『IS原作の妄想作品集』   作:ひきがやもとまち

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ハイドIS更新というか、夏休み特別編あつかいの話。
前々から考えてはいても、色々あったのと出して大丈夫か?という迷いがあって保留してたのを思い切って書いてみた作品。

本編と全く関係ない話なのと、超長すぎる内容ですけど、それでも良い方のみお楽しみいただければ幸いです。
作者好みでやる気出やすい話ほどストーリーと関係しないの多いのが悩み。
2話続けてサブだと、ちょっとな…と。


『我が征くはIS学園成り!』特別編「ハイドの夏休み絵日記」

 

 ――これは、転生した地獄の征服覇王が、転生先の異世界の騎士たちとの壮大な夏休みを記した絵日記である。

 世界を食らう異世界。継ぎ接ぎされた異世界たちの欠片。純白の騎士の名を呼ぶ。

 

 忌避すべき征服、覇王を退ける力。

 『絆』とは―――即ち、『刃』である

 

 

 

(私は・・・・・・本当はどうしたいのだろう・・・・・・)

 

 篠ノ之箒は、己の心が分からぬまま判断に揺れていた。

 果たして己は、許したいのか? 断じたいのか?

 

 少しだけ険しくなった顔で問いを重ねる中、ふと右腕の『それ』に気付いて思考が止まる。

 

(・・・・・・わからない・・・・・・)

 

 わからなかった。ただ、わからなかった。

 どちらも本心のように思えるし、どちらも偽りのように感じもする。

 

 最初は無論、裁きたい気持ちがあったんだと思う。けれど今は・・・・・・少しだけ恨みがましい重いが晴れている気持ちの変化を僅かに、だが確実に篠ノ之箒は自覚するようになっていた。

 

 自分は――あの人をどう思っているのだろうか?

 それが分からなくて、箒の心は揺れ続けている。

 

 それと言うのも―――

 

 

「そういえば、蘭って昔は弾と来てたのか?」 

「えっ、ええ、まあ。お父さんが女の子だけで行くのは危ないからとかなんとか言って、自由に行かせてくれませんでしたから。

 ・・・・・・でも、そのおかげで一夏さんに会えましたけど・・・(ボソッと)」

 

 

 ――一夏を真ん中にして、反対側の右に並んで歩いている年下のお邪魔虫まで、知らない間に新たなライバルとして参戦してきてやがってた事実を、夏祭りデート中に初めて紹介されちまったからである!!

 

 左側に立って歩いている箒としては、気が気でない。

 先程一瞬だけ、「ちょこん」と触れてしまった右腕の端っこに感じた感触で、思わず思考が止まってしまった己の気持ちが恥ずかしいようで許せないようで。

 あるいは、浮気男に断罪の刃を振り下ろして、裁きの鉄槌を与えたいようで判断がまとまらずに仕方がない。

 

 

 ――せっかく来ないと思ってた実家神社の夏祭りまで遊びに来てくれて、珍しく褒めてくれて、「キレイだ」と言ってもらえて、雪子叔母さんから気を使ってもらえて、二人っきりで縁日デートを満喫してる最中で、「あ~ん」までしてもらったばかりなのに!!

 それで、ドキ♡ドキ♡しちゃって! 『ドキッ☆』ときて『キュン☆』となって、乙女の妄想心でマイ・スゥート・ハートな状態になってた所だったのにィィィィッ!!!

 

 

「あー・・・・・・ゴホンゴホンうぉっほん! ――一夏?」

「ん? おっと、悪い。紹介がまだだったよな。えっと、こっちが五反田蘭。ほら、前に話した弾って奴がいただろ? あいつの妹」

「――五反田蘭です。よろしく」

「で、こっちが篠ノ之箒。俺のファースト幼馴染み。前に名前だけは言ったことあったよな? まぁ、とりあえずよろしくなってことで。ほら、箒」

「―――篠ノ之箒だ。よろしく」

 

 右と左に箒と蘭に挟まれながら、左右からライバル心と牽制とコンプレックスに満ちまくった視線が送られまくってくる中心地に位置しているのに、平然と真ん中を歩いていく一夏。

 相手の親族から提案された夏祭り見物中に、偶然にも相手の知らない中学時代の男友達の妹と遭遇して『一緒に祭り見物して回るか?』と聞くことができる精神性は信じがたいものがあったが、それを『唐変木という自覚ないから』で出来てしまえるのが一夏コミュニケーション術。

 

 自分の男友達の妹で、自分は知ってるけど、相手は知らない者同士な初対面同士で夏祭り見物とか、特殊な感情もってない場合でも気を使い合っちゃって好きな出し物を楽しみにくくなって大変だろうと思うのだけれども。

 両方とも知ってる自分一人だけしか、気にせず楽しめる人いない組合せじゃねぇかと思うのだが。もしくは自分が仲裁役で気を使いまくって胃痛になるかのどっちか。

 

(一夏の唐変木振りには慣れていたつもりだったが・・・・・・ここまで乙女心を期待させて裏切った男には、多少の報復程度は許されて然るべきではないだろうか!?

 まして、『友達の妹が懐かない』などと大嘘を言って、明らかな自分への好意を抱いている、わ、私と違って可愛い女子との関係を偽装するなんて・・・・・・ううぅぅ・・・。

 やはり本人が語る『あいつとは仲悪いから』とか『ただの友達だから』『妹だから』といった証言を信用すべきではなかったのだ!

 容疑者自身が語る評価など、最初から信憑性などある訳がなかったというのに! おのれぇぇぇ~~~~!! イぃぃぃチぃぃぃカぁぁぁぁぁぁッッ!!!!)

 

「お、射的屋か。おじさん、三人分ください」

「おお、まいど。両手に花とはうらやましいねぇ兄ちゃん、しかも女の分まで払うたぁ。

 よしっ、おまけは無しだ! もってけ泥棒!!」

「ええ? いや、まけてくださいよ。持ってけって言うなら、まけてくださいって。せめて女の子の分だけでも」

「ガッハッハ! だが断る! 女の分まで払うIS女尊男卑に染まりきった、女の機嫌取ってヨイショしながら生きてきたがる、最近のガキらしい糞ガキなんざ俺たち古い男の敵たちよ! 泥棒は帰んな! ペッペ!!」

「んだとオラァ!? 俺をそんな連中と一緒にするんじゃねぇ! 見てやがれ、目にもの見せてやるぜ! ウオリャァァァッ!!!」

 

 浅黒く日に焼けた白いTシャツを肩までまくりあげた、筋骨隆々の大男店主からの挑発に応じて、一夏が箒と蘭の2人の手を引き射的屋へと突進していく。

 戦場は移って、射的と恋の勝負双方の雌雄を一時的にでも決しようと真剣に戦いには応じたモノの決着はつかず、曖昧な結果だけを手中と胸中に抱いたまま2人の乙女たちは1人の間男を挟んだまま夏の夜は、モンモンとしたまま更けていき―――そして。

 

 

「蘭、先に帰るってよ。なんか兄貴の弾が兄バカをこじらせて聞かないんだと」

「そ、そうか・・・・・・い、一夏っ!!」

「ん?」

「わ、私は、お前がっ、す―――」

 

 ド――――ン!!!

 

「おおっ? はじまったな、花火!」

「す、す、・・・・・・、・・・・・・・・・」

「ん? どうした、箒?」

「・・・・・・・・・」

「お~、すげー」

 

「・・・きれいなものだな」

「ああ、本当にな――ん? なんだよ?」

「・・・・・・このくらいは許せ」

「まぁ、いいけど」

 

 

 夏祭り最後のフィナーレで、一応の帳尻が合った形で終われたことだけは、箒的にも有りではあったと思わなくもない。

 そんな夜。

 

 

 そんな出来事があった篠ノ之神社での夏祭りがあった夜のこと

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、やって参ったぞ!!

 古き良き日本の昭和的フェスティバルを満喫するために、都内でありながらも田舎臭ただよう小規模神社で営まれる夏祭り見物ツアー!

 案内役件観光ガイドは、この私! シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ!!

 人呼んで《IS学園の青い雷16歳》であ―――ッる!!」

 

 

 ――IS学園1のバカもやって来ていた。

 観光のために、日本の祭りを見物するために。

 

 外国人だから。ドイツの代表候補生で、ドイツの旧式専用機を与えられてる(国籍的には)ドイツ人だったから。

 来日した外国人らしく、古い日本の伝統が残ってる祭りを観光するため外国人向けツアーとして、篠ノ之神社の夏祭り会場へと。

 

 自分と同じ場所と時間に、バカもやって来ていたことを、剣術バカの少年少女達は知らないまま夏祭りイベントは終わっていたのだった。

 

 

「はぁ・・・相変わらず元気ですわね。ローゼンバッハさんは。日本の夏は湿気が高くて不快ですのに、それでもハイテンションを維持できるところだけは羨ましく思うときがありましてよ」

「アハハ、まぁハイドらしくていいんじゃない? それに夏のお祭りが楽しくてはしゃいじゃうって気持ちは僕もわかるし」

 

 そして外国人観光ツアーなので、当然のように一人だけではなくて、他の外国人のクラスメイトたちも一緒に来ていたりする。

 セシリアとシャルロットの2人が、今夜はハイドのお仲間兼お友達。被害者にならないことを深く願う、そんな存在たち。もしくは贄。

 

「ふぅ・・・まぁいいですけど。ですが本当に、ハイドさんに案内を任せてしまって大丈夫なんですの? 性格的には――今更言うまでもないとしても、あなただってドイツ生まれドイツ育ちで、一応はドイツ代表候補生でもあるのでしょう? 日本のお祭りに、それほど詳しい方ではなさそうだと思うのですけど」

「あ、そう言えばそっか。ハイド、今日の案内役って本当に大丈夫なの? もし無理そうだったら今からでも一夏に連絡した方が――ああ、でも今夜は一夏も留守だったっけ」

「フッ・・・案ずるな。心配することは何もない・・・」

 

 背後に立つ二人の金髪女子たちIN浴衣姿から代わり番こに、そんなことを指摘されたので格好つけるハイドさん。

 家業の事業経営で本国に戻っていたセシリアは、なんとか時間的猶予を見つけて日帰りで日本に帰ってきたものの、残念ながら思い人の姿をIS学園寮に見つけることは出来ず、実家の電話番号にも勇気を出して掛けてはみたけど留守電だったところをハイドに発見され、他の予定もないし折角だから帰国する前にと遊びに付き合うのを了承し。

 

 立場的に帰国しづらいシャルロットは、育ちがいいので夜に男の子の部屋を一人で訊ねてゴニョゴニョとか挑戦するのはハードル高かったところをハイドに声かけられて、『女同士だったらOK』と了承し。

 

 今こうして彼女たちはこの場所に―――篠ノ之神社でお盆週にやっているお盆祭りへとやって来ていた。

 

 ちなみに鈴ちゃんは来ていません。

 この前ハイドに付き合ってエラい目に遭いまくった直後にきたがるほど、鈴ちゃんは変人ではない。

 

 

(勘に過ぎない危機意識でしたが・・・・・・何となく一夏さんとの仲を、誰かが横入りしてきて一人だけ先行しようとしているような危機を感じて、取るものも取らずに戻ってきましたけど・・・・・・どうやら気のせいだったようですわね。

 なら別に、今夜一晩ぐらい息抜きの休暇に使ってしまっても問題はないでしょう。どのみち朝一番の飛行機は、空港が開くまで使えませんし)

 

(何となくだけど・・・・・・一夏の匂いが、このジンジャの辺りから感じたような気がしたんだけど、誤解だったみたいだし。なら普通に楽しんだ方が得だよね。ニホンのお祭りに興味あるのはウソじゃないんだし♪)

 

 

 そんな思いを内心で、言葉としては口に出さずに隠し合いながら、1人の間男に恋する2人の美少女たちは、間男がさっきまでいたことを知らぬまま、さっきまで遊んでた場所の神社の中へと歩みを進めていく。

 

 ・・・・・・なにか。乙女心とか恋心とかの感情には、サイキック能力や新人類能力にでも覚醒する機能が備わっているのだろうか? さすがは根性論の国ジャパン。

 

「だが、諸君らの懸念するところは尤もではある。

 ・・・・・・確かに私は、ドイツ人の母に育てられたドイツ代表候補生のドイツ人ではあるものの、どこで産まれた誰の子であるかなどは全く記憶になく、気付いたときには何もない荒野に一人で立っていたところを大きな狼たちの群れに襲いかかられ、拳で語り合った末に戦友同士となったところを偶然に見かけた母に拾われ、母の子として育てられた生まれを持つ者。

 母からは幼き頃より父のことを、『女房思いのいい人だった』とだけ教えられて育った幼年時代を送りしドイツ人であるからな。

 ――そんな私に、果たして日本の祭りを観光案内できるのか?と疑念を抱く気持ちは、このハイド。痛いほどに理解できるもの・・・」

「いえあの・・・最後のもそうなんですけど、最初の方がずっと疑念を持たれる要素で満ちていたような気が・・・・・・って言うか貴女、本当に何人なんですのよ? ニンゲン?」

「って言うか、ハイドのお母さんが言ってる、お父さんの評価って・・・・・・」

 

「だが案ずるな!! 心配は――ないッ!!」

 

 

 色々と思うところがありすぎる内容の話を聞かされながら、ジト目でツッコむ2人からの指摘は耳に入らず、入っても気にされる可能性は0に等しいハイドさんは、例によって例の如くいつも通りに「ババッ!」と両手を広げて格好つけたポーズで篠ノ之神社を仰ぎ見ながら、

 

「なんと! 今夜の私がここへ参ったのは、古き知人と再会の約定を交わし合っているからでもあるのだよ!

 その人物は生粋の日ノ本人! 日ノ本に生まれ、日ノ本に育ち、日ノ本の組織へ仕官した日ノ本の事情に詳しき者!

 いざという時には、彼に案内してもらおうと言う訳だよオルコット君。それ故、安心してついてきてくれたまえデュノア君、フフフフ・・・・・・」

 

「そうだったんですの? それなら安心ですわね」

「そうだね。・・・・・・ハイドの事情には余計、不信感が募っちゃったけど・・・。

 そんな人と知り合いになってるハイドって、一体・・・」

「それは聞かぬが華というより、聞けば巻き込まれそうですから無視すべき案件だと思われますわ」

 

 という説明によって納得して、危うきは見ないフリして近づかない、名家令嬢という君子のセシリアは華麗に流して、苦労性のシャルロットは脂汗を流して苦笑する。

 三者三様の反応と対応を見せながら、ハイドの篠ノ之神社観光ツアーはスタートすることになる。

 

 

 

 

 

「まず―――右手側を、ご覧いただきたい!!」

 

 バサッ!と、マントを翻すみたいな仕草で、袖を通さず肩から羽織ってるIS学園の制服をはためかせながら。

 ハイドは篠ノ之神社の奥へと続く道の左右に広がっている、幾つもの屋台の一角だけを指し示し。

 その店で取り扱っている日本の伝統芸能を―――高らかにうたいあげる!!

 

 

 

「見たまえ! これこそ世界に広まった古き良き日本の祭りの伝統―――

 『人気商品のパチモン製品』である!!」

 

 

『お、おおぉぉッ!?

 こ、これが・・・・・・「PATIMONN」・・・ッ!?』

 

 

 

 驚いて目を見張る2人の外国人に向けて指し示される、屋台で売ってる人気映画の主人公の、でもよく見ると何か違ってる気もするヌイグルミやら人形やらお面の数々。

 

 

『ファインティング・“ネモ”』と、書かれた小さな魚の人形が吊されている。

『ウルト“ル”マン』と、端っこに小さく書かれたお面が安く店頭に並べられている。

『株式会社エニクス』とメーカー名が記された、古い有名ゲームの大剣もってるツンツン頭のフィギュアが飾られていた。

 

 

 今では世界中で売り買いされている、オリジナルによく似た格安劣化版商品の原作版が今、彼女たちの前に並べられているのだ・・・・・・!!

 

「こ、これが日本発祥と言われるコピー製品の原典・・・・・・! たしかに凄まじい出来ですわ!」

「た、たしかに! この・・・なんて言うか、なんか違うって感じがする造形なんて匠の技を感じさせられずにはいられないよ!」

「ハッハッハ! そうであろうそうであろう! では、次に参ろうか。

 ―――左側を、ご覧いただきたい!!」

 

 バサァッ!と、再びマントを翻すときのような動作を、方向だけ変えて完全に同じままを繰り返せる、自分自身が他の誰より自分のコピーを可能にしている自覚のないハイドは、続いて左側にも並んでいる屋台の一角を指し示し。

 

 

 

「見たまえ! あれもまた世界に広まった古き良き日本の祭りの伝統―――

 『取れそうで絶対に取れなくなってる高額目玉景品』である!!!」

 

 

『な、なんだって!?(ですってッ!?)

 あ、あれが・・・・・・「取れそうで取れないIREGUIケイヒン」・・・ッ!?』

 

 

 

 再び驚いて目を見張る、外国人美少女2人組。

 近年では西欧などを中心に被害が増大している『オンライン・カジノ』とか『キャッチ商法』とかのオリジナル原典(たぶん)とも呼ぶべき存在を前にして戦慄せずにはいられなかったのだ。

 

 ・・・・・・ヒドい解釈と誤解と拡大解釈による偏見の連続だったが・・・・・・。

 外国から見た別の外国への評価だからなぁー・・・・・・。

 

 たぶん日本側も同じようなことイギリスやフランスにやってるだろうけれど、実際に言われたときには何となく自分たちだけ不当に扱われている気分になりやすい。

 それが島国根性と呼ばれる、大陸中心地のフランス人でも持ってそうな感情論というものでっす。

 

 

「ハッハッハ!! 流石はハイ坊っ、その歯に着せない物言いは女と言えども嫌いじゃあない!」

「むむっ!? よくよく見れば、射的屋の店主である君こそ―――我が古き顔なじみ足る知人の一人! 久しぶりよな、創建で何よりダンケシェーン!」

「ハーッハッハッハ! この俺が! 日本の古き良き射的屋の店主である、この俺様が!

 そう簡単にやられる敵など、そうはいねぇ!!

 かつて世界射的屋とまで呼ばれ、四天王と共に君臨し、天からの加護でも得ない限りは誰にも倒すことなど出来はしないのだ! ウワッハッハッハ!!!」

 

 

 そうして何か出てくる屋台のオッサン。

 浅黒く日に焼けた肌にTシャツの袖まくって、筋骨隆々な肉体を見せつけてくる―――よく見たら頭の上に、青くて変な軍帽みたいなのを被ってるのが見えた、変なデカいオッサン。

 

 どうやら、このオッサンがハイドの知り合いだったらしい。

 何となく納得させられる雰囲気とノリの所有者だったが・・・・・・ところでの話として。

 

 

「――そうだ。そー言や、ハイ坊。ついさっき、女連れのイイ身分な客がきたんだが・・・・・・そいつがちょいと変なヤツだったんでな。お前さんに心当たりがあったら聞いておきたいと思ってた所よ」

「ほほぅ? 女連れの変で妙な人物とは・・・・・・奇っ怪な。どのような御仁だったのかね?」

 

 ・・・いや、変なのはアンタら2人だよ・・・

 と心の中で思いはしたけど口には出さない、空気が読める真っ当な社会人2人の美少女たちの前で―――オッサンは、その妙で変な人物についての話を語り紡ぐ。

 

 

 

「それが奇妙な男でな・・・・・・。

 左腕に長身の巨乳美人を、右腕に年下っぽい微巨乳美少女をはべらせてた若い男だ。

 二股だったのかもしれねぇが、女どもの方から腕に胸を寄せようとしてるみたいでな。

 どういう人間関係なのか、想像つきづらい奴だったぜ」

 

 

 

 ものスッゴい誤解を招きまくりそうな解釈に基づく話を、知らないところで勝手に広められてしまってることに気がつきようがない織斑一夏と篠ノ之箒のIS学園生コンビたち。

 だが、しかし。

 今ここにいるハイドたちには、その場にいれば分かることでも見ていないので分かるはずもない。その妙で変な若い男とやらが誰なのかを知るよしもない。

 

 

 だからこそ、とりあえず―――『年下っぽい微巨乳美少女』についての話は、正式に再会したときにキッチリ分かるように話させようと心に決めるだけに留める事にしておくだけ。

 

 その際には、真実を聞き出すため多少の実力行使は許されて然るべきだろう。

 誤解に基づく空しい対立を避けるためだ。

 

 尋問の際に、発砲は任意でやむを得なし。

 本当に正しい情報を基にして行動するためであり、後ろ暗いところが何もなければ進んで協力してくれるに決まっているのだから。緊急時以外には撃つ必要なんてあるはずが無いのだから―――

 

 

 恋する少女達による、『思い人が隠してた女の真実』を求め欲する心とは、斯くも恐ろしいときが極たまにある時はある。

 『真実など人を傷つける刃でしかない』――と人は安易に語りたがるものだが、真実を欲して聞き出すため、吐かせるための作業の方が数的には傷つけてること多いものだというのも、忘れてはいけない真実の一つ。

 

 

 ――真実を問うため、嫉妬と疑惑の物語を振りかざすのは、誰の優しさと愛情(正義)なのか?

 転生した覇王が知る事はない。

 

 世界と異世界を繋ぐ鍵。力持つ騎士を戴くモノ。

 転生者とは―――即ち『刃』である。

 

 

 

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴッヒ。階級は少尉。現在はISの試験操縦士」

 

 薄暗い部屋に私自身の声が冷たく響くのを鼓膜が感じ取る。

 不快な湿度が、そこが地下である事を物語っていた。

 

 ――そうだ、ここは・・・・・・私の記憶の中でも特別に暗い部分。軍隊の訓練の中でも一番嫌いだった『尋問に対する耐性訓練』その訓練所でもある尋問室。

 

「さて、三日間の不眠と断食は如何だったかな? ラウラ君。ん?」

 

 立つ気力も無く、結露した天井から落ちてくる水滴の音が無性に腹立たしく感じさせられる、それほどに疲弊していた自分の目前に一人の女が腰掛ける姿が見えた。

 顔は見えない。こちらからは逆光になる位置で、相手は妙に澄んだ声を、おぞましい部屋に響かせながら語りかけてくる。――そんな記憶。

 

「これはねぇ、典型的な拷問――いや失礼。尋問なのだよ。大昔から使われている手法だ。時間の概念が停止した部屋で眠らせず、食べさせず、そして延々と水滴の音だけを聞かせる。

 ・・・・・・よくある定番の手法だろう? ふふふ、クハハハハ」

 

 不快な笑い声と、硬質な軍靴のかかとを踏みならす音とが響き合い、数歩進んだ女が私に向かって問いを発する。―――いつもと同じ、尋問への耐性をつけるための流れ訓練。それが何よりも辛く、嫌だった・・・・・・そんな時分にあった私の暗い記憶・・・・・・。

 

「さて、それじゃあ尋問を始めようかな。ラウラ君、君に愛国心はあるかね?」

「ああ」

「ふふ、簡単にウソをつくんだね君は。本当は愛国心なんて欠片も持ち合わせていないくせに、そうだろう? 違うかい? ラウラ君」

「そんなことはない」

「まぁ、それはいいさ。そんな事よりラウラ君――仲間はどこにいる? 装備のレベルは? バックアップは? 吐け。吐きたまえ。それが君のためだ」

「言うはずがないだろう」

「フフフフ・・・そうだね。そうだろうねぇ・・・・・・では、こういう質問はどうかな――?」

 

 にやりと、女の口元に浮かんだ笑みが歪む。

 そんな表情の変化に取り合う価値を感じる事無く、私は次にどうやって目の前の相手を制圧するかを考え始めようとし――そもそも自分は、何故こんな昔の記憶を思い出しているのだろうかというのを先に考える事にする。

 

 確かに嫌な場所での記憶ではあった。嫌な過去の出来事で、思い出したくもなければ繰り返したいと願う気持ちなど一片もない。

 無いのだが―――そもそも繰り返す必要性が微塵もなく、過去は過去でしかなく、終わってしまった少尉時代の信任仕官クラスでしかなかった頃のイヤな記憶など、精鋭部隊を率いる隊長として大尉に昇進した今の私にとって、それほど重視すべき過去の記憶というほどでは既に無い。

 

 そんな場所の主でしかなかった、新米少尉の教育係にしかなれん程度の嫌味なだけの女の記憶を何故、今になって思い返していたかと言えば―――やはり、その質問の問いかけこそが全てを物語っているものだったからとしか言い様がなかった。

 

 

「君に―――好きな人はいるのかい?」

 

 

「電話番号は? 名前は?」

「キミ可愛いね。何時にお店終わるの?  友達も一緒にどう?」

「好みのタイプは? 好きなデート場所は? 僕もっといい店知ってるんだけど」

 

 

 ――変な男たちに絡まれて、しつこく質問の嵐を浴びされ続けているからなのだろう。

 問われる質問内容的には、あの部屋で聞かされた内容と大差なく、問いかける声はだいぶ柔らかいものばかりで満ちているのだが・・・・・・何故だろうな。

 

 何故だか、あの当時よりも不快さだけなら優っている気がしてならない。

 

 

 ――ダンッ!

 

「水だ。飲め」

『え? えと・・・・・・』

「それとコーヒーだ。飲んだら出て行け、邪魔だ」

『は・・・・・・はい・・・』

 

 とりあえず不愉快な生き物たちだったので、結露が浮いたコップに入った水だけ置いて黙らせると、コーヒー1杯だけなら飲むことを許してやった上で、それ以上を注文する気が無いようなら力ずくで追い出す方針を採用して、その場に背を向ける。

 

 ――まったく! やはりこの国は教官がいるべき場所として、相応しい人材がいるとは到底思えない奴ばかりの国だな!

 そんな国にある、こんな店で、なぜ私がこの様にヒラヒラした余計な飾りが多すぎて動きにくい装束を身にまとい、給仕の仕事を手伝ってやらねばならんのか・・・・・・

 

 ・・・・・・まぁ仕方があるまい。シャルロットが頼まれ、引き受けてしまった依頼である以上、最低限の協力ぐらいはせざるを得んのが今の私の立場なのだから。

 本音を言えば、初手から力技に訴えた方が手っ取り早いという思いはあるのだが、一応は臨時の従業員として客に暴力までは振るうのを止めよ―――

 

 

「クールだね。そして個性的だ。そんな君のことがもっとよく知りたくなったので、住所と電話番号とメアドとサークル名を書いた名刺をおいていくから、後で連絡くれると嬉しいな。

 ――待ってるから、何時までも・・・・・・♥♥」

「スリーサイズは? 実年齢は? まさか、その見た目で本当に小中学生なんて事はないだろうね!?

 合法ロリこそ真の正義だという真理を、君ならば理解してくれるものと私は心から信じ―――」

 

 

「帰れたわけ共!! 貴様らには水すら勿体ないわボケェェェェェェッ!!!!」

 

『へぶ~~~~~ッシ!♡☆?』

 

 

 ドンガラガッシャン!!

 ドッガンガ―――ッン!!!!

 

 ――と思っていたが、やはり相手にもよる臨機応変こそが軍人の基本だな!

 バカにつける薬は銃弾しかないと、昔の偉い軍人も言っていたとどこかで聞いたことだし!

 人を不快にさせるしか能の無い、気持ちの悪い生き物共はタイアード一択だけでそれでいい!!

 

「ちょ!? ラウラ、何やってるの! ダメだよお客様に暴力なんて振るったりしちゃ!」

「・・・そうは言うがなシャルロット。私にも、我慢の限界点というものがあ――」

「それでもダメ! 接客中はお客様たちに暴力は禁止! わかった!?」

「む・・・・・・むぅ・・・」

 

 有無を言わさず、受け入れることしか許してもらえないシャルロットによる判断と判決。

 私としては不本意ではあるのだが――受け入れて譲歩するより他に道はない。

 肩を落として了承する旨を伝えた私に、一つ頷きを返して別のテーブルへと戻っていく彼女。

 

 その――タキシードのようにも見える男物の装束に身を包ませた、見慣れぬ姿格好の見慣れたルームメイトの少女を見送ってから、私は一つ溜息を吐く。

 手持ち無沙汰となり、何気なく周囲を見渡すと見慣れたレイアウトの、だが実際に見たのは今日が初めてで間違いようがない、日本ではよく見かける飲食店――『メイド喫茶』とかいう業種の店内で、臨時のバイトとして働いているヘルプの店員という立場になった今の自分の姿を実感させられる。

 

 

 まったく・・・・・・一体どうして、こんなことになってしまったのだろうか・・・?

 

 私はただ、あのバケモノじみた化け物みたいな奴に敗れ去り、負けた後に妙な噂を立てられて妙な視線を向けられることが多くなり。

 オリムライチカにも勝負できずに勝てぬまま、さりとて織斑教官を取り戻すこともできず、なんとなく居続けてしまっているだけの立場でしかないはずだったが・・・・・・だが、しかし。

 それ故にこそ、シャルロットには頭が上がらない今の立場になった自分がいるのも事実ではある。

 

 彼女と私は、今では同じ寮の部屋を二人で共有しているルームメイトの関係になっていた。

 もともと『男』としてオリムライチカと同室だったシャルロットは、本当の性別が判明したことで『年頃の男女を同じ一つの部屋には住まわせられない』という理由によって部屋を移ることになり。

 たまたま私が、織斑教官に部屋を変えて欲しいと、泣いて頼んでいたタイミングと重なったことで、今のような関係になった私たちになっている。

 

 

 ・・・・・・あの人間の形に見えるだけで人とは思えんバケモノ女と一緒の部屋で暮らし続けられるほど、私の精神は人間を辞めてはいなかったのだ。仕方がないだろう!?

 だからこそ! 下手にシャルロットと揉めて、部屋を追い出されるような事態だけは絶対に避けねばならんのだ!

 追い出されて、再び奴と同室にされる判決が下されるのだけはイヤだからな! その為にもシャルロットの頼みと決定は、無下にする訳にはいかんだろう!?

 

 しかし、それにしたって限界というものがある! 人が最近になって気にし始めた生まれついての身体的特徴についての話などは特にな!

 大体、なんだって無礼者の男が集う、この様な店でバイトする羽目になっているのだ!? 私は! 記憶が確かならば今朝目覚めた頃の私は―――

 

 

 

『あ、あのー・・・・・・ラウラ?』

『う・・・・・・?』

『えーと、あのね? ラウラがうなされてたから、声をかけようかな―と思ってただけなんだけど・・・ね』

『そ、そう・・・・・・か』

『で、いつまでこのままなのかな?』

『そうだな、すまない・・・・・・』

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ――寝ぼけて、全裸のままシャルロットを押し倒し、上から覆い被さっている体勢で目が覚めたから。・・・というのが原因だったな・・・。

 いや、違うのだ。そうではない、誤解だ。

 ただ私は、過去のイヤな夢を見て、寝起きが悪かったから、つい夢の中で昔のイヤな女に襲いかかって押し倒し、首筋にナイフを突きつけて黙らせようとしていた仕草を、現実ではベッドの上で素っ裸のままシャルロット相手にやってしまっていたことに気付かなかっただけで―――つまりは、ただの事故でしかなかった。不可抗力だったのである。

 

 だが、人によっては悪意的解釈による偏見と誤解に満ちた曲解が成り立つ余地がある状況だったことまでは否定しきれない。

 故に私は、シャルロットから提案された『寝間着を買うためのショッピング』と、買い出しに行った先でいきなり話しかけてきた飲食店経営者とかいう女からの頼みを彼女が引き受けてしまったことで自分だけ帰るわけにもいかなくなり―――今こうして、ここでウェイトレスとして働いている。

 

 全ては―――あのバケモノと同室に戻される判決を避けるために必要な処置!

 織斑教官は時折―――それを罰則として下しそうな怖さがあるから仕方がない!! 必要な善処だった!!

 

 

「ご来店、ありがとうございました。

 それでは、またのお帰りをお待ちしております。美しきミ・レイディのお二方」

 

『はい♪ 絶対に帰ってきますから待ってて下さい! 何時までも――♡♡』

 

「ふぅ・・・・・・少しだけ疲れちゃったかな。ラウラの方もお疲れ様、今更だけど付き合わせちゃってゴメンね?」

「・・・仕方があるまい。アイツと同じ部屋に戻されるリスクを回避するためだ。多少の我慢や妥協は許容範囲内だ」

「また、そんなこと言って・・・ハイドに悪いよ? そりゃ変なところもあるけど、悪い子じゃないって僕的には思うけど――」

 

 

「貴様には奴のことを何も分かってないからそんな事が言えるのだ!!!」

 

 

 思わず大声で怒鳴り返してしまい、目前に立つシャルロットを唖然とさせて黙り込ませてしまう私!

 ・・・感情に駆られすぎて、流石にやり過ぎてしまったようだった。

 だが仕方のない部分はあったと思う。いくらシャルロットからの言葉とはいえ、言って許される言葉と許しがたい発言というものがあって然るべきもののはずだから・・・!!

 

「貴様には分からんのだ・・・! オリムライチカを倒せる強さを求める私を鍛えるためと、IS学園の近くに何故かあった妙な洞窟へと、碌な準備もせず連れて行かれる恐怖が! あの場所の恐ろしさが!!」

「え? え、え、あの、え~~とぉ・・・」

「強くさえなれば三日三晩どころか、『3年でも4年でも休みなく戦い続けることが可能になり、ベッドで一晩寝るだけで再び数年間の戦闘継続すら可能になれる!』などとほざいて、1日分の食料すら持たされることなく洞窟探索に連れて行かれるのだぞ!?

 挙げ句、私が空腹になったと見るや、『腐ったパン』を与えてくるのだ!

 空腹だけは改善したが、腹痛に悩まされながら洞窟探索を続けさせてくる奴の鬼畜外道振りを! 貴様は分かっているのかシャルロット!?」

「い、いやあの・・・僕、ちょっと急な用事があ―――」

「挙げ句、隙を見て逃げ出したはいいものの、どこで道を間違えたのか上の階へと上るための階段がどこを探しても見当たらず、下へ下へと降りていくための階段しか見つからない!

 何も見えない周囲の暗闇からは、何者かに襲われ続け、必死に逃げ続けても延々と背後から追いかけられている気配が消えてくれることはない! 拷問をも上回る、あの恐ろしさ!」

「あ~~・・・・・・その、携帯が鳴ってるみたいだから続きは後に―――」

「そして襲われながらも逃げ続け、空腹と疲れで遂に限界に達して気を失い、もはやこれまでかと思っていた瞬間に―――自分の部屋のベッドで、何事もなかったかのように目を覚ますのだ。

 なんなのだ!? あの奇妙で不可思議な洞窟は! あとで地図を見ても表示されてなかったぞあんな場所! 

 奴は『あの洞窟の最下層まで到達できた者は強力なパワーが与えられる』などと言って私を連れて行きたがるが―――絶対に2度と行きたくなどない!!

 あんな不可思議な洞窟にルームメイトを連れて行こうとする奴と同室の部屋に、戻されるかもしれん選択肢を貴様は選べるというのかシャルロットぉぉぉぉぉッ!!??」

 

「え~~と・・・・・・え~~と・・・・・・あ!

 お帰りなさいませ、お美しいお嬢様方♪ どうぞコチラの席へ、エスコートさせていただきます。

 お店での仕事中は、お客様にサ~ビスサ~ビス~♪」

 

 

 トトトトト~と、軽快な足取りで去って行き新たな客の元へと去って行くシャルロット・・・・・・くそッ!

 やはり奴と同室になる恐ろしさは、経験した者にしか分からぬと言うことか! 本当に辛い経験というものは、身を以て味あわされた者にしか決して正しく理解できることはないのだから!!

 

 ・・・・・・まぁ、分からん者たちに求め続けたところで無益なことか。

 今はただ、とりあえず仕事を終わらせて無事に帰ることだけを考えよう・・・。

 

 

「あ、あの子、やっぱ超イイかも・・・・・・♡」

「罵られたいっ、見下されたいっ、差別されたい! ブタを見下ろす目で踏まれてみたいッ!!」

 

「あ、あのっ、追加の注文いいですか!? 出来ればさっきの金髪執事さんで!」

「こっちにも美少年執事さんを是非! お持ち帰りとセットメニューでお願いしますっ!!」

 

「コーヒー下さい! 銀髪のメイドさんで! セットで罵り見下しの追加注文をっ!!」

「美少女メイドさんを是非! お持ち帰りされるのは可能ですか!?」

 

 

 店中から殺到する注文をさばくために・・・・・・局所的には鉄拳制裁でお帰りいただくメニューを届けてやるため拳を鳴らしながら一歩を踏み出す―――そんな時だった。

 

 

 バァンッ!!

 

 

 

「全員、動くんじゃねぇ!!」

 

 ドアを蹴破らんばかりの勢いで雪崩れ込んできた、三人の男たちが怒号を発したのは。

 ジーパンを履いてジャンバーを羽織り、顔には覆面をしてバッグからは紙幣を何枚かはみ出させた姿をして。

 

 ドイツの家出した若者のような格好にも見えなくはない服装の連中だったが・・・それだけの奴らが入ってきただけなら他の客たちが動きを停止させ、驚いたように視線を集中させるほどの価値がある訳もない。

 

 入店してきた直後に居丈高な命令を発してくる、礼儀知らずな無礼者共の言い分を他の者たちが無視することが出来ず、悲鳴を上げて助けを求めざるを得なくなった原因は、奴らの“手の中”にある物品が理由だった。

 

「き、きゃあああっ!?」

「騒ぐんじゃねぇ! 静かにしろぉ!!」

 

 

 ズダァァッン!!!

 

 

 三人の内の一人が、手の中にあるショットガンのポンプアクションを行い、天井に向けて威嚇射撃を発砲する音と客たちの悲鳴が店内に木霊する。

 どうやら銀行強盗をおこなって逃げてきた直後らしい男たちの手には、それぞれに銃器が握られていたのである。

 

 それも、手下らしい二人がショットガンにサブマシンガンを。リーダー格らしき体格のいい男がハンドガンを。

 平和ボケと呼ばれる国にしては、割と質のいい装備をもって。

 

 ・・・・・・どこから流れ出した代物を入手したかは知らんが、確かに非武装の一般人では怯えて言うことに従う道を選ぶのも分からん訳ではない程度には重装備な強盗共だった。

 

「ど、どうしましょう兄貴! サツの奴らが店の周囲を取り囲みやがって・・・このままじゃ俺たち全員――ッ!?」

「うろたえるんじゃねぇっ! 焦ることはねぇ。こっちには人質がいるんだ。強引なマネはできねぇさ」

「へ、へへ、そうですよね! 俺たちには高い金払って手に入れたコイツがあるんでした!」

「その通りだ! コイツさえあれば俺たちは―――無敵だッ!!」

 

 

 ・・・・・・もっとも、中身は装備よりずっと貧相な連中のようでもあったが。

 強力な武器を手にして気が大きくなる者は軍にもそれなりにいるものだが・・・・・・まさか、金で買った銃器を手にしただけで『無敵』を確信できる奴らが現実に実在していようとは・・・・・・

 

 果たして織斑教官がコイツラと遭遇していた場合には、なんと言って、どういう対応をしただろうか?

 少しだが興味がなくもない想像だったが、その程度の下らん可能性を実現させてやるため教官の手を煩わせる趣味は私にはない。

 

『あー、犯人一味に告ぐ。君たちは既に包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返す――』

「うるせぇな警官共! いいか!? 人質を安全に解放したかったら車を用意しろ! もちろん追跡車や発信器なんかもつけるんじゃねぇ! もし要求をのめねぇようなら、その時は―――!!」

 

 言うやいなや、男の一人は窓硝子越しに警官隊へ向けて発砲し、パトカーのフロントガラスを破砕して、周囲の野次馬たちを恐怖のドン底へと叩き落としてパニック状態へと陥らせることに成功する。

 

「へへ、奴ら大騒ぎしてますよ」

「平和な国ほど、犯罪はしやすいって話は本当っスね!」

「ククク、まったくだぜクックック」

 

 暴力的な笑みを浮かべ合う男たち。

 その様子を観察しながら―――私とシャルロットは、ハンドサインで制圧作戦の段取りをすでに完璧に詰め終わったので、さっさと実行に移そうとGOサインを出す寸前まで至っていた。

 

(私が囮になって一人を制圧する。他は任せる)

(了解。何か隠し球を残してるかも知れないから、それだけは警戒を怠らないよう注意を)

(了解――幸運を)

 

 パッパと指と手だけを動かして意思疎通を終えた私は、囮となるため伏せていた身体をあげて立ち上がり、犯人たちの前に姿を晒す。

 正直に言えば、この程度の奴らごとき小細工など必要とせず、私一人で制圧するのは容易なのだが・・・・・・予想外の被害が出てしまったときの罰則が恐ろしい。

 ここは安全策を優先して、共同作戦を採用する方が賢明か――そう考えた故での作戦開始のタイミングだったのだが・・・・・・そんな時だった。

 

「客たちも従業員も大人しくしな! 俺たちの言うことを聞けば殺しはしね――ん? なんだお前」

「・・・・・・」

「おい、大人しくしてろって言うのが聞こえなかったのか? それとも日本語が通じねぇのかアアァン!?」

「・・・・・・・・・」

「テメェ・・・ふざけてんのか!? 日本語が通じねぇ外国人なんざ自分の国に帰りやがれよ! このヤロ―――」

 

 

 

 

 バァンッ!!

 

 

 

「全員、武器を捨てて大人しく降伏しろ! 無駄死にはするなッ!!」

 

『『『・・・・・・へ?』』』

 

 

 ドアを破らんばかりの勢いで、ガラスを突き破って乱入してきた新たな男たちが我々に銃を向け、強盗の男たち3人が間の抜けた声で返事を返すことしか出来なかったのは。

 そして。

 

 

 ズダダダダダダッ!!!!!

 

 

『『『ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!? 危ない!危ない!

   死ぬ!死ぬ!死ぬから辞めて! 撃たないでェェェェェェッ!?』』』

 

 

 問答無用でいきなり先制射撃で発砲してくる連中だっただとぉぉぉぉっ!?

 慌てて立ち上がった直後だった姿勢を元に戻して伏せた姿勢でやり過ごすことに成功した私だったが、男たちはそうはいかない!

 幸いと言うべきか、殺されてもよかった連中と言うべきなのか、足下に向けて放たれた牽制射撃だったおかげで死者までは出ていないらしく、強盗共は銃を突きつけられてあえなく捕虜のみとなってしまっている姿が見える。

 

(な、なんなのだこの状況は一体・・・!? 日本は平和ボケした国と聞いていたのだが、何時からこんな連中が町中の飲食店を襲うようになったのだ!?)

(し、知らないよ!? 僕もこんな人たち聞いたことないし! って言うか本当に誰なのさこの人たち! 明らかに動きが素人じゃな――)

 

 

「警官隊諸君に、この場を借りて一言申し上げたい!!」

 

 

 なんかコッチの疑問に、向こうから勝手に答えを与えてくれそうな流れになってしまっているだとぅ!?

 なんなのだ!? 本当になんなのだこの状況は! そして今現在のこの国は! なんか聞いていたのと大分違う状況が、今私の目の前では繰り広げられているのだが!?

 

 

「我々は、救国革命軍《ヤマート・フリート》!!

 所謂、白騎士事件と呼ばれた凶行と、それによって誕生したIS条約が偽りの者であることは誰の目にも明らかである!

 何故ならば、条約はIS委員会を自称する一部の簒奪者によって結ばれたからだ! 我々は些かも戦いの目的を見失ってはいない!

 覚醒せよ日本人! 今こそ、男の魂を呼び覚まし立てよ日本の男たち!

 日本人は、諸君らの覚醒を欲している!!

 ジーク・男ッ!! ジーク・日本の男たちッ!!!」

 

 

『ジーク・男ッ!! ジーク・日本の男たちッ!!!』

 

 

 

 ・・・・・・うむ、成程な・・・まったく分からん。

 なに言ってんだコイツラは、というだけは理解した我々は、頭を振りながらも改めて立案し直した制圧作戦案を実行するための準備を完了させて、再び立ち上がるべきタイミングを迎える。

 

 先程までの3人組より人数も多く、練度も上がり、装備も上昇してしまったが・・・・・・この程度までなら何とかなるだろう。

 

 私はスクッと立ち上がり、その―――救国革命軍とやらに見えやすい位置で、意識と視線を集中させるため囮役を実行する。・・・・・・そんな時だった。

 

 

「だからこそ我々は―――む? 貴様いったい何者だ? 物腰からして只者ではないようだが」

「・・・・・・」

「いや、語らずともよい。話し合う余地はない、ただ死――!!」

 

 

 

 バァンッ!!

 

 

 

「我々は、真に国を憂う愛国者の集団《憂国連邦ズ》!

 自由と権利を手にした女性たちよ! 今こそ武器を持って立ち上がり、私たちが手にした自由と権利を守るため男共と戦う聖戦に参加しなさい!!

 戦わざる女は死あるのみ!! 戦って勝利した先にこそ真の自由と権利はある!!

 女尊男卑バンザイ! 大女尊男卑日本帝国に栄光あれぇぇぇぇぇ―――ッ!!!」

 

 

 

 またかぁぁぁぁッい!?

 なんなんだ今日は!? 本当になんなのだ今日は! 一体なんの厄日なのだ!?

 日本には局所的に過激な教条主義テロリスト集団が発生する、ゲリラ豪雨テロ事件みたいな異常気象でもあるというのか~~~!?

 

 

「むぅッ!? 女尊男卑帝国の秘密警察がきたか! もはやこれまで! 者共、構わん! 皆殺しにして撃って捨てよ!!

 男たちの真の覚醒と正しき日本を取り戻すため、我らは死を恐れず戦い、死後の世界にこそ極楽浄土を求めん!! ジーク・男ッ!!!」

 

『うぉぉぉぉッ!! ジーク・男! ジーク・男ッ!! ジーク!ジーク!ジィィック!!!』

 

 

「怯んではダメよ! 退けば地獄! 支えきって勝って生きて帰った者だけが最後の勝利者!

 勝利の栄光と、真の自由と権利を私たち女性に!!

 大女尊男卑日本帝国バンザイ! バンザイ!! バンザァァァァッイ!!!!」

 

 

 ズダダダダダダッ!!!

 ズダン! ズダン!!

 ずどどどどどどどどどどどどッ!!! ズドドドンドンっ!!!

 

 

「うっぎゃあああッ!? なんか撃ち合い始めやがったー!?」

「逃げろ!逃げろ! 一刻も早く避難しないと巻き込まれて死ぬ~~ッ!?」

「お、俺たちを置いていくなッ! ――お願い! 置いていかないで!? 強盗にも五分の魂! お慈悲を! どうかお慈悲をーッ!?」

 

 

 

 

『むぅぅぅぅっ!? 何やら店内から銃声の連続が・・・・・・よもや犯人が人質たちを!?

 えーい、こうなってはやむを得ん! こちらも治安維持用に警視庁が用意した秘密兵器を使うしか他に手はあるまい!

 ―――という訳ですッ!!

 用心棒の先生、お願いいたしますッ!!』

 

 

「どぉーれい!!

 この英雄にして征服王たる私、シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハの、用心棒として初陣である大戦ッ!! 武人の誉れとは、まさにこの事!

 この私を恐れぬ猛者は、誰なりとかかってくるがよい強敵たちよ! カマーン!!!」

 

 

 

 

 

 

 ――こうしてIS学園に入学した最初の年の夏休みは過ぎていったのであった。

 きっと明日も暑い夏の日が続き、面白きこともなき世に面白きことをする者が現れるであろう。

 明後日には、もっと暑い夏の日が続き、もっと面白いことをする者が現れるだろう。

 明明後日には、もっともっと暑い夏の日が続いて、もっともっと面白いことをする者が現れることを願って止まない。

 

 この世は、願ったこと全てが叶う世界ではない。

 だからこそ少年少女達は、大きく羽ばたく力を得られるのだろう。

 希望も絶望も全てを両手に構える力と成し、自らが良いと信じ望む世界を、その手に掴まんと欲する仮面の人のように、大きく成長して宇宙へと羽ばたく日が必ず来るのだと、私は信じる。

 

 

 希望とは―――即ち、『刃』である。

 絶望とは―――即ち、『刃』である。

 

 

 戦うための力に使えるものは、全部『刃』である。

 

 

 

             IS学園1年シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ

 

 

 

山田先生からの評価

『絵日記は、毎日ちゃんと書き続けるよう努力しなきゃいけません!』

 

 

織斑先生からの評価

『そもそもIS学園は高校だ。高校生の夏休みの宿題に絵日記などない』

 

 

 

つづく

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