そのメイド、神造につき   作:ななせせせ

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限界の人

12/24 大幅に修正
昇華は消化の誤字ではないです。保健体育の教科書にも載っているあれです。防衛機制だったかな。


Day3〜10(夜)

1~7日目

 正直に言うと、やっぱり怖さを感じていた。いや、襲われるかもしれないという点についてはあまり怖くない。そもそも現実感というものが希薄だからなのか。警戒心が足りないと言われる所以もその辺りに起因しているのかもしれない。

 今まで身体に痛みを覚えたことがないということも、自らの身体への危機というものに鈍感な理由の一つかもしれない。幼い頃はこれは本当に自分なのかと、遠くへ旅立ってしまった息子によく思ったものだ。

 今? ……ある程度の折り合いはつけられた、とは思う。けど、未だに現実感というものは希薄なままだ。

 

 では、何が怖いのか、というと。多分、俺は真実を、現実を、直視することが怖いのだと思う。実はおにーさんには前世で死んだときの記憶がないのだ。だから、未だに実はこれが夢なのではないか、向こう(・・・)に自分の身体はまだあるのではないか、と……そう思ってしまう。

 いや、分かってはいるのだ。神と思しき存在に、『君は死んだよ。老朽化して落下してきた看板に圧し潰されて、ピンク色のペーストになってね。……そこで相談だけど、もう一度人生をやり直してみないかい? ボク達は君のゾンビめいた生き方にとても興味を抱いていてね。その生き様を面白おかしく見ていたいと思ったのさ。もちろん、チート、だったかい? あれも付けよう。……まあ、相談と言いつつそもそも拒否権はないんだけどね!』と言われたのだから。記憶がなくても、実感がわかなくても、おにーさんは死んだのだろう。

 

 けれど――だからこそ。実は騙されているのではないか。ただの夢なんじゃないかという思いも強い。だから、実際に今ここにいる自分が生きているのだと、ちゃんと存在しているのだと認識してしまうことが……どうしようもなく怖い。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 まあ、それはそれとして。流石に何度もアゼリアちゃんに言われていたわけだし、殿下のストライクゾーンに入っている可能性があるともなれば、流石におにーさんも身の危険を感じる。二人きりにならないために、苦肉の策としてメイドを応援として一人呼んだ。リリアちゃんにお願いしたところ、泣きながら引き受けてくれた。『あのメイド長が……』ってどういうことだ。おにーさんが普段皆からどう思われているのか大変気になる。

 

 とかく、二人きりにならない、触らないを徹底し、時にリリアちゃんから警戒心が足りないと叱られながら、授業を進める。しかし、流石は王族というべきか。全く不埒なことを考えていない様子だ。やはり皆が言っていたのは考え過ぎだったのでは? と思う。そもそも、おにーさんがストライクゾーンからかけ離れている可能性もある。……いや、リリアちゃんほどの美少女メイドがいるのに反応しないのもおかしいか。やっぱりこれは王族が故と考えたほうが……いや待て。

 思わず二度見してしまうくらい衝撃的な光景を目にしてしまった。

 

 殿下の、その……股間が。つまりは性剣だが。ズボンを突き破らんとばかりに天を指している。これにはおにーさんも驚き、つい我が身を庇ってしまった。だって……勃っているんだぞ? これはもう襲われるのも秒読みレベルなのではないか。ムラムラしている時はそんなに可愛くない子でも可愛く見えたりするものだし。おにーさんにも経験がある。恐らくはリリアちゃんに反応したんだろう。だっておにーさんは男が反応するようなことはしていないもの。

 

 ……ついでにリリアちゃんに部屋の掃除を任せてしまったせいでアレ()のことがバレてしまった。なんということでしょう。必死であれが男性にとってどれだけ大切な物か懇切丁寧に説明したお蔭で、ギリギリのところで殿下の名誉は保たれた。……嘘だ。殿下がお尻好きの変態だということはバレてしまった。ごめん。

 

 とりあえずスポーツで昇華出来ないかとおにーさんも一緒に戦闘訓練をしたのだが、むしろ逆効果のようで、さらに存在感が増していた。なぜだ。女の子が側にいるという事実が彼をそうさせているのか。まさか王太子ともあろう人が童貞でもあるまいし。

 

 さて、こうなると流石に危険だな、という思いも強くなってくる。だってその日の晩にこっちをチラチラ見てくるんだもの。きっと今彼の中ではあまり可愛くない女の子とヤルかヤラまいかでせめぎ合いをしているのだ。大変なことになった。おにーさんも男として禁欲時の衝動は分かっているから、彼がこっちを見てくるのは、まあ。分からなくはないが。その欲を向けられる側としては勘弁してほしい。

 

 やっぱり一発処理させた方がいいよな。すっきりしないとどんどん変な方向へ意識が行くもんだし。よし、外に出よう――と思ったのだが。逆の立場だったらと考え、ふと思う。自分の股間事情を女の子に慮られたら……と。

 

 気まずい。

 非常に気まずい。

 

 行為の最中に見られるのも気まずいが、これからそういうことをする、と気付かれているのもかなり気まずい。自分がごそごそやっている時に、『あいつ今頃ナニしてるんだよ? キモくなーい?』と言われるわけだ。うん、最悪だな。

 

 とすれば……気付かれないようにさり気なく出ていく必要があるか。こういう時も便利な魔法【ワールドイズマイン】がある。簡単な話、時を止めて出ていけば気付かれない。ふふ、おにーさんは気遣いが出来る大人なんだ。

 

 次の日の殿下の性剣が恐ろしいことになっていた。何故だ。すっきりしたんじゃないのか? なんだ、どういうことなんだ。まさか……すっきりしてなおアレだというのか!? だとしたら、だとしたら、だ。

 

 ――なんという性欲モンスター。王族のムスコは化け物か!? 噂通りならエロ親父の国王の息子だし、やっぱり血は争えないと、そういうことなのか!?

 おにーさんはここ数日の疲れと寝不足で、もう猫を被るのも辛くなってきたというのに。

 

 ……もう、ゴールしていいかな。おにーさん疲れちゃった。本当に疲れるとメイド長というか、オフィーリアとして取り繕うことが出来なくなって昔の感じが出てきてしまう。

 

 昔はよかったなー男言葉使ってても誰も変だとか言ってこないし、近所のおじさん達に囲まれて可愛い可愛いってちやほやされながら親がやってた飯屋のホール回すのも楽しかったし、面白い男友達もいたし、毎日が楽しかったんだよな。

 いや、ここでの生活が楽しくないわけじゃないけど、プライドの高い貴族様にはいじめられるわ、何かと大変な仕事内容だわ、王様に会わなきゃいけなかったりして心労が溜まるわ……はぁ。

 

 仕事……辞めようかな。アゼリアちゃんたちには悪いけど、やっぱり楽しく生きれることが一番だし。いっそのことこのままおにーさんとしての部分を曝け出して辞めてしまってもいいかもしれない。

 

 

 ……いやいや、まだだ。まだいけるはずだ。中身ダメ男だとバレたら大変なことになるだろ。頑張れ、頑張るんだ私、いや、俺!

 

 ここまで来たら気合だ。気合で乗り切れ。相変わらずどころか更にメガ〇ンカを遂げた殿下のディ〇ダを極力意識から外しつつ、形式上の授業を最後まで――そう、最後までだ。間違っても範囲を残したまま終わりにするなんてしてないヨ。

 

 最後まで終わらせて退出しようとしたところで、ペンを落としてしまった。所詮安物のペンだから別に無くしても構わないが、そういうわけにもいかない。それを拾うべく屈み――そして、見てしまった。殿下のズボンがナニカで濡れていく瞬間を。

 

 ああ――なるほど、と。男だったが故に、一瞬で何が起こったのか分かった。理解してしまった。なんだか逆に優しい気持ちになりながら、そっと見なかったことにした。うん、おにーさんは何も見なかったよー。ゆっくり後処理すれば、おっと何も見てないんだった。

 

 

「……リリア。行きましょうか」

「あの、メイドちょ、オフィーリア様? なんで押すんですか? ちょ、待ってくださ、あああ」

 

 

 さりげない動きで、されど力強く押し出していく。

 

 

「オフィーリア様? どうしたんですか?」

「リリア、お疲れさまでした。急な話だったのにも関わらず、よくやってくれました」

「ありがとうございます。……何かあったのですか?」

 

 

 何もないよ。ただ……疲れただけなんだ。少しだけ羽を伸ばしたい気分なんだよ。今回の仕事の分の給料が入ってくるから、お金もある程度使えるし。誰も「オフィーリア」を知らないところで、というよりおにーさんでいても怪しまれない所でゆっくり過ごしたい。

 

 

「いえ、特にはないのですが。ただ……少しだけ、今回の件は疲れました。私は数日ほどお休みをいただくことにします。リリアも疲れているなら、そうするといいでしょう」

「オフィーリア様が、疲れた……? まさか、そんな。今まで一度だってそんなことはなかったのに……?」

 

 

 ただ一人で遊びに行くのも詰まらんし……そうだな。ロイでも誘って遊びに行くか。あいつ今どこにいるんだ。訓練所か。よし、さっさと休暇申請してロイのやつを拉致って街に繰り出そう。

 

 

「……いえ、まさか。これは何かの隠語……? 誰かに聞かれる心配があって、聞かれてはまずいこと? だめ、判断材料が足りないわ。情報が欲しい」

「ああ、それから。いつも通りの業務に戻るなら、時間に気を付けてください。特に休憩の時間なんかは忘れてしまうかもしれませんし、心配ならアゼリアや他のメイドに気にかけてもらうといいかもしれませんね」

 

 

 専属メイドは大変だった。休憩のタイミングとか全然なかったし、いつもは仕事しない時間から動いていたから、いつも通りの業務に戻っても早く起きたりしちゃうかもしれない。リリアちゃんはそうならないとは思うが、一応ね。

 

 ……それだけが大変な理由じゃないけど。まさかあんなこと(股間)になるとは。いや、もう忘れよう。あのことは記憶から抹消するんだ。

 

 

「私、分かりました。オフィーリア様の足を引っ張らないように頑張りたいと思います!」

「……? では、お願いします」

 

 

 

 

 さてと。どこに遊びに行こうかな!




次回はデート回だ

老朽化して落下してきた看板:実際あったら恐ろしいところの話ではない

ピンク色のペースト:原型を留めない肉塊

ゾンビめいた生き方:一体どんな生き方なのか、私気になります!

チート:ズルのこと。ゲームなんかではよく言われる。最近の異世界転生とかは大体この要素が混じる。そしてハーレム。

あのメイド長:純粋無垢な子供の如きメイド長に警戒心らしきものが芽生えた

美少女メイド:お前一回鏡見てこい、と思うかもしれないが、笑わないと不気味の谷に入ったドールに見える。気持ち悪い。というか怖い。

お尻:普通は使わない。海外では普通らしい

昇華:欲求不満に対する防衛機制の一つ。詳しくは保健体育の教科書を読もう

股間事情:普通女の子に溜まってることを悟られて気まずそうに席を外されたら死ねる。そういう世界が開けている人もいるかもしれない。

気遣いが出来る大人:ただアホなだけだ。時を止めて出て行ったら本当に気付かれない

性欲モンスター:なんとも不名誉な勘違いである

王族のムスコは化け物か:連邦のモビ〇スーツは……

近所のおじさん:飲んだくれの親父

メガ〇ンカ:姿が変わる。私はメガガブ〇アスが好きです

ディ〇ダ:地面に埋まってるやつ。よく地面に埋まってる部分がムキムキに描かれたりする。

ナニカ:ケフィアとも

オフィーリア:必死に作り上げてきたメイド長としての姿

隠語:勘違いです

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