そのメイド、神造につき   作:ななせせせ

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緊張する人


Day12(昼)

 この国は――ストリエ王国は、大国である。が、世界最大というわけではない。国王たる余ですら頭を下げなければならない存在というのがいる。それが今、余の前に映し出されている。

 美しい女だった。息を呑むほど、いや、息が止まるほどに。だが、どう形容したものか。美しさで言えばオフィーリアと同じか、それ以上とすら思えるのに、どうしてかうすら寒いものを感じる。

 

 銀の髪を揺らし、同じく銀の瞳でこちらを睥睨する女は、もはや神話だ。

 

 

『……こちらからは以上です。この件は彼女にも伝えるように。何せ、アレと渡り合えるのは現状彼女しかいないのですから』

「はっ、聖下の意のままに」

『ああ、それから。彼女宛てに一つ贈り物を用意しました。危険ですから、くれぐれも彼女以外に触らせないようにしなさい』

「わ、分かりました……城の者たちに周知させておきます」

『では』

 

 

 目の前に投影されていた女の顔が消えると同時、余は大きく息を吐いた。魔素投影機(ホットライン)越しでもなお全身に襲い掛かる圧。オフィーリアと対面している時も感じるが、彼女のものはどこかこちらを包み込むような、優しさがある。

 だが、あの女は違う。余という存在を圧し潰そうとしているかのような重み。優しさなど欠片もなく、他が壊れようがどうなろうが気にしない。目の前で人が死のうが『ああそう、それで? 何か関係ある?』と言ってのけるような。

 

 例えるなら、そう。存在の格が違うとでもいうべきか。人が日常生活において、自分が踏み潰した虫の生死を意識しないように、あの女にとっても我々はその程度の存在なのだ。

 

 それほどまでに。アルメガ法国の最高責任者、世界唯一(・・)の宗教アルメガ教のトップであるナイ=ホトップは存在が違った。格が違った。位階が違った。世界が違った。位相が違った。個としての全てが違った。

 

 有り体に言ってしまえば、化物であった。

 

 

「……ふーっ、ふーっ。もう何度も話しているというのにこうも精神力を削られるとは。余も年だな」

 

 

 しかし、そんな存在に気に入られているオフィーリアもまた別格の存在、か。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ……沈黙が、痛い。

 これほどまでに緊張したのはいつ以来か。手が震える。なんとか威厳を保ち、王としての姿を見せよう、と思い手を組んで隠すが、それもどれだけの効果があるか分からない。結局手の震えを抑えきれないまま、人生で最も心を動かされた少女の前にいる。

 

 呼び出したオフィーリアに先程女から伝えられたことを話すと、彼女は黙り込んでしまった。大きな衝撃を受けたのだろう。今の話を飲み込むのに時間がかかっているらしい。……憂鬱なことにオフィーリアを呼び出す前に突然報告されたこともあって、今すぐ頭を抱えて蹲りたい気分だった。

 

 あえて余裕たっぷりに見えるようにゆっくりと顔を上げれば、ヴィ・レキュールが立っていた。

 いや、彼女――オフィーリアが、鎧を装備するとヴィ・レキュールのように見えるくらいの美しさと勇ましさを併せ持った女性だったというだけの話だ。……というかその赤黒いフルプレートメイルはどこから出したのだ? む? 魔王との戦いに着ていったらそれ以来いつどこでも着脱可能になった?

 ……どこかに忘れても帰ってくる? 返り血も吸収してくれる機能付き? それは所謂呪いの装備というやつなのではないか? 片言だが意思疎通も出来る? ……現状覚えているのはシネだけ? それはやはり呪いの装備なのではないか!?

 

 

「……コホン。その話は確かなのでしょうか?」

「うむ。これは法国の最高権力者――つまりはプリーステスからのものだ。それを疑うということがどういうことかは分かっておろうな?」

 

 

 そう言うとオフィーリアの顔が僅かに苦みを帯びた。……それもそうか。法王に逆らうということは、全世界に広がる数千万のアルメガ教徒を敵に回すということだ。どんなに疑わしくても、法王が言ったことを疑うわけにはいかない。

 逆に言えば、軽々しく発言できない立場にあるため、法王の発言は信頼性が高いということでもあり――つまり、この話は本当、あるいはその可能性が高い。

 

 

 

 

「まさか――魔王が生きているとは」

 

 

 常に無表情、真顔のオフィーリアの顔が憎悪に染まっていた。……やはり、人類共通の敵である魔王と直接戦った彼女だけにしか分からないものがあるのだろう。それほどの悪性を持っていたと、そういうことか。余も伝え聞いた程度だが、話によれば魔王は全人類を支配し、自由を奪うつもりであったという。恐らく遊び半分に殺し、絶望や憎悪する様子を愉しむのだろう。

 それは寸でのところで目の前の乙女に防がれたが、今回はまた勝手が違う。

 

 ……ここまでは予定通り。ここから先が、問題なのだ。これまで彼女が何度も反対していた例の件を、言わなくてはならん。

 ふ、また手が震えてきおった。もしこのことでオフィーリアに嫌いにでもなられたら余はもう生きていけん。アルフリードにでも後を任せて隠居する。なんだかんだいって放置してしまったあの子のこともある。隠居してもっと構ってやるべきのような気もする。

 ああいや、そうではない。確かにそれも大事なことではあるが、それよりも大事なことが今目の前にあるではないか。

 

 

「それで……だな。そなたに伝えておかねばならんことがあるのだ」

「この他にも、何か?」

「――勇者召喚が、行われる」

「は?」

 

 

 お、おお……オフィーリアの目の温度が一気に下がってゆく……! 完全に余のせいだと思われておるではないか! ええい貴族どもめ! 適当に証拠をでっち上げて取り潰しにしてやろうか!

 

 

「ちっ、違うのだぞ? 余もそなたと同じように反対しておったのだ。そのように得体の知れぬ者を態々喚び寄せるなど、馬鹿げているとな。だが、アーリーレッド家を始めとした幾つかの者どもが国を、ひいては世界を守るために必要なことなどと喚いて議会で可決させてしまったのだ」

「ええ、それは分かっております。陛下は誰よりもこの国のことをお考えですから。それよりも、召喚されたものを元の世界に返す手段などは見つかったのでしょうか?」

「……いや、そのような報告は受けていないが」

「ああ、やはり……」

 

 

 オフィーリアが僅かに表情を曇らせる。そういえば彼女が反対していた理由は召喚されたものが帰れる保証がないとか、そんな理由だったか。見たこともない、得体の知れん者のことまで考えているとは、オフィーリアはどこまで優しいのか。女神そのものではないか。しかしなんとか余のせいではないと分かってもらえたようだな。瞳に温度が戻ってきておる。

 

 そもそも余は王であるが、議会が可決した法案を撥ね退けることが出来ぬから、一度通ってしまった法律はもう一度議会で審議されるまでは有効となってしまう。再審議は二月後であるから、アーリーレッドの連中の狙いは達成されるだろう。

 どうせ、平民が魔王を倒したなどとなっては貴族のメンツが立たないとでも思っておるのだ。そしてあわよくば勇者として召喚された者を取り込んで力を付けよう……と、こんなところか。ふん、あやつららしく短絡的な考えだ。

 

 

「まだ行われてはいないのですね? それならまだやりようが……」

「うむ。あやつらがいつ実行するつもりかは知らぬが、今日行うなどということはないだろう」

 

 

 突然部屋の扉が乱暴に開けられた。おいやめろ、その扉は意外と脆いのだぞ!?

 

 

「へっ、陛下ァ!! 大変です! アーリーレッド家を始め、エシャレット家、ヤツガシラ家が勇者召喚を始めました!!」

 

 

 えっ




幼馴染の方も書きたいなー書こうかなーよし書こう! ってPCを開いても何故か書けないんですよね……本編が。おかしいなー

あと、この作品実はヒロイン(?)が決まっていないのです。攻略対象が出揃った段階でアンケートでも取って決めようかと考えておりまして。まあそれすらもまだ未定なので、結局こっちで決めてしまうこともあるかもしれませんが。


銀髪の女:やべーやつ

魔素投影機(ホットライン):高級な魔導具。空中に魔素を散布し、それをスクリーンとして投影することでテレビ通話ができるようになる画期的発明。それをホットラインとして使用しているからホットラインと呼んでいるだけである。憶えなくてもいい。

アルメガ法国:ストリエから南方にいき、いくつか国を挟んだところにある。世界唯一の宗教アルメガ教の聖地を擁する巨大な城塞国家。聖地巡礼に訪れる信者ですらも入ることが中々出来ない。同上。

アルメガ教:唯一にして絶対。一にして十。個にして全。αにしてΩ。緑色のタコのような神を崇める宗教。遠い宙の向こうから人々を救い()に彼はやってくる。同上。

ヴィ・レキュール:こちらの世界の神話における戦女神。全身に銀の鎧を纏った勇ましい女性として描かれる。身の丈の二倍ほどの巨槍を操り、敵を爆散させる怒れる女神。半面、伴侶であるキュッサスの前ではその怒りが治まり、良妻にして賢母として彼を支えたとか。よく怖い嫁のことをヴィ・レキュールが降りた、などと形容することがある。同上。

赤黒いフルプレートメイル:表面に血管のようなものの浮き出た何やら不気味な鎧。意思疎通()が可能。オフィーリアにとってみると可愛いペット程度。血を与えると喜びます。ちなみに常人が着用しようものなら、敵味方の区別なく殺しまわり、装着者が死ぬまで動くものを殺し続けるベルセルク状態になる。

プリーステス:女教皇。銀髪のやべーやつが今代の最高責任者になってしまったのでそうなった。

憎悪に染まった顔:アタランテさん的な

勇者召喚:異世界ものの定番、勇者召喚。ちょっと皆さん安易に召喚とかし過ぎじゃないですかね……何が来てもシラナイヨ

アーリーレッド家:そこそこの家系。変にプライドが高いため、平民が王城にいたりするとムカついちゃうタイプ。でもオフィーリアが怖いから何も言えない。そんな人たち。

議会:ストリエ王国では王が行政権と司法権、議会が立法権を持っている。が、王一人で罪人を裁ききるのは大変なため専用の役人がいる。議会は貴族たちで構成され、よっぽどの理由がない限りは法の拒否は出来ない。今回通ったのは国防法第15条。国防の観点から必要になる準備は誰もこれを止める権限を持たないというもの。簡単に言えば国防に必要な準備だったら止めんなハゲという法である。

扉:ご安心を。ちゃんとオフィーリアがいつも直しています。

エシャレット家:アーリーレッドの取り巻き

ヤツガシラ家;同上。やたらと野菜的な名前が多いのはスーパーで見かけただけで、特に他意はない。




ヴァイオレット・エバーガーデン尊み深い……無理、死ぬ……
ああいうのすぐ泣いちゃうんですよね。女の子に限らず、登場人物にはみんな幸せになってほしい人なので。NARUTOのザブザさんとか、あのあたりも号泣したっけなぁ……
とりあえずヴァイオレットちゃんが少佐と幸せな家庭を築く話誰か書いてお願い。

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