IS。正式名称『インフィニット・ストラトス』。
『白騎士事件』と呼称される一連の事件とともに登場した機械の鎧。
たった一機でもあれば他国の軍事力を凌駕できる新兵器の登場により、世界の有り様は一変することになりる。
女性しか動かすことのできない世界最高戦力の登場によって『女尊男卑』が台頭し、男尊女卑を零落させられた。
優れたIS操縦者の保有数が即その国がもつ軍事力という認識が生まれたことにより、各国は国防の必要性から女性優遇制度を次々と試行していく。
その反面、女尊男卑政党は、自分たちに媚びを売ってくる男たちを優遇し、例外的に特権を与え大半の男性たちから反感を買うことになるのだが、それこそ彼女たちの仕掛けた罠であり新秩序構築のためには必要不可欠と考えたプロセスだった。
ーー大部分の男たちが落ちぶれてゆく傍らで、権力に媚びを売ることで栄達してゆく屑どもが我が世の春を謳歌する光景を見て男たちがどう思うのか・・・。女性権力者たちにとっては比を見るより明らかな結末は、やがて現実となる。
賄賂も癒着も最終的な断罪という予定調和に組み込んでしまえるなら、権力機構にとっては都合のいい捨て駒としての道具にすぎない。
心はともかく、人間の持つ本能的な欲求は格差を付けることによって容易に操作することが可能となる。
調整され、コントロールされ、悪意と敵意と正義と悪とに夢を抱く世間のバカども(お子さまたち)の心理に訴えかけやすい勧善懲悪の思想は役にたった。
「裁かれて当然の悪人たちが逮捕される報道」がなされるたび世間が騒ぎ立てる一方で、「犯人たちの数と特番の数が反比例している」ことに疑問を抱いた少数の者たちは圧倒的な数の差の前に口をつぐむのを余儀なくされる。
誰も自分を犠牲の羊に捧げてまで世を変えたいとは思わない。それが無駄死にで終わることが確定している無謀な挑戦であるのだから尚更だ。
ISを基点として世界の新秩序構築は順調に進められてゆく。現行兵器すべてを凌駕する最強兵器を保有する国同士では従来の戦争は成り立たなくなり、『ISを送られたから保有している21の国と地域で形成されたIS世界』で戦争は起きなくなった。
ーーただし、ISによって作られた新世界秩序の中に、ISが送られなかった世界193カ国の内172の国と地域は含まれていない。
戦争目的による軍事利用が禁止されているISによって正式に殺された者たちは一人も存在しないのは事実である。
だが、「社会の絶対多数の安寧と福祉を守り抜くため、一握りの危険分子であるテロリストを排除するため」ISが投入される事例は存在していた。
これらに対する避難はむろん数多く存在していたが、白騎士事件が証明した『ISを倒せるのはISだけ』という一般論を盾に取った「敵組織もISを保有していたため止むを得ない措置だった」と強弁する政府の公式発表を否定しきるのは不可能だった。
無論、その「絶対多数」のなかにはテロリストとして処分されたIS条約非加盟国住人たちの運命に戦慄して重苦しい沈黙とともに不満の声を飲み込んだIS社会の被害者たちは含まれているはずがない。
男女比で差はあろうとも、ISによって損害を被らされた者たちは性差別されることなく平等に沈黙を守らされたのだ。
ーーこうして世界はゆるやかに、穏やかに『大した事件もなく』有り様を変えていった。
女尊男卑政党は、女性の社会的地位向上を求める者たちを鳩派右翼派を問うことなく受け入れることで膨張し、数の上でも男性政党を上回る一大勢力となり政権交代する現象が世界各国で連鎖的に続発し、合法的に社会は変革を促さすことを強制され、変革を受け入れることなく反抗する『世界最高戦力』を保有しない弱者たちは無視された。
力の差がありすぎる不平等な世界では、歴史が繰り返されることはない。
一方的に殴れる武器を持たされている者たちと、戦う武器を与えられなかったから殴られることしかできない者たちとの間では喧嘩すら成立しようがない。ただ一方的に殴られるか殺されるかしか可能性は存在しないのだ。
斯くて世界は『最強兵器』によって歪められ、自分たちが知らない誰かたちの犠牲によって守られる平和と繁栄とを謳歌する歪な社会を形成させてゆく。
犠牲を伴わない繁栄はなく、誰かが勝てば誰かは負ける。
平和も繁栄も栄光も勝利も、無から有を生み出す魔法ではない。
今ある限られた物から分配される量に人為的な偏りを生じさせた結果として得られる物でしかないのである。
“ISが登場したことで世の中は一変し、女は偉くて男は奴隷で女に媚びを売って楽するのが今の世の男たち。性差別はあるが、概ね世界は平和で豊かな時代を送れている”
ーーそんな幻想を生み出し、人々に信じ込ませること。それがIS世界における政治の在り方。
この世界は、そのようにして動かされているーーーーーーーー。