「なるほど、初心者殺しが・・・」
和真の蘇生が完了し、俺達は一連の報告のためギルドに来ていた。
こんな初心者の街のパーティーが初心者殺しを討伐したというのは誰にとっても信じ難い事ではあったが、ベルディア討伐の立役者である和真を見て納得したようだ。本人はそういう過度な期待が苦手なようだが、なるようにしかならないか・・・
「確かに冒険者カードにも記録されていますし、報酬金は明日、支払われます。お疲れ様でした」
「あれ、今日じゃないんですか?」
「はい・・・実は、先日のベルディアやデストロイヤーの報酬金で、ギルドとしても大金をすぐに出すのは難しいんです・・・」
「ああ・・・それなら仕方ありませんし、明日まで待つ事にします」
「申し訳ありません・・・」
まあ、ベルディアの時の借金は返済し終えている。今のところ資金には余裕があるし、一日や二日くらい待ってもいいだろう。変に難癖を付けて険悪な仲になる方が問題だ。
・・・・・・しかし受付の人(ルナさんではない)は、気まずそうにこちらを見ている。何かあったのか?
「実は、平原の方でジャイアントトードの活動が何故か活発化しまして・・・」
―――ジャイアントトードが・・・・あれ、平原って確かめぐみんがデイリー爆裂魔法を・・・
「その原因として考えられているのが、その、あなた方のパーティーの人が魔法の練習をしているのが、冬眠中のジャイアントトードを刺激したのではないか、という話がありまして・・・・・・」
「・・・・・・・・明日行きます」
急激に苦い顔になった和真が依頼を受ける。流石にさっき死んだばかりでまたクエストに行く気にはならなかったみたいだが、仕方ない事だろう。
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そして翌日。
「今回は俺と聖が囮になってカエルを一ヶ所に集めるから、めぐみんはそこに爆裂魔法を打ち込んで一掃してくれ。余った奴らがいたら俺達が倒すから、多少狙いが甘くなっても大丈夫だ」
「ほう?私の爆裂魔法が満足に敵を狙い打てないと?
爆裂魔法は最強の魔法。カエル程度に後れを取るほどのノーコンではないのです」
和真、めぐみん、俺の三人で問題の平原へ来ていた。他二人はジャイアントトード相手には役に立たないだろう。
以前はアクアが囮となって和真が倒すとか、めぐみんが囮となって和真が倒すとか、まあ、使い辛い・・・感じの戦術で戦った訳だが、今ならもっと綺麗な戦い方で倒せる・・・と思うんだが、今見えるだけでも結構多い。片手では数えきれない数がいる。上手く追い込んで爆裂魔法を綺麗に当てたいが・・・
「集める」
「じゃあ左の方のを頼む。俺は『狙撃』スキルで右の奴をおびき寄せるから、一ヶ所に集まったらめぐみんが爆裂魔法だな?」
―――OK。
和真の合図で、俺は左側の群れに近寄りながら中級魔法『フリーズガスト』を放つ。一体を倒すくらいならもはや造作もないが、この数相手に事故らないように立ち回りを考慮するとなかなか倒せない。だって魔法に集中しようとしてもカエルの舌が伸びてくるんだもん・・・
「『エクスプロージョン』ッ!!」
めぐみんの爆裂魔法に八体ほどカエルが消し飛ぶ。そこに出来たクレーターに、めぐみんを抱えながら跳び込む。カエルに包囲される可能性はさっきの場所よりは低いだろう。しかし油断はできない。和真の様子は・・・・・・
「わああああっ、ちょ、マジでやばい!聖ー!援護頼むー!」
二体のカエルに追いかけられている。率直に言ってあぶない。俺は土のゴーレムをこの場で作り、和真を追いかけるジャイアントトードに向けて投げ飛ばした。
その勢いをつけた拳は、ジャイアントトードの一体の目を抉る。目を抉られた個体は痛みにのたうち回り、その暴れっぷりを警戒してもう一体の追跡も止まる。
しかしこれで終わりではない。ゴーレムに込めた魔力を爆発させ、二体を完全に仕留めた。
「やったなさと・・・し・・・・」
ん?和真が俺の後ろを見て言葉につまった。一体何が――――
――――めぐみんのものと思われる下半身が、一体のジャイアントトードの口からだらりと垂れていた。
「め、めぐみーーん!」
―――今度もか!
幸いというべきか、今はまだ致命的な状態にはなっていない。しかし俺もカエルに追いかけられてめぐみんの対処は難しい。これは・・・ちょっと危険なやり方をせざるを得ない・・・・・・か?
「『ライト・オブ・セイバー』ッッッッ!」
―――ッ!?これは上級魔法!
俺はまだ何もしていない。危険なやり方というのもカエルの腹の中で力を溜めて飛び出すという乱暴なものであり、まだ習得に至っていない上級魔法をぶっつけ本番で試すものではない。
どうやら通りすがりの魔法使いの女の子が助けてくれたらしいが、この辺りにあんな子いただろうか?
彼女の魔法はジャイアントトードを一気に三体ほど蹴散らし、俺達が再び攻勢に転じるのに十分な隙がカエル達に生じた。そこからはもはや語るまでもない、即興パーティーによる一方的な制圧となった。
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「助かった・・・ありがとうな。俺は
「・・・え!?めぐみん!?」
「知り合い?」
「あ、はい!めぐみんは私の知り合い、というか、ライバルと言いますか・・・・」
そう話していると、爆裂魔法の反動で動けなくなっていためぐみんが寝返りをうって少女を見る。少女の顔を確認しためぐみんは、また寝返りをうって目線を逸らした。
「めぐみん!あなためぐみんよね!?私よ私!ほら、紅魔の里で同期だった!めぐみんが一番で、私が二番で!なんでこっち見てくれないの!?さっき私の方見たよね!?」
この調子だと・・・彼女に情けない姿(カエルの粘液濡れ)を晒してしまったことが恥ずかしいのかもしれない。彼女はけっこう意地っ張りというか、負けず嫌いな面があるからな・・・故郷での彼女がどんな具合だったのかは実際に見たわけではないが、どうも優秀で通していたらしい。こんな姿はおそらく見せなかったのだろう。
俺は彼女の肩を引いて下がらせ、とりあえず討伐したジャイアントトードの肉を運ぶ準備をする。
「血抜き、頼む」
「え?は、はい!」
俺が作った台車に血抜きした肉を積んでいく。こちらを見ながら血抜きを真似する少女の手際は・・・・いや駄目だ。あまりにもぎこちない。
―――手伝う。
「え?えっと・・・・こう、ですか?・・・わっ!」
カエルの喉にナイフを刺して切り裂き、胴体を持ち上げる。こうすると胴体の血が流れ出し、持ち運びやすくなるのだ。切断面が地面について汚れないようにし、数を考慮して一体ごとの時間は短めに済ます。
ふと少女を見ると、いまにも泣き出しそうな顔だ。どうやら絵面のグロデスクさが耐え難いようだ。
これは彼女のメンタルを見誤った俺のせいだ。俺が余計な提案をしなかった。謝罪しなければなるまい。
「え、えええっ!?いきなり頭を地面に着けてどうしたんですか!?」
「すまない・・・すまない・・・・・・」
「え?い、いえ!私がこんな事もできないのが悪いんです!」
「いや、俺がさせた」
「いえ!私が――――」「いや、俺が――――」
「お前らうるせーよ!」
今度は和真に怒られた。悲しい・・・・・・
「・・・それで、あんたはめぐみんの友達・・・なのか?」
「と、友達!?たた確かにめぐみんとはよく勝負をしてたし、それでよくお弁当をとられたりしたけど、わ、私とめぐみんが、友達・・・・・・」
俺と和真の目が同時にめぐみんに向く。そのめぐみんはこちらの視線に気づき、ふいっと目を逸らした。
弁当の事については話してくれそうにはないので、俺は別の話を振る。
「・・・で、君は誰?」
「あ、わ・・・・・・我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!やがては紅魔族の長となる者・・・!」
「とまあ、彼女はゆんゆん。紅魔族の族長の娘で、いずれは紅魔族の長になる、学生時代の私の自称ライバルです」
彼女が紅魔族なのはもう察してはいたが、そうか・・・ゆんゆん、か・・・・・・
「ん?どうしたんだ?なんか急に遠い目になったけど」
「その子の名前が・・・・」
「う・・・やっぱり変な名前ですよね・・・・紅魔族ですみません・・・・・・」
「いや・・・故郷の友達の口癖と同じで・・・」
「口癖!?私口癖と同じ名前なの!?」
「その人ってどんな人なんですか!?」
時国先輩の事を思い出す。彼女の事を端的に表すとなると・・・
「他人には聞こえない声が聞こえてた」
「「「他人には聞こえない声・・・・・・」」」
・・・和真とゆんゆんの反応は『何だそいつ』とか聞こえてきそうな感じだが、めぐみんは興奮したのか目を輝かせているように見える・・・いや、これ本当に光ってる?なんか赤い光が目から出てる。え?何それすごい。
「そ、そういえば!・・・・・・めぐみん、私はあなたと決着をつけに来たのよ!」
どうやらゆんゆんは学生時代、めぐみんに負け続けだった雪辱を晴らすため、上級魔法を覚えてめぐみんと再び戦いに来たらしい。戦いの内容は聞いた限りでは可愛らしいものだったので、戦う事自体は俺から口出しはしない。
「今からするのか?」
「・・・今日は魔力を消耗してしまったので、勝負日和とは言い難いですね・・・なにせさっきジャイアントトード八体を一撃で消し飛ばしたばかりですしね・・・・」
ゆんゆんの表情が驚愕に染まったところを、和真がめぐみんの発言を肯定する。本当の事だしね。動けなくなるくらいには反動があったけど。
また、彼女は魔王軍幹部をおびき寄せて撃退した事や、デストロイヤーを粉砕したことを語る。どちらも嘘ではないし俺も表情で肯定する。
「そ、そそそそ、それでも、しょ、勝負を!勝負をしないと・・・・・・っ!たとえ勝ち目がなくたって、何度でも勝負を挑ませてもらうわ!」
彼女は半ば錯乱しながらもめぐみんに挑もうとする。それは勇気というより蛮勇というべき愚行だった。とりあえず頭を撫でで落ち着かせる事にする。どうどう。
「え!?えっと、その、一体何を・・・」
―――どうどう。どうどう。どーうどうどう。
「おい、私の・・・・えーっと、その、アレに何をしているんですか」
「アレって何!?」
「撫でてた」
「それは見たら分かります・・・それで、どうして撫でてたんですか」
「テンパってた」
「はあ・・・・・・」
めぐみんは溜め息を吐き、ゆんゆんの方を向いた。
「もう勝負をする空気じゃないですし、明日、改めて勝負をする事にしましょう。明日の昼にでもギルド前で、って事でどうです?」
「え、ええ!受けて立つわ!」
どうやら明日、めぐみんとゆんゆんの勝負がギルド前で行われるらしい。
「・・・・・・あ、そういえば、私この街には久しぶりに来たんだけど、めぐみんは前と同じ宿に泊まってるの?」
以前にもここにいたのか・・・
「向こうの方に家を持ってる」
「一応言っとくけど家主は俺だからな?書類上はお前も居候扱いだからな?」
おっと反省・・・ん?ゆんゆんがまた何かに絶望した顔になって・・・
「い、家・・・?冒険者として、格が違う・・・・・・?」
・・・放っておこう。
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どちらも君咲学院3-Aかつオカルト研究部に所属している。銀髪ツインテールに紫色の眼の双子(合法ロリ)。姉のみづきは黄色の髪留めを、妹のみなづきはピンクの髪留めをしている。
二人合わせて『幸運の双子』と呼ばれているが、みづきのオカルト趣味のため校内屈指のトラブルメイカーでもある。ちなみに二人の間にはテレパシーめいた能力がある。
みづきはアホの子、みなづきはおとなしめと性格はわりと違うが、見た目は瓜二つ・・・だったが、未来編ではみなづきだけ合法ロリではなくなった。