めぐみんは悩んでいた。
目の前の男――――アマミサトシにかける言葉が、今の彼女には思い浮かばなかったのだ。
めぐみんの記憶が正しければ、昨日はゆんゆんを久しぶりにからかったところ、彼女は顔を赤くして逃げ出し、それを追ってサトシも何処かにいった。それきり昨夜は帰って来ず、今――――朝早い、まだ朝食の準備もしていない時間に来たのだ。
(ゆんゆんは無駄にエロい体つきの年頃の女の子・・・そしてサトシは確か17歳とかそのくらいのはず、つまり年頃の男子・・・つまり年頃の男女が朝帰り・・・・・・まままままさか、これは
別にサトシを信頼していない訳ではない。しかし、ゆんゆんに対してはそれ以上の負の信頼があった。彼女ならば、不意に無防備な言動を繰り返していても不思議ではない。
何だかんだでゆんゆんの実力は認めていない訳ではないめぐみんだったが、こうなると多少強引にでもゆんゆんと一緒に冒険者をやっていた方が良かったのではないか、という考えさえ浮かんでくる。
「・・・・・・一応、聞いておきますが、昨夜は何をしていたのですか?」
「・・・ゆんゆんと遊んだ」
「『遊んだ』?あの子と、何処で、何を、どうして遊んだのですか?」
「酒を飲んで・・・ドミノをやろうとして、追い出された。宿屋でドミノした」
「・・・・・・念のため聞いておきますが、ドミノというのは何かの暗喩ですか?」
「?・・・・・・木の板を並べる、倒す、あれ」
「アウト!・・・・いやセーフなんですけどアウトです!頭おかしいんですか?」
―――失礼な奴だなめぐみんは。
「何ですかその顔!あなたの口ぶりだと、あなた達、酒を飲んで夜通しドミノしてた事になりますよ!」
「そう」
「はぁ~・・・・・・」
当然の様に言うサトシに、めぐみんは脱力感を覚えた。
「・・・ん?聖、帰ってたのか?昨日は帰って来なかったけど・・・」
「ああ、おはようございますカズマさん。酒に酔ったまま若い女の子と宿屋に入ってドミノ倒しばっかりしてた変人のお帰りですよ」
―――違う違う。
「何だ「?」」
「酔わない程度には抑えた」
「ああなるほど・・・・って、それってずっと
―――その顔は何だよ。
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そんな朝を迎えた俺だが、実は俺宛ての依頼が来ているのだ。それもこの街の領主直々だ。
こういうのは余程の強さか信頼性のある冒険者でないとギルド側で止められる筈なんだが、俺はもうそんなに信用されているのだろうか。機密保持のために領主の屋敷に行ってから内容を話すらしいし、かなり重要な仕事なのかな?
しかし、その事を仲間達に伝えた時の反応はあまり良くなかった。
「あの領主の事は知ってるんだが、奴は不正に金を貯めて私利私欲のために使う典型的な悪徳貴族だと言われている。証拠はないが、奴の羽振りは不自然なほどに良い。屋敷を見ればその評価も納得するだろうが・・・」
「私それ知ってる!呼ばれた場所に行ったら『騙して悪いが――――』みたいに言われるヤツでしょそれ!」
「・・・それ、汚職の証拠とか押し付けられたりするんじゃないか?領主からの依頼じゃなきゃ夜逃げでもしたいくらいだぞ・・・」
うーん・・・確かに怪しい依頼なのは事実だ。しかしこれを断った場合、向こうがどんな事をするのかちょっと想像できない。なるべく付け入る隙を作らないよう立ち回るしかないか。
しかし、俺一人だと確実に付け入られるだろう。そんな自信がある。しかし依頼の条件を見る限り、同行者は連れて行けないようだ。こんな状況で俺にアドバイスを送れる奴――――もとい、アドバイスを送る手段なんて・・・・
―――あっ。
「?何か思いついたのですか?」
めぐみんの言葉を背に、俺は屋敷の一室に向かう。元は倉庫だった部屋を、俺が生産用の部屋としたのだ。
その床に大きな木の板を敷き、そこに魔法陣を描く。
「ちょっ・・・その魔法陣、もしかして悪魔を召喚する奴じゃないの!?この女神アクアの目が黒い内はそんな邪悪な行いをもごもごもご・・・!」「ちょっと引っ込んでろ駄女神!潜伏能力の高い奴とかなら上手く
「・・・女神
そうして描きあげた魔法陣は、決められた条件にあった悪魔をランダムに召喚するものだ。今回は、悪徳貴族のやり口を理解しているという自負のある悪魔を対象としている魔法陣だ。『実際に理解している~』みたいな条件だと条件が曖昧になり、召喚を失敗する確率がグンと上がってしまう。
魔法陣の前で呪文を唱えると、そこから異様な冷気が流れ出る。それは黒い靄として目でも見ることができた。これは魔界の瘴気という奴だろう。召喚時に少々溢れる程度の量なら大丈夫だと聞くが。
少しするとその瘴気を感じなくなり、陣の中央に黒い人影――シルエットの様な状態でも分かる角と翼は人間ではないが――が現れる。
やがてはっきりとした色も現れ、その悪魔の姿が確認できるようになった。
「初めまして・・・私は上位悪魔のアー、ネ・・・ス・・・・・・」
―――ん?どうかしましたか?
現れた上位悪魔のアーネス(仮)の様子を不審に思ったが、最初に彼女に反応したのはめぐみんだった。
「私この悪魔知ってます!以前私が爆裂魔法で消し飛ばした奴です!」「な、何でこのお嬢ちゃんがいるところに召喚されるのよ!見た感じ聖騎士に聖職者までいるみたいだし、ここは天国か何か!?」
―――うわぁ・・・まさかめぐみんが倒した悪魔が来るとは・・・
その悪魔はサキュバス等と同様に女性の姿をしているが、その力はサリス達とは比較にならないだろう。召喚した時の手応えが段違いだった。
ついでに言えば、彼女の衣装はなかなかに扇情的だ。
個人的感情(見たところ、和真も俺と似た事を考えていそうだが)を差し引いても、彼女の力を借りられれば無事に依頼を達成できる確率が高くなるだろう。一触即発と言っても過言ではないこの状況を無視していいのなら。
「今回だけ、彼女の協力を得たい、だけ」
「むう・・・クルセイダーとしては悪魔を見過ごすのは良くないが・・・事態が事態だから仕方ない、か」
「・・・・・・私に何をさせるのか知らないけど、契約についてはしっかりと確認しなくちゃね?内容次第ではさっさと帰らせてもらうわ」
そう彼女が言ったので、俺は彼女の肩に触れ、彼女を俺の中に隠れさせる。
「えっ、ちょ、何―――」
―――こんな感じに俺の中に隠れてもらって、悪徳貴族相手に優位に立たれないように助言して欲しい。
―――・・・これ、あんたの背中を契約もしてない悪魔にとられるようなものじゃない?
―――あっ・・・・・・いや、一応まだ召喚した時の魔法陣の中って判定の筈。問題ない。
―――それで、あんたはその対価として何を渡してくれるのさ?
―――何だろ・・・・金・・・は使わないんだろ?じゃあ・・・経験値とか?
困った。出せるものがそれくらいしか思いつかない。サリス辺りに悪魔向けの贈り物とか聞いといた方が良かったか?
ふと彼女を見ると、向こうも向こうで悩んでいるらしかった。面倒な事情があるのだろうか。
―――ところで、あなたの名前はアーネス、でよかったでしょうか?
―――え?・・・そうよ。そういえばちゃんと名乗れてなかったわね。
この状態だとアーネスさんの顔は見えない。しかし、彼女の雰囲気が幾分か柔らかくなったと感じた。
―――実は、私の前の主人は力を封じられた邪神だったんだけど、その封じられた力っていうのが、多分あの魔法使いのお嬢ちゃんの連れてる黒猫なのよ・・・良い方だったし、偶然見つけるような事があればウォルバク様に伝えてもいいかと思ったんだけど・・・今の契約を
―――凄く真面目・・・あなたは信頼できそうですね。黒猫・・・・ちょむすけについては、
―――その制限ならいいわ・・・でもちょむすけ・・・・はあ・・・・・・
―――紅魔族特有のネーミングセンスはお嫌い?
―――嫌いよ!
沈黙が俺の中に満ちる。
―――あなたが差し出す契約の対価は、私がここに滞在する権利、って事でどうかしら?
―――危険な状態にならなきゃこの部屋から出てはいけないし魔法の
―――それでいいわ。せっかくまともに契約ができそうな人間に召喚されたんだし、このくらいはね・・・
・・・ん?もしかして、悪魔と契約した人間の事件が現代に少ないのって・・・・・・まあそれはいいか。
「俺の部屋に滞在して外には何もしない、って事になった」
「はあ!?後でその部屋に結界を張ってあげるわ!」
「危険な状況になったら破ってもいい、って言った・・・・アークプリーストは危険」
「ぐぬぬ・・・・」
アクアの歯がゆそうな顔を
―――今日はよろしくお願いします。
―――ええ、今後ともよろしく・・・・・
ふと気づいた。そういやこれ不定期投稿という名目だったじゃないか。
念のため系赤タグが付く理由を言葉でなく心で理解できた。