そのメイド、神造につき   作:ななせせせ

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助けられる人


今回は短めです
唐突に過去話回の理由はあの人の視点になるから


Before day1

 ……あら、全員揃っているのね。

 え? ああ、あの子は召喚勇者の方々の所に……行きましたわ。

 

 なっ、何ですの!? わたくし泣いてなんかいませんが!? 別にあの子を取られて悔しいとか寂しいとかそんなことはありませんから!

 ……うう。昔は何をするにもアゼリアちゃんアゼリアちゃん、とちょっかいをかけてきていたあの子が……あんなぽっと出の勇者なんかに……!

 

 昔……って、そういえばそうでしたわね。あまり言い触らすようなことでもありませんし、ここだけの話ですからね?

 

 わたくしとあの子は学院からの同級生だったのです。本当にもう、当時のあの子は可愛くて……いえ、今がそうでないわけではないのよ? でも、今はどちらかというと可愛いよりも美しいとか綺麗といった感じですもの。

 ああ、あの子がどんな学生だったか? あんまり今と変わってはいませんのよ。見た目は完璧なのにどこか抜けていて、警戒心がないどころかむしろ自分から男どもの中に入っていったり……おかげで大変でしたわ。獣を遠ざけようとするわたくしたちを尻目に、いつの間にかカードゲームをやっていた時は気が遠くなりました。まあ、あの子は一枚も脱がずに男三人がパンツ一枚で半泣きになっているのは面白かったのですが。

 

 ああ、それからあの子が男子学生の告白を『友達になってほしい』ということだと勘違いして『もう友達ではないですか』と言って撃沈させたり、本気で好きなんだという言葉に対してちょっと引いた顔をして心をバキバキに折ったり……あの子の友人としては心穏やかではいられないのですけどね?

 

 ……その話、どこで聞きましたの?

 へ、有名? 有名なのですか? ちょっとリリア、今のは本当のこと――本当に?

 一体どこから……まさか、ファンション……?

 

 ああもう、そうです! それは本当のことです!

 

 わたくしとあの子――オフィーリアは最初、仲が悪かった……というより、わたくしが一方的に嫌っていたのです。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 八年前の夏。

 わたくしもオフィーリアも13歳でした。

 

 当時の王城と言えば貴族しか入ることの許されない所でしたが、執事長をしていたドノバン・マクギリス様が一人の平民を連れてきたのです。ご実家の営む小料理屋で看板娘として働いていた、本当にただの平民。

 

 それが――オフィーリアでした。

 

 大変な騒ぎになりました。オフィーリアの美貌に目の眩んだ好色親父たちが金を積んだり非合法な手段で彼女に触れようと日夜争い、あわよくばと玉の輿を狙っていたような貴族の娘たちは突然の強敵(もはや敵ということすらできないほどに格が違う)の出現に戦慄き、そしてわたくしは――彼女を排除しようとしていました。

 ……今思うと本当によく無事でしたわね、あの子。

 

 んっん、話を戻しましょう。

 当時のわたくしは愚かしいことに、それなりに大きな家に生まれたせいで少しばかり、その……自分こそが世界の中心、とばかりに思っていたのです。

 会う人会う人皆「アナトリア」に媚びへつらうものだから、勘違いしてしまったのです。

 

 人は皆わたくしに傅いて当然、わたくしより偉いものは王様くらい――に思っていたところで彼女が現れたのです。良いものも悪いものも人々の視線を集めるのは彼女。わたくしの取り巻きでさえも彼女が現れれば自然とそちらに目を向ける程、オフィーリアという存在は強い光を放っていましたの。

 

 それが面白くなかったわたくしは彼女に嫌がらせをし始めたのです。

 確か、部屋を物置にするとか、すれ違う時に足を引っかけるとか、中庭にいるときに水を被せるだとか……陰湿な嫌がらせをいくつも、いくつも。

 あの子、どれも効果が無かったのよね。物置にしても顔色一つ変えなかったし、足を引っかけようとしても空中で一回転しながら華麗に着地するし、水を被せても逆に色気と神々しさが増してなんだか負けた気分になったり……あ、いえ、何でもありませんわ。

 

 それが半年ほど続いたかしら。急に、あの子が学院に通うことが決まったのです。

 きっとあまりにも阿呆な、いえ、馬鹿な貴族が多すぎたのでしょうね。

 学院なら寮生活ですし、彼女の身に危険が迫ることもない――そう判断してのことだったのだと思います。

 でも、これもわたくしにとっては面白くないことでしたの。

 王城での注目をかっさらわれて、今度はわたくしも通っている学院の注目まで――と。

 

 あの子が学院に通い始めてすぐにその予測は現実になって、学院でも彼女のことばかりになりましたわ。

 より一層激しくいじめを続けていたところで――ある事が起きたのです。

 

 いえ、そんな大したことではありませんわ。

 

 

 

 

 この世界ではよくあることです。

 わたくしの実家、つまりはアナトリア家が――失脚したのです。




ぽっと出の勇者:召喚されていない勇者という概念もあったり、なかったり

カードゲーム:脱衣ポーカー。なお本人は修学旅行で男友達同士でふざけるノリくらいに考えていた

パンツ一枚:パンイチ。オフィーリアさんは「かみのかご」があったので負けなかった。

ファンション:貴族家の一つ。レイテルパラッシュ持ってそうですね()

マクギリス:チョコレート

看板娘:彼女(あるいは彼)がもしかしたら一番幸せだったかもしれない時期。服装についてとやかく言われないため、常に男っぽい服装でいた。

世界の中心:自分に自信を持つことは大切だが、持ちすぎると大変なことになる。

物置:現在も使われている。このことをアゼリアは知らない。

失脚:今までの地位から転落すること。何か不祥事の証拠でも出てきたのかもしれない。文書とか、音声データとか。国会でもっと他に話し合うべきことがあるのではなかろうか?

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