気が付くと、見覚えのない石畳の道に俺は立っていた。
見たところ文化レベルは中世ヨーロッパくらいだが、獣の様な耳やエルフの様なとがった耳が通行人にいくつか見える。先程までのやり取りを思い出し、ここが地球ではない事を確信する。
「あ・・・ああ・・・ああああ・・・・・・」
「獣耳だ!獣耳がいる!エルフ耳!あれエルフか⁉美形だし、エルフだよな!さようなら引き篭もり生活!こんにちは異世界!この世界なら、俺、ちゃんと外に出て働くよ!」
「ああああ・・・・・・ああああああ・・・・・・あああああああああああ!」
一足先にこちらへ来ていた二人が騒がしい。佐藤くんは感極まっているらしいが、アクアはこの世の終わりのような顔をしている。物扱いがそれほど屈辱的だったのだろうか。
「ん、お前もこっちに来たのか。どんな特典を選んだんだ?見た感じ装備じゃなさそうだけど。こっちは見ての通りジャージ一丁ですわ。ファンタジー世界に来て行く服装じゃないよなぁ?そっちはそっちで学ランだし、おい女神様よぉ、ここはゲームとかで恒例の、必要最低限の初期装備とかを・・・」
「あああああああああああああーっ!」
本格的に泣き喚きだしたアクアが佐藤くんに掴みかかった。
そんなに嫌なら帰ればいい、と佐藤くんは言うが、どうやらアクアは帰れないらしい。この世界に送られる時もとんとん拍子に話が進んだが、もしや天界で嫌われているのだろうか。
「おい女神、落ち着け。こういうときの定番はまず酒場だ。酒場に行って情報収集から始めるもんだ。それがRPGでの定番だ」
おお、案外頼もしいな。モノによっては情報収集不足が致命的になる、と聞いているしそういうゲームにも触れたことはある。しかしそういった方針を即座に立てられるのは意識すればできる、という訳ではない。彼はなかなかできる奴かもしれない。
「なっ・・・!ゲームオタクの引き篭もりだったはずなのに、なぜこんなに頼もしいの?」
情けないじゃないですかやだー!
「あ、カズマ、私の名前はアクアよ。女神様って呼んでくれてもいいけれど、できればアクアって呼んで。でないと人だかりができて魔王討伐の冒険どころじゃなくなっちゃうわ。住む世界は違っても、一応私、この世界で崇められている神様の一人なの」
むしろ信仰する女神の伝説と実像の違いに嘆く信者で阿鼻叫喚になりそうだが。
「そういえばあんたはアマミ・・・何て名前なんだ?長い付き合いになるし、自己紹介しておくべきだと思うんだが。俺は佐藤和真。16歳の男子高校生で、まあ・・・ゲームをよくやってたな。で、特典としてこのアクアを連れてきた、と。長い付き合いだしカズマでいい」
そういえば最初にアクアに名前を呼ばれただけだったな。今はテンションも落ち着いているが自己紹介くらいならまあできるだろう。
「
よし、自己紹介できた。
「・・・あの?もう少し流暢に話すこととかは・・・」
「ダメよカズマ、この人すごくコミュ障なのよ。あのくらいでいちいち目くじら立ててたら胃に穴が空くわ。大丈夫、心配しなくても、女神たるこの私がいれば十分過ぎる戦力と言えるわ」
露骨に嫌な顔をされてしまった。
確かに俺は会話がものすごく下手だ。会話の得意な役を演じるか、テンションが十分に上がっている時か、でないと口を開くのも難しい。
「なあ、何あの動き?俺らのMP的なものを減らそうとしてるの?」
「あれは伝えたいことを身振り手振りで表しているのよ。女神たるもの死んだ人間がどういう人物なのかとかは多少理解できるわ。動きの意味は私にはさっぱり分からないけど」
「ええー・・・今後あれと関わっていくのかよ・・・あれは・・・上がる・・・?話す、・・・演じる?話す・・・演じている時と・・・上がっている時は話す・・・?上がるって何だ?テンション?あ、うなずいた。テンションが上がっている時も話せるのか・・・面倒臭い」
面倒臭い呼ばわりされた。仕方ないね!
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その後、カズマは冒険者ギルドなるものの場所を通りすがりのおばさんに尋ね、多くの女子高生を見てきた俺からしても高いコミュ力を発揮し、そこへの道を知ることができた。何でも、そこはゲームでよくある、冒険者への支援や仕事の斡旋を行う組織らしい。俺がやったゲームの数は少なく、そんな考えには至らなかった。やはり彼は有能だったようだ。アクアは何故彼が引き篭もりだったのか、と疑問を漏らしていたが、それは俺も知りたいところだ。
そしてそのギルドは言われたとおりに見つかった。かなり大きな食べ物で、中からは食べ物の匂いがする。聞いた話だと大体は荒くれ者がいるそうだ。どちらかというと物語のテンプレだが。
「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」
赤毛のウェイトレスの女性が営業スマイルで出迎える。
酒場が併設されているらしく、鎧やローブを着た冒険者達が酒や料理を手にこちらを見ているが、あまりガラの悪い人には見えない。夢ノ咲学院には裁縫が得意な空手部主将(アイドル、強面)もいるしちょっと顔が怖いくらいでは俺はビビらない。
「ねえねえ、いやに見られてるんですけど。これってアレよ、きっと私から滲み出る神オーラで、女神だってバレてるんじゃないかしら」
喋らなかったらそのオーラも霧散しないだろう。
まあ黙らなくても美少女と言える可愛さではあるし人目を引くのも無理はないか。
「・・・いいか二人とも、登録すれば駆け出し冒険者が生活できる様に色々チュートリアルしてくれるのが冒険者ギルドだ。冒険仕度金を貸してくれたり、駆け出しでも食っていける簡単なお仕事を紹介してくれ、オススメの宿も教えてくれるはず。ゲーム開始時は大概そんなもんだ。本来なら、この世界で最低限生活できる物を用意してくれるってアクアの仕事だと思うんだけど・・・まあいい。今日は、ギルドへの登録と装備を揃えるための軍資金入手、そして泊まる所の確保まで進める」
ふむ、もしそうなら実にありがたい組織だがそう上手くいくだろうか。ひょっとしたらここがとんでもないブラックギルドで、メンバーは報酬から9割をさっぴかれる、みたいなことは・・・流石に無いか。それならさっきのおばさんも止めるだろう。
そして三人で真っ直ぐにカウンターへと向かう。
受付は四人で男女比は2:2、カズマが女性の、より美人で胸の大きい方のカウンターへと並んだので俺達もそちらに並ぶ。
カズマ曰く、美人な受付のお姉さんは往々にしてフラグとか隠し展開があるものらしい。ここまで順調にRPGのテンプレ通りだが彼女も何かしら秘めているのだろうか。もしそうなら力になってやりたいが、彼の言うように元凄腕冒険者だった、というのはむしろあっちのオッサンの受付の方がありそうだ。その横の優男も捨てがたい。残りの一人はあまり目立つ娘ではないが。
「はい、今日はどうされましたか?」
受付の女性が尋ねる。ちなみに彼女はウェーブがかった金髪のおっとりした雰囲気の女性だ。巨乳をはだけた扇情的な服を着ている。おっぱいは最高だな・・・☆
「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりで何も分からなくて・・・」
「そうですか。えっと、では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」
・・・うん?登録手数料?
「・・・おいアクア、金って持ってる?」
「あんな状況でいきなり連れてこられて、持ってる訳無いでしょ?」
・・・まあ、そうだよな。人生上手くいく事ばかりじゃないよな。むしろ冒険者ギルドがあった事を喜ぶべきだよな。
「・・・おい、どうしようか。いきなりつまづいた。ゲームだと、普通は最低限の装備が手に入ったり、生活費だってどうにか手に入るものなんだけど」
―――日雇い労働か大道芸か、といった具合に金を手に入れるしかないか?金になるような芸なんて俺には無理だが。(ハンドシグナルで)
「いきなり頼りがいが無くなったけど、まあしょうがないわね。引き篭もりなんだし。いいわ、次は私の番ね、まあちょっと見てなさいな。女神の本気を見せてあげるわ」
―――もっと俺を見ろよ(小並感)
アクアは離れた所にいる老けた男に近づいていく。男はだぼっとした神官らしき服装で、所謂『僧侶』という奴に見える。
「そこのプリーストよ、宗派を言いなさい!私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ!汝、もし私の信者ならば・・・!・・・お金を貸してくれると助かります」
「・・・・・・エリス教徒なんですが」
「あ、そうでしたか、すいません・・・」
駄目だったようだ。というか彼がそのアクシズ教徒だったとして、アクアが女神だと信じるのだろうか。
「あー・・・お嬢さん、アクシズ教徒なのか。お伽話になるが、女神アクアと女神エリスは先輩後輩の間柄らしい。これも何かの縁だ、さっきから見てたが、手数料が無いんだろ?それくらいなら持って行きな。エリス神の御加護ってやつだ。でも、いくら熱心な信者でも女神を名乗っちゃいけないよ」
「あ・・・はい、すいません・・・ありがとうございます・・・」
結局彼女は俺達三人分の手数料を貰い、死んだ魚のような目で帰ってきた。
どうやら彼女は、神聖な女神である自分が、自分を女神アクアだと思い込んでいる一般アクシズ教徒(物乞い)、と見られたことが相当堪えたらしい。ついでに女神エリスは本当にアクアの後輩だそうで、その信者に助けられるのも辛いらしい。
とりあえず俺はアクアを撫でながらさっきの受付へと向かう。
「ええっと・・・登録手数料持って来ました」
「は・・・はあ・・・登録料はお一人千エリスになります・・・」
さっきはこちらをしっかり見て応対してくれた受付も、こちらとあまり目を合わせたくない様子だ。何というか、開幕からやらかしてしまったようだ。
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『あんさんぶるガールズ!!』の主人公。
去年まで女子高だった私立君咲学院に、共学化のため試験的に転校してきた。喋らないのも人助け大好きなのも生徒会長なのも公式。「あんず」という名前の姉の存在が明言されているが、1話の前書きの通り『あんさんぶるスターズ!』の主人公として逆ハーやっている。そして当作の転校生君は1年ほど夢ノ咲学院にいた設定。
所謂デフォルトネームはないが、当作ではこの名前で進行する。何だかんだでこれ以外の人名らしい呼び方が「ジョンくん」しか無いし。
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君咲学院1-A所属。緑のツインテールに赤目。
パソコン部所属でかなりのゲーマー。『人形姫』と呼ばれる有名人だがコミュ障。ゴスロリ衣装を着るのが好き。主人公のことをLoveの方で好き。
当作では、彼女と話す中で