とりあえずベルディア襲来辺りまでは毎日投稿の予定ですが、それ以降は不定期になると思います。
このすば側の設定は書籍版メイン。タグで察した人もいるかと思いますが、あんガルのアンジー=あんスタの主人公です。
人生の終わりと新たな旅立ち
「
突然の出来事で何がなんだか分からない。
部屋の中には小さな事務机と椅子があり、隣には自分と同じく状況が理解できていないのであろう同年代の少年、そして俺に人生の終了を告げた女性がその椅子に座っていた。
隣の少年は茶髪に中肉中背のジャージ姿で、言ってはなんだが何処にでもいそうな少年、という印象を受ける。さっき呼ばれた名前の『天光聖』というのは俺の名前だからこっちは『佐藤カズマ』君か。
女性は水色の髪に若干小柄な少女で、見たことの無い服に羽衣のような物が着いている。率直に言ってすごく美人だが、それ故に一般人────あるいは人間とは隔絶されたような印象を受ける。男を魅了するというより人に讃えられるような雰囲気を持った彼女は・・・
「女神・・・?」
「ええ。私は女神アクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ」
なんと本当に女神だった。ふと横を見ると佐藤くん(推定)も驚いた顔をしている。彼も顔をこちらに向けたが、今の自分も同じような表情だろう。
そして彼女の言うことが事実なら、俺達は死んでしまった、ということだ。
そうだ、俺は町の大通りを歩いていて、トラックが不注意からか信号を無視し、子供が通っている横断歩道を突っ切ろうとするのが見えたんだ。そしてそこから子供達を助けるためにそこに飛び込んで・・・
「あの・・・一つ聞いていいですか?」
佐藤くんが口を開く。
「どうぞ?」
「・・・あの女の子は。・・・俺が突き飛ばした女の子は、生きてますか?」
なんと、佐藤くんも似たような死因だったようだ。自分で言うのもなんだが、生前の行いが評価されて天国行きにでもなるのだろうか。
「生きてますよ?もっとも、足を骨折する大怪我を負いましたが」
どうやら佐藤くんは上手くやれたようだ。ほっとした顔をしている。
「まあ、あなたが突き飛ばさなければ、あの子は怪我もしなかったんですけどね」
「「・・・・・・は?」」
今この神様なんて言った?
「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんです。あたり前ですよね。だってトラクターですもん。そんなにスピードだって出てないし。つまり、あなたはヒーロー気取りで余計な事したってわけです。・・・プークスクス!」
ええ・・・?なんかさっきまでこの払ってた敬意とかがっつり吹っ飛んだんだが。
というかトラクターってどういうことだ。
「・・・今なんて?トラクター?トラックじゃなくて?」
彼女曰く、佐藤くんがトラックだと思ったものは実はトラクターだったらしく、トラックに轢かれたと勘違いしたことによるショック死が彼の死因らしい。そしてその恐怖で失禁してしまい近くの病院の医者や看護師の失笑を受けながら心臓麻痺で死亡確認。ついさっき病院に駆け付けた家族にも笑われたそうだ。
マジかよ・・・佐藤くんの死因酷すぎワロエナイ・・・
ん?そんな佐藤くんと一緒に俺もここに送られた、ってことは・・・
「ん?ああ、あなたは普通に子供を助けてトラックに
苦虫を噛み潰したような顔で横から見てくる佐藤くんに、俺はすごく微妙な表情で返さざるを得なかった。
────────────────────
「さて、私のストレス解消はこのくらいにしておいて。あなた方には二つの選択肢があります。
一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、天国的なところでお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」
一つ目はともかく二つ目はどういうことなのか。
天国というのは端的にいって何もないらしい。すでに死んだ先人達がいるだけで、体もないから日向ぼっこと世間話しかできない場所らしい。哲学者なら話も弾むかもしれないが、あいにく自分はそこまで高等な人間ではない。人助けができないなど俺のアイデンティティが失われてしまう。
拍子抜けしたのは佐藤くんもらしく、残念そうにしている。二人揃って生まれ変わることになるのか。
しかし俺は未練がしっかりある。星海さんなんかは俺が死んだらそれこそ折れてしまいそうな娘だ。北川さんや時国先輩のことも不安だし生徒会長としての仕事もある。考えれば考えるほど心残りはある。生まれ変わればこの気持ちも無くなるのだろうか?しかしそれで良いのか?
するとアクアが満面の笑みを浮かべた。
「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないわよね?かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、今までの記憶が消える以上、それってあなたという存在が消えちゃう様なものなのよ。そこで!ちょっといい話があるのよ・・・
あなた達・・・ゲームは好きかしら?」
なんでも、俺達がいたのとは違う世界、つまり異世界があるらしい。そこはいわゆる剣と魔法のファンタジーな世界らしいが、やはりというべきかそこには魔王もいて、そいつが率いる魔王軍によりその世界がピンチなのだとか。
「その世界で死んだ人達ってさ、まあほら魔王軍に殺された訳じゃない?だから、またあんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって。死んだ人達のほとんどが、その世界での生まれ変わりを拒否しちゃうのよね。はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその世界が滅びちゃうのよ。で、それなら他の世界で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまうのはどうか?って事になってね?・・・で、どうせなら送るなら、若くして死んだ未練タラタラな人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの」
なんと壮大な過疎対策。
「それも、送ってすぐ死んじゃうんじゃ意味が無いから、何か一つだけ、向こうの世界に好きなものを持っていける権利をあげているの。強力な特殊能力だったり、とんでもない才能だったり、神器級の武器を希望した人もいたわね・・・どう?あなた達は、異世界とはいえ人生をやり直せる。異世界の人にとっては、即戦力になる人がやってくる。ね?悪くないでしょ?」
なるほど、確かに悪くない話だ。むしろ困っている人がいるのならぜひとも行かせて欲しい。
「えっと、聞きたいんですけど、向こうの言葉ってどうなるんです?俺、異世界語とか喋れるの?」
おっと、そこを忘れていた。
「その辺は問題ないわ。私達神々の親切サポートによって、異世界に行く際にあなたの脳に負荷を掛けて、一瞬で習得できるわ。もちろん文字だって読めるわよ?副作用として、運が悪いとパーになるかもだけれど。だから、後は凄い能力か装備を選ぶだけね」
「今、重大な事が聞こえたんだけど。運が悪いとパーになるって言ったか?」「言ってない」「言ったろ」
俺のログにはしっかりあるな。佐藤くんなど敬語をかなぐり捨てている。
しかし俺にとってその言葉は人助けを諦める理由にはならない。だから後は持っていくものを選ぶだけか。
するとアクアは俺達にカタログらしきものを一冊ずつ差し出した。表紙を見た限りでは同じものだろう。
「選びなさい。たった一つだけ。あなた方に、何者にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界に持っていく権利をあげましょう」
とりあえず、適当なページをいくつか開いてみる。《アメノハバキリ》《妖弦フェイルノート》《糸使い》《真・青電主の魂》など、強そうな能力や装備がいくつもある。一応、一般的な刀剣などの扱い方は剣道部とかを鎮圧・・・もとい触れあっている内に覚えたし、弓道も手本となる動きは見たことがある。魔法についてはオカ研の胡散臭い魔導書を見たくらいだが、取得すればやり方が分かるのだろうか。
しかしこの分だと佐藤くんと一緒に異世界で冒険することになりそうだが、彼は何を持って行くのだろうか。俺は特にこだわりは無いが、役割が被ってしまうのは避けたほうがいいだろう。
「・・・何か、やりたいこととかあるか?」
「あ、えっと・・・天光さん、だよな?個人的には魔法とか使ってみたいな。格好良くて、強い感じの」
ふむ、そうなると彼は後衛になるのか。北川さんのゲーム知識がこんな形で役に立つとは思わなかった。なら俺は前衛になるべきだな。それもタンクロールができるようなものが望ましいから・・・
「じゃあ、盾か何か探してみる」
この空間に来て初めての発言だが上手くいった。思いの外気分が高揚しているようだ。まず防具関係のページをめくって吟味してみるが、アクアは露骨に退屈そうだ。
「ねー早くしてー?どうせ何選んでも一緒よ。社会不適合者達に期待はしてないから、なんか適当に選んでサクッと旅立っちゃって。何でもいいから、はやくしてーはやくしてー」
「誰が社会不適合者だコラ」
───ちょっと喋るのが苦手なだけだしィ!俺だってアイドル養成高校の(普通科の元)生徒だしィ!
そしてアクアはスナック菓子をぽりぽりと食べ始める。流石に人にものを頼む態度とは思えない。最初辺りのお高くとまった態度よりはよほど好感が持てるが、佐藤くんはそうでもないらしい。すごくイライラしてる顔だ。
「・・・じゃあ、あんた」
「ん、それじゃ、この魔法陣の中央から出ないように・・・」
・・・ちょっと待て。今こいつ・・・
「・・・今何て言ったの?」
「承りました。では、今後のアクア様のお仕事はこのわたくしが引き継ぎますので」
何もない所から、天使みたいな(十中八九そうなのだろうが)女性が白い光と共に現れ、ある種残酷な言葉を告げた。アクアも呆然としている。
そして佐藤くんとアクアの足元に、青く光る魔方陣が出現した。あれで異世界に行くのか。
「ちょ、え、なにこれ。え、え、嘘でしょ?いやいやいやいや、ちょっと、あの、おかしいから!女神を連れてくなんて反則だから!無効でしょ!?こんなの無効よね!待って!待って!?」
「行ってらっしゃいませアクア様。後の事はお任せを。無事魔王を倒された暁には、こちらに帰還するための迎えの者を送ります。それまでは、あなた様のお仕事の引継ぎはこのわたくしにお任せを」
「待って!ねえ待って!私、女神なんだから癒す力はあっても戦う力なんて無いんですけど!魔王討伐とか無理なんですけど!!」
突如現れた天使はアクア達をすみやかに異世界に送るつもりのようだ。慌てふためくアクアをよそに、今度は佐藤くんの方を見た。
「佐藤和真さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」
「・・・贈り物?」
なんだろう。俺も気になる。
「そう。世界を救った偉業に見合った贈り物。・・・たとえどんな願いでも。たった一つだけ叶えて差し上げましょう」
なんと。
何でも、と言うからには元の世界に帰りたい、とかもいいのだろうか。
一年以上あの君咲学院に世話になってきたが、やはりあっちに未練が多すぎる。せめて俺がいなくても彼女達が普通に生きていけるようになるまでは一緒にいたい。星海さんとか本気で病みかねない。
「ねえ待って!そういうカッコイイ事を告げるのって、私の仕事なんですけど!」
「散々バカにしてきた男に、一緒に連れてかれるってどんな気持ちだ?おい、俺が持っていく”者”に指定されたんだ、女神ならその神パワーとかで、精々俺を楽させてくれよ!」
「いやあー!こんあ男と異世界行きだなんて、いやあああああああ!」
「さあ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。・・・さあ、旅立ちなさい!」
「わあああああーっ!私のセリフー!」
瀬川先輩の気持ちがなんとなく分かるような一幕は、二人が魔方陣によって光と共に消えることで終わった。
────────────────────
・・・さて、俺の分はこの天使から受け取ればいいのだろうか。
「・・・さて、あなたの望むものは決まっていますか?」
いや、まだ決まっていない。もう少し考えさせて欲しい。
「了解しました。決まった場合はこちらに伝えてくださいね」
しかしどんな物にするべきか。さっきアクアが喚いていた内容によると、彼女は所謂ヒーラーのようだ。攻撃はあまり得意でないとなると、接近戦で多数の敵を同時に相手取るのがいいか。後方からの遠距離攻撃が佐藤くんの希望だから俺の攻撃力が多少低くても大丈夫か?
そんな事を考えながらスキルの項目を見ていると、あるスキルの名前が目についた。
《ゴーレムマスター》
どうやら名前の通り、ゴーレムの作成、使用が得意になるスキルのようだ。
ゴーレムは大抵の場合、石や金属でできた魔法の人形としてファンタジー作品で描写されるものだ。これがポンポン生み出せるのなら壁としての使い勝手は抜群だろう。自爆特攻だって問題にならない。それでゴーレムを生み出す俺が狙われるならアクアによる治療もある。
うん、これにしよう。
俺は天使のもとへ行き、《ゴーレムマスター》のページを見せた。
「・・・そちらの《ゴーレムマスター》のスキルを持っていく、ということでよろしいでしょうか?」
そうだ。
「せめて何か喋ってください。私のことを呼ぶとか」
「・・・天使様?」
「いえ、今の私は
「・・・女神様?」
「もっと敬意を込めて」
「女神様!」
「っ・・・さあ行きなさい、勇者よ!魔王の脅威から人々を救うのです!」
機嫌が良い時の犬の尻尾のように羽を震えさせる女神様に見送られ、俺の体も魔方陣の明るい光に包まれた・・・!
・処女作です
・駄文注意
・いかがでしょうか?
・感想お待ちしています
読者でいる内は自己主張の激しい作者な気がしたフレーズだけど、いざ自分が書き手になるとあらすじ前書き後書きに書き足したくなる一文。