺の天才的な才能が、他の世界で活かされるって事か!?」
「まあ、そうなるわね。じゃあ詳しく説明するわ」
もはや読者諸氏には周知の事実とは思われるが、魔王軍の脅威に脅える世界があり、その世界を救う勇者として日本人の若者(希望者に限る)をそこに転生させているのだ。
「更に、見事魔王を打ち倒した真の勇者には、どんな願いでも一つ、叶えさせてあげるわ。元の世界で死んだ事実を無かった事にしたい、みたいなのもアリね」
「おおっ!俺という天才の才能が再び世界に戻って来れる!天才の帰還!あ、『天才の帰還』ってフレーズいいな!これで一曲書けそうだ!・・・ってネタ帳がないんだった!あああ、
「あ、うん・・・」
おかしい、こんなのは私のキャラじゃない。アクアはそう考えていた。
女神であるアクアに見とれる者、敬意を示す者、何故かは分からないがガッカリしたような態度をとる者、この仕事を始めてから多くの人間を見たが、その反応を大別するとこの三種だった。
しかし彼はそのどれでもない。あろうことか女神であるアクアを勢いだけで圧倒している。アクアは本来なら苦言の一つも呈するべきなのだろうが、少年のような立ち振る舞いの彼を見てそんな気も失せていた。
やがてレオの手が止まったのを見て、アクアは彼に声をかけた。
「一段落した?さっきの話の続きなんだけど、戦う力なんて何にもない日本人を魔王軍との戦いに送ってもすぐにやられちゃうだけ。だからあっちに転生するにあたって、その人に一つだけ特典を与えているの。強力な装備だったり、特殊能力だったり・・・さあ、選びなさい、たった一つだけ」
レオは渡されたカタログをパラパラとめくる。ここだけ見れば今までの勇者候補と大差ないが、ここからどんな選択をするのか。
「・・・思ったんだけど、俺ってよくネタ帳をなくしてそこら辺に楽譜を書いたりしてたんだ。だからさ、紙を無限に生み出せる能力!とかない?」
「紙?そういう能力をつける事自体は可能なんだけど、仮にも魔王と戦うための特典よ?どう考えても戦えない特典じゃ、私の責任問題になるわ。せめて建前だけでも戦いに貢献できる特典じゃないと無理よ」
「ちぇ~・・・・
あれ、そういえば向こうの世界って楽器はあるのか?ギターとか欲しいんだけど、もしかして新しい楽器で曲を作らないとダメなのか?できればそれ以外にも色々欲しいな。マイクとか、ベースとか・・・」
「流石にそこまであったらそもそも持ち運びできないでしょ・・・どうやって持ち運ぶつもりよ」
「そこはほら、魔法のカバンとかで・・・・そうだ!大量に物が入る魔法のカバンを特典ってことにして、楽器とかをおまけって事にできないか!?」
「・・・それならいけそうね。特大のマジックバッグは前から選択肢にあったけど誰も選ばないから、オマケを付けたって問題にはならないでしょ・・・・・・最後に確認するけど、あなたが持って行く特典はこの特大マジックバッグと、オマケの楽器セットに、紙とペンを少々・・・でいいのね?」
「ああ!これで俺の天性の才能が異世界に埋もれずに済む!ありがとう救いの女神様・・・☆」
「あんた今まで私のことを何だと・・・もういいわ。そこの魔法陣に入って頂戴」
アクアの指示に従って魔法陣の中に入るレオ。今度は魔法陣を舐めるように観察しているが、陣から出ないしいいか、とアクアは黙認する。それだけなら以前にもやった人間はいた。
「コホン!・・・・・・さあ、勇者よ!願わくば、
「おおっ!魔法陣が光ってる!まさに魔法、って感じだ!わははっ!早速
結局、レオは自分のペースを最後まで崩すことなく異世界へと旅立っていった。
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一人の少女が、乗り合い馬車でとある街へと来た。
彼女の名前はゆんゆん。あだ名ではないし偽名でもない。彼女が生まれ育った紅魔族の里ではさほど可笑しくもない本名だ。
ゆんゆんはこの街で冒険者としての修行を積むために来たのだ。少し離れた所には駆け出し冒険者の街として知られるアクセルの街があり、ゆんゆんもしばらくそこで生活していたのだが、その街はゆんゆんのライバル(とゆんゆんは思っている)が拠点としている街でもある。
この街で冒険者として修業し上級魔法を覚え、彼女のライバルとしてふさわしい成長を遂げた時こそアクセルの街に戻る時。そしてその時は
(ううん、今こんな事を考えても仕方ない)
まずはこの街の冒険者ギルドへ行き、どこかのパーティーに参加するのが最初の目標といっていいだろう。どの様にギルドの場所を聞くべきか悩みながら街への一歩を踏み出し、
「ちょっと!あなたまた歩道に楽譜を書いてるの!?マジックバッグに紙をたくさん入れてるって言ってなかったっけ!?」
「わははっ、全部落とした!」「はあ!?」
「俺の
「あなた私の事を小間使いか何かだと思ってるの!?いっとくけど私はこの街の衛兵!その気になればあなたを牢屋に入れてもいいのよ!」
「そんな!それじゃあ一体どれだけの霊感が世界から失われるか・・・!俺は抵抗するぞ!がるるるる!!」
街中で言い争う男女がいた。
(何これ)
女の方は服装から衛兵だと分かる。男の方は見たことのない服装で、何の仕事をしているのかゆんゆんには分からなかった。
見たままをなるべくそのまま受け入れるのなら、男は作曲の仕事をしているのだろう。しかしその様子が普通ではない。彼は石ころを手に、歩道を削ることで楽譜を書いている。紅魔族には趣味レベルなら作曲をしているものもいない事もないが、彼らの作曲は室内で行われることが大半だ。知人に相談する者もいるが、明らかにそういう様子ではない。女は彼に怒っているらしいが、それも当然だろうとゆんゆんは思った。
「・・・・・・あの」
「お?誰だあんた?いや待って!答えなくていい!俺との関係を妄想するから!前に何処かで会った?どっかの店員だったら話もしてたかな?それとも日本から・・・」
「いえ、そちらの衛兵の方に用があったんですけど・・・・」
「俺じゃなかった!恥ずかしい!」
「ざまあ・・・コホン、何か用?これからちょっと彼と
「そ、その、冒険者ギルドがどっちにあるのか聞きたいんですけど・・・」
「冒険者ギルドなら、この道を真っ直ぐ行って・・・」
ゆんゆんの問いに、衛兵は丁寧に道を教えてくれた。
「この街に来たのは初めてみたいだから言っとくけど、あの男・・・レオっていうんだけど、あまり話しかけない方がいいわよ。少し前にこの街に来たんだけど、見ての通りの変人よ。たまにバンド?っていうのに誘ってくるから、最近じゃ関わらないようにしようとする人もいるわ」
「やっぱあれ避けられてたのか!すごく悲しい!所詮俺は異邦人・・・おお、『異邦人』って響きも良いな!でもこれだけだと捻りが足りないか?うーん・・・」
自分の世界に籠る男を見て、ゆんゆんは何故か故郷の知り合い達を思い出した。彼女達はこんなマシンガントークはしないが、格好良さを念頭に考えるのは紅魔族の習性といっても過言ではない。
「・・・・・あの、バンドってどういうものなんですか?」
その言葉が自然とゆんゆんの口から出ていた。
「ちょっと!?」
「音楽を演奏したりするグループだな。大体三人から五人くらいか?それで楽器をやったり歌ったりするんだ。楽器なら持ってるし楽譜も今だって書いてる!そろそろ仲間が欲しかったし、今から練習したっていいぞ!」
レオは当初アイドル活動も考えたが、中世ヨーロッパ程度の文明の
それはともかく、彼の提案は冗談という訳ではない。彼は一人で多数の楽器を同時に演奏できるような奇人ではない。しかし複数の楽器が一つの楽曲を作るアンサンブルをやるのに仲間は不可欠。バンドのメンバーを集めるのは当然だ。
「ちょ、ちょっと待って!こんなさっき会ったばっかりの子を何に誘うのよ!」
「何って・・・バンドだよ」
「それは分かったけど・・・この子に変な事とかしないか心配なのよ!」
「そうは言っても仲間が欲しいのは本当だし・・・それじゃあ代わりの人とかいない?」
ゆんゆんのバンド加入に反対していた衛兵は、レオの言葉を聞いて不意に押し黙る。やがて顔を赤くし、意を決した表情で口を開いた。
「そっ、それじゃあ私もそのバンド?に入るわ!その子だけじゃ不安だし、あなたを放っておく訳にはいかないわ!」
その露骨な態度に、ゆんゆんは彼女の想いを察する事ができた。できたが、当の本人が気づいていない様子で、自分からそれを口にするのは憚られた。
ゆんゆんは改めて男を見る。オレンジ色の髪にライトグリーンの瞳。多分
「じゃあまずは楽器決め・・・・あっ、早く作曲用の紙、買い足しにいかなきゃいけないんだ!楽器は俺が泊ってる部屋に置いてあるから、適当に触って決めといてくれ!俺は余った楽器をやるから!」
そう言って街へと駆け出していくレオ。残されたゆんゆんは衛兵に
「あの人が泊ってる宿屋なら分かるわ。一緒に行きましょう。私はタニス。以後よろしくね」
「は、はい!ええっと・・・タニスさんは、そんな簡単にバンドに入るのを決めてよかったんですか?」
「ああー・・・・・まあ、衛兵の仕事も楽じゃないのよ。最近は新しい上司の目線がね・・・まあ、察して?」
納得してしまったゆんゆんは楽器に目を向け、筒と円盤が連なったような打楽器に視線が行くのだった。
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めぐみんはある噂を聞いた。彼女の友人(自称、とめぐみんは付け加えるだろうが)であるゆんゆんが、近くの街で音楽家を始めたというものだ。
ゆんゆんは紅魔族の次期族長であり、魔法使いとして高い適正を有している。普通に考えれば魔法使いになるし、彼女を音楽家の道に誘う友人は紅魔族の里にはいなかった。
そう考えて、めぐみんはある可能性に思い至る。
(もしや悪い男に騙されて、何か良くない事をさせるための隠れ蓑として音楽家をやらされているのでは?)
一度その可能性が浮かんでからは、めぐみんの不安はどんどん膨れ上がっていった。彼女の魔力はかなりのものだし、スタイルだっていい。それであのチョロさと気弱さだ。むしろ付け込まれない理由がないのでは・・・?
「いったいどうしたんだ?さっきまで何か悩んでたみたいだったけど」
めぐみんの仲間であるカズマが問いかける。
「ちょっと隣町まで行ってきてもいいですか?その・・・・何と言いますか、知り合いが良からぬ事に巻き込まれている気がしまして」
「・・・・・・美人?」
「・・・・・・めんどくさい子です・・・あ、今露骨に面倒くさそうな顔しましたね?」
「そうは言っても、これで助けに行って何ができるっていうんだよ?というか何でそう思ったんだ?」
「その知り合いは、、いずれ上級魔法を覚えたら私に会いに来るつもりだったはずなんです。しかし風の噂で、彼女が音楽家を始めた、と・・・」
それを聞いて、カズマはしばし考え込む。何が何だかよく分からないが、これがその少女に恩を売ることになれば、ひょっとするといざという時に上級魔法を使う本物の魔法使いの助力が得られるかもしれない。
「・・・とりあえず、行って何か助けになれそうだったら助ける、っていう感じでいいか?あんまり話が大きいと俺達じゃどうにもならないかもしれん」
「はい・・・その、できれば早急に行きたいのですが・・・」
そうめぐみんが言うと、カズマがにやにやと笑いだした。
彼女達がゆんゆん、そして彼女と一緒にいる月永レオに出会うのはもうすぐだろう・・・
・Knights
夢ノ咲学院のアイドルユニット。月永レオ、瀬名泉、朔間凛月、鳴上嵐、朱桜司の五人で構成されている。
月永レオがリーダーを務める。個人のパフォーマンスのレベルの高さが売りで、メンバーはそれぞれ天才、クレイジーサイコホモ、吸血鬼、オネエ、ルー語という個性の強さ。昔からあったユニットが数度の改名や殺伐とした内部抗争を経て今に至る。
メインストーリーでは、お互い不利な条件がある中でTrickstarと戦った。