俺、
小学校からの付き合いの友人はよく『お前が普通なら世の中の人類の大半はゴミだな、ゴミ』とか言ってくるが、それはただの冗談。むしろ、俺が普通でなくて何だというのか。
……そう、思っていたんだけど。
「……あの状況でマジに飛び出す馬鹿がいるかよ! あの、ベタな、状況で! 態々死ぬと分かってんのに突っ込んでいく底抜けのお人好しなんてお前くらいだぞ! おい聞いてんのか聖志朗!?」
「悠二、うるさいよ。なんか言ってるのが聞こえない」
「おまっ、はあああ……ま、確かにこの状況じゃそっちの方が先か」
見覚えのないどこかの地下室のようなところ。そしてローブを着た人が前にいて、なんか豪華な服を着た人に囲まれている。ベッタベタの展開。直前の記憶を探ってみても、隣にいる
……さて、推定死亡したと思われる状況から一転どこか見知らぬ場所で人に取り囲まれている、というこの現状を説明できる便利な言葉は?
「――まさか、異世界とはねえ」
「悠二、そういうの好きだもんね」
「バッカお前、ああいうのはフィクションだからこそいいんだよ。現実になった途端に嫌な点ばかり目につくようになるもんだ」
「で、今のところは?」
「めっちゃ嬉しい」
それにしても周りの人の喜びようが半端ない。余りにもうるさいためそれぞれの会話内容はよく分からないけど、ちょくちょく彼らが口にするオフィーリアという単語が何か、あるいは誰かを指し示しているっぽいのは分かる。なんだろう。この国の女王とか? 少なくとも召喚するような人たちが何回も口にするくらい重要な人なのは分かった。
「聖志朗、お前言葉分かるか?」
「いや全く。何となくドイツ語の文法に近そうな感じはするんだけど、でもやっぱり違うし、発音はどことなくフランス語寄りだな……でも、なんでか理解は出来てるね」
「すげえ、全く分かんねえけどお前がすごいのは分かった。そして理解できてるのはやっぱり異世界物の定番のアレだろうな」
悠二が偶に貸してくれる本の通りならば、この、言葉は理解できていないはずなのに何故か意味だけは何となく理解できるという謎の原因は『魔法』、あるいは『魔術』と言われるものなのだろう。しかしそんな都合のいいもの、存在するのかという疑問が残る。悠二は堂々といつものように構えて、まるで不安を微塵も感じていない様子だけど……そもそも俺たち死んだはずだよね? なんで今ここで生きてんの?
なんてことを延々考えていると、不意に奥の扉が開いて誰かが入って――
「……っはは、まじかよ」
「これは……確かに異世界だ」
――ただ純粋に、美しいと思った。俺の知り合いも大概美少女や美女だと思っていたけれど、今までに見たことがないような美人だった。地球じゃありえない、いっそ暴力的なまでの美しさは強制的にここが異世界であることを理解させてくる。まるで脳をそのまま引きずり出されて、直接その姿を焼きつけられるような感覚。きっと悠二も同じ感覚を味わっているはずだ。
日本どころか海外ですらいないような美人。アイドルなんか鼻で笑えるような美貌。
金髪が輝いている。濃い青の瞳が輝いている。桜色の唇が、服を突き破ろうとするような胸が、大きなカーブを描くお尻が、所作の一つが。その全てが輝いて見えた。
一瞬で部屋の中の全てを掌握したその人は、凍り付いた空気を気にも留めず静かに歩いてくる。そして、ついに俺たちの目の前にまでやってくると、スカートを摘まんで持ち上げ少し頭を下げるお辞儀をした。
その美しさを間近で見たことで完全に動けなくなっていた俺たちにちょっとだけ首を傾げたけど、すぐに一見彫刻めいて冷たさすら覚えるほどの美貌に親しみやすい笑みを浮かべて話しかけてきた。
その小さな笑みを見た瞬間に、今までの疑問とかそういうの全部が吹き飛んだ。そんなものはどうでもよくなって、ただ彼女のことだけが頭の中に残って――つまりは、その。人生で初めての、恋に落ちた。
『はじめまして。私はオフィーリア、と申します。突然のことで戸惑っているとは思いますが、まずは私の話を聞いてくださいませんか? と、そうでした。それよりも先にお二人のお名前をお聞かせ願えませんか?』
耳が蕩けそうだ。その甘い声が耳朶を擽るだけで意識が飛びそうになる。ああ、駄目だ。この人には――抗えない。流石に人を殺すことに何も感じない生まれついての邪悪だったり、世界を滅ぼす邪神なら否定せざるを得ないけど、そうでないなら俺はこの人の要求全てを受け入れてしまうだろう。
ああ、思考が纏まらない。そうか、これが恋なのか。これは――凄いな。今ならなんだって出来そうな気がする。
「ええと、俺は青ヶ谷聖志朗。
「羽原悠二っす。あ、俺たちの所だと苗字が先に来るので、こいつは青ヶ谷で、俺は羽原と呼んでくれれば大丈夫です。……それで、この状況は一体?」
『それは――』
オフィーリアさんが説明をしようと口を開いたところで、奥の人垣から一人小太りの中年男性が走り寄ってきて、オフィーリアさんの肩を掴んで押しのけた。余りにも乱暴なその行動に、思わず声を上げそうになった。けど、どういう世界なのかも分かっていない今、下手に動いて状況を変に悪化させる可能性もある以上俺たちは動くべきじゃない。
結局出来るのは拳を握りしめてなんとか怒りを抑えることだけだ。
『それはこの、アーリーレッド家当主、オニオン=アーリーレッドが説明しよう! そこのメイドは黙ってここを立ち去るのだ!! 勇者殿は国防上最も重要な存在であり、彼らに現状を正しく認識してもらうことは国防法第15条、『国防の観点から必要になる準備は誰もこれを止める権限を持たない』ということに繋がっている! よって! 貴様のようなメイド風情に勇者殿に関わる権利はないのだ!!』
まるで勝ち誇ったかのように指を突き付け、高笑いする男性……彼の言う通りならオニオンさんだが、それはギャグなのだろうか? 隣の悠二は今にも笑い出しそうだし、俺も正直キツイ、ってそういう話じゃなくて。
そんな彼に対して、オフィーリアさんは淡々と、全くの無表情で言い放った。
『先程国王陛下は勇者様を、つまりは青ヶ谷様と羽原様のことになりますが、特別来賓として扱うことを決定なされました。特別来賓のお世話は私たちメイドに一任する、とも。よって、オニオン様方は勇者様に関わる権利はありません。……信じられなければ国王陛下に直接確認を取っていただいても構いませんが、いかがなさいますか』
『なっ……あっ……とっ、とくべつらいひん、だと……!? 得体の知れぬ輩を特別来賓扱いにするだと……!? それほどまでに勇者を重要視していたというのか? 馬鹿な、それにしても馬鹿げている……特別来賓、なのだぞ?』
よっぽど驚いたのか、よたよたと覚束ない足取りでオニオンは部屋を出ていこうとする。ローブを着ている人以外はそんな彼の周りにくっついて何やら話し合っている。オニオンが退出していくのを見届けることなく、オフィーリアさんは俺たちに向き直る。そうして、こほん、と一つ咳ばらいをすると、
『それでは、改めて。これからお二人の身辺のお世話をさせていただきます、オフィーリアと申します。どうぞよろしくお願い致します』
そう言って笑いかけてくれたのだった。
言い出しっぺの法則……やるしかないのか!
ワールドが楽しすぎて現実に戻ってこれない事件
ただマルチの仕様だけは昔のままが良かったかなあなんて
ついでに先に言っておきますね。就職決まったのはいいんですけど、勤務地が新潟ということで決まったため、初一人暮らし、社会人デビューをする関係上三月から四月にかけては更新できない可能性が高いです。ご理解のほど、お願いいたします。
いきなり現住所から離れた所まで飛ばされるとか絶対お家がヒヤリキャット案件になる未来しか見えない。
普通の高校生:普通ってなんだ。そもそも普通の高校生は自分のことを普通の高校生だ、なんて言わないはずであってその時点で普通の高校生ではないということが証明されるのではなかろうか。……普通なんてものは存在しないのかもしれない。
トラック:異世界に行くためのお約束アイテム。運転手は(社会的に)死ぬ。というか神の分身体を助けたとか、寿命じゃないのに死んでしまったとか、そんな理由でホイホイ異世界に行かせるなよと……。神様なら生き返らせるくらいは余裕な気がする。冥界の人に頼んでください。
異世界:便利ワード。現実世界と違うことがあったら魔法の呪文『異世界スゲー』を使うと大体納得してくれるらしい。
定番のアレ:翻訳魔法。べ、便利ーと思うけども、実際はどうなんでしょう
重要な人:地位はそんなに高くなくてもいなくなったら国が傾くかもしれない
魔法:いっそのこと魔法なんてものの存在しない異世界があってもいいかもしれない。ちょっとおかしなことがあったら即『異世界スゲー』を唱えるだけでいいのだから。
魔術:個人的にはこちらの概念の方が好き
アイドル:最近は48人いたり、農家がアイドルをやったりとアイドルの定義も壊れてきている
生まれついての邪悪:おや? 何故だか根源の姫や魔性菩薩たちがこちらを見ているぞ?
オニオン=アーリーレッド:アーリーレッド家当主。狸みたいな親父。知ってる人は天満屋をもうちょっと痩せさせていやらしくした感じとでも。しがない商人の家系に生まれたが、謎の商才を発揮して貴族位を買えるまでに成長してしまった。43歳。妻子持ち
ローブを着ている人:魔法使い。別に30歳は越えてない。オフィーリアの知り合い。
追記です。
ようやく描き上がったのでこの作品の主人公オフィーリアの絵を載せときます。友人の方からどうしてもと頼まれたので描いてみましたが……下手ですね。うん。
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