「・・・・・・ダクネス」
「サトシか・・・・長く療養していたが、そろそろ冒険者に復帰できそうだ」
大悪魔バニルとの戦いから一週間。
めぐみんの爆裂魔法で受けた傷を治療するために、俺達の屋敷で療養生活を送っていたダクネスだったが、今では剣の素振りをできる程度には回復してきている。
しかし・・・
「フンッ!フンッ!・・・む、一体何を・・・・っ!!」
―――やっぱまだ完治はしてないだろ。普段ならむしろ全力で殴ってもびくともしないのに。
動きの切れが悪いと思ったら、やっぱりまだダメージが残っているらしい。
「痛む・・・・全身?」
「あ、ああ・・・実を言えば、確かにまだ身体中が痛む。本来ならもっと休息をとるべきなのだろうが・・・・今日はあのバニルの懸賞金を受け取るのだろう?あいつを倒した功績で、私達のパーティーが表彰されると聞くし、私だけ欠席というのもな・・・・・・それに何より、動く度に身体に痛みが走るのは・・・イイ!」
もう無敵なんじゃないかこの変態。
「おーい、
この声は和真か。この感じからして、もう玄関の辺りまで行ってるのか。
「ああそうだー!今からそっちに行くー!・・・・さあ、急いで行くとするか」
―――そうは言ってもダクネスはまだ完治していない。走るのは少々辛い・・・いや喜ぶか?まあどっちにしろ遅れるな・・・よし。
「ん?ち、ちょっと待て、何故当たり前のように私を背負うのだ!?辱められるのは好きだがこういうのは違うぞ!?」
―――自分を的にさせたダクネスにも責任がある。
そうして俺はダクネスをおんぶしながら玄関へ向かう。こんな事もあろうかと作っておいた
「流石に歩くくらいはできるぞ!早く降ろせ!通りは歩いて行く!」
「お前それは目立つから本当に降ろしとけって・・・歩けるんだよな?」
―――歩ける筈。
そんなやり取りをしていると、めぐみんの目がやたらと冷たい。何かあったのだろうか。
「いやですね。私の・・・知り合いが先日から何度もウチに来てたじゃないですか・・・・いえ、あの子に友人が出来るのは良いと思うんですが、散々ゆんゆんと遊んだ次の日には別の女をおんぶする奴が友人というのはいかがなものかと」
バニル討伐の翌日から、ゆんゆんは屋敷の近くをうろうろし始め、俺が声をかけなければ数時間は余裕でうろうろし続けるのを今日まで続けているのだ。ちなみに和真達は初日はともかく、二日目からはドン引きする様な表情で俺に対応を任せた。
―――別にゆんゆんと良からぬ事とかしてる訳じゃないけど?
「腹立ちますねそのとぼけ方!私はですね、せっかくゆんゆんに出来た友人が、あの子を簡単に捨てるような奴だったら嫌なだけです!」
―――俺そんな事するように見える!?
「見えませんが!!」
なんて面倒な紅魔族・・・・・・ん?
「ゆんゆんの事・・・どう思ってる」
「・・・・私は、里では天才で通っていて、周りからも一目置かれる立場だったのですが・・・ゆんゆんだけは当時の私に張り合おうとしました。言うなれば、彼女は私にとって唯一のライバルであり・・・そして・・・・」
めぐみんがそこまで言った時、不意に彼女は後ろ――――屋敷の門の方を振り向いた。そこには、
「・・・・・・・・・・・」
無言でこちらを見つめ続けるゆんゆんがいた。その目は何故か紅く輝いていて正直怖い。
「・・・・・・さあ!早くギルドに行きますよ!賞金が私達を待ってます!」
「えっ・・・・ち、ちょっとめぐみーん!」
・・・・俺達も行くか。
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「冒険者、サトウカズマ殿!
俺達の代表として、和真が先頭に立って表彰されている。
バニルにかけられていた賞金は、俺達に課せられた借金を全て返済しても尚、大金が俺達の元に残る計算だ。これが宝くじか何かで労せず手に入れた金ならともかく、超大物賞金首を多数討伐して手に入れた金だ。ただの泥棒は不用意に俺達を刺激しようとはしないだろう。
「そしてダスティネス・フォード・ララティーナ
あの戦いで囮となったダクネスには、パーティーとは別の枠でも表彰されている。成り行きや言動はともかく、結果だけ見れば、あいつは己の命を顧みずに凶悪な賞金首モンスターの討伐に貢献した勇敢な聖騎士だ。
めぐみんの爆裂魔法で粉々になった(あの威力で粉々程度に収まる辺りが常識外れだが)鎧が国の金で新調されるという報酬があった。遠目に見た限りでは、元のデザインを残しつつ細部の装飾が増えた感じか。防御力は・・・ふむ、かなりの代物じゃないか?まああのバニルを討伐した者に贈られる装備としては妥当・・・いやダクネスはバニルを封印させて悶えてたくらいだが。
「おめでとうララティーナ!」「ララティーナ!よくやった!」「流石ララティーナだ!」「ララティーナ可愛いよララティーナ!」
冒険者達からの喝采がダクネス――――否、ララティーナに浴びせられる。普段は貴族として振る舞う事を望まず、『ダクネス』という一種のあだ名で書類などを通しているが、今日ばかりはそんな小細工は無視されている。事前に和真が告知していたのもあり、この場にいる冒険者の間ではララティーナという本名が認知されている。
実態はさておき勇ましい女として通しているし、その根底に『自分は女らしくない』的な考えがあるのであろうララティーナは名前の可愛らしさに恥ずかしがっている。しかし俺としてはララティーナは十分可愛いと思う(問題がないとは言っていない)し、立ち振る舞いを気にすれば淑女らしくもできる筈なのだから、今の内にララティーナはララティーナ慣れしておいた方がいいだろう。
案の定ララティーナはララティーナと呼ばれて赤面して机に突っ伏し、うめき声を上げている。こんな羞恥は私の趣味ではない等とララティーナはほざいているが、ララティーナという名前をずっと伏せて活動するより、どこかでララティーナという名前を周知させる方が気が楽ではないだろうか・・・身分の違いはあるが、隠し事をしているといつか誰かに気付かれる可能性もあるのだから。
そろそろララティーナがゲシュタルト崩壊を起こしそうだが、それを横目に和真への賞金の進呈が行われる。
姑息(誤用)なアルダープにより課せられた借金の分を差し引かれても、札束の山と呼ぶべき塊が和真に渡された。
・・・・・・しかし、普段なら調子にのってもおかしくない・・・いや、皆におごるくらいはやるであろう和真の顔は決して嬉しそうではなかった。
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「・・・・・・あいつさ、俺達と遭遇した時に言ってたんだ。『この街の友人に会いに来た』って・・・・その友人ってな?働けば働くほど貧乏になる特技を持ってるってさ・・・そんな変な魔王軍幹部、俺達の知り合いにいるよな・・・・・・」
通りを歩きながら、和真はそう語る。同じく浮かない顔のダクネスも一緒だ。
バニルが言ったという特徴の人物がそうそういるとは思えない。この大きくない街に限ればなおさらだ。俺の脳裏に、働けば働くほど金を失うポンコツリッチー、ウィズの顔が浮かんだ。
―――だが、あいつは・・・・・・
「今回の件は私からウィズに報告しよう。ほんの一時だったが、体を共有し暴れ回った仲だ」
ウィズ魔法店の前まで来たところでダクネスが続ける。
「人をからかうところは頂けないが、そこまで悪い奴でもなかったと思える・・・」
あの大悪魔が、そこまで悪い奴でもない・・・・ま、まあ、あれより
意を決したダクネスが、店のドアを押し開ける。のんきな女店主は、この客が自分の友人を殺した事を知らないかもしれない。だがあるいは・・・
「へいらっしゃい!店の前で何やら恥ずかしいセリフを吐いて遠い目をしていた娘に、卑怯な手段には定評のある冒険者、そしてうちの店主にも劣らぬ変人と評判のクリエイターよ!実に一週間ぶりであるな!・・・おっと、どうした娘よ、膝を抱えてうずくまって?よもや我輩が滅んだと思ったか!?フハハハハハハハ!!」
そこにいた店員は、見覚えのある笑ったような仮面を着けていた。その気配は、爆裂魔法で本体の仮面を消し飛ばした筈の悪魔、バニルだった。
「あらカズマさん、いらっしゃいませ!聞きましたよ、バニルさんを倒して賞金を手に入れたそうですね!凄いですね、私も現役時代はバニルさんと何度も戦ったものですが、結局一度も勝てず・・・」
店の奥からウィズも現れる。彼女の口ぶりからして、バニル討伐の話は既に彼女にも伝わっているらしい。
「いや、確かに倒したよ?倒したはずだよ?何でコイツここにいんの?爆裂魔法を食らって無傷ってどういう事だよ。チートかよ」
チートについては
「高位の悪魔、魂、たくさん」
「フハハハハ!そこの小僧は理解しているようだな!我輩が説明しなくとも良いレベルで口数を増やせば言う事はないのだがな!」
高位の悪魔は命を複数持っているという。この辺の感覚はサキュバスに聞いてもよく分からなかったが、バニルについてはその数に余裕があったのだろう。
「あの日、爆裂魔法で確かに我輩は死んだ。そして今の我輩は残機が一人減った二代目バニルという事だ」
仮面の額に浮かんだ『Ⅱ』を示しながら、バニルは事も無げに語る。
二代目・・・あの口ぶりだと、次に死ねば三代目バニルが現れそうだが・・・ん?つまりバニルを初めて殺した俺達って、魔界なら伝説か賞金首かになるのでは・・・・・・?
「バニルさんは、前々から魔王軍の幹部を辞めたがっていたんですよ。なので、一度滅んで、夢のために再び蘇ったみたいです。今のバニルさんは、既に魔王城の結界の管理をしていません。なので、とても無害なはずですよ?」
いや、本人の人格が変わった訳でもない以上、急激に脅威度が下がるとも思えないけど・・・?
まあ、元々バニルの脅威度は魔王軍幹部の中ではぶっちぎりに低い(弱いとは言ってない)とされていたし、それでいいか。
そんな事を考えていると、バニルはこちらに視線を向けた。
「汝、悪魔と契約せし生産者よ。見たところ、汝の力は神に由来する物のみではない。その血、その身体、何処の誰かは知らんが随分と大層な野望を抱いた者がいたようだな・・・」
―――えっ、何?俺の血統が何だって?
「汝、その血を受け入れるも良し、拒むも良し・・・・しかし汝の魂を見るに、今更拒むのは難しかろう。なれば、我輩に修行を願い出る事も視野に入れてみてはどうか?まあ対価は貰うがな」
彼の言う事はいまいち分かりにくいが、ニヤリと邪悪そうに笑う口元ははっきりと見えた。
今回を持ちまして、『この素晴らしい世界にアンサンブルを!』の連載を停止させて頂きます。そろそろモチベーション維持が難しかったり、リアルが忙しかったりするので、キリがいいと思える書籍版3巻分が終わった今回を持って、当作の連載を終了します。
たまには短編か何かを投稿するかもしれませんが、まあ期待しないで待っていて下さい。
さて、3巻分を完走した感想ですが、原作があるというのは案外自分には縛りになっていたように思います。私は意図しない形での原作設定無視はやりたくないのですが、そうなると原作を細かく読み込まないといけないので気をつかいます。クロス物なので2倍気をつかいます。ちなみにその辺りを気にしてお蔵入りになったネタもいくつかあります。改造されてないお兄様が五月蠅い魔法科高校とか・・・
あんガル主人公の転校生くんは使いまわしの地味無口などではなく、無言で奇行をしてるタイプですので、彼の心境を描写しやすい一人称での執筆になりましたが、これって案外書きやすいですね。視点主の心理描写が入れやすいです。
私はこれが初の執筆なのですが、読み専でいるのとは違う感覚になれます。これを読んだ方も、何かしら執筆してみてもいいかもしれません。
それでは、またご縁と私の執筆意欲があれば。