ゆんゆんという少女
俺――――
基本的に冒険者自体が良い依頼を受注するために早起きする傾向にあるが、生産職も兼任している俺はポーションなんかの消費アイテムもよく作るのだ。店売りと比べて効果にムラはあるが、価格が安くなるのでここ一番でもなければ使っている。
今日は昼にめぐみんが友人と勝負する予定なので急ぐ必要もないが、どうもいつもの癖で早起きしてしまう。せっかくだし、朝のランニングがてらギルドを覗いてみるか。彼女は以前もこの街にいたらしいし、ひょっとしたら彼女の事が聞けるかもしれない。
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ゆんゆんがいた。
酒場の端っこで紙とペンを持ちながら、うんうんと何かを考えていた。あれではまるで依頼を出しに来た一般人だ。上級魔法が使える彼女なら、ちょっとしたトラブルくらいは自力で解決できそうなものだが・・・
―――何かあったのか?
「・・・え?ひゃああっ!」
―――すまない。ただ、君が何を書いているのか知りたくて・・・
「え?えっと・・・・これですか?これはパーティーメンバーの募集です」
パーティーメンバーか。うちのパーティーはもう五人もいるし、うちに入れるのは厳しいだろうけど・・・どれどれ・・・・・・?
【パーティーメンバー募集してます。優しい人、つまらない話でも会話が下手でも話を聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人、アクシズ教団に熱心な布教活動をしない人、】
こ れ は 酷 い 。
まだ書いている途中の筈なのにこの条件の過密さ・・・というかこれはパーティメンバーの募集というより・・・・・・
「友達募集・・・・・・?」
「だ、だって!せっかくの仲間なんですから仲良くなれる方がいいじゃないですか!」
「・・・多すぎる」
「多すぎるって・・・これくらいしないと私なんかとまともに話してくれる人なんて来ないんです!」
どうしてこんな事になってしまったのか・・・これは彼女が友達を作る手伝いをした方がいいんじゃないだろうか。する。ちょっと会話、してみよう。
「得意な魔法・・・」
「え?得意な魔法・・・ですか?強いて言えば・・・『ライト・オブ・セイバー』でしょうか」
「どんな魔法?」
「ええと、昨日見ませんでした?手から光の剣を出して攻撃する魔法です・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ほ、他には・・・あ、そうだ!紅魔の里にはこの魔法が好きな人がいっぱい居るんです!」
「・・・喋れた」
「え?・・・・ああっ!」
「人と話すのに、意識する必要はない」
なんというか、他人と話す事が難しいと思ってそうなタイプだったけど、案外喋らせられたな。この調子でもっと世間話をして、彼女のコミュ力を強化してやろう。
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「さて、そろそろ約束の時間の筈ですが、ゆんゆんはどこにいるのでしょうか・・・」
めぐみんはギルドの前で立ち尽くしていた。
「まさかとは思うけど、そのゆんゆんって子はめぐみんの想像上の人物なんじゃ・・・」
「流石にそれは酷いぞ・・・昨日俺と聖も会ったし、実在してる筈だ」
「ところで、そのサトシはどこに行ったんだ?あいつならどこかでクエストでも受けてそうだが」
昨日ゆんゆんを見ていなかったアクア、ダクネスも同行している。あくまで興味本位といった具合だが。
「とりあえず、ゆんゆんがこっちに来てないか俺が聞いてくる。ひょっとしたらギルドで何かあったのかもしれないし」
「あ、お願いします」
そう言ってギルドに入ろうとする和真。しかし突然、
「あああっ、もうめぐみんとの約束の時間だった!・・・あっ、あなたは昨日いた!」
「お、ゆんゆんじゃないか。さっきまで酒場に・・・って、サトシもいたのか」
―――やっほ。
ゆんゆんと一緒に出てきた俺を見て、めぐみんは怪訝そうな顔をする。
「あなた達は昨日が初対面のはずですよね?あなたは一日でゆんゆんに何をしたんですか?」
「この人とは今朝再開したばかりなんだけどね?私ともいっぱいお話してくれるの!さっきも紅魔族のネーミングセンスについて話してたんだけどね?――――」
マシンガンのように言葉を放つゆんゆんに、めぐみんは軽く引いていた。というかこうも熱心に語られると俺としても恥ずかしい。
―――何か良からぬ術をかけたりとかはしてないんですよね?
―――してないしてない。
俺とめぐみんの無言のやりとりに、今度はゆんゆんの表情が変わる。
「め、目線だけで会話してる・・・・・・!?もの凄く友達っぽい、いえ、むしろそれ以上・・・・・・!?」
「いえ、彼とはそういう関係じゃありませんので」
照れなど一切見られないタイプの即答・・・・これは脈無しだな。ちょっと悲しい。
「それで、今日は何で勝負するつもりですか?時間が時間ですしモンスターの討伐数で競うのは難しいですが・・・」
「え、えっと・・・・戦闘とかだと久しぶりなのに荒っぽいし、でも他に相応しいのは・・・・・・」
しばし考え込むゆんゆんだったが、ふと何かを思いつく。
「そうだ!前に別れてからどれだけ成長したか、っていうのはどう!?」
なるほど、成長度か。聞いた感じだと二人が別れてからめぐみんが俺達のパーティーに加入したのはわりとすぐっぽいが、あの頃からめぐみんは確かに強くなっている。外見はあまり変化していないが、ゆんゆんの成長も結構なものらしい。というかどうやって決着をつけるのか。
「ふむ・・・それでいいでしょう。それで、対価は・・・・いえ、やっぱり今回は受け取らないことにしましょう。我々の金銭面には余裕がありますしね」
「あ、あのめぐみんが、私から対価を受け取らない・・・!?お、大人・・・・・!」
―――いや多分それが普通だから!
「で、でも!私だって一人でジャイアント・アースウォームを倒せるくらいには強くなったのよ!」
「なるほど・・・しかし私は昨夜カズマと・・・・・・いえ、これ以上は止めておきましょう」
「・・・え?」「・・・・うん?」「・・・・・えっ?」―――え?
めぐみんの爆弾発言に空気が凍る。
「あ・・・・・・いえ、冗談ですよ?私とカズマの間にそんな関係はありません」
―――本当なんですかカズマさぁん!
「ほ、本当だぞ?別にやましい事なんて無いぞ?」
―――本当かなぁ~・・・
「サ、サトシさん!本当に大丈夫なんですかね!?実は二人が付き合ってたりとかしませんよね!?」
「ない・・・・・・・・筈」
「そんな無責任な!」
いやね?何だかんだで和真に浮いた話なんて聞いたことないんだけどね?和真の様子が怪しいと言えば怪しいけど、本当に
「・・・この様子だと・・・・・・」
「?」
「何かあったのなら、多分めぐみんの方が仕掛けた」
「な、ななななな・・・・!」
顔を赤くして動揺するゆんゆん。紅魔族の才女は、この状況に対処する知識を持っていなかった。
「きょ、今日のところは私の負けにしといてあげるからあああああああっ!」
―――あ、逃げた。
涙目で走り去るゆんゆんは、あっという間に見えなくなった。
「今日も勝ち」
「・・・・めぐみんは前からこんな感じだったのか?」
「みたい」
めぐみんはともかく、ゆんゆんが大丈夫か心配だ。彼女を追いかけよう。
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ギルドから少し離れた路地裏で、ゆんゆんは頭を抱えていた。
せっかく久しぶりに会えためぐみんと、こんな形で別れてしまった。
別にもう会えない訳ではないが、次にどんな顔で会えばいいのか、と考えると今から憂鬱な気持ちになる。
また、せっかく仲良くなれたであろうサトシともこの別れである。彼はもう私なんかとは遊んでくれないのではないか、そんな思いも彼女を攻め立てた。
・・・・・・誰かの足音がする。気のせいかとも思ったが、走っているであろう音がギルドの方からこちらに近づいている。こんな所に誰が急いで来るのだろうか?
「・・・・・・・・」
「ええっ!?サトシさん!?」
やって来たのは、さっき別れたばかりのサトシだった。
何故?とゆんゆんが困惑していると、彼はゆんゆんに手を差し伸べた。
その手を彼女は恐る恐る掴む。すると彼はゆんゆんを連れ、路地の表へと歩いていった。
「え、えっと、何を・・・・・・」
すると彼はある方向を指さす。その先には射的の屋台があり、彼が行っているジェスチャーからもそれをやろうとしている事が伺えた。しかし何故私の手を引いて、とゆんゆんは考えたが、程無くしてある可能性に行き当たる。
「もしかして、誘ってくれてる、んですか?」
その返答は頷きだった。
そうして二人は手を取り合い、夜の喧騒に繰り出していった。
ここまで投稿できたから言いますが、私の中の転校生くん像とゆんゆんの相性は抜群なんです。ゆんゆんがお友達と喋る練習に、転校生くんが無言ながらしっかり話を聞くイメージ。控え目なゆんゆんがいれば転校生くんが変な思考回路で暴走するリスクも抑えられる、という点も好相性という。改めて見るとなかなか個性的な主人公ですよね・・・