遊戯派で行こう   作:げげるげ

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基本的に、主人公は社会人なのでリアル優先主義っぽいです。


第3話 自分ほど信じられない物はねぇよ

「そういえば、トンタダ。貴方のエンブリオはもう孵化したの?」

「ん、まぁなー」

 

 喫茶店で適当にお茶と菓子類を食べながら、俺たちは今後の予定について話し合っていた。まあ、俺の予定が取れてゲーム内で九時間ぐらいなので割とたっぷり時間はある。焦らず、だらだら会話しながらこのゲームの雰囲気を楽しむのも悪くはない。

 

「へぇ、何か良いきっかけとかあったの? 私はモンスターと戦っている時、負けそうになって孵化したけれど」

「や、特に? ここらの店でパスタ食べている時に『パスタうめぇ!』と堪能していたら、いつの間にか」

「…………ま、まぁ、可能性は人それぞれよね? それで、どんなタイプ……って、この場で聞くようなことではないか」

「ん? 別に良いぜ、普通に話しても」

「良くないの。一応、エンブリオの情報はプレイヤーの重要な手札なんだから、隠しておかないと」

「でも、掲示板とかさらっと見ると普通にエンブリオの情報を書き込んでいた人も居たけど?」

「そういう人は、書きこむことでメリットを得られたり、ある程度ぼかして書いている物なの。何も考えず、とりあえず情報を全部ぶちまけるのは止めなさい」

「そうか、じゃあ、今度から気を付けるぜ」

「うん、そうしなさい…………今度から?」

 

 喫茶店でお茶をした後は、とりあえず初心者の狩場へ行って、俺のエンブリオのお披露目会をすることに。場所はイースター平原。文字通り、平原が広がっている見通しの良い場所だ。なんでも、ちょっと前までというか、昨日までは普通にPKが初心者狩りをしていたみたいだが、とあるギルドによって殲滅されたらしい。

 うーん、俺もPKに殺されたが、殺される前に互いに情報をやり取りして仲良くなった人も居るしなぁ。素直に『ざまぁ!』とは思えない自分が居る。まあ、自業自得だろうし、今度会った時にはどんな死に方をしたのか聞いてみるのも悪くない。

 

「それで、トンタダのエンブリオは?」

「ん、これ」

 

 俺は紋章から自分のエンブリオ……オレンジの火を灯すランタンを取り出して、掲げて見せる。これが、俺のエンブリオだ。なんか、地味。

 

「名前が【幻影提灯 ジャック・オ・ランタン】で、TYPEがアームズだっけかな? そういう区分らしい」

「ほほう、アームズ。うん、らしいと言えば、らしいわ。それで、そのスキルは? どんな効果があるの?」

「ヘイト解除とターゲッティングの無効。条件付きだけどな」

「んーっと、つまり、それって?」

 

 俺は検証した自分のエンブリオの能力を説明する。

 スキル名は『ピースメイカー』。効果は戦闘行動をしない限り、周囲からヘイトを受けない。攻撃のターゲッティングを無効化する。その効果範囲はランタンを持っている人物と、それに接触している人物のみ。なお、接触による効果の拡大は最大二人まで。

 要するに、攻撃しない代わりに、攻撃されないスキルだ。

 モンスター相手なら、ほとんど『なにこいつ』扱いで無視されるので、効果は絶大。ただし、マスター相手だと、エンブリオの能力によっては打ち消される可能性がある。まぁ、上級エンブリオ相手だと出力の違いで攻撃を受ける可能性は急増するようだ。

 

「ただし、このスキルの発動中は必ず利き腕でランランを持たなければならない。利き腕でランタンを持つことが、スキル発動のトリガーアクションっぽい」

「ふぅん、斥候とか隠密向きのスキルね。ちなみに貴方のジョブは?」

「戦士だけど?」

「絶対、まともにゲームする気がないわね、貴方は!」

「プレイ時間の関係で、そういうジョブに就いても楽しめ無さそうなんだよ!」

 

 俺だってこういうスキルだったら、そういうジョブの方がいいなぁとは考えたさ。でも、駄目なんだ。俺は仕事が不規則だから、いつでもゲームを中断できるようにしておかないと。そうなると必然、拘束時間が長めのティアンの依頼は受けられない。

 すると選択できるジョブも限られてくる、というわけだ。

 そもそも、俺ってばあんまり初期から選べるジョブって、そんなに多くないんだよな。

 

「だからまぁ、適当にアクションを楽しめそうな戦士にしたわけ」

「それじゃあ、エンブリオはどうするのよ? 全然、シナジーしないと思うわよ、それ」

「どうすると言われれば、そうだな」

 

 俺はしばし悩んだ後、『ジャック・オ・ランタン』を右手の紋章へと収納する。うん、これでいいか。

 

「死蔵します」

「自分の可能性を楽しみなさいな!」

「だって、使えないぜ、これ」

「自分の可能性を信じて!」

「馬鹿野郎、自分の可能性ほど信じられない物は中々ねぇよ」

 

 自分を信じて全力を尽くすと言えば、聞こえはいいが、そんな真似ができるのは一握り。大抵の人間は自分の可能性を信じているのではなくて、ただ楽観的に流されるだけ。強い意思と信念を持つ人間だけが、自分の可能性を信じるなんて綺麗ごとを実行できるのだ。

 だから、自分の可能性を安易に信じてはいけない。

 大抵の人間は、どうせ大したことのない才能しか眠っていないのだから。

 

「進化するから! 進化すれば、使えるスキルも増えるってば!」

「えー、んじゃあ、時々、スキルを使いながらそこら辺放浪するわ」

「……と、とりあえず、一緒に冒険しましょう! そうすれば、きっと、段々とエンブリオとの相性だって良くなるわ!」

 

 ベルが割とガチで俺を励ましてくれている。うーん、別にエンブリオを使わなくても楽しめるから、別に使わなくても良いと思うんだけど、でもなぁ、ゲームの趣旨にわざわざ反するのも天邪鬼っぽくてどうかと思うし。

 うん、その内、エンブリオの使い方を検討するということで。

 

「ああ、んじゃあ、早速レベル上げするから、そこら辺で監督しておいてくれよ」

「ふふふ、分からないことがあったらこの私に訊いてもいいのよ?」

「おーう、頼りにしているぜ」

「ちなみに現在のレベルは?」

「え、『2』だけど?」

「ひっくい!」

 

 さぁて、レベルでも上げるかぁ、と俺は初期配布された『丈夫な棍棒』を装備。そこら辺に居る雑魚モンスターに近寄って、背後から一撃。基本的に脳天を割って、一撃で殺す。殺せない場合は即座に離脱して、また次の機会を待つ。

 

「戦闘スタイルが隠密向き」

「うるせぇ、リアル優先なんだよ、仕方ねぇだろ」

 

 ベルの野次を受けつつも、レベル上げは順調に進む。小動物の頭蓋を割る感触を、棍棒越しでしみじみと味わいながら、一つ、また一つと血の華を咲かせていく。仲良くなったPKの人たちから、ここら一帯のモンスターの情報を教えて貰ったので、今のところは問題ない。

 多少体の動き方に違和感があるが、この程度ならばどうとでも誤魔化せる。

 

「トンタダって、リアルで動ける人だから普通に強いわね、初心者にしては」

「害獣を駆除する依頼を受けたこともあったからな、この程度は。怖いぞ、本場の猪は。雑食だから、訓練を受けた猟犬の腸を貪るんだ、あれ」

「グロ系の話は禁止!」

「はいはい」

 

 目の前でモンスターの頭を叩き割っているのに、今更だと思うのだが。

 と、俺が雑魚モンスターを買っていると、ちょっと離れたところから何やら騒がしい声が。

 

「わ、きゃ、おおっ! こわっ、ちょ、当たってってば!」

 

 見ると、中学生ぐらいの年恰好で、革の防具を身に着けた赤髪の少女が、『リトルゴブリン』と戦っている。その少女の右手にはマスターであることを示す紋章があり、エンブリオらしき大太刀を振り回して抗戦していた。

 

「んもぉ、当たれば、当たれば勝てるのにぃ!」

『ギャギャッ!』

 

 赤髪の少女が振るう大太刀を掻い潜り、『リトルゴブリン』はナマクラなナイフを振るう。何度も、何度も、例え僅かなダメージしか与えられずとも、必ず削り殺すという意思を持って。

 よく見れば、その『リトルゴブリン』の頬には痛々しい古傷があり、歴戦の風格を漂わせている。ふん、なるほどね。

 

「ベル。悪いけど、ちょっと行ってくるわ」

「……ふぅん、別にいいけど。ほんと、相変わらずね、貴方は」

「ははは、そうでもないさ」

 

 ベルのジト目を背中に受けつつ、俺は小走りで赤髪の少女の元へと急ぐ。少女は、『リトルゴブリン』との戦いで、こちらの動きには気づいていない。

 ようし、ここはベルも見ていることだし、格好良く決めるか。

 

「だらっしゃい!!」

 

 俺は息を潜めた状態から、一気呵成に距離を詰める。そのまま、気合いと共に棍棒を後頭部に叩き付けた。確実に、一撃で殺すという殺意を込めて。

 

「…………あ、れ?」

 

 ――――赤髪の少女の後頭部を、俺は一撃で叩き割った。

 元々の赤髪は零れ落ちた脳漿と血液に彩られて、美しく地面に血の華を咲かせる。紛れも無い即死。攻撃スキルを使わずとも、不意を突いて致命的な部位を砕けば、このように同格のマスターでも一撃で殺すことは可能なようだ。

 

『ギ、ギギャ?』

 

 そして俺は、戸惑う『リトルゴブリン』――いや、俺の宿敵へ向かって告げる。

 

「勘違いするな。お前を殺すのは、この俺というだけの話だ」

『ギ……ギャギャ!』

 

 俺の言葉を受けて、奴は『面白れぇ!』とでも言うように唇の端を釣り上げた。ふふふ、やはりそうだ。あいつも俺を覚えているな。

 ログイン初日……俺と一時間の死闘を繰り広げた末に、この俺の命を削り切った猛者。しばらくの間見なかったが、ふん、他の初心者には殺されていなかったようだ。

 

「…………も、もしもーし? トンタダさーん? えっとぉ、さっきの流れで、どうして可愛らしい女の子をPKして、そのゴブリンを助けたんですかー? 馬鹿なのー?」

「馬鹿では無い。ちゃんとマスターであることを確認してから殺した。そして、死んでも蘇れるマスターと終生のライバル相手とでは、重要度が違う」

「貴方の終生のライバル、そんな雑魚モンスターでいいの?」

「レベルじゃねぇ! レベルじゃねぇんだ!」

 

 カンスト勢のベルには分からないだろうが、俺には分かる。

 人間の子供程度の体躯。文字通りの小さなゴブリンである奴は、このイースター平原でも雑魚中の雑魚。筋力も、早さも、装備も、何もかもが足りていない。

 だが、奴は諦めなかった。

 迫りくる初心者マスターとの戦いの中で、何度も何度も、逆境に打ち勝ち、この俺を殺して、幾度も死線を潜り抜けたこの場に立っているのだ。

 だから、俺には分かる……こいつはただの『リトルゴブリン』では無い、やがて王になる器を持つ者なのだと。

 

「初心者マスターにして、戦士……トンタダ!!」

『ギャギャ……ギャギャッ!!』

 

 俺と奴は互いに名乗りを上げて、武器を構える。

 そう、奴はきっと弱き者の意思を体現する復讐者……アベンジャーと呼ぼう。アベンジャーはスーパーで売られている肉包丁よりも粗末な武器を携える。不格好で、逃げ腰とも呼べる構え。けれど、それは弱者が行う最善の構え。奇しくも、俺と同じ一撃離脱を得意とする構えだ。

 

「…………」

『…………』

 

 俺とアベンジャーは静かに見合い、そして――――

 

「妹の仇じゃ! おらぁああああああん!!!」

「『ギギギャアアアアアアアアアアアッ!!?』」

 

 上空から降って来た業火に吞まれ、即座に焼き殺された。

 ……あの、因果応報が早すぎませんかね?




悪いことをすれば、即座に罰せられていくスタイル。
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