どうやら原作の裏話的な話みたいで、原作で起きてた事件の後始末役として母艦とかと戦う流れを想定してたみたいです。
『汝の生は終わりを迎えた。私のミスだ、謝罪しよう。すまなかったな、名も無き平凡な少年よ』
ーー横断信号を渡っていたら突然車にはねられて、気が付いたときには何もない無窮の空間に投げ出されていた俺は、何処からともなくかけられてくる無機質な声に反応して視線を動かすが何もない。ただただ茫洋とした暗闇が果てなく広がっているだけだった。
『我は汝に贖罪する。我が提示できるのは平行世界への転生権利。汝が望む力、望む形を与えて別世界への転生を約束しよう』
声は続ける。
こちらの意志を確認することなく。
こちらの意志に頓着することなく。
こちらの意志に興味を示さないまま、ひたすら自分が犯した「ミスに対する償い」のみを重要事項とする傲慢さには反吐が出る思いだが、話自体は悪いものではない。激発するにせよ断るにせよ、最後まで聞く価値は必ずあるはずだった。
『されど汝は勇者に非ず、英雄に非ず、選ばれし者に能わず。平凡で害のない無力な若者である。
世界を救えぬ弱き者を勇者として欲する世界は非ず、人々を救えぬ救世主を欲する人々は居らず、滅ぼされるべき邪悪から脅威と見なされぬ者に抑止力たる役目は期待できず』
平然と落第点を突きつけてくるその声には、一切の感情が欠落していた。
そもそもからして感情がないのか、あるいは俺個人に感情を抱く価値を見いだしていないだけなのか。
『それ故、汝が転生できる世界は救世の済んだ世界のみ。終わった世界に可能性を与えるは容易きこと。
そうなる可能性が生じた時点で分岐するが平行世界とよばれる可能性の世界である故に、我らはただ汝等英雄になり得ぬ弱き者たちを転生させて可能性を生じさせればそれで済むが故に』
転生させた瞬間、その世界は本来であれば存在しない異分子を抱え込むことになる。そこからはバタフライ現象を使って無数の可能性を創出できる。可能性の世界を無限に創世できるというわけだ。
自分はただ、そこに俺たちを送り込む。それ以外の労は一切必要ないまま、世界の方で俺たちに対処する方策を考え出させる。
ーーなるほど、これが“神”と呼ばれる尊大な存在の考え方というわけか?
『汝等の付けし呼び名に価値などなし。我はただ、我の果たすべき役割を実行するのみ也』
なるほど。確かに神だ。“神という名の世界を律するシステム”だ。
・・・が、それはそれで構わん。こいつが自身のミスの精算をしたいと言うだけなら、それで良い。こいつの求めが俺の願いと一致しているのであれば文句はない。要は利害の一致に過ぎないのだから。
ーー了解した。ならば俺の願いを言おう。
俺に、第二の人生として甘粕正彦のように生きられる可能性を与えよ。
『それは汝を「魔王・甘粕正彦』として転生させ、異能の力を与えよと言う意味か?』
ーー否、その解釈は間違っている。甘粕正彦には俺が成る。与えられた力としてでは決して成れぬ強大な存在が甘粕雅彦なのだから。
自身の努力と熱意によって至った訳でもない、姿形と能力だけを猿真似して造った模造品としての甘粕に俺は価値など微塵も感じぬ。
まぁ、つまりーー俺に試練を与えろと言っているのだよ。
乗り越える度に高くなる壁を、倒せば倒すほどに強くなっていく強敵を、国からの圧力を、国家間の陰謀を、差別と偏見と謂れなき侮辱に満ち満ちた、男として生まれたこと事態が貶められ蔑まれ過小評価される差別社会に、俺を甘粕正彦に成れるかもしれない男の子として転生させろと、そう言う意味だ。わかるか? 神という名のシステムよ・・・。
『その思想は理解不能。されど願いの内容は把握。これより汝を「女尊男卑」思想の蔓延る世界《インフィニット・ストラトス》の世界に男として転生させる』
ーーああ、それで構わん。原作の内容に関しては始めから然程もってはいない故、消さずとも良いし、消してくれても構わない。任せる。
『了承と認識。ーーされど汝の願いに前例はなく、申し出た条件だけでの達成が可能か否かの判断が付けられない。
よって異例の事態故の緊急対策手段を講じての、世界観介入を行う。これは元の世界に大きく手を加えるものであり、修正力の反発を招きやすいものでもある。
それ故、汝自身による介入はきわめて危険と判断。本来の《インフィニト・ストラトス》とは異なる場所と空間でのみ生存を保証することが可能となる。原作に関わった場合、汝に関する一切を保証しない。是か否か?』
ーー是。それで良い。ルールが邪魔になった際には俺自身で切り開こう。俺の自発的な意志と責任で破らなければ規則違反に意味など生じさせられないのだから。
『了承を確認。これより転生を開始する。汝に天からの試練を』
ーーありがとう。俺も、それをこそ望ませてもらう。
ーー太平洋上空、ハワイ島オアフ島沖合から八十海里の位置まで進出していたアメリカ空軍所属のIS操縦者ルナマリア・ホーク中尉は愛機である深紅の機体、砲撃戦仕様の『ブラスト・ラファール』を雲から出して、レーダーによる追跡から目視による目標確認にモード変更する。
従来の型には当てはまらない艦への着任故、高性能とはいえ軍に納品されている正規品では位置を特定できないのだ。
「せめてガイドビーコンぐらい出してくれればいいのに・・・。やんなっちゃうわよね、まったくさ」
表向きには存在していない、IS委員会直属の特務艦が、お仲間とはいえ初めて顔を付き合わせることになる多国籍のIS操縦者たちを警戒しないわけがなく、悪くすれば問答無用で撃たれかねないのだから、偽装航行中にガイドビーコンなんか出して大声で自分の位置をアピールする様なバカなどやるはずがない。分かり切っていることだし、当然ルナマリアだって承知の上で愚痴っているだけだ。それぐらいは許されて然るべきだろうとさえ思う。
なにしろ久々の休暇中に本国まで呼び戻されて、説明もそこそこにISに乗ってハワイまで飛ばされ、燃料補給が済んだ直後に今度は太平洋のど真ん中まで単独での飛行を強要された、哀れで不幸な薄幸の美少女が私なのだから。ーーと、自己陶酔にでも浸らなくては本気でやっていられない。
おまけに所定の時間がきたので開けてみた命令書の内容は、これまたイカレてるとしか思えない代物で、
『世界初の多国籍IS部隊の設立と、母艦となる最新鋭空中戦艦の初航海。部隊は特務扱いで存在自体が国連にとって弁慶の泣き所となるため秘匿すること。
ルナマリアを中尉へ昇進する辞令に、特務隊への着任命令。尚、他国からの情報提供がないため同僚となる者たちについての詳細は不明。会ったその場で確認せよ』との有り難いお達しだ。コイツら死ねよマジでと、美少女らしかぬ暴言を吐きそうになったとしても彼女のせいでは決してあるまい。・・・たぶん、本当に・・・。
「だいたい、母艦の位置と目視での確認は必須って以外になんも書かれてないんじゃ発見のしようがないんですけど、もーー」
ボヤいていた彼女の口調が途中で変わり、最初はあきれ顔だった表情も徐々にこわばっていき、最終的には唖然となってポカンと口を開いていることしかできない間抜け面が出来上がった。
空が歪み、虹が現れ、巨大な虹の中から姿を現し始めた純白の巨艦。
従来の海を行く船とは構造的からして明らかに違う作りをしている、雲を波間を見立てて飛沫を上げながら悠然と進んでいく、空の海の覇者。
空を行く白鯨の頭部に位置するブリッジから、楽しそうな若い男の声が接触回線で響いてくる。
『ようこそ諸君。』