『IS原作の妄想作品集』   作:ひきがやもとまち

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IS新作候補の一つとして考えてた作品みたいですね。


インフィニット・ストラトス~明方朝霧の物語~

 十年と少し前のこと。日本は世界中からハッキングを受けて発射されたミサイルの脅威に見舞われて、それを全て切り落とした篠ノ之束の発明品ISが新しき世を作る礎となり、男尊女卑の時代が終わって女尊男卑の時代がきた。

 ISは女性しか動かせないから女は強く、動かせないから男たちは弱い。

 そういう風潮が世の中に蔓延し、男は女に媚びていい暮らしをするのが今では当たり前となっている。

 

 

 

『だから、それがどうした』と言いたくなるのは、俺がひねくれてるからなんだろうなぁ・・・。

 

 

 

 

「明方朝霧です。名字の頭文字が『あ』なので先に自己紹介していますけど、順番的には『世界で二番目に発見された男のIS操縦者』です。

 世界初の織斑君は『お』が頭文字だから俺より後にされてるだけです。間違えないようにお願いします。以上」

 

 そう言って頭を下げた俺の頭上に小波のような笑い声が届いてくる。

 冗談で笑わすことを望んで言った言葉ではなかったが、『笑われるかもしれない』と想像した上で言った言葉でもあるので必ずしも誤解されたわけではない。

 訂正するほどのことではないだろうと考えた俺は席に戻り、頬杖をついて窓外に広がる空へと視線を固定する。

 見ているのではなく、見ている風を装う。こうしていると余計な無駄話に巻き込まれなくて済むから楽でいい。

 

 何人かの有象無象が俺の後に続き終わった頃、女声ばかりが聞こえてくるIS学園1年1組の教室内にあって、俺の以外では唯一の男声が自己紹介し始めているのが耳に入る。

 

「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。世界初の方の男です。よろしくお願いします」

 

 今度のはドッと笑い声が弾けて教室中を包み込み、キョトントしている発言者の織斑一夏本人を置き去りにしたまま女子だけで盛り上がりを増していってしまう。

 

 ・・・女子校的雰囲気という奴なんだろう。

 いや、例外が二人紛れ込んだだけで実質的には未だに女子校のままだから正しい反応と呼ぶべきなのか? ・・・どちらにしても面倒くさい・・・。

 

 俺は三つ離れた最前列の中央の席に座る織斑から、気持ちの悪い「男同士仲良くしようぜ」オーラが発せられているのにウンザリしながら、今の自分がどうしてこの場所ーーー世界で唯一のIS操縦者育成機関IS学園に入学しなければならなくなったかの背景について想起してみる。ーーー暇だったからな。

 

 

 

 俺にIS適正が見つかったのは『世界初の男性IS操縦者殿』が発見されたことにより「もしかしたら自分にも・・・っ!」なんて小さな願望に縋りついた世の男どもが予想を超えて多すぎたのが主たる原因。

 

 TVで発見が報告された当日から政府には『他の男性操縦者が見つかる可能性』と『男に対してのIS適性検査を実地する法案の可否』について質問が相次ぎ辟易させていたのだが、とある与党の大物代議士先生が迂闊な発言をカメラの前でしてしまった制で現実のものとなってしまったのである。

 

「そうですわね。

 私ども政府は志願者が一定数に達した場合に限り、検討するつもりでおります」

 

 お茶を濁す発言で切り抜けようとしたのだろうが、甘かった。甘すぎていた。

 想定される事態として半端なレベルの危険度しか前提条件に加えないのは男尊女卑時代から続く日本の政治家たちの妙な癖だと俺は思う。

 

 

 その政府大物にとっては予想外の数の志願書が提出されまくり、集めると公言していたわけでもない政府としては即応するなど不可能事でしかない。

 そして、求めていた成果が直ぐに示されないと政府を叩くのは現代日本人が受け継いできた伝統だ。男の世から女の世になったぐらいで変われるわけがない。

 

 

 実地すると「宣言しておきながら」いざ多すぎる数の公募が集まると実行しようとしない政府には激烈な調子で非難の声が集中し、「無能! 非効率! お役所仕事!」と政府の行動力および決断力の欠乏を嘆く声は一日事にねずみ算的に数を増していき、それらを煽るマスゴミの雄弁さを称える声もまた相対的に高くなる日々。

 

 面白かったのは、政府との癒着が疑われている広告代理店や失言した代議士先生本人が『国民の怒りの代弁者たち』として討論番組に呼ばれたり、市民団体の代表とお茶してる写真が掲載されたりしてたことだ。

 雑誌の方に至っては『次の日本を背負って立つニューヒーローは紅茶よりもコーヒー好き?』等という、IS適正無関係すぎる話題で見開きやってたから思わず吹き出してしまい、周りから変な目で見られる羽目に陥らされたりした。

 

 

 そして、二月終わりから三月はじめにかけての入学準備で日本中が忙しなくなってる最中でのこと。政府から各都道府県に『自分たちの職務に弊害がでない範囲で可能な限り実地するよう』指示をだして、日本中の県知事たちを絶望のどん底へとたたき込む。

 

 

 政府自身が『可能な限り実地するよう』指示した都道府県がおこなわないことを国民たちの誰もが許さない。「隣の県はやっているのに、どうしてうちの県ではやらないのか!?」と非難を浴びるに決まっている。

 ましてやIS学園の入学式は目の前に迫ってきている。対応を協議している暇なんて1秒たりとも有るわけなかった。

 

 こうして連鎖的に日本中で実地されていく男性を対象とした初のIS適正簡易検査。

 IS適正は見つかったときの数字が一生続くとは限らないものの、大きく変動するのはきわめて希なことであるのは世間一般にも広く知られている。

 

 それとは逆に、IS適正が『ない』と診断された者にはイレギュラーな事態でも起きない限り一生付与されることがないと言う事実は時間的に実証不可能であるにも関わらず(IS登場から十年ちょっとで一生分のデータは取れない)広く認知され世間一般の常識として受け入れられている事実だったから、『一度行いさえすれば次年度から余計な厄介事に煩わされずに済む』そういう思惑もあってなのか意外とスムーズに検査は進められてゆき、試験を受けたほぼ全員が『適正無し』と診断されて去ってゆく。

 

 その時の彼らが浮かべた失望とあきらめと、露骨すぎる“安堵の微笑”は今でも記憶に残っていて俺をイラだたせてくれる。

 

 こうして試験を受けた大半の人々が不合格となる「誰もが頭の中で想定していたとおり」の展開が進められてゆき、想定していたことだったから誰からも不満など出ることもなく、申し訳程度に「ちゃんと調べたのか? 機械の故障じゃないのか?」というクレーマーからのクレームがついた以外には特に目立った問題も暴動も発生しないまま検査締め切り当日を迎えーーーー俺が見つかった。

 

 ほぼ全員の失格者たちに含まれない異端者の発見は世間から、『あきらめて捨てようとした都合のよい希望』に再び手を伸ばすには十分すぎる燃焼剤となってしまい、鎮火しかけた過去への未練という妄執の炎はまたしても燃え広がっていく。

 

 

 

「ーーであるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられーーーー」

 

 この女子臭いクラスの副担任を勤めている山田摩耶先生が行う入学後はじめてとなる授業の内容を、俺はほとんど聞き流している。

 聞いてたところで、ほとんど意味ないからだった。

 

 

 

「おい、明方。貴様、ちゃんと山田先生の話す授業内容を聞いているのか?」

 

 頭上から声が降ってきたから見上げたら、デカ物がいた。織斑先生だ。

 ・・・デカい、邪魔、目つきが悪い。三拍子そろって俺の嫌いなタイプ三代条件を満たしていたから、俺は問答無用でこの人を嫌いになることに決めた。その上で質問には答える。

 

「ご心配なく。ちゃんと聞き流していますので」

 

 織斑先生の頭にナチスドイツの戦闘機に描かれてたようなマークが浮かび上がるのを黙って見物しながら、俺は大人げないその姿に思わず失笑してしまう。

 

「何がおかしい・・・?」

「いや、なにね。まさか世界の頂点に立った最強剣士が、俺みたいなのの挑発にこうもアッサリ乗ってくるとは思ってなかったものでしてね。


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