めっちゃ長くなった
12/23 大幅に修正
御機嫌よう。私、ストリエ王国王城でメイド長をしております、オフィーリアと申します。元は普通の町娘だったのですが、ある日に王城の執事の方からスカウトを受けましてメイドとしての道を歩み始めたのです。当時ではありえない平民が王城で働くということでしたので、貴族の方々からのいじめや嫌がらせが酷く、それはもう大変でした。どうにかして王城内の風通しを良くして、平民でもメイドとして働くことの出来るような制度を作ったのも今では過去の記憶。
そんな私ですが、誰にも言うことの出来ない秘密があるのです。
それは――元日本人の、
一見普通の女に見えただろ? 残念、そいつは(中身が)男だ。
簡単にこうなった経緯を説明すると……気付いたら虹色の空間に立っていて、自称神から死んだことを伝えられ、こっちの意志も聞かずにいきなり転生させられた挙句、どうやら女として生まれたと知る――こんな感じだ。
そんなこんなで生きてきて早21年。未だに女として生きることには慣れない。朝目が覚めるたびに実は夢だったんじゃないかってことを期待するし、自分の身体を見るたびに不快感が湧き上がる。
とはいえ死にたいわけではないし、死ぬのは怖い。死んだ、という実感はない。でも、だからこそ怖い。一度経験しているはずなのに分からないから――怖い。次もこうして生まれ変われるなんて保証はないし、あの自称神の口ぶりではもう一度は無いだろう。
ならば、どうにかして生きる必要がある。アレの言葉が嘘であっても、ここで自殺してしまったら男に戻ることは出来ないだろうし。そんなわけで、おにーさんはここでメイドとして働いているのである。
(とはいえなぁ……メイド長なんてやる気はなかったのに)
そう。別にメイド長なんて役職に就く気はさらさらなかったというのに、王様直々のご指名を受けてメイド長になることになってしまった。本来なら全力で妨害してくるはずの貴族たちも何もしなかった――ということはだ。
平民上がりのおにーさんをメイド長という大役につけることで潰してやろうということなのだろう。なんて奴らだ。敵しかいないのかこの王城には。無能な平民は去れってことですね、ごめんなさい。
……ああ。憂鬱だ。今日が始まる。
無能な平民、というかただの会社員であるおにーさんにはメイド長という仕事は重過ぎる。前世は良かったなぁ。仕事が辛いなんて思わなかったから、何も考えずに毎日家と職場を行き来することが出来た。今は職場兼自室のここから出ることすら辛い。
なんとかしてベッドから抜け出し、身支度を整え始める。寝るときは全裸派だから着替えはただ服を着こむだけでいい。……そもそも、この女物の服が苦手なんだ。なんでこうもぴっちりしてるのか。トランクスみたいなパンツをくれ。買いに行ったら変な誤解をされそうだから買えないけど。
下着を着ける――その行為すら違和感を覚えて仕方ない。ブラジャーを着ける感覚なんて知りたくなかった。着けないと擦れたり色々大変だから着けるだけで、決して着けたくて着けているわけではない。……え? その割に可愛い下着? バッカお前、女子は色々と気を遣わなきゃいけないんだって。
とりあえず最低限の服を身に着けて、鬱陶しいくらいの髪を適当に纏めると、そのまま物置のような部屋を出る。おにーさんはいつも金欠なのでインテリアだのを買っている余裕はない。この城にやってきたときに渡されたままでいるため、ベッドとクローゼット、それから歪んで汚れた姿見くらいしかない。そろそろどうにかしたいと思うこともあるが、両親への仕送りと制服を買うお金に取られてほとんど残らない。
……制服の方はちゃんと国の方からもお金が出ているが、それにも限度がある。王様におねだりできる額だってそう高くない。だから破れたりとかした服は自分でお金を払って直してもらうという形になるわけだが、おにーさんの場合ボタンがどっか行ったりすることが多々あるのでその分他のメイドよりも服代が嵩む。しかも何が悲しいって、胸の部分のボタンがはじけ飛ぶのだ。もうそろそろ成長期も終わってるだろうし、落ち着くとは思うが……もしずっと続くようなら。
(太っていってるってことじゃん……?)
うわ、嫌だ! デブで中身男とか救いようがない! ……はぁ。一応ダイエットも考えよう。原因はなんなんだ……? 甘いもの食べすぎ?
余りにもそのことに気を取られていたせいか、前方に近づいていた柱に気が付くことなく、そのまま突撃してしまった。
「っ~~!!」
ついてない。けど、まだ良かった。早朝の誰もいない廊下での出来事だったから見られていない。こんなアホみたいな姿を誰かに見られたら恥ずかしくて死ねる。
ああ、ちょうど洗面所に来てたのか。ここで止まれたから結果的にはいいけど……もっとしっかりしよう。
他の住み込みのメイドたちが生活する部屋が並ぶ廊下を行った先に、洗面所はある。まだ誰も起き出していないようだけど、早めに済ませておかないと。上司がいたら気まずいだろ?
そう、思ったんだけど……
「……う、おぇっ!!」
――気持ち悪い。きもちわるい。キモチワルイ。
作り物めいたその顔が、元の黒髪――いや茶髪だったかな――それとは似つかない金髪が、石ころめいて無機物的な瞳が、人間とは思えない芸術品のような身体が。今のオフィーリアという人間を構成する全てが気持ち悪くて仕方ない。
俺は俺なのに、自分が日を経るごとにこの身体に適応していくのが分かってしまう。男だった頃の感覚を忘れて、考え方までもが女性的になっていく。自己が自己でなくなっていくような感覚。何かを得るたびに何かを失って。そうして最後は完全に
「……は、はは。いや、もう本当――勘弁してくれ」
夢なら覚めてくれ。神様ってやつの悪ふざけならすぐに俺を戻してくれ。もうなんだっていいから……これ以上、俺を壊さないでくれ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここでの仕事は基本的に掃除業務が中心となる。他にもいくつか仕事はあるが、まあそんな大したことでもない。メイド長ともなれば事務処理なんかが入ってくるが、感覚としては掃除会社にでも就職したと思えばいい。ダ〇キンとか。
で、いきなりそんなことを言い出したのは、だ。テラスの掃除をし終わったところでいきなり王様に呼ばれて、王様の息子――つまりは王太子だ――の家庭教師をしろと言われたのである。当然拒否したが、余りの粘り強さと、無くなったボタンの辺りをじっと見られ、『てめーおい、お前の我儘で作った制服を何着も駄目にしておいて断っていいとか思ってんのか? やる気ないなら辞めてもいいんだよ?』という無言のアピールに負けて引き受けてしまった。
ああ、この今着ている制服。全くの趣味で前世の知識を生かして作ったメイド服なのだ。形式はクラシックに近いが、いくつかパターンを作ってもらった。その分王様にはお金を出してもらっているのでこれ以上の我儘は言えないのだ。
……おにーさんがメイド服着てても面白くもなんともないだろ? 代わりという訳でもないけど、王城付き女中――ややこしいのでメイドに改名させてもらった――メイドの制服にして、ここの可愛い女の子たちにも着てもらっている。
しかしそれにも問題があって、この制服、構造が今までにないものだから現状特注の手作り状態。これの何が困るって、おにーさんのように成長期の人間はサイズがコロコロ変わるのに、すぐ新しいのを用意するということが出来ない。他の子はどうしているのだろうと思って聞いたら先輩メイドから譲ってもらったりしているようだが、何故かおにーさんがお願いしたら泣いて謝られた。そんなに嫌か。……そりゃそうだ。中身男だし。
そんなわけで、ボタンがなくなってしまったことでブラが見えてしまう先程のメイド服から着替え、メイドたちの控室に移動する。昼休憩の時間に被ったのか、結構な人数がいる。
他の人たちの前では全力で淑女らしく振る舞わなくては。中身がこんなんだって知れたらどうなることやら……怖くて想像もしたくない。
そんな感じで内心びくびくとしながら過ごしていると、朝に一度あったきりの同僚、リリアちゃんが俺の服が変わっていることに気が付き、すぐに問いただしてくる。……もしかしておにーさんに気が付いた?
ふぅ。なんとか乗り切れた。……あ。そういえば王様から家庭教師役にされたことを言っておかないと。忘れかけてた。危ない。もっとしっかりしないとな。
ということで、おにーさんはしばらく通常のシフトから外れるよーということを伝えたところ。皆が黙ってしまった。おかしい。何もやっていないはずなのに。……やっぱりなんかやったかな。
「もっと! 警戒心を持ってくださいと! いつも言っているじゃないですか!」
……おお。あの王様、冴えない中年という感じの見た目してるけどちゃんと臣下から慕われている。やはりいい王様なのか。家庭教師がどうのこうのと言い出した時は殺してやろうかと思ったが、今度会ったら優しくしてあげよう。
リリアちゃんはつまりこう言いたいのだろう。『さっき国王の部屋に入った? 無警戒に? 刺客がいたらどうすんだよおめー』と。もちろんこれはおにーさんが勝手に考えているだけで実際はもっと優しい感じだろうけど、要旨としちゃ間違ってないはずだ。
ふふん。その点なら全然大丈夫。ちゃんとおにーさんの張れる最高の結界を張ってきた。
なんなら褒めてくれてもいいんだよ? と言わんばかりに(変な顔をすると怒られそうだから実際にはしない)心の中でドヤ顔を浮かべ、言い切ってやった。名ばかりのメイド長とはいえ役職についているのだ。しかも公務員。ちゃんと給料分、いやそれ以上に仕事はするとも。
しかし皆褒めるどころか怒りで震えている。あれ、おかしいな。今回は別に何も変なことはしていないはずだろうに。
なんてことを考えていると、周りを取り囲んでいたメイド達の中から一人、ふらふらとした足取りで前に出てくる。特徴的な銀髪からすぐに誰か分かった。同期のアゼリアちゃんだ。
彼女、アゼリアちゃんはとても優しい子だ。こんな子二人といないってくらい優しい。いや、それは言い過ぎか。ここのメイド達は皆そうだし。彼女の優しさがどれだけかというと、この国有数の貴族の娘で、今頃は家でまったりと猫でも抱えて紅茶を飲んでいてもいい身分なのに、俺が――ひいてはこの王城が、ということだろう――心配だからと態々メイドをやっているのだ。なんて国思い! おにーさんはいつも感動してるよ!
そんな優しさに溢れた彼女すら度々こうして怒らせてしまうおにーさんの駄目さ加減。本当にごめんなさい。もっと頑張ります。
……でも、心配したのに怒られるのはちょっと納得いかないと言うか。
「いいこと、オフィーリア? 貴女はとても――とても、屈辱的ですがこのわたくしよりも容姿が優れています」
「……私は、アゼリアの方が綺麗だと思いますが。月光を溶かしこんだような銀髪に、凪いだ大海のような瞳。極限まで磨かれた肌と、余分な肉の全くついていない身体。誰だってアゼリアに見惚れるでしょう。実際、私も初めて会った時そうでしたし」
「なっ……あっ」
アゼリアちゃんはどうやら金髪に憧れがあるようなのだ。何かとおにーさんの容姿を持ち上げてくる。とはいえ、この世界の基準からすればおにーさんレベルなんてごろごろしてるだろうし。鏡で自分の顔を見ても、むしろ芸術品とか、そんな印象を受けて気持ち悪さすらあるから、嫌いなんだ。
……ああ、そういえば。この世界では歪みのない鏡というのは高級品だ。特におにーさんのように給金の大半が仕送りと服代(メイド服代)に消えている人にとっては手を出せるものじゃない。だから鏡を買い替えることなく態々離れた洗面所まで行っているのだが。
「……そういう話をしているのではなく! ですから、世の男共が考えることは一つなのです! 如何にして貴女を手籠めにするか、それだけです。それは国王陛下であっても聖人であっても変わりはないでしょう」
「でも、国王陛下ですよ? 年も離れていますし、側妃だって多くいますし、関係だって悪くありません。そういうお気持ちになることはあっても、実際に手を出すまではないでしょう」
「甘い、甘すぎますオフィーリア様! あれは結構なエロ親父ですよ! 私にすら色目を使ってきましたからね」
えっ、そうなんだ。慕われているというのは勘違いだったか。おにーさんとしてはこれだけ可愛い子たちに囲まれたらそりゃ変な気持ちにもなるから仕方ないし、多少は許してあげて欲しいけど。
……うーん、ともすれば俺も危ない、のか? メイドたちに手を出せなくて、立場上色々と断りにくい俺を狙って……うん、ありえるかもしれない。
「……まあ、こういうわけですし。国王陛下とて一人の男なのです。オフィーリアも一度くらいはそんな経験があるのではなくて?」
「まさか。そんな経験ありませんよ」
しかし、皆がそれだけ体験しているのに自分だけないというのは女として見られないくらいに魅力が感じられないということだろう。この分なら王様は警戒しなくていいんじゃないかな。いくら女が近くにいても全く興味もない奴には手を出そうとは思わないでしょ。
「大体、私と陛下の付き合いも長いですから。向こうからすれば娘のようなものでしょう。この前だって、『……思えば、そなたがここへ来てから随分経った気がする。昔と見違えるくらい成長したな。すっかり大人ではないか』というお話をされたくらいなのですから」
ここへ来たのは……そう、13歳の時だ。俺ももう21。八年もの付き合いになる。娘扱いも頷ける。うん、だから女として見られていないわけではない。……いや、別に見てほしいわけではない。むしろ見ないでほしい。気持ち悪いから。
……おかしいな。なんで皆黙るの?
「……あのクソハゲ親父ィ! もう許しませんわ! 戦争です!!」
「アゼリア様! お供します! あのエロ狸のブツを叩きつぶしてやりましょう!」
「いえ、そこは切り落としてやるべきです!」
「焼きましょう!」
ちょ、どうした!? おにーさんなんかやっちゃった!? このまま王様の逸物が被害にあうのを黙って見ているのは元男としてどうなのか。理由も分からないけど、とにかく止めなければ!
なんとか必死の説得で止めることが出来たけど、王様はもっと気を付けるべきだと思う。……うん。おにーさんも今は(大変不本意ながら)女なわけだし、警戒しておこう。
感想ください
虹色の空間:そこを見ると永遠にワンコに追われる。鋭角駄目絶対。
おにーさん:享年28のおにーさんらしい。詳しいことは彼にも分かっていないが、死んだあと選択権なしにいきなり異世界転生させられ、女の子になっていることが発覚した。
インテリア:使えない鏡とメイド服だけ入ったクローゼットとベッド。
ダ〇キン:掃除会社。
鏡:ちゃんと反射するものは高い。そしてオフィーリアはお金の使い方が大変下手。なので鏡を買う余裕なんてない。実は一度もちゃんと自分の顔を見たことがない。
洗面所:オフィーリアの自室からは離れている。他のメイドたちが使用するための場所